342.そんな事情があったなんて
本日1話更新です。
明日も更新……は、ちょっとビミョーです(;^ω^)
更新がなかったらそういうことだと思ってください……。
「えっと、あの……つまり、トマスにはレットローク伯爵家の爵位継承権がある、ってこと?」
いやもう、ノランとヨアンナの話す内容に、私は本気でぽかーんと口を開けちゃったわよ。
お母さまも目を丸くして口を開けちゃってるし。
「さようにございます。実は私は、現在のレットローク伯爵家当主の異母弟、なのです」
ノランの言葉に、またもや私もお母さまも『ぽかーん』になっちゃうわよ。
「私の母親は平民であるため、私自身は特に魔力量が多いということもなく、固有魔力もありません。貴族としての教育も受けておりません。けれど、その……先代未亡人であったミリアーナ大奥さまのご意向で、私はレットローク伯爵家の一族であるカロリッツを、生涯名乗ることを許されております」
すっごく恐縮しながらノランが説明してくれるんだけど……いや、ちょっとあまりにも想定外すぎて私の頭がついてこない。
だって、あの、なんていうか……ノランについては、ヨアンナの夫で庭師、っていうことしか聞いてなかったわけだし?
それがまさか、レットローク伯爵家当主の異母弟? 一族であるカロリッツを名乗ることを生涯許されてるって……ええっと、あの、もしかしてノランは貴族だったの?
「先代未亡人であられたミリアーナ夫人は、確か爵位持ち娘でいらっしゃいましたよね?」
口を開いたのはスヴェイだった。「それで、ご自分がお産みになったわけではないノランさんに家名を許すというのは、かなりめずらしいお話ではないですか?」
そ、それは……そうだよね?
いや、だって、爵位持ち娘だったミリアーナ大奥さまのところに婿入りしてきた先代当主が、平民の女性に産ませた子どもがノランってことなんだよね?
つまり、ノランは一族であるカロリッツ家の血筋じゃない……まるであの公爵さまのお生まれと同じパターンっていうか……それでなんで、大奥さまは? ご自分が産んだ跡継ぎの息子はすでにいるっていったって、やっぱそこはそんな、はいそうですかって受け入れられるようなもんじゃないんじゃないの?
なんかもう頭の中でぐーるぐるしちゃった私に、ノランがまた恐縮しながら言い出した。
「はい、あの……実は、私の祖父もまた、先々代のレットローク伯爵家当主が平民の女性に産ませた子でして……つまり私の祖父は、ミリアーナ大奥さまの異母兄だったのです」
なんじゃそりゃー?
私は完全に目が点になっちゃったわよ。
「祖父はカロリッツを名乗ることを許されてはおらず、レットローク伯爵家の庭師としてずっと仕えておりました。そして、祖父の娘、つまり私の母親はミリアーナ大奥さまの侍女として仕えていたのですが……」
えーと、つまり、その大奥さまの侍女、それも大奥さまにとっては異母兄の娘、つまり姪にあたる侍女に手をつけたんですかい、先代のご当主は。
最低だな!
でもそれで……大奥さまにしてみれば、ノランは自分の姪が産んだ子なんだ。いわゆる姪孫ってヤツだ。そりゃもう、自分の夫にどれだけ腹が立っても、生まれたノランをあだやおろそかにはしたくないよね。
「だけど、そういう状況で……当代のレットローク伯爵家のご当主は、ヨアンナに執着されていたというの?」
お母さまが困惑顔で言い出して、ノランもヨアンナも正直に顔をしかめちゃった。
「その通りです、コーデリア奥さま」
ヨアンナがうんざりと答える。「本当に信じられない話なのですが……ご自身の異母弟であるノランの妻である私に対して、そのような執着をされるというのは本当に……」
いやもう、本気で頭抱えちゃうわ、お母さまも私も。
「ミリアーナ大奥さまは、ご自身のご夫君にもご子息にも、その、ほとほと愛想が尽きたといったごようすで……」
ノランの説明にも、私たちは思いっきりうなずいちゃいそうになっちゃう。
そりゃそうよ、ホンットになんなの、その見境のなさって。
ヨアンナも説明してくれる。
「現在のご当主にはご令嬢が3人、それにご令息がお1人いらっしゃいますので、実際にトマスが爵位を継承する可能性はほとんどないと思います。それでもミリアーナ大奥さまは、ご自分のご子息である現在のご当主に対する戒めのようなものとして、ノランとトマスに家名と継承権を与えてくださったのだと思います」
なるほどねえ……そりゃ大奥さまにしてみれば、ちょっとお灸をすえてやりたくもなるってもんでしょう。
ノランもヨアンナも、本当に申し訳なさげに言ってきた。
「私どもにこのような事情があることは、最初からゲルトルードお嬢さま、コーデリア奥さまにお話しすべきではあったのですが……その、レットローク伯爵家ご当主のヨアンナに対する執着がどうにも強く、その上トマスのこともこころよく思っておられないものですから……」
