347.実りの多い話し合いになりました
本日1話更新です。
連休期間中に更新できなかった分です(;^ω^)
「いかがされましたか、ゲルトルードお嬢さま?」
エグムンドさんが、ゼラチン発見の感動に打ち震える私のようすをいぶかしんで声をかけてきたんだけど。
いやもう、思いっきり鼻息荒く私ゃエグムンドさんに訊いちゃったわよ。
「エグムンドさん! その牛糊を……完全に無味無臭になるまで、つまり食用として使用できるまで精製してもらうことは可能かしら?」
「は? あの、牛糊を食用に、ですか?」
エグムンドさんだけじゃなく、その場の誰もがぽかんとしちゃってるけど!
でもこれ、めっちゃ重要! ゼラチン、絶対に欲しい!
「ええ、もとはと言えばわたくしたちが食べた牛や豚の骨や皮でしょう? 不純物を完全に取り除くようしっかり精製してもらえば、食用にできると思うのだけれど」
そして私はマルゴに振り返る。
「マルゴ、ほら、お肉を……特に骨付きのお肉を煮込んで冷ますと、煮汁が固まってぷるぷるになるでしょう?」
「あ、はい、煮こごりでございますね?」
困惑顔のマルゴが、それでも的確に答えてくれる。
「そう、その煮こごりよ! あれって、お肉や骨から煮出される何かが、煮汁をああいうふうに固めるのだと思うの。その何かが、牛糊には含まれていると思うのよ。だから、牛糊をしっかり精製してお料理に使えば、たとえば果汁などを煮こごりのように固めてしまえると思うの!」
「果汁を、固める……」
見開かれたマルゴの大きな目が、みるみる好奇心に輝きだした。
「それはたいへん興味深いことでございますです、ゲルトルードお嬢さま! あの煮こごりを、お肉の煮汁以外で作ることができたならば……何か飲み物を、牛乳にはちみつを入れて固めたりしてもよさそうでございますね!」
さすがマルゴーーーー!
「そうよ、甘くした牛乳を、プリンのような口当たりで食べられると思うわ! 同じようにお砂糖を入れて甘くしたお茶を固めても美味しいと思うの! 飲むお茶ではなく、食べるお茶ね!」
牛乳プリンに紅茶ゼリー!
本当にマルゴは、あっという間に私のいうことを理解してくれる。
それに、ぽかんとしていたほかの人たちも、ようやく少し私がナニを言っているのかがわかってきたらしい。
「確かに……牛糊は煮溶かしてから塗布して、冷えれば固まりますので、それによって接着するわけですが……」
「ええ、牛糊は固まった状態でも、弾力がありますから……」
「それで、飲むお茶ではなく、食べるお茶を作る……?」
困惑したようにノランたちと話していたエグムンドさんが、ひとつうなずいた。
「わかりました。ゲルトルードお嬢さまがおっしゃるのですから、何かまた新しいお料理ができるのでしょう。ただちに、食用になるまで牛糊を精製してくれる工房を探します」
「ありがとうエグムンドさん!」
私は小躍りしそうになっちゃったわよ。「よろしくお願いしますね!」
ゼラチンだよ、ゼラチン!
ゼリーが作れる! ババロアだってムースだって! グミだって作れちゃうよ!
「なんだか、またとても不思議で美味しいお料理ができそうですね」
「これはもう早急に、牛糊を食用に精製してもらわねば、です」
食いしん坊派閥のヒューバルトさんとスヴェイが小声で話してる。
ええもう、ゼリーは見た目もきれいだし口当たりも楽しいし、ホンットに美味しいおやつになるので! 乞うご期待よ!
そして、今日は今日のおやつがあるんだった。
「それでは、お茶にしましょうか」
私がにっこにこで言い出すと、マルゴもにっこにこで答えてくれる。
「はい、では先ほど焼きあがりましたこちらのパイを」
マルゴがさっと、パイにかけてあった布巾を外してお披露目してくれた。
いっぱい並んだ小さなパイを見たみんなの目が丸くなる。
「これは……パイですか?」
「林檎ですか? 林檎をこのような形に?」
「なんとも華やかなパイですね!」
そうでーす、林檎の薔薇パイでーす!
