350.事件発生?
本日1話更新です。
やっぱり何事もなく終われるわけはなさそうで(;^ω^)
私は思わずテアちゃんと顔を見合わせちゃったんだけど、テアちゃんもまったく知らなかったらしくて首を小さく横に振ってる。
まさか私たち、隣接領地の令嬢3名がそろい踏みしちゃうだなんて……なんか、変なフラグ立っちゃったような気が……気が、しちゃいけない!
と、思いつつも、いまは授業中。
私もテアちゃんも、先生の指示通り自分の馬に乗ることにした。私が乗るアレクサには、ハンスがそのままついていてくれて、さっと踏み台を出してくれた。
では、アレクサちゃんの首に手を当てて、まずはちょこっと魔力を通して、と。
「ゲルトルード嬢はご自分の馬をご用意できたのですね?」
オードウェル先生に問いかけられて、私は笑顔で答える。
「はい、後見人のエクシュタイン公爵さまが、このアレクサを貸してくださいまして」
「では馬具も、ゲルトルード嬢専用のものを公爵さまがご用意くださったのですね」
「はい、公爵さまには本当に感謝しております」
なんかやっぱり私、乗馬の先生がたにイロイロ心配されちゃってたらしい。
私はこのオードウェル先生に直接指導してもらうのは初めてなんだけど、でもご存じだったんですね、っていうくらい私の乗馬はひどかったってことです、はい。
そりゃもう、以前は学院の馬具を借りるにしても、自分のこの貧相な体に合う馬具の選び方もわかってなかったし。それでもまあ、さすがに私が馬に魔力を通すことを知らなかった、とまでは先生がたも気が付いていらっしゃらないだろうけど……気が付いてたら、絶対教えてくれてたよね?
あ、でも……思い出しちゃったぞ。
馬具の選び方っていうか、もうちょっと小さい馬具はありませんかって訊いた男性の先生、別にソレでいいんじゃないですか、って半笑いであしらわれたわ。
やっぱどう考えてもアレはひどいよね? 教師にあるまじき態度だよね?
このコンスタンツェ・オードウェル先生は、そういうことはなさそうな感じ。それだけでも、今日補習授業を受けてよかったかも。
オードウェル先生は、テアちゃんにも声をかけてる。
「このレダは少々難しい馬ですが……ドロテア嬢は問題ないようですね」
「はい、わたくしとは相性がいいようです」
テアちゃんも笑顔で答えて、さっとカッコよく馬の背に乗った。
さすがサマになってるわ、テアちゃん。そりゃもう、ド素人の私から見ても、テアちゃんは馬に乗り慣れてるって一目でわかるレベル。
で、デズデモーナさまなんですが。
これまた、ド素人の私から見ても、一目でヤバそうだってわかるんですけど。
だってあんなすっごく大きな馬、乗りこなせるの?
いや、めちゃくちゃ立派な馬だと思うわよ? 真っ黒で堂々としてて。
ただ堂々としすぎてて、馬のほうが乗り手のデズデモーナさまを鼻であしらってる気が……ううむ、デズデモーナさまが私みたいに馬に魔力を通すことをご存じないとは思えないんだけど。
「デズデモーナ嬢、貴女がご自分から乗馬の練習をしたいと補習授業に参加されたことはたいへんすばらしいと思います。ただ、この馬は貴女のように乗馬に慣れていない1年生の女子生徒が御すには難しいと思いますよ」
オードウェル先生もデズデモーナさまに声をかけてるんだけど、デズデモーナさまってばツンとあごをそらせて答えてる。
「このブライトはわたくしの父が、わたくしのためにわざわざ取り寄せてくれた馬です。わたくしは、このブライト以外には乗るつもりはございませんの」
そんでもって、学院の馬丁が置いてくれた踏み台に足をかけ、デズデモーナさまがこう、必死にそのでっかいブライトちゃん……ブライトくん? の背によじ登ってるんですが。
デズデモーナさまって、なんていうか、華麗にさっと騎乗して『おほほほほほ』と高笑いしていらっしゃるようなイメージが……いや、人を自分の勝手なイメージで決めつけちゃいけないわ。
うん、えっと、その……デズデモーナさまって、実は結構どんくさ……あの、身体を動かすことがあまりお得意ではなかったりするような感じね?
まあね、デズデモーナさまからしてみれば、私の印象なんて最悪だろうし。人のこと言ってちゃいけないわ。てか、その辺の関係改善をどうするんだって話だわ。
この授業が終わったら、デズデモーナさまに声をかけてみる?
