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没落伯爵令嬢は家族を養いたい  作者: ミコタにう


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353.なんでそういう話になったの?

本日1話更新です。

 私、たぶん、5秒くらい固まってたと思う。

 だって、あの、えっと……王太子妃? 誰が?


 ぽかーん、と……ホンットに冗談抜きでぽかーんと口を開けちゃった私に、デズデモーナさまがさらに言う。

「わたくしは最初からそうだと思っていたのよ! これで、王太子妃候補としてお名前が挙がっていたみなさまは、いったいどんなお顔をされるのかしら? ああ、本当にいい気味だわ!」


 おほほほほほほほほ!

 と、なんていうかもう狂乱のマクベス夫人のごとく高笑いしちゃってるデズデモーナさまに、私だけじゃなくその場の全員が固まってたんだけど。

 ええ、きたわよ、テアちゃんの『マジ?』な視線が。

 ついでにオードウェル先生まで、素で『マジ?』な顔をして私を見ちゃってる。

 私はもう思いっきり、ぶんぶんと首を横に振った。


 そんでもって私は、助けを求めるようにスヴェイを見ちゃう。

 スヴェイ、それにゲオルグさんはわかってるよね?

 私は、王太子殿下からハンバーガーのおねだり攻撃はくらっていても、王太子妃なんてナニソレ美味しいの? 状態だってことを!


 スヴェイは笑顔のまま固まってる。

 でもそれは、頭の中が真っ白、っていうのではなくて、むしろ動作をすべて止めて頭の中をフル回転してこの状況を把握しようとしてるっぽい。


「恐れ入ります、デズデモーナさま?」

 スヴェイはおもむろに、高笑いを続けるデズデモーナさまに声をかけた。

「その、ゲルトルードお嬢さまが王太子妃になられるなどというお話は、どちらでお耳にされたのでしょうか?」


 とたんに、キッとデズデモーナさまがスヴェイをにらんだ。

 あーよかった、正気だった。別に頭を打ったりしたわけではなかったのね?

 と、私はちょっとホッとしちゃったんだけど、なんかもうデズデモーナさまはものすごい勢いでまくしたて始めた。


「どこで耳にしたのかですって? いまさら何をおっしゃっているのかしら? 王家直属の貴方が派遣されていて、そのままクルゼライヒ伯爵家に仕えるといまおっしゃったではないの! たかが伯爵家に、王家の直属騎士爵文官が! それにそもそも、なぜご親族でもないエクシュタイン公爵さまがゲルトルードさまの後見人をされているの? 王太子殿下が叔父君であるかの公爵さまをたいそう慕っておられることは周知の事実、しかも先ほどゲルトルードさまは王太子殿下の叔母君であるレオポルディーネ夫人とも親しくされていることを、これみよがしに披露されていましたわ! そうなればもう、王太子妃はゲルトルードさまで決まりではありませんか!」


 いや、いやいやいや、全然決まりじゃありませんって。

 私はスヴェイと顔を見合わせちゃった。

 スヴェイの笑顔が思いっきり苦笑になってる。

「うーん、まあ、確かにそういう見方も、できないことはないですけれどねえ」


 いや、いやいやいや、そういう見方もナニも、絶対ありませんって。

 私はまたぶんぶんと首を横に振っちゃった。

 でも、デズデモーナさまは納得しない。

「そういう見方しか、できませんわ! それは確かに、まだ正式には発表しておられませんから、いまここでわたくしに対しては否定しかされないでしょうけれど! 誰がどう見ても、王太子妃はゲルトルードさまで決まりではありませんか!」


 えええええ、どうしよう。

 私にスヴェイやゲオルグさんがついてくれてる、その立派な理由がちゃんとあるんだけど、それをいまここでデズデモーナさまに説明するわけにはいかないよね?

 それに公爵さまに後見人になってもらったのってほぼ成り行きっていうか、公爵さまが私を言い訳にして自分の好きなことをしたかったからだし、レオさまと親しくしてもらってるのだってそもそもお母さまつながりだし。


 いや、胃袋はつかんじゃってると思うよ、胃袋は。

 それについてはもう、王太子殿下も国王陛下も王妃殿下も、王家のみなさまの胃袋は、私ゃしっかりつかませていただいちゃってるとは思うけど。

 でもね、ここまで息巻いちゃってるデズデモーナさまに、ソレを正直に言ったところで信じてくれそうにないよね?

 王太子妃だとかそんなたいそうな話は1ミリもなくて、単なる食い気の話なんです、なんて。


 私はもう正直に途方に暮れちゃった。

 それなのに、スヴェイはやっぱり苦笑しちゃってる。

「うーん、確かにゲルトルードお嬢さまが王家に囲い込まれているのは、事実ですが」

 だからスヴェイ、そういうことはうかつに言わないで!

 だってほら、デズデモーナさまがさらに勢いづいちゃった。


「やはりそうではありませんか! たかが伯爵家のご令嬢を、王家の方がたが囲い込まれる理由などひとつしかありませんわ! 王太子妃としてお迎えになるご予定だからでしょう! ええ、伯爵家のご令嬢であっても、魔力量が豊富でいらしたら王太子妃の座も十分考えられますものね! それはもう、ご身分を飛び越えられてしまった侯爵家のご令嬢がたは、さぞや悔しい思いをされることでしょうね!」

 って、ご自分がその侯爵家のご令嬢じゃないですか、デズデモーナさまは?

 なのに、なんかもう本気で、まさに『ざまあ』な感じで高笑いを続けちゃってる。


 えーもう、なんて説明すればいいの?

