355.貴族に生まれたってことは
お待たせしました、ようやく更新です。
本日はのちほどもう1話更新しますね( *˙ω˙*)و グッ!
テアちゃんも嬉しそうに言ってくれちゃう。
「お家がたいへんなことになったらすぐ駆けつけてくださるなんて……それも学院卒業以来ずっと交流が絶えていたというのに? なんてすてきなお友だちをお持ちなのかしら、ルーディのお母さまは!」
「そうなの、本当にすてきな方がたなの! 母のことだけではないのよ、娘のわたくしたち姉妹のことも親身に気遣ってくださって」
「ルーディが憧れているって言っていたの、とってもよくわかるわ」
そうなの、そうなのー!
と、私はテアちゃんとキャッキャしちゃって、そんな私たちをオードウェル先生が温かい目で見てくださっている……という状況だというのに。
デズデモーナさまだけが、相変わらず驚愕の表情で固まってる。
「だ、男爵家ですって? 地方男爵家なんて、ほとんど平民ではないの? それがいったいどうして、公爵家や侯爵家のご令嬢と……?」
腐ってるからよ。
とは、言わないけど。
でも腐女子だからでもなんでも、学院を卒業してから17年もの間、手紙のやりとりすらできないような状況だったのに、レオさまもメルさまも決してお母さまを忘れることなく、なんとかして力になりたいってずっと思ってくださってたのよ。
それって本当にすごくない?
もちろんお2人にしてみれば、お母さまにもっとBでLな小説を書いてほしいっていうのは正直にあったと思う。でも本当にただそれだけが目的なのだとしたら、私やアデルリーナにまでこんなにいろいろいっぱい気遣って、かわいがってくださるなんてことなんてないと思うのよね。
そもそも、レオさまメルさまがお母さまと話してるときだって、そこに爵位だとか上下関係なんてこれっぽっちも感じないもの。レオさまもメルさまも、本当にお母さまのことを好きでいてくれてるから……だからあの3人はずっといまも仲良しなのよ。
私は、身分や地位や階級を無視しようなんて思ってない。実際にこの国、そして私が属しているこの社会は、それによって成り立っているんだから。
だいいち、私自身が貴族に……特権階級に生まれたことで、いろんな恩恵を受けてるもの。さらに、その特権階級に与えられた権限を思いっきり利用しようとしてるもの。
だから、身分や階級があること自体は否定しないし、否定できない。
それがあることが、すべての大前提よ。
その上で、お母さまたちのように『本当のお友だち』が得られるかどうかって話じゃないの?
私は、驚愕してるデズデモーナさまに言った。
「デズデモーナさま、わたくしも最初、母が公爵家や侯爵家の方がたと親しくお付き合いしているという話を聞いたとき、正直に驚きました」
私の言葉に、デズデモーナさまはなんだかもうすがるように言ってくる。
「そ、そうよね? どう考えても、おかしいですわよね?」
「おかしいとは思いません」
さくっと私は首を振った。「身分差や階級差があることと、相手を尊重しないことには、なんの関係もないと、わたくしにもわかったからです」
私が言ったことの意味が、デズデモーナさまはよくわからないようだった。
彼女はその青い目を見張り、困惑したようにオードウェル先生やテアちゃんの顔を見た。そしてうかがうように視線を戻してきたデズデモーナさまに、私はさらに言った。
「レオポルディーネさまもメルグレーテさまも、どれだけ階級差があろうと、わたくしの母を常に尊重してくださいます。確かに爵位によって公的な立場は違いますが、私的には母もお2人と対等なお友だちなのです。互いに尊重し合うということは、そういうことです。それは、決しておかしいことではありません。わたくしは、母を含めた3人が本当に仲良くお付き合いしていることに、いまでは心から納得しています」
私も以前は、身分制であること、また階級があることによって、場合によっては自分の命が脅かされるようなこともあるかもしれないって……そういうことも考えてた。日本の江戸時代の、斬り捨て御免みたいな感じでね。
そりゃもう、私はずっと暴力で支配された最小単位の社会、つまり自分の家の中しか知らなかったからね。この世界……この社会全体も、貴族という絶対的支配者階級が暴力によって支配してるんじゃないかって、その可能性も十分あるんじゃないかって、結構恐れてたんだよね。
だから正直、公爵家だの王家だの、雲の上の人たちとなんて関わりたくないって思ってた。
でも、気が付いたらなんだかんだ関わっちゃって……そしたらもう、身分が違っても階級が違っても、やっぱり人は人だったわ。中身は自分と変わらない、ごく当たり前に1人の人間。
だってね、みなさま行動の動機がだいたい食い気なんですもんね!
