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没落伯爵令嬢は家族を養いたい  作者: ミコタにう


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343.利用させていただきましょう

本日も1話更新でーす!

 と、いうわけで、ノランが書類をいっぱい出してきた。

「ああ、これはもう必要な書類はすべてそろっていますね」

 すぐにスヴェイが内容を確認して教えてくれる。

「ノランさんの出生証明書と……ノランさんの父君である、先代レットローク伯爵家ご当主の署名もここに間違いなく入っていますし、これらの書類を国の担当機関に提出するだけで、ノランさんはカロリッツの家名を立てることができるようになっています」


「そうなのですか」

 ノランとヨアンナは顔を見合わせている。

「お恥ずかしながら、ミリアーナ大奥さまから私に家名を立てるようにとお話はあったのですが、その、私たちは家名を立てることの意味といいますか、いまスヴェイさんが教えてくださったような必要性についてよくわかっていなかったのです」

「では、いまここでこのお話をされて、本当によかったですね」

 恐縮するノランに、スヴェイが笑顔で答えてあげちゃう。


「本当によかったわ。スヴェイ、わたくしからもお礼を言います」

 私も思わずそう言ったんだけど、スヴェイはやっぱり笑顔でさわやかに答えてくれる。

「とんでもないことです。ノランさんが優れた庭師であることは、私の目から見ても間違いないですし、そのノランさんに貴族の肩書がつくのは、ご当家にとっても非常にいいことだと思いますので」


 おお、やっぱりスヴェイから見ても、ノランって優秀な庭師なんだ?

 ノラン本人は、相変わらずとっても恐縮してるんだけど。

「そのようにおっしゃっていただけるのは、本当にありがたいのですが……それでも、貴族の身分で庭師というのは……」

「庭師の中でも庭師頭であれば、上級使用人です。腕のよい庭師頭は上位貴族家の領主館で当然優遇されていますし、貴族家出身の庭師もいないことはありません。ノランさんのお祖父さんも、いわばそういうお立場だったのではないですか?」


 やっぱりスヴェイは頼りになるわー。

 そういうことを、さらっと教えてくれるんだもの。

 恐縮してたノランも、ちょっとホッとしたように答えてるし。


「はい、祖父はレットローク領の領主館の庭師頭でした。その、腕はよかったようで、近隣の他領からも庭師が見習にやってくるほどでした」

「そのお祖父さんから薫陶くんとうを受けたわけですよね、ノランさんは」

「薫陶といいますか、いずれ庭師頭になるようにと、図面の引き方などもすべて祖父から教えてもらいました」


「図面の引き方って……ノランはお庭の設計もできるの?」

 おお、ちょっとそこんとこ詳しく! とばかりに、私も口を開いちゃった。

「ええまあ、一通り教育は受けておりますので、設計もできます」

 って、やっぱり恐縮しながらノランが答えてくれたんだけど、ヨアンナが横から嬉しそうに教えてくれる。

「ノランは花壇の設計がとても上手です。季節の花を植え替えて、年中花を絶やさないお庭を造ることができます。もちろんお庭全体の設計もできますし、お庭の四阿あずまやですとか、池の橋といった建造物の図面も引けます」


「それはすてきね!」

 お母さまも嬉しそうに言い出しちゃった。「我が家の新居はお庭が狭くて本当に申し訳ないのだけれど、それでもきれいな花壇を造ってもらえると嬉しいわ」

「それはもちろん、尽力させていただきます」

 ノランの顔にもようやくちょっと、笑顔が浮かんだ。


 しかしすごいな、ノラン。庭も、庭の建造物の設計もできるって。

 それに、さっきスヴェイがさらっと言った『薫陶』なんて言葉も、ちゃんと理解してる。貴族としての教育は受けてないって言ってたけど……貴族なのにろくに掛け算もできないような連中とは比べものにならない、立派な教養が身についてるってことだよね。

 まあ、スヴェイもそういう意図をもってノランに『薫陶』なんて言葉を使ったんだろうから……スヴェイはスヴェイですごいなと思っちゃう。

 でもこれはもう、ノランにまかせちゃって大丈夫だわ。


 そこで私も、お母さまに相談といった形で言い出してみた。

「お母さま、わたくしたちが引越した後、このタウンハウスは陛下がお買い上げくださって、異国からのお客さまやその随従の方がたの迎賓館にされると、公爵さまがおっしゃっていたでしょう」

「ええ、そのようにおっしゃっていたわね」

「わたくし、その迎賓館に、ゲルトルード商会から人を入れてもらおうと思っているのです」


 うなずいてくれるお母さまにうなずき返し、私はノランに顔を向けた。

「ノラン、もしよければ、迎賓館に改装されてもこのまま、このタウンハウスのお庭を担当してくれないかしら?」

 ノランの目が丸くなってる。

「実際にこのタウンハウスが改装され迎賓館として使用されるのは、まだかなり先の話になると思うのだけれど……その改装の段階から、お庭の設計についてノランにも庭師頭として参加してもらえればと思うのよ」

 ノランの目が、さらに丸くなった。


 ええもう、このさいだから、陛下がお考えになっているっていう迎賓館も最大限利用させていただきます。ガンガン商会の事業を拡げて、国に対する経済的貢献をしようじゃないの。それで私の発言権を上げていっちゃうんだ。

 具体的には、ゲルトルード商会から迎賓館に料理人を派遣し、美味しいお料理をがっつり提供させていただきます。なんてったって、ウチのいちばんの強みはソレだもん。だから料理人の育成が急務なんだけどね。


 そしてできれば、お給仕係や全体を仕切るマネージャーなんかも、ウチの商会から派遣したい。

 つまり、オーナーは国王陛下だけど、実質的な経営はゲルトルード商会でやりたいの。それを思うと、もしノランがお庭の管理をやってくれるならいうことナシだよ。お客さまを楽しませる、四季折々の美しい花壇やお庭をぜひ造ってほしい!


