346.意外なところに欲しかったアレ
本日1話更新です。
ルーディちゃんの具体的な作戦がどんどん明らかにv( ̄∇ ̄)ニヤリ
私は再び首をひねり、自分の後ろにいるマルゴと目を見かわした。
「まだマルゴの息子たち本人には伝えていないのだけれど、このさいだから彼らにもゲルトルード商会の商会員になってもらおうと思っているの。つまりゲルトルード商会として、街にホットドッグのお店を出したいのよ」
「ああ、それは確かにそのほうが」
「むしろそのほうがいいと、私も思います」
即座にヒューバルトさんもエグムンドさんも同意してくれた。
そしてエグムンドさんがさらに言ってくる。
「これまでご当家が提供されてきたサンドイッチやホットドッグ、ハンバーガーなどのパンは、すべてマルゴさんの息子さんたちが焼いていらっしゃるのですよね? それでしたらもう、息子さんたちにゲルトルード商会の専属になってもらうか、いっそ商会員になってもらったほうがいいのではと私も考えておりました」
はい、さすが超有能番頭さん、やっぱりちゃんと考えてくれていたようです。
マルゴも笑顔で言ってくれた。
「あたしも、そうしていただけるのであれば、これ以上ありがたいことはございません。もちろん息子たちの意向も確認いたしますが、まずお断りするようなことはございませんです。大喜びで商会員にならせていただくと思いますです」
「今後もずっとパン焼きを専門に担当してもらうのか、それともホットドッグのお店をすべてまかせることになるのかは、彼らと面談して決めればいいと思うの。そのつもりで、エグムンドさんにはマルゴの息子たちと面談してもらいたいのだけれど」
「承知いたしました。お任せくださいませ」
「よろしくお願いしますね」
私は頼もしく引き受けてくれたエグムンドさんに笑顔を向ける。そんでもって、ここぞとばかりに本題のひとつを持ち出した。
「ホットドッグのお店ができれば、そちらにも人手が必要になるわ。それにもうひとつ。実は、国軍の兵舎にも料理人を派遣できないか、公爵さまに相談させていただこうと思っているの」
ええもう、このさいだから、わが国内のあらゆる場所で、できるだけ多くの人たちの胃袋をがっつりつかみにいかせてもらいますからね!
と、にんまりしちゃった私の目の前で、エグムンドさんもまたとってもイイ笑顔になってます。
「さすがゲルトルードお嬢さま。国軍の兵舎の食堂であれば、まず間違いなくゲルトルード商会から料理人を派遣できると存じます。国軍の上層部のみなさまにもホットドッグは非常に気に入っていただいておりますし、できればサンドイッチやハンバーガーのレシピも購入したいとおっしゃっていただいていますので」
やっぱりそうよね?
公爵さまはホットドッグをひと目見て即、軍の携行食糧にしたいって言い出しちゃったくらいだもん。そもそも、兵舎でのお料理は新兵の担当だってことも公爵さまが言ってたし。だからホットドッグみたいに調理が簡単で食べ応えのあるお料理が喜ばれるんだって。
新兵が調理を担当するのって、遠征時に屋外でも調理ができるよう経験を積ませてるんだと思うのよね。だからそこに、調理の指導も兼ねられる料理人を派遣すれば確実に歓迎されるはず。しかもそれが、美味しくて新しいメニューを導入してくれる料理人とくれば、だよね。
「問題になるのは、おそらく料理人を雇う人件費になると思います。けれど、サンドイッチやハンバーガーなどのお料理のレシピを低価格、あるいは無料で提供すると伝えれば、まず間違いなく軍部は専門の料理人を雇い入れてくださると存じます。レシピの代金を差し引きましても、商会員の料理人を派遣できれば商会として恒久的に派遣料を得られますし」
エグムンドさんの笑顔がとってもとってもイイ感じです。
そんでもって、ヒューバルトさんまでとってもイイ笑顔で言い出してくれちゃった。
「兵舎の食堂に料理人を派遣することができれば、王宮の各省庁の食堂にも料理人の派遣ができるようになると存じます」
「ええ、兵舎を足掛かりにすれば、まず間違いなく」
「ホットドッグやサンドイッチが話題になれば、まず間違いなく」
なんかこう、すっかりイイ笑顔の応酬になってきました。
私もとびきりイイ笑顔で言っちゃいます。
「わたくしとしては、学院の食堂にもぜひ、わが商会から料理人を派遣したいの」
そうよ、コレは絶対外せない!
テアちゃんやガンくんに美味しいお料理を食べてもらいたい!
それに、学院の食堂で美味しいお料理が提供されるようになれば、私も一緒に食堂を利用しちゃえばいいのよ。そしたら、テアちゃんガンくんと一緒にお昼を食べることができちゃうのよー!