いや、真面目な話、こういうことって、自分の身分の高さや階級の高さにともなう責任と義務をちゃんと自覚してる人であれば、必ず理解できることだと思う。
どう考えても、支配者階級が民を尊重しないような国が、存続していけるわけがないもの。
たとえ世界が変わっても、国っていうものの成り立ちや経営のシステムが同じようなものなのであれば、やっぱりその辺も同じなんだよ。
「デズデモーナさま、貴女が侯爵家の生まれであろうと、そのことがドロテアさまを侮辱していい理由になど決してなりません。そもそも人を、民を、尊重できない者が、上に立つことを許されるとでもお思いですか?」
私は、きっぱりとデズデモーナさまに言った。
「非は貴女にあります、デズデモーナさま。ドロテアさまに謝罪してくださいませ」
そう、身分とは、上の者が下の者を虐げるための理由に、絶対にしちゃいけないものなのよ。
ってね、ううーむ、なんか私、めっちゃ貴族っぽいぞ。
いまの自分が貴族のご令嬢なんだって、めっちゃ実感できてるぞ。
そうよ、魔法のあるファンタジーの世界だろうがなんだろうが、貴族に生まれたってそういうことよね?
いや、もう逃げない覚悟はしたけど……やっぱめっちゃ重いわ、貴族って。
しかも我が家は領地持ちだから、私はこれから実際に多くの人たちの生活を背負わなきゃいけない……いや、すでに背負っちゃってるのよね。
「ルーディ……」
なんかテアちゃんがミョーに感心したように、私の肩にぽんと手を置いた。
「貴女、本当に王太子妃になるといいんじゃない?」
「は?」
ナ、ナニを言い出すの、テアちゃんってば!
でもテアちゃん、いたって真面目な顔をしてさらに言うの。
「人を、民を、尊重できない者が、上に立つことを許されるとでもお思いですか、なんて……そうそう口にできるものではないわ。そうよね、魔力量だの爵位だの、そういうことではないのよ。貴女のように国全体を見ることができる人が王太子妃、ひいては王妃になるべきだわ」
やめて、テアちゃん!
私はそんな面倒くさ……げふんげふん、恐れ多い地位に就くなんて、絶対イヤだから!
それにほら、デズデモーナさまが……なんかまた復活してきそうな雰囲気なんですけど?
「そうですわよね? やはりゲルトルードさまが王太子妃、王妃になるべきですわよね!」
ほらぁー!
デズデモーナさまが目を輝かせちゃってるじゃないのー!
どうすんのよ、コレ?