「ノランが承諾してくれるなら、我が家の使用人ではなく、ゲルトルード商会の商会員になってもらいたいの。ゲルトルード商会から、お庭の管理をする庭師頭として迎賓館に派遣する、という形になるわね」

 私は思いっきり笑顔で言っちゃう。「我が家の新居は、本当に小さなお庭しかないから……腕のいい庭師であるノランには、もっと大きな仕事をしてもらいたいわ。もちろん、ヨアンナには引き続き我が家の侍女をしてもらいたいので、我が家に住み込みのままノランが商会員になってくれればと思うのだけれど、どうかしら?」


「それは……あの、本当にそのような……?」

 目を丸くしたまま、ノランがなんかもう呆然としてるんだけど。そんなにびっくりするようなことだったのかな?

 同じく目を丸くしてるヨアンナと顔を見合わせ、ノランはうなずいてくれた。

「あの、なんと申しますか、私にとっては願ってもないお話です」


「じゃあ、引き受けてくれるのね!」

 有能新商会員ゲットだぜ、とばかりに私は笑顔になっちゃった。

 ノランはなんだかまだ呆然とした顔をしてるんだけど、ヨアンナが笑顔になった。

「ありがとうございます、ゲルトルードお嬢さま。ノランは本当に庭師の仕事が好きで、また得意なのです。国王陛下の迎賓館のお庭を担当させていただけるなど……どれほど感謝申し上げればいいのかわからないほどです」


「それはよかったわ」

 深々と頭を下げるヨアンナとノランに、私だけじゃなくお母さまも嬉しそうに言ってくれる。

「このタウンハウスのお庭はとても広いですもの。ノランの思う通りに設計してもらって、みなさまに楽しんでいただけるようにしてもらえば」

「本当にその通りです、お母さま。わたくしも大助かりです」

 なんかもう、お母さまと一緒にキャッキャしちゃったわ。


「それでは、迎賓館のお話はまだ先のことになりそうだし、いまのうちに新居のお庭の相談をさせてもらっていいかしら?」

 お母さまが言い出してくれて、もちろん私に否はない。

 そしてノランもすぐにうなずいてくれた。

「はい、もちろんです、コーデリア奥さま」


 気が付いたらもう、ヨーゼフが新居の図面を用意してくれてた。ホンットに我が家の使用人はみんな優秀過ぎる。

「ルーディはこの図面を見るのは初めてだったわよね? ノランも見てちょうだい。メルが紹介してくれた業者が作ってくれた図面なの。まだ細かいところはこれから詰めていくのだけれど……」

 私はいそいそとその図面をのぞき込んじゃう。


「ここが厨房よ。ルーディが言った通り、朝食室との間の壁に大きな窓を付けてもらって……」

 お母さまの説明に、ノランも身を乗り出して図面をのぞき込んできた。四阿や池の橋なんてモノまで設計できるんだから、建物の図面を見ればノランにはいろんなことがわかるんだろう。すぐに目を見開いた。

「これは……壁に窓を? あの、厨房と朝食室の間に? いったいどのようにお使いで……」


「この窓のところに棚をつけておいて、そこからお料理を出してもらうつもりなの。そうすればいちいちワゴンで運ぶ必要がないでしょう。できたてのお料理を、そのまま出してもらえるわ」

「それに、わたくしやリーナも、厨房でルーディが美味しいものを作ってくれているそのようすをこの窓から見せてもらえるのよ」

 お母さまがとっても嬉しそうに笑う。「しかも、その場ですぐにお味見させてもらえるの」


「それはなんともすばらしいですね」

 私の斜め後ろに立ってたスヴェイが言った。「私もその図面を見せていただいてもよろしいでしょうか?」

「もちろんよ、何か気付いたことがあったら教えてちょうだい」


 それから私たちは、図面を見ながら意見を言い合った。

 お庭や玄関回りのことについては、もちろんノランの意見がすごく参考になる。そして室内の設備なんかについては、さすがスヴェイは貴族家の邸宅をよく知ってるから具体的な意見を言ってくれる。ホンットに頼りになるわー。


 うん、ちゃんとお引越しの準備も進んでるよ!

 お引越しの目途が立ったら、いま住んでるこのタウンハウスの改装について、公爵さまとご相談させてもらわなきゃ。ゲルトルード商会から人を入れさせてもらうことについても、具体的にね。すでにノランっていう人員も確保できたし。


 まあ、もしかしたら陛下とも直接ご相談なんてこともあるかもしれないけど……ええもう、腹は括ったんだ、ガンガン行くためにはもういちいちビビらない!

 相手が誰であっても、私はしっかり言うことは言うからね!


昨日発売になった6巻、実に多くの電子書店さんでラノベランキングの1位をいただいております!

みなさま、本当に本当にありがとうございます!(´;ω;`)ブワッ

頑張って最後まで書きます! ルーディちゃんも周りのみんなも、絶対幸せになるから!

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― 新着の感想 ―
おすすめされたコミカライズ作品をきっかけに、こちらを読み始めてやっと最新話まで辿り着きました!!原作はさすが面白さに深みがあってどんどん読み進めてしまいました。 絶対幸せになるストーリーが最後まで読め…
新刊読み終わって続き辺りから読み返して 最新話までたどり着いてしまった また1巻から読み返したいけど 積ん読消化が追いつかないww
この世界嫡女(家持)でも女性の立場がめちゃ低いとあった気がしますがそれでも某大奥様かなりお強い(^_^;) 家名を名乗ること許可する権限はあるものなのか、浮気を盾に脅し…げふん、交渉したのかな? 直接…
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