でも、なんて声をかければいいんだろう。デズデモーナさまもテアちゃんみたいにさっぱりした性格のご令嬢なら、率直に謝っちゃったほうがいいと思うんだけど……それもビミョーだよね。
だいたい、もしデズデモーナさまのほうから接触があったとしても、私は下手に謝っちゃダメって公爵さまにはくぎを刺されちゃってるしねえ。
うーん、とりあえずデズデモーナさま、頑張って。
私はあんまりじろじろ見ないように気をつけながら、デズデモーナさまが馬の背によじ登るのを心の中で応援しちゃう。
あ、デズデモーナさま、なんとか鞍に座ることができたみたい。
オードウェル先生も、生徒が自分で用意した馬をどうこうできるわけではないようで、ビミョーな顔をされたままデズデモーナさまを見守ってたんだけどね。そのデズデモーナさまの騎乗が確認できたところで、先生もご自分の白馬の鞍にさっと優雅に腰を下ろされた。
「それでは、屋根付き馬場に入りましょう」
まずは屋根付きの丸い馬場の中を、馬丁に口をとってもらった状態でぽくぽく歩きながら周回します。
いやーもう、以前はこの馬丁に口をとってもらった状態で歩いてる馬に乗ってることすら、私はかなり怪しかったのよねえ。
だけど、見よ!
いまの私はアレクサちゃんのおかげで、それなりにちゃんと乗れてる! 気がする。
「ドロテア嬢は、まったく問題ないですね」
「ありがとうございます、オードウェル先生」
うん、誰が見てもテアちゃんはヨユーですわ。
でもって、私も先生に褒めてもらっちゃった!
「ゲルトルード嬢も、問題ないようですね。姿勢もたいへんよろしいです」
「ありがとうございます、オードウェル先生」
私は嬉しくなっちゃって、つい話しちゃう。
「自由登校期間中に、エクシュタイン公爵さまが乗馬の練習の機会を作ってくださったのです。公爵さまの姉君の、ガルシュタット公爵家夫人レオポルディーネさまが、お手本を見せてくださいました」
「ああ、それはよかったですね」
先生が笑顔でうなずいてくださる。「レオポルディーネ夫人は、学生時代から本当に乗馬が得意でしたから、お手本としては最上でしょう」
「先生は、レオポルディーネさまをご存じなのですか?」
思わず問いかけちゃった私に、オードウェル先生は笑顔で答えてくれた。
「ええ、わたくしも何度か、彼女の乗馬の授業を担当しました」
おおおお、レオさまもこのオードウェル先生の授業を受けてらしたのね!
もしかして、お母さまやメルさまもそうだったのかな?
でもそうだよね、長く学院で教鞭をとっておられる先生だと、私たちの親世代も教えてもらってたりするよね。なんかちょっとお話を聞いてみたくなっちゃうわー。
もちろん、授業中にそんなお話を聞くなんてことはできないけど。
オードウェル先生も、私の側を離れてデズデモーナさまのほうへと移動してる。
「デズデモーナ嬢、背中が丸まっていますよ。もっとしっかり背筋を伸ばしなさいませ。それに、そのような自信のない態度はそのまま馬に伝わります。ブライトは勇壮な馬なのですから、もっと堂々と自信をもって御さなければ」
先生、容赦ないです。
でもその、デズデモーナさまのごようすが……なんていうのか、以前の自分を見ているようで、わたくし、たいへんいたたまれない気分になっちゃいますです、はい。
いや、私はもっと小柄なよぼよぼした馬でも、ああいうおっかなびっくりって感じの乗り方だったとは思うんだけど。
ふと見ると、馬場の隅で見学してるゲオルグさんの顔がめっちゃ険しい。ゲオルグさん、ふだんから仏頂面なんだけど、いつにもまして不機嫌そうな顔でデズデモーナさまを見てるのよねえ。
馬に関してはプロ中のプロだと思って間違いないゲオルグさんからしても、やっぱりデズデモーナさまがあのでっかくて立派なブライトくんに乗るのはやめとけ、ってことなんだろうな。
いっぽう、ゲオルグさんの横に並んでるスヴェイは、なんかにこにこしながら私とハンスを見てくれてるので和むわー。
あ、でも、デズデモーナさまは侍女を1人従えてきてたんだけど……その侍女さんは見学してない。お嬢さまのこの惨状、いや状況が心配じゃないのかしらね? それとも、はらはらしすぎて見ていられないとか?
