359.テアちゃん最強の件
本日も1話更新できました( *˙ω˙*)و グッ!
ちょっと長めです。
そこからペッテ先輩とアル先輩、それに王太子殿下がいきさつを説明してくれた。
どうやら王太子殿下と側近のお2人には、九九の有用性について王妃殿下から直々にお話があったらしい。それで、算術がお得意なフリードヘルムさまががぜん興味を持ち、すぐにでも知りたいと言い出した。
そのため王太子殿下の侍従さんがファーレンドルフ先生に連絡を取って、王太子殿下と側近お2人の九九勉強会の日程調整をしていた……というところで、ユベールくんのお家で出張九九勉強会が開催されたとの情報が入っちゃった。
ユベールくんは来年度から王太子殿下の側近になることが決まってる。ただ、ユベールくんは年齢的にも王太子殿下より下だし、侯爵位をすでに継いでいるとはいえ、いってみれば側近の中ではいちばんの下っ端になる。
そんな新入り側近に先を越されたと、フリードヘルムさまはいきり立っちゃったらしい。
で、本日の放課後、フリードヘルムさまが算術選抜クラスに直接乗り込んできた、と。
「いや、フリードが自ら表立ってこのように動くのはめずらしいことでな」
王太子殿下は笑ってらっしゃる。
そんでもって、もう1人の側近のアロイジウスさまも笑ってるし。
「あまりにもおもしろいので、殿下と私もついてきてしまった」
いやいや、おもしろいのでついてきてしまった、じゃないでしょー。
ペッテ先輩も苦笑して、私たちに教えてくれる。
「今日はまた間が悪いことに、ファーレンドルフ先生に何か呼び出しがかかって、授業が早めに終わっていたんだよね。それで私たちもドラガン君と一緒に、この図書館でゲルトルード嬢とドロテア嬢と合流しようかと話していたところ、王太子殿下と側近お2人がやってこられて……」
「で、こういうことになってしまったわけだ」
アル先輩が肩をすくめて付け加えてくれちゃった。
で、こういうこと、ね。
私はもう正直に、目をすがめてフリードヘルムさまを見ちゃったわよ。
要するに、王太子殿下はしかるべき手順を踏んでおられたのに、フリードヘルムさまがユベールくんに変な対抗意識を燃やしちゃって暴走して、王太子殿下ともう1人の側近のアロイジウスさまを巻き込み、さらに算術選抜クラスのメンバー全員も巻き込んじゃったと。
ええ、さらには図書館を利用していたほかの生徒たちも、図書館の職員さんたちも巻き込んで。
その挙句に、私たち女子生徒にはあの態度ですかい?
フリードヘルムさま、そんなむくれた顔をしてそっぽを向いててもダメだよ?
ちょっともう、そこに正座してしばらく反省しなさい、って言いたくなっちゃうわ。
そうやって目をすがめちゃってた私に、アロイジウスさまがミョーに感心したように言ってきてくれちゃった。
「しかしすごいな、ゲルトルード嬢は。相手が誰であろうと、不当な扱いを受けたことにはしっかり抗議ができるんだな」
「アローもあのときのゲルトルードの『反論』を聞いたではないか」
って、王太子殿下!
その話を持ち出すのは止めてほしいんですけど!
だけど王太子殿下はにんまりと笑って言うんだ。
「これだけ芯の通った令嬢は、そうそう居まい。フリードは、そこのところがまったくわかっておらなんだようだがな」
そして王太子殿下は、そっぽを向いてるフリードヘルムさまに横眼を送る。
「まあ、フリードにはいい薬だろう」
ええ、フリードヘルムさまにはいい薬だと、王太子殿下がそういうご判断でいらっしゃるなら、それはOKです。
もし、いま私がわざとらしくフリードヘルムさまを無視したことを、王太子殿下がとがめてこられるようなことがあれば、もう二度とハンバーガー届けてあげないって思ってましたわ。
ただ、そのいい薬を、私に丸投げしてたような気がしないでもないんですけど?
その『あまりにおもしろい』って、まず間違いなく私がフリードヘルムさまの鼻っ柱をたたき折るだろうと期待して、だからそれをおもしろがって、ってことだよね?