これ、ホンットに簡単なのに、見た目がかわいくてインパクトあるのよね。
皮付きで薄くスライスした林檎を甘く煮ておいて、その林檎を細長く伸ばしたパイ生地に形よく並べたら、くるくる巻いて焼くだけ。
カップサイズで、薔薇の花のような形のかわいいパイが焼けちゃうの。
「ゲルトルードお嬢さまのお考えになるお料理は、本当にどれもこれもすばらしいです」
マルゴがもう手放しで褒めてくれる。「成形を少しくふうしただけですのに、こんなに華やかでかわいらしいパイになるのでございますから。これも、プリンやパウンドケーキなどと一緒に並べてお出しすれば、特に女性のお客さまが喜んでくださること間違いなしでございます」
「既存のお料理でも、ゲルトルードお嬢さまの手にかかれば、これほど見映えのする目新しいおやつになるわけですね」
「いや、あの絞り袋もたいへんすばらしいと思いましたが……本当に何かくふうして目先を変えるということが、お料理では非常に重要だということがよくわかります」
みなさん、感心しきりですわ。
いやー、絞り袋にしてもこの林檎の薔薇パイにしても、私が考えたワケじゃないんだけどね。だからあんまり褒められまくっちゃうと、やっぱりどうにも居心地が悪いんだけど。
でも、そういうのはもう、スルーしていかねば。
出せるアイディアはぜんぶ出して、がっつりしっかり国中のみなさんの胃袋をつかまねば、なんだからね!
と、いうことで私たち……エグムンドさんもヒューバルトさんも一緒に、客間へ移動。
客間では、お母さまがグリークロウ先生へのお礼状を書いてくれていたので、そのお礼状に私もちょこっとお礼の言葉とサインを書き加えさせてもらう。
さっそくカールとハンスがそのお礼状と、ふつうに焼いておいた大きな丸い林檎パイを持ってグリークロウ先生のところへお使いに行ってくれた。グリークロウ先生、ぜひ美味しく召し上がってくださいね。
そうして、やっと! おやつの時間です!
もう見て見て、それぞれに配られたお皿には、林檎の薔薇パイと小さくて四角い耳なしパンのフルーツサンド、それにマルゴが作り置きしてくれていたキャラメルをきれいな柄の蜜蝋布で包んで3個ずつ。
かわいくて美味しそうで、そりゃもうテンション上がりますって!
お母さまもリーナも大喜びしてくれちゃってる。
「まあ、なんてかわいらしいパイなの! 本当にこの形のまま焼きあがるのね!」
「パイがお花みたいです! それに、この大きさならわたくしも1個食べられます!」
エグムンドさんとヒューバルトさんもうなってます。
「これは確かに……ご婦人がたは喜ばれますね」
「ええ、我が家の妻と娘たちも間違いなく大喜びしますよ」
「小さなおやつを何種類も、という提供のしかたは、これから我が国で大流行しそうですね」
「まったくです」
ふふふふふ、大丈夫、男子向けがっつり食べられるおやつ、というか軽食もガンガン出していきますからね。ハンバーガーの種類だって増やしていくし、それに唐揚げなんて作っちゃったら、男子のみなさん夢中になること間違いナシだからね。
そんでもって、エグムンドさんは初めて口にしたキャラメルに感動しちゃってるし。
「これはまた……なんとも甘くて美味しいですね。口の中で溶かして食べるおやつという点でも、とても新しいです」
「ええ、このキャラメルは、たとえばお勉強やお仕事の合間にちょっと何か口に入れたくなったとき、手軽に食べられるおやつとして考えたのです」
私がちょっぴりどや顔で言うと、お母さまも言ってくれる。
「そうなのよ。お茶を淹れてもらうほどではないのだけれど、何かちょっとおやつが欲しいときにこのキャラメルを1個口に入れると、一息つけて本当にホッとするのよね」
ヒューバルトさんも言い出した。
「このキャラメルは、体を動かした後に食べても本当に美味しいですよ。行軍中でもさっと口にできるわけですし、軍部にレシピの購入を勧めるのも有効だと思いますね」
そりゃもう、キャラメルやチョコレートって、登山のときなんかでも糖分補給用に携帯しておくといい食品の筆頭ですもんね。
うん、頭脳労働にも、肉体労働にも、糖分の補給は大事。
「これは……この『きゃらめる』は、このように個別に1つずつ包む必要があるのですか?」
おっと、エグムンドさんの眼鏡がキラーンしちゃってます。
私は笑顔で答えちゃう。
「ええ、キャラメルは少し温度が上がると表面が溶けてくっついてしまうの。だからこうやってひとつひとつ包んでおくほうがいいのです」
「なるほど……しかし、私がいまお聞きしている魔力付与の加工を施した布で1個ずつ包むとなると……繰り返し使用できるとしても費用がかさみますね」
おっしゃる通りです。
エグムンドさんが思案している通り、キャラメル1個のお値段よりも包んでる布のほうが高価になっちゃう可能性が高いのよね、状態保存の魔力付与をしていると。
そこは私も、ちょっとどうかなと思ってるんだけど。
そしたら、エグムンドさんがさらに言い出した。
「いま使用されているこの布は、魔力付与されているのですか?」
「いいえ、この布は、いっさい魔力付与はしていません」
「それならば、このように魔力付与をしていない布で個別に包み、それらをまとめて魔力付与をした大きな布で包んでおくのであれば、費用はかなり削減できますね」
おおおお!