と、ばかりに私はおたおたしそうになっちゃったんだけど、オードウェル先生がまたビシッと言ってくださいました。
「デズデモーナ嬢、貴女がいま口にしなければならないのは、そういうことではありません」
指摘されてウッと口をつぐんだデズデモーナさまに、先生はさらに言う。
「いまゲルトルード嬢が言ったことの内容を、貴女は理解できないのですか?」
うおう、オードウェル先生、めっちゃ辛辣です。
でも……それだけ、先生もさっきのデズデモーナさまの発言に怒ってくださってるってことか。
言われちゃったデズデモーナさまは、顔を真っ赤にして口をもごもごさせてる。私の言ったことも、たぶん頭では理解できてるんだろうけど、でもまったく納得してないって感じだわ。
そこでオードウェル先生は、大きくため息を吐いた。
「デズデモーナ嬢、これはわたくしの想像ですが……貴女の周りの人たちは、いま貴女がそうしたように、ご自分より身分や階級が下の人たちを当然のように見下し、ご自分にとって利のある人しか相手にしないことこそを、正しいふるまいだとされているのではないですか? だから貴女はご自分が間違っているとは思えない。そうではないですか?」
「そ、その通りです!」
デズデモーナさまが、我が意を得たとばかりに身を乗り出した。
「先生のおっしゃる通りですわ! 誰もがそのようにふるまっておられるのに、なぜわたくしだけがこの場で責められるのか、まったくわかりません! わたくし、何も間違ったことなどしておりませんもの!」
うわあ……。
マジか。マジで、このデズデモーナさまの周りの人たちって、そんな人ばっかりなのか。
どうやら冗談抜きで本当にそうらしくて、デズデモーナさまは得々と話し続ける。
「父は常々言っていますわ。利のない相手に己の時間を割くなど、愚か者のすることだと。利のある相手を見極め、ものごとを無駄なく効率よく進めることこそが、貴族として最上のふるまいなのだと。父は我がデルヴァローゼ侯爵家の当主、そして領主として……」
「デズデモーナ嬢、貴女は、それでいいわけですか?」
低い声で、オードウェル先生が彼女の言葉を遮った。
言葉を遮られたデズデモーナさまは、不服そうに眉を寄せてる。
そのデズデモーナさまをじっと見つめて、オードウェル先生は静かに言葉を継いだ。
「つまり貴女は、貴女自身も利がなければ切り捨てられてもいい、と思っているわけですか?」
ヒュッ、と……デズデモーナさまの喉が鳴った。
一瞬にして血の気の引いたデズデモーナさまのようすに、私はやっと納得した。
そうか……そういうことだったのね。
あんなにもかたくなに自分の『失態』を侍女には言わないでくれ、家には伝えないでくれ、って言ってたのは……家の中で自分の利を失う、つまり価値を下げるような情報を、必死になって隠そうとしてるってことだったんだ。
血の気の引いた顔で固まってるデズデモーナさまに、オードウェル先生はゆっくりと、言い聞かせてあげるように言葉を続けた。
「デズデモーナ嬢、考えなさい。いま、貴女がすべきことは何なのか。いま、貴女が自分自身で考え、そして得た答えは、間違いなくこれからの貴女の人生を左右します」
すごい。
オードウェル先生、めちゃくちゃすごい。
こんなことを、こんなふうに的確に指導してあげられる先生なんて、そうそう居ないでしょ。
そして、指導してもらったデズデモーナさまは……その青い目を見張り、それからおどおどとその目をオードウェル先生、テアちゃん、私へと動かしている。
ああ、本当にこの子は……デズデモーナ嬢は、こうやって周りの顔色をうかがいながら生きてきたんだ。
自分が、周りから切り捨てられてしまわないように。
こういうのって、本当に地位も身分も、世界が変わっても関係ないんだわ。
だって、虐待されてきた子はみんなこうする。周りの顔色をうかがい、保護者から自分が捨てられてしまわないよう必死になって相手に媚びる。
たまたま地位や身分があるお家に生まれたデズデモーナさまは、親のふるまいを真似ることこそが、保護者である親への媚びなんだ。必死に親のふるまいを真似て、親に認めてもらおうとしてきたんだ。
彼女は、オードウェル先生が言われたように、自分自身で考えて決めることができるだろうか。
自分にとって異質な……彼女の人生の中でおそらく初めて明確に突き付けられた、私やテアのような価値観を、いまここで受け入れるのか、それとも拒否してこれまでの価値観に固執するのか。
オードウェル先生が言われた通り、デズデモーナさまがいまここで考えて決めることは、間違いなく彼女の今後の人生を左右するだろう。
そのとき、ドアがノックされた。
ハッと私たち全員が振り返った先、控え室の入り口のドアの向こうから、スヴェイが声をかけてきた。
「間もなく授業時間が終了します。そろそろ、デズデモーナさまの侍女がお迎えに来られるものと存じます」
その言葉にびくりと身体を揺らしたデズデモーナさまに、オードウェル先生がまた声をかける。
「デズデモーナ嬢、いますぐ答えを出すのは難しいかもしれません。けれど、これについては決してうやむやにすることなく、貴女自身の答えが出るまで考え続けなさい」
戸惑いと不安が入り混じった目でデズデモーナさまはオードウェル先生を見返し、そしてあいまいにうなずいた。
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