もちろん王太子殿下は、私にはとんでもない後ろ盾がずらっと並んでることもご存じだろうし、だから私が強気で出てくるだろうってこともちゃんとわかっていらしただろうからね。
やっぱダメだよ、キミたち全員そこに正座してちょっと反省しなさい、だわ。
だってねえ……そもそもの話で、ご自分の側近の暴走を止めずに、それどころかおもしろがって周りにこれだけ迷惑をかけまくるっていうのは、どう考えてもダメでしょ。
こんなの、スヴェイが言ってた『先ぶれをしてね』どころの話じゃないよ。
私がそう思ってたら、ペッテ先輩が言い出してくれた。
「しかし王太子殿下、先ほどのお話では、殿下と側近お2人がゲルトルード嬢の計算方式について学ばれる機会を、侍従どのからすでにファーレンドルフ先生に連絡をされ、調整されているとのことなのですが」
「うむ、侍従がそのように取り計らってくれている」
って、王太子殿下は鷹揚にうなずいてらっしゃるけど……ソレ、どう考えてもアカンやつ。
ペッテ先輩とアル先輩も顔を見合わせている。どうやら、お2人はそういう手続きがすでにされていることを、いまさっきまで知らされていなかったらしい。
フリードヘルムさま、ホンットにろくに説明もせず強引に押し切ってきちゃったんだね?
で、やっぱり頼りになるペッテ先輩が言ってくれました。
「それでは王太子殿下、本日ここでこのまま我々がご指導させていただいてしまうと、侍従どのの顔をつぶしてしまうことになります」
「それに、ファーレンドルフ先生のお立場もあります」
アル先輩も言ってくれちゃう。
そこでようやく、王太子殿下も理解されたっぽい。
あー……っていう顔になって、ちょっと申し訳なさそうに王太子殿下は頭を掻いちゃった。
「そうか、そうであるな……言われてみれば、まったくその通りだ」
ええ、言われる前に気づいてほしかったですけどね。それでも、素直にそう言ってくださるのはたいへん助かります。
そうして王太子殿下はアロイジウスさまと顔を見合わせ、それからやっぱりそっぽを向いたままのフリードヘルムさまに言った。
「フリード、今日の勉強会はなしだ。これ以上、皆に迷惑をかけるわけにはいかぬ」
「……承知いたしました」
ぼそりと、それでもフリードヘルムさまが答えた。
そしてフリードヘルムさまは、机の上に置いてあった自分の鞄を手に取る。
「皆には本当に申し訳なかった」
王太子殿下は、さすがに頭を下げられることはなかったけれど、謝罪の言葉を口にされた。
「後日、ゲルトルードが考案した新しい計算方式について我々が学ぶ機会を、正式に通達させてもらう。そのときはよろしく頼む」
王太子殿下のお顔が私に向いたので、私は笑顔を浮かべて礼をした。
「はい、楽しみにお待ちしております」
私の礼に合わせて、算術選抜クラスのメンバーもそろって一礼する。
そしてどうやらこのままご退出……となったところで、ナゼかアロイジウスさまが私のところにすっとやってきた。
「ゲルトルード嬢、貴女はいま後見人であるエクシュタイン公爵閣下のご指示で、茶会の招待はどなたからであっても受けないと聞いている。けれど、もしも公爵閣下のご許可がいただけるようであれば、ぜひ私の姉の招待に応じてもらえないだろうか」
ちょ、ナニを突然言い出すの、この側近さんは!
と、私は腰が引けちゃいそうになったんだけど、アロイジウスさまはニッと笑って続ける。
「姉のアルベルティーナはいま3年生で、来年は高等学院に進みツォルヴァイス先生の研究室で魔道具開発に携わる予定なんだ。ツォルヴァイス先生から、この秋試験での貴女の答案の内容を聞いて非常に興味を持った、と。それで、できれば一度、ゲルトルード嬢ご本人から詳しく、その魔道具の開発状況などをお聞きしたいと言っていてね」
あ、そういう……。
そういうご興味で、私に会ってみたいって言ってくださるのであれば、私としてもお会いするのはやぶさかではないです。
納得した私に、またまた頼りになるペッテ先輩が教えてくれる。
「アルベルティーナ嬢が魔道具開発に傾けておられる情熱は本物だよ、ゲルトルード嬢。私は同学年なので同じ授業もいくつか受けてきたけれど、本当に熱心で優秀なご令嬢なんだ」
「ああ、アルベルティーナ嬢であれば、ゲルトルード嬢、それにドロテア嬢も話が合うんじゃないかな」
って、アル先輩もうなずいてくれちゃってるし。
あ、テアちゃんとも話が合いそうだって、アル先輩がわざわざ言ってくれたってことは……つまりそういう、はっきりモノを言うご令嬢だと思って間違いなさそう。
それに、サンドイッチやホットドッグの解禁と同時に、あの布の情報解禁もありそうだし。そしたら、優秀な生徒との情報交換が目的ということで、公爵さまも許可してくれそうじゃない?