そうだよ、エグムンドさんの言う通りだ!
魔力付与していないふつうの蜜蝋布なら、うんとコストを下げられる。キャラメル自体はいまみたいにふつうの蜜蝋布で1個ずつ包んで、それを状態保存布で作った袋にでもまとめて入れておけばいいんだ! 言われてみればもう呆気ないほど、当たり前のことだよ!
って、そう言えば公爵さまのところで最初にキャラメルを食べさせてもらったときも、アーティバルトさんがそういう形にしてたよ!
大きな硬化布で、キャラメルをいっぱい包んでたじゃないのー。
「エグムンドさん」
私の目もキラーンしちゃったわよ。「それはたいへんよい案だと思います。魔力付与をした布で作った袋の商品化も考えましょう。キャラメルだけでなく、ほかの食べものも入れて持ち歩けるようにすれば、とても便利ではないですか」
そりゃもう、ふつうの蜜蝋布で包んだサンドイッチやハンバーガーなんかをまとめて入れて持ち歩ける状態保存布バッグがあれば、めちゃくちゃ便利だよ。
保冷ランチバッグよろしくかわいいデザインの巾着袋にしてもいいし、1枚布を風呂敷包みにして持ち歩くのでもいい。硬化はさせなくていいから、状態保存と、あとは基本の軽い耐熱性や耐酸性の魔力付与をしてもらう程度なら、お手頃価格で販売できそうじゃない?
「試作をお願いできそうですか、ゲルトルードお嬢さま」
眼鏡キラーンのエグムンドさんに私が答えるより早く、ヒューバルトさんが答えちゃった。
「必ずヴィールバルトに試作させます」
またもや私たち、イイ笑顔の応酬になっちゃいましたわ。
そうしてエグムンドさんとヒューバルトさんは、笑顔を隠し切れぬようすで商会店舗へと戻っていった。
ふふふふ、いろいろお願いしちゃったけどよろしくね、エグムンドさんもヒューバルトさんも。
私はというと、ようやく、やっとこさ、お母さまとリーナに蜜蝋布の加工について話すことができた。さっきエグムンドさんたちが蜜蝋布の加工品を話題に出してきたのに、お母さまにもリーナにも具体的な話ができてなかったからね、本当に申し訳なかったわ。
それはもう、精霊ちゃんに会ったときのことから、実際に目の前で加工をしてもらったことなんかも、たっぷりと話すことができた。お母さまもリーナも興味津々で聞いてくれて、これはもう、ちょっと早めに試作品をわけてもらえないか、公爵さまに相談しなければ。
それに、リーナからもお勉強の進み具合など、リーナが私に話したかったことをたくさん話してもらえたし、ホンットに久々に家族だんらんができたわよ。
お寝坊からの学院欠席になっちゃったけど、こうやってお母さまやリーナと美味しいおやつを食べながら、ゆっくりいろんな話ができて本当によかった。
日常が戻ってくるって、こういうことだよね。
うん、明日からはまた学院へ登校だー!
続きも早めに更新できるよう頑張ります( *˙ω˙*)و グッ!





