345.ゲルトルード商会の主力商品
本日1話更新です。
2~3日おきに更新しますといいながら、気が付いたらもうこんなに日にちがΣ(っ °Д °;)っ
すみません、次はもっと早めに更新します(たぶん)。
お料理のために手を動かしながら、私はマルゴに話した。私が、これから何をどうしようと考えているのかを。そして、そのためにマルゴにはどう協力してもらいたいのかを。
話しながら一緒に成形したパイ生地を予熱した天火にセットし、焼きあがるまでの間はしっかり腰を据えてさらにマルゴと話した。マルゴは、とっても真剣に聞いてくれた。途中からモリスも交えて、私はこれからどうしたいのかを伝えた。
そして、林檎のパイが焼きあがった甘い匂いが厨房に充満したころ、スヴェイが戻ってきた。エグムンドさんと、毎度おやつセンサーを備えているとしか思えないヒューバルトさんを連れて。
「これはまた、美味しそうな匂いがしていますね」
って、厨房に入ってくるなりにこにことヒューバルトさんが言ったので、私はちょっとホッとしちゃった。
だってね、ほら、うん、いつも通り、ふつうにしてもらってるのが、いちばんありがたいから。
「後でお茶を淹れますから、まずは先に必要な話をさせてちょうだい」
私はそう言って、エグムンドさんとヒューバルトさんを促した。
ちなみに、2人が厨房に来たことで、お母さまとリーナには先に客間へ移動してもらった。この2人にいまから話すことは、ついさっき私がパイを焼きながら話していたことだからね、お母さまにも内容はすでに伝わってることだし。
私はマルゴを交えて必要な話をしてから、この2人と一緒に客間へ移動するつもり。
と言うことで、まずは四角いパンの話から。
「ほう、このような四角いパンを……これは確かに、見映えがさらによくなりますね。ふむ、そして女性のお客さま向けに小ぶりのサンドイッチを数種類お出しする、と……」
さすがエグムンドさんは理解が早い。
マルゴがパウンドケーキの型で焼いてくれた四角いパンと、その試作のサンドイッチを見せただけで、私の話をすぐに吞み込んでくれる。
「ええ、そのためにこういう四角いパンが焼ける、もう少し大きい焼き型を作ってもらいたいの。それに、四角いパンを同じ厚みで切れる、こういうパン切り道具も……」
私は前世の記憶を頼りに、それっぽいパン切りガイドの絵を描いてエグムンドさんに示す。
「いくつか試作してもらえるかしら? マルゴに使ってもらって、使い勝手のよいものを商品化しましょう」
「かしこまりました。早急に手配いたします」
はい、エグムンドさんの眼鏡キラーン、いただきました。これも意匠登録までがセットかな?
私はもうさくさくと話を進めちゃう。
「それから、こういう小ぶりなサンドイッチや小ぶりなパウンドケーキなど、多くの種類のおやつを楽しんでいただくために、こんな形の台はどうかと思うの。お好きなおやつを選んでいただけるように、こういうふうにお盆を三段にして……」
これまたアフタヌーンティー用の三段スタンドっぽい絵を、私は描いてみせる。
「なるほど、こういう形にしておけば小ぶりなおやつを一度に何種類もお出しできる、と……」
そう、こういう見た目ってすごく大事。
だから私はぐいぐいと推しちゃう。
「こうして一度にたくさんお出しすれば、お客さまにはご自分でお好きなものを選んでいただけるわ。それに美味しそうできれいなおやつがたくさん並んでいると、それだけで嬉しくなるもの。そういうことって、特に女性にとってはとても大切なことなのよ」
「かしこまりました」
エグムンドさんがうなずいてくれる。「こちらのおやつを並べる台は、お客さまにお出しする食器の一部になりますね。それならば、何かちょっとした装飾なども施しましょう。そのように手配いたします」
さすがです。理解が早くてとっても助かります、エグムンドさん。
ええもう、どんどんいきますよ。
私はさらに話を進める。
「あと、いまマルゴに話したのだけれど、新しい料理人見習をお願いしたいの」
すぐ後ろに控えてくれているマルゴを見やると、マルゴははっきりとうなずいてくれる。うなずき返して、私は詳細を口にした。
「可能であればいますぐ2、3人。我が家の厨房でマルゴが料理の基本を仕込んでくれます。その後、商会店舗の厨房を使って、モリスが指導をします」
マルゴのさらに後ろに控えているモリスが、ピシッと背筋を伸ばしたのが伝わってくる。
私はモリスに振り返らず、エグムンドさんと、それにモリスを紹介してくれたヒューバルトさんに言う。
「モリスはもう十分、一人前の料理人として通用します。それについては、マルゴが保証してくれました。これから大急ぎで料理人を増やしていきたいので、モリスにも指導する側に回ってもらいます。マルゴには、できれば新しいレシピの開発のほうにより力を入れてもらいたいし」
そして私は、なぜ大急ぎで料理人を増やしたいのか、その理由をエグムンドさんに説明する。
エグムンドさんも、このタウンハウスを陛下が買い取ってくださることについてはすでに知っているので、やっぱりとっても話が早い。
「このタウンハウスが迎賓館として改装されたあと、その運営をゲルトルード商会で担いたいの。これについては、公爵さまにも一通りお話してあります。ただ、公爵さまからは正式なご了承はまだいただけていないし、陛下にもご相談をお願いする必要があるので、現時点では確定ではないのだけれど」
「よくわかりました、ゲルトルードお嬢さま」
おお、エグムンドさんが眼鏡キラーンしてくれちゃってます。