アロイジウスさまは、さらに言ってくれた。
「ゲルトルード嬢としては、一面識もない私の姉の招待に応じるというのは抵抗があると思う。姉は貴女の新しい計算方式にもたいへん興味を示しており、まずそちらの勉強会を開いてもらえるようファーレンドルフ先生に申し込んでみると言っていたので、そのときにでも面識を得ていただければよいのではと」
そういうことでしたらもう、全然OKです。
私は笑顔でお答えしちゃう。
「ありがとうございます、アロイジウスさま。エクシュタイン公爵さまのご許可がいただければ、ということにはなりますが、ぜひわたくしもアルベルティーナさまとお話ししたいです。まずは算術の勉強会でお会いできることを楽しみにお待ちいたします」
いやもう、そういうことなら別にお茶会でなくても、テアちゃんも一緒にこういう図書館での勉強会みたいな形でお会いしてもいいんじゃないかな。
私もそんな、熱心に魔道具開発に取り組まれているご令嬢なんてすごく興味があるし。先に九九の勉強会でお会いしてみて、話ができそうならお誘いしてみてもいいかも。
そう思って、私はテアちゃんに視線を送ったんだけど、テアちゃんもなんか目を輝かせてうんうんってうなずいてる。
そうだよね、私たちと気が合いそうな、魔道具開発に熱心に取り組んでる優秀な女子の先輩なんて、ぜひ会ってみたいよね。テアちゃん自身も以前、領民の生活に役立ちそうな魔道具の開発をしたいって言ってたし。
いやー、なんかもう突然の王太子殿下ご登場でイロイロありすぎだったけど、最後にいい感じのお話ができてよかったわ。
って、思ってたら。
またもやあの『困ったくん』が言ってきてくれちゃったよ。
「それならばゲルトルード嬢、私の妹の招待も受けてもらえないだろうか? 私の妹のヒルデライナも、ぜひ其方と話したいと言っているのだ」
えー……その妹さん、私とどんな話をしたいとおっしゃってるんですかね?
私は口元だけ笑みの形にして目はまったく笑ってませんって顔で、フリードヘルムさまにお答えしちゃったわよ。
「妹君のヒルデライナさまは、わたくしとどのようなお話をご希望なのでしょうか?」
「それは、妹に訊いてみなければわからぬが」
だからさあ、さっきの話、聞いてなかった?
アロイジウスさまのお姉さまは、具体的に私と話したい内容がきちんとあって、しかも面識がないからまず算術の勉強会に参加して顔合わせをしたいとまで、言ってくださってんのよ?
私はやっぱりまったく笑ってない笑顔で言っちゃった。
「そうですわね、まずはヒルデライナさまも算術の勉強会にご参加いただけますでしょうか? アロイジウスさまの姉君であるアルベルティーナさまも、そのように手順を踏んでくださるとのことですので」
そんでもってさらに笑顔で付け加えちゃう。「ただし、それでもわたくしの後見人のエクシュタイン公爵さまがご許可くださるかどうかは、わかりませんが」
「ゲルトルード嬢は、同じ1年生であるのに我がソルデリーア侯爵家の令嬢であるヒルデライナと面識がない、とでも言われるのか?」
「ございません」
私はきっぱり言い切った。
フリードヘルムさま、そんな、信じられないとばかりに目を剥いてくれちゃってもダメだよ。
だって、私の数少ないお茶会経験の中でも、お会いした記憶がないもん。
もしお会いしてたら、ソルデリーア侯爵家だと名乗られた時点で、さっきみたいにすぐ気が付いたはずなんだよね、あのお塩の侯爵家だ、って。それについては自信がある。
そもそも、私のぼっち歴を嘗めるんじゃないわよ。
そのとき、私の後ろで、くすっと笑う小さな声が聞こえた。
えっと、デズデモーナさま?
あー……なんかちょっと想像がついちゃった。
同格の侯爵家のご令嬢で……デズデモーナさまとはその、イロイロと因縁がお有りなのね、ソルデリーア侯爵家のヒルデライナさまは。
そりゃそうだよね、侯爵家のご令嬢の中でも、特に王太子殿下の側近の妹君ともなれば……まず間違いなく王太子妃候補の筆頭だろうからね。
でも、このタイミングで笑っちゃうのはマズいと思うよ?