その後、馬丁が手を放し、口をとってもらっていない状態で屋根付き馬場を何周かして、さらに外の馬場へ出ましょうということになった。
オードウェル先生によると、次の授業では1年生女子も外宮のちょっと長いコースを周回するとかで、今日の補習授業では屋外で騎乗することに慣れる必要があるからとのこと。
屋根付き馬場のすぐそばに、屋外の周回コースもあるんだよね。コースに沿って植込みなんかもしてあって、ちょっとした公苑みたいな感じの短いコースだ。
ええ、いままで私は下手くそすぎて、屋根付き馬場から出たことがなかったんだけど、ついに屋外デビューですわ。
「速度を上げる必要はありません。並足で周回しましょう」
そう言ってからオードウェル先生は、テアちゃんを指名した。
「ドロテア嬢、貴女に先頭をお願いしますね」
「わかりました、オードウェル先生」
テアちゃんがにこやかに答え、なんの問題もなくすっと馬を屋外の周回コースに向かわせる。
「ゲルトルード嬢、貴女はドロテア嬢に続いて」
「はい、オードウェル先生」
よっしゃ、いきますよ、アレクサちゃん。しっかりテアちゃんが乗ってるレダちゃんの後ろについていってね。ええと、手綱を引いてこう……うん、アレクサちゃんってホントにいい子! ちゃんとレダちゃんの後ろについていってくれる!
テアちゃんもちょっと振り向いて、私がついてきてるか確認してくれる。そんでもって私がちゃんとついてきてるのを見て、パッと笑顔を見せてくれた。
うん、乗れてる、ちゃんと馬に乗れてるよ、私!
私も確認のために後ろを振り向いたんだけど、先生とデズデモーナさまの向こうでハンスが……スヴェイと一緒に並んでるハンスがすっごい嬉しそうな顔をしてくれてるのが見えた。
ここで私もさらっと手を振ったりできればよかったんだけど、無理はすまい。手綱から片手を外すのすら正直に不安だもん。とりあえずハンスとスヴェイには笑顔だけ向けておいた。
で、しんがり……と言っていいのか、デズデモーナさまが乗ったでっかい真っ黒なブライトくんが私の後についてきた。そのブライトくんの横に、オードウェル先生が乗った白馬が寄り添うように並んでついてくる。
いやもう、先生の乗った馬と並ぶと、ブライトくんのデカさがさらによくわかるわ。
私が乗ってる小柄なアレクサちゃんなんか、ブライトくんからしたら仔馬みたいな感じだよね。
私はいままで、乗馬の授業中は必死すぎてまったく余裕がなくて、ほかの生徒のようすなんてろくに見たことなかったけど……デズデモーナさまはずっとあのでっかいブライトくんに、ああいう感じで……おっかなびっくりのおぼつかない感じで、乗ってたんだろうか?
そんでも、怖いっていうのはすごくよくわかる。
これだけ小柄なアレクサちゃんであっても、地面からかなり高く感じるもんね。あのでっかいブライトくんなら、さらに高い位置に座ってるわけで。
しかも、自分の体に合った鞍を使ってるっていっても横座りだからね、やっぱりすごく不安定なのよ。大きく揺られたら、そのままずるっと滑り落ちちゃいそうな感じがすごくするんだよね。
なんかさっき、デズデモーナさまはあのでっかいブライトくんを、お父上がわざわざ取り寄せてくれた馬だって言ってたけど……私みたいなド素人から見ても不釣り合いだと思っちゃうわ。ホントに見るからに危なっかしいんだもん。
それなのになんで、わざわざあんな見るからに女子には不向きな馬を取り寄せて、デズデモーナさまに乗らせちゃうの? うーん、ナニか特別な理由でもあるの?
いやー、アレクサちゃんのおかげでちょっと余裕ができて、他人事ながら私も心配になっちゃってついちらちらと後ろを見てはデズデモーナさまを確認しちゃう。
どうやら、横に並んでるオードウェル先生がうまくブライトくんを抑えてるようで、デズデモーナさまの背筋もだんだん伸びてきた。
そこでようやく私もしっかり前を向いたんだけど、前を行くテアちゃんもやっぱり心配してたらしい。後ろを向いてたテアちゃんとばっちり目が合っちゃって、お互いにちらっと笑っちゃった。
どうやら、デズデモーナさまもなんとか大丈夫そうだってことで、私もせっかくの乗馬を楽しむことにした。
ホントに秋晴れで気持ちのいい気候だし、先導役のテアちゃんはリズムよくぽくぽくと進んでくれてるので、私も安心してアレクサの背で揺られていられる。
確か、放課後とか休日に、申請すれば学院の馬を貸し出してもらえるって聞いたことあるな?
テアちゃんは乗馬が好きと思って間違いないし、これはちょっと考えてもいいかも。お休みの日に王宮内の公苑とか一緒に乗馬でお散歩してもいいかも。
お茶会はムリでも、テアちゃんと一緒に乗馬でお散歩して、図書館でお勉強して……なんかもう私、思いっきり学生生活を満喫できそう!
これはもう、一刻も早く学院の食堂を整備して、テアちゃんだけでなくガンくんとも一緒にお茶とおやつも楽しめるようにしなければ!
などと、私はとっても楽しいことを考えてたんだけど。
突然、テアちゃんが鋭い声で言った。
「止まって、ルーディ!」
いまさらではありますが、本作のジャンルを変更しました。
あとで活動報告もUPしておきます。