「それはもう、王家が所有される迎賓館の運営というのは、ゲルトルード商会がぜひとも請け負いたい業務でございます。それに、そちらのお話を別にしても、料理人の育成については急ぐべきだと私も考えておりました」
そう言って、エグムンドさんはヒューバルトさんに顔を向け、2人でうなずき合う。
「料理人につきましては、どのみち増員が必要であろうと、すでに何名か身元が確かな者に当たっております」
ヒューバルトさんが口を開いた。「商会店舗で働いてもらう料理人も必要ですし、それにレシピ販売のさいに商会から料理人も一緒に派遣し、先方の厨房で作り方の指導をするということも考えられるのではないかと思いまして」
「ほかにも、私が商業ギルドに在籍しておりましたとき、臨時の料理人を求める貴族家というのもそれなりにございました」
エグムンドさんの言葉に、私はうなずく。
「ええ、大掛かりな晩餐会などを催されるさいに、お手伝いの料理人が求められることがあると、わたくしもいまマルゴに教えてもらいました」
首をひねって私がマルゴを見やると、マルゴもうなずいてくれる。
「あたしも2度ほど、他家の厨房におじゃましてお手伝いしたことがございます」
「では、ご存じですね。臨時で貴族家に入れるほどの料理人を探すのは、なかなか難しいということを」
そうなのよ、エグムンドさんが言う通り貴族家が、身元が確かで即戦力になる料理人を臨時で雇いたいって言っても、そういう人を見つけるのってかなり難しい。だから、親族や知り合いの貴族家から応援を呼ぶ形になることが多いんだけど、社交シーズンなんかはほぼ料理人の奪い合いになるんだって。
そりゃそうだよね、どこの誰だかわからない臨時の使用人を厨房に入れてお料理の手伝いをさせるって……この日常的に毒の心配をしてる貴族社会では、どう考えてもハードルが高い。
だから。
「もし、ゲルトルード商会で身元の確実な専門の料理人を各貴族家に派遣するという事業を始めれば、それなりに需要が見込めるであろうと、私も考えておりました」
ええ、やっぱり我が商会の有能な番頭さんは、その辺りも考えてくれていたようです。
ヒューバルトさんも言ってくれる。
「いずれにせよ、今後ゲルトルード商会において、料理人が非常に価値のある『商品』になることは間違いありません」
一瞬だけ、ヒューバルトさんの視線が揺れた。
でもすぐに、はっきりと言ってくれた。
「公爵閣下も何かお考えがおありなのだと思いますが、いまから料理人を育成していくことは決して無駄にはならないと存じます」
うん、ヒューバルトさんは昨日、あの場にいたからね……私が、これから自分で爵位を名乗るために何をどうしようと考えているのか、公爵さまに伝えたその場に。
いまここにいるメンバーのうち、私がこれから自分で爵位を名乗ると決めたことを知っているのは、そのヒューバルトさんとスヴェイ、それにナリッサの3人。みんな、私が自分で話すまでは口外しないって約束してくれてるので、いまこの場でも誰もそのことをおくびにも出さずにいてくれてる。
でも、エグムンドさんにだけは早めに伝えておいたほうがよさそうだわ。商会の事業も直接絡んでくるし、エグムンドさんなら……私が自分で爵位を名乗ることを応援してくれると思うんだ。
だってエグムンドさんは、あのゲス野郎のことをよく知っているのに……おそらく、っていうかもう間違いなく直接の被害者だろうに、こうして私の力になってくれてるほどなんだから。
それに……エグムンドさん自身が、固有魔力がなかったなんて理由で伯爵家を廃嫡されてる。それはもう、爵位を継ぐっていうことに関してエグムンドさんにはそうとう複雑な感情があるはず。
それでも、エグムンドさんは自ら平民として生きることを決め、平民の女性と結婚して、貴族位を正式に国に返上したって聞いてる。その奥さんやお子さんにプリンを食べさせてやりたいって言いだすほどに、家族仲もよさそうだし。
その暮らしにたどり着くまでに、エグムンドさんは何をどれだけ乗り越えてきたんだろうか。
エグムンドさんにとっては、きっと思い出したくない話のほうが多いだろうけど……それでもできればそういう話を聞かせてほしい。そこには、私が自分で爵位を継ぐために、これから誰と、そして何と戦う必要があるのか、参考になることがいっぱいあると思うから。
これに関しては、近いうちに私が商会店舗へ行ってエグムンドさんとちゃんと話そう。
「では、新たな料理人見習は、できるだけ早めに我が家に連れてきてちょうだい」
私もはっきりと言った。「すでにマルゴとモリスには、いまわたくしが話した内容を了承してもらっています。ただし、もし我が家で見習をしてもらっている間に、料理人としてやっていけそうにないとマルゴが判断した場合は契約を解除してもらうこともあり得るので、その点は理解しておいてもらいたいの」
「承知いたしました」
エグムンドさんもヒューバルトさんもうなずいてくれた。
そこで私は、ちょっと自分の表情をゆるめちゃう。
「でもね、よっぽどのことがない限りは大丈夫だと思うわ。料理の腕前で考えたとき、貴族家の厨房に入ることが難しいような人であっても、ほかの職場も考えているから」
「ほかの職場、でございますか?」
にんまりと笑っちゃった私に、エグムンドさんもヒューバルトさんも眉を上げちゃってる。
「ええ、以前お話ししたでしょう? マルゴの息子たちに、ホットドッグの販売を許可したっていうお話を」
ようやく、ホットドッグのお店を出す話の回収がっ(;^ω^)