だってほら、あの『困ったくん』がおデコに青筋立てちゃいそうな雰囲気になっちゃったもん。
「デルヴァローゼ侯爵家の令嬢は、見事にゲルトルード嬢に取り入ったようだな」
いや、私に取り入った、って。
思いっきりため息を吐きそうになった私に構わず、『困ったくん』は続けてくれちゃう。
「先日の我が家での茶会では、デルヴァローゼ侯爵家の令嬢はゲルトルード嬢との接触をご当主からの命で当面は避けているという話だったと、私も聞き及んでいるのだが。そちらがそのような腹積もりであったことは、よく覚えておく」
あーあ、もう。
私の後ろでデズデモーナさまが身を縮めちゃったのが伝わってくるよ。
だから、私はまたまったく笑ってない笑顔で言っちゃった。
「フリードヘルムさまは、わたくしたちのようすをご覧になってもおわかりにならないのですね」
む? という顔をして私を見る『困ったくん』に、私は嫌味たっぷりにカーテシーをした。
「この通り、わたくしたちは先ほどそろって乗馬の補習授業を受けてきたところですの。その補習授業を受けたのは、たまたまわたくしたち3人だけ、しかもたまたま3人とも領地が隣接しているという関係でしたので、それで何も話さず知らん顔をしているほうが不自然ですわ」
なんで私たちが3人とも乗馬服なのか、ちょっとは考えてよね?
だけど『困ったくん』は思いっきり顔をしかめてる。
「たまたま、だと?」
「ええ、たまたま、ですわ」
もしかしたら、デズデモーナさまは狙って補習授業に参加したのかもしれないけど。
こっちとしてはね、それでなんだかんだ話がこじれて、これからその話し合いをしようと3人で図書館に移動してきたっていうのにこの状況ってナニ、だわよ。
それでなくても、蜂の巣が投げ込まれちゃったりして本当に大変だったんだから! その挙句にコレって、ホンットにいい加減にしてほしい。
それでもまだ、『困ったくん』は顔をしかめてる。
「だが、セイゼルフッド伯爵家の申し出は受けておきながら、我がソルデリーア侯爵家の申し出は断るというのは不公平ではないか」
だから、さあ。
私はもう本気でうんざりしながらも、それでもなんとか笑ってない笑顔で答えてあげる。
「お断りなどしておりません。セイゼルフッド伯爵家がお申し出くださったのと同じように、手順を踏んでいただきたいと申し上げただけです。その上で、エクシュタイン公爵さまのご判断を仰ぐことになりますと、いまお伝えいたしましたが?」
そこで、アロイジウスさまが割って入ってくれた。私と違って、彼はうんざりとした表情を隠しもせずに言ってくれたんだ。
「フリードどの、何度も申し上げていますが、我が家の姉は王太子妃の座にはまったく興味などありません。姉のアルベルティーナは、貴殿が懸念されているような意味でゲルトルード嬢に取り入ろうなどとも、まったく考えておりませんので」
結局、そういうこと、だよねえ。
この『困ったくん』は、どうしても自分の妹を王太子妃にしたいから、私やデズデモーナさまに対して最初からこんなマウントの取り方をしてるんだ、っていう。
もうホンットに、ホンットーーーーに、勘弁してほしい。
当の王太子殿下は、なんかもう知らん顔してそっぽ向いてらっしゃいますけどね?
まあ、いろいろお立場や政治的思惑があったりして、ご自分から何も言うことはできないのかもしれないけど……ご自分の側近の手綱くらいは、しっかり握っていてもらえませんかね。
そりゃ確かに、王太子妃がどなたになるかは国民の重大な関心事ではあるけどさ。
だけどいい加減、決着をつけてもらわないと、なんだかんだ自分たちまでこんなふうに巻き込まれてしまってうんざりだわよ。
もうこの場にいる大半……直接関係のない算術選抜クラスのメンバーは、全員そう思ってたに違いない。
でもさすがに、王太子殿下ご本人がいらっしゃるこの場では、誰もその思いを口にできない……と、思ったんだけど。
勇者テアちゃんが現れちゃった。
「それでしたら、王太子殿下がいますぐご婚約者をお決めになれば、実に多くのことが解決いたしますわね」
まったく笑ってない笑顔でテアちゃんがそう言い切ったとたん、一瞬にしてその場が凍り付きましたさ。
最後にすべてをかっさらっていく勇者テアちゃんv( ̄∇ ̄)ニヤリ