「それはもう、もちろんその方向で営業してまいりましょう」
「若い学生たちが美味しいゲルトルードお嬢さまのお料理の味を覚えてしまえば、ずっとその美味しいお料理を要求するようになるでしょうから」
「ご自分の領地でも、ゲルトルードお嬢さまのお料理を広めてくださることは確実です」
「ええ、学院の食堂への料理人派遣は最優先案件ですね」
エグムンドさんもヒューバルトさんも、やっぱりとってもイイ笑顔でうなずいてくれちゃった。
うふふふふふふ、もうどんどんいっちゃうからね、どんどんみんなの胃袋をつかんでいっちゃうからね。こうやって、1人でも多くの人の胃袋をがっちりつかむことで、私の発言権をガンガン上げていっちゃおう作戦だからね!
ええ、もう出し惜しみはしません。
私が出せるお料理はどんどん出していくよ。そんでもって、そのお料理をどんどん広めていくよう商会の事業もどんどん広げていって、ついでに国の経済もどんどん回しちゃうからね!
って、そうだわ、エグムンドさんにノランの話もしておかなければ。
そのノランは、さっきから厨房の隅で所在なさげにたたずんでる。エグムンドさんとヒューバルトさんが到着したとき、ノランも呼んでもらったのよね。ごめんごめん。
「それで、話を戻すのだけれど、このタウンハウスが迎賓館に改装されることについて」
言い出した私に、エグムンドさんもヒューバルトさんもうなずいてくれる。
「先ほどお話しした通り、迎賓館の運営そのものをゲルトルード商会で請け負いたいの。料理人の派遣だけではなく、給仕人や支配人などもできればすべて商会から派遣したいのよね。これからそういう人員の確保が大変になるとは思うけれど……でも、お庭の管理をしてくれる庭師頭はすでに当てがあるの」
そう言って、私はノランを手招く。
「我が家の庭師のノランです。彼は本当に優秀な庭師なのよ。だから迎賓館に改装された後も、ここの庭をずっと彼に任せようと考えています」
緊張した面持ちのノランをエグムンドさんとヒューバルトさんに紹介し、それから私はノランが抱えている事情についても説明した。
ノランがレットローク伯爵家当主の異母弟であることや、彼の息子のトマスがレットローク伯爵家の継承権を約束されていることなどについては、さすがにエグムンドさんとヒューバルトさんもちょっと驚いたようすだった。
それでも、2人ともすぐにうなずいてくれた。
「よくわかりました。それではできるだけ早めに、ノランさんに商会員になっていただく正式なお手続きをいたしましょう。その手続きのさいに、家名を立てられることについても顧問のゲンダッツ弁護士にご相談になればよいかと存じます」
エグムンドさんが頼もしく言ってくれる。
ノランもホッとしたように頭を下げた。
「どうぞよろしくお願い申し上げます」
「それでは、お手続きは商会店舗にて行いますので、ノランさんのご都合のよい日に店舗へいらしてください」
「わかりました。では日にちについては……」
そう言いつつノランの視線が私のほうへ向いたので、私は笑顔で答えた。
「ヨーゼフと相談して決めてもらえばいいわ」
「かしこまりましてございます、ゲルトルードお嬢さま」
すぐにヨーゼフも答えてくれる。
「それでは、明日にでも……」
「商会店舗の場所はご存じですか?」
「必要であれば、店舗までカールかハンスに案内させましょう」
ノランとヨーゼフが、エグムンドさんと相談しているのを横目に私は、やっとおやつだー! とばかりにマルゴに笑顔を向けた。
向けたそのとき、ヨーゼフがエグムンドさんに言った。
「あと、別件で申し訳ないのですが、もしよろしければ商会で木材と牛糊をご都合いただけないでしょうか。もちろんお代金は、ご当家の会計からお支払いいたしますので」
「木材と牛糊ですか? どれほどご入用ですか?」
エグムンドさんの問いかけに、ノランが答える。
「はい、厩の壁が一部破損しておりまして……」
うし、のり?
牛の糊? 木材と、牛の糊?
思わず、私は彼らの会話に割り込んでしまった。
「うしのりって……牛の糊?」
「あ、はい、牛などの動物の骨や皮から作られる接着剤です。木材の貼り合わせに使用します」
ちょっとびっくりしたようすながらも、ノランがすぐに答えてくれる。
「厩の壁が少し壊れていますので、応急ではありますが修繕させていただこうかと。修繕に関してましては奥さまからご承諾をいただいており、ヨーゼフさんもこの通りご存じなのですが……」
「つまり、牛や豚の骨や皮を煮て作る接着剤なのね?」
「さようにございます、ゲルトルードお嬢さま。建築の現場では非常によく使用されております」
違うソコじゃない、とばかりに確認した私に、エグムンドさんも答えてくれたんだけど。ノランもヨーゼフもうなずいているんだけど。
だけど!
そうじゃなくて、牛や豚の骨や皮を煮て作る接着剤って……つまり、ニカワだよね?
ニカワってことは……ゼラチンじゃん!
ゼラチン!
ゼラチンがあれば、ゼリーもババロアもムースもマシュマロも果汁のグミだって作れる!
美味しいお料理でみんなの胃袋をがっつりつかもう作戦に使える新たな武器が!w