 私はなんとか考えをまとめ、とりあえず言ってみることにした。


「あの、デズデモーナさま?」

「おめでとうございます、ゲルトルードさま! 王太子妃におなりだなんて、我が国の貴族令嬢としてこれ以上の誉れなどありませんわ!」

 いや、人の話を聞け。


 頭を抱えそうになりながらも、私は言った。

「王家だけではありませんの」

「は? 何のお話……」

「王家だけでなく四公家もすべて、わたくしの後ろ盾になってくださると、お約束をいただいております」


「な、何をおっしゃって……」

「実はわたくし、我が国の新たな産業に結び付きそうな品を発案しておりまして」

「は、い?」

「すでに魔法省と正式に契約を交わし、実用化に向け魔法省魔道具部で試作していただいております」


 今度はデズデモーナさまから『マジ?』な視線をいただきました。

 もちろん、テアちゃんも、それにオードウェル先生からも、なんだけど。


「ご存じの通り、我が国の経済はいまだ『ホーンゼット争乱』の痛手より立ち直ることができておりません。国王陛下は我が国の経済復興のため、何か新たな産業を興せないかとさまざまな方策をお考えでいらっしゃったのです。そこにたまたま、本当にたまたま、わたくしが考案した品が実用化できそうだということで、わたくしに庇護を与えてくださるとお約束くださったのです」


 うん、ウソは言ってないよ、ウソは。

 ほらそこ、スヴェイ、そういうビミョーな顔はしない!

 どのみち近々お披露目する予定だし、正式契約が済んでるのも事実だし、四公家の支援についても口止めされた覚えもないし、だからもう、コレで押し切っちゃうから!


「そういう事情ですので、わたくしが王家と四公家の庇護を受けますのはあくまで我が国の経済にかかわることであって、わたくしが王太子妃どうこうというようなお話はいっさい、まったく、これっぽっちも、いただいておりません!」


 デズデモーナさまが、完全に固まっておられちゃってます。

 そこで、ずっと黙ってたテアちゃんが口を開いてくれた。

「ルーディ、もしかしてその、新たな産業になりそうな品って……魔術学基礎の秋試験で貴女が答案用紙に書いたっていう、アレ? ツォルヴァイス先生が、それはもう感心されていて……」


 ああもう、いいよね、認めちゃっても。

 試験の答案に書いた内容についてならいいよね? 公爵さまから許可をもらって書いたんだし。

 ということで、私はうなずいた。

「そうなの、テア。あの試験で解答した内容がすべてではないのだけれど」


 さらにオードウェル先生も言い出してくださった。

「ゲルトルード嬢、貴女が商会を立ち上げられたというのは、そういう事情があったのですね?」

「そうなのです、オードウェル先生」

 うん、これもウソは言ってないよ、ウソは。


 ってもう、そこ! そういうビミョーな顔はしないで、スヴェイ!

 だってほら、結果的にそうなってるじゃん! その結果に至るまでの過程を、すっぱり端折りまくった説明ではあるけど!


 そんでも、テアちゃんもオードウェル先生も、なるほどそういうことだったのね、という感じで納得してくれたっぽい。

 そして、目の前のテアちゃんとオードウェル先生が納得してくれちゃったおかげで、デズデモーナさまもどうやら自分の思い違いを認識してくださったっぽい。


「そ、そんな……まさか……」

 目を見張り、わなわなと唇を震わせるデズデモーナさま。

「いま申し上げた通り、わたくしが王太子妃になるというようなお話は、いっさいございません」

 ダメを押すように私が繰り返すと、デズデモーナさまが叫んだ。

「では、王太子妃にはいったいどなたが選ばれるというの?!」


 知らんがな。

 私はもう本当に頭を抱えたい気分だったんだけど、それでも精いっぱいの笑顔を貼り付けて、デズデモーナさまに言った。

「少なくともわたくしは、具体的にどなたが王太子妃の候補でいらっしゃるかも、お聞きしたことは一度もございません」

「そんな……そんな!」

 うわーっと、デズデモーナさまが泣き伏しちゃった。


 えーっと、とりあえず私が王太子妃になるなんていう、とんでもない誤解は解けたようなんだけど……なんでデズデモーナさまが泣いちゃうのかがわからない。

 ここまでの流れでいくと、デズデモーナさまは私が王太子妃になることを望んでた、ってことだもんね? 私は違うよ、ってきっぱり否定したら泣いちゃったんだもん。


 なんで?

 いったいなんで、デズデモーナさまは私を王太子妃にしたかったの?


 なんかデズデモーナさまのお父君は、ご自分の娘を王太子妃にって王家にゴリ押ししまくってるような話を、聞いた覚えはあるんだけど……でも、王家側はデズデモーナさまの魔力量があんまり多くないから妃候補から外すとかなんとか。

 それで、デズデモーナさまがご自分の代わりに私を王太子妃に……って、そういうことのような気がするんだけど、いったいどういう脈絡でそうなるの?

 さっぱりわかんないんですけどー?


『没落伯爵令嬢は家族を養いたい』7巻、2025年10月1日発売決定です!

今回はコミックス3巻と同時発売!

活動報告で書き下ろしの内容についてもご案内しております。

今回もたーっぷり書き下ろしておりますのでv( ̄∇ ̄)v

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書籍7巻2025年10月1日株式会社TOブックス様より発売です!
誕生日が3日しか違わない異母姉弟ドロテアちゃんとドラガンくんの誕生秘話SS(22,000字)収録!
コミックス3巻も同日発売です!

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― 新着の感想 ―
ルーディは妖精ちゃんとくっついて欲しいなぁ
王妃コース、現状では無しだけど、案外有り得るのがなんとも……
知らんがな…………爆
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