「ご当家にご迷惑をおかけすることになるのではと……その、同格の伯爵家とはいえ、未亡人とご令嬢だけのお家でいらっしゃいますので。もしご迷惑をおかけしてしまった場合は、すぐに私たちを解雇していただこうと思っていました」
そこでスヴェイが、にこやかに合いの手を入れてくれちゃう。
「ところが、ご当家のゲルトルードお嬢さまには、エクシュタイン公爵閣下が後見人としてついてくださっていた、と。さすがに伯爵家の当主であろうが、公爵家を後見にお持ちのゲルトルードお嬢さまに下手な手出しはできないでしょうからね」
「さようにございます」
ノランとヨアンナが、ホッとしたように顔を見合わせて言う。
「しかも、エクシュタイン公爵家だけでなく、ガルシュタット公爵家やホーフェンベルツ侯爵家ともこれほど親しくしていらっしゃるわけですから」
はいはい、私にはもう四公家と王家が、がっつりバックについてくださることが決まってますからね。ええ、わたくし、クズなレットローク伯爵家ご当主がおいそれとちょっかいをかけられるような存在ではなくなっちゃいましたのよ、ほほほほほほ。
なんてつい、私は心の中で思っちゃったけどね。なんかもう自分でも、すっかり毒されちゃった感満載だわ。
でももし、公爵さまの後見がない状態でそんなクズな伯爵がいちゃもんつけてきてたら、私がヨアンナたちを守り切れたか怪しかったと正直に思うもんねえ。
だいたい、そんな見境のない野郎なんて、我が家のお母さまに対してどんな下心を持つかわかったもんじゃないし。ヨアンナも、その辺を心配してくれてたんだろうな。
「それで、あの、たいへん厚かましいお願いであることは、重々承知しているのですが」
ノランとヨアンナが、身を縮めながら言い出した。
「もし、トマスが貴族として生きたいと自分で決めた場合は、その……ご当家にご助力をお願いすることはできますでしょうか?」
「あら、わたくしがトマスの後見人になればいい、っていうこと?」
なんだそんなこと、とばかりに私は軽く言ったんだけど、ノランもヨアンナも恐縮しまくっちゃってる。
「後見人などと、そんな恐れ多いことは望んでおりません」
「もしトマスが貴族として王都中央学院に通いたいと言い出したとき、それを許していただけるのであればそれでもう」
いや、そんなのは『助力』じゃないでしょう。ただの『許可』だよ。てか、ノランがレットローク伯爵家の家名を持ってるんだから、他家の私の許可なんていらないんじゃないの?
私は目をぱちくりさせちゃったんだけど、そこでまたスヴェイが言ってきた。
「申し訳ありません、少々確認させていただいてよろしいですか?」
私がうなずいたので、スヴェイは言葉を続ける。
「それでは、トマスは貴族として生きていけるだけの魔力を発現するだろうと、貴方がたご夫婦は考えておられるのですね?」
「はい、私自身は四代目ですので平民ですが、魔力量も多く固有魔力もありますので」
「なるほど、そういうことですか」
母親であるヨアンナの答えに、スヴェイが納得顔でうなずく。
「それでしたら、ノランさんはカロリッツを名乗ることが許されているとのことですし、分家として家名を立てておかれたほうがいいと思います。固有魔力を持つ者が平民として暮らすのは、それはそれでたいへんですから」
「そうなの?」
私は思わずスヴェイに問いかけちゃった。だって、トマスは男の子だよ?
「それは確かに、ヨアンナは平民でありながら魔力量が多く固有魔力もあることが、レットローク伯爵家のご当主に執着された理由でもあるとは聞いたけれど……男子も何か問題があるの?」
「男子も、後ろ盾のない平民であれば、よからぬ考えを持つ者にその魔力を悪用されてしまう可能性が高いのですよ」
スヴェイが教えてくれる。「それに、きちんとした教育を受けていないと、自分の固有魔力の使い方がよくわからないままになることが多いのです。王都中央学院では自身の固有魔力の使い方を学べますので、固有魔力が顕現する可能性が高いのであれば、最初から中央学院への進学を考えておいたほうがいいと思います」
ああ、そういうメリットもあるんだ、中央学院へ通うのって。
そうだよね、1年生の冬学期から選択授業がぐっと増えるのも、自分の固有魔力をより生かせる授業を選べるように、っていう配慮からだって説明を受けたし。
スヴェイはその顔をヨアンナに向けて、さらに言った。
「もしトマスの固有魔力が、母親であるヨアンナさんの固有魔力と似たものであれば、ヨアンナさんがその使い方などを教えてあげられると思いますが……系統は同じであってもかなり種類の違う固有魔力が出てくることも多いですからね、特に男子の場合は」
そういうものなのかー。
いや、ウチは、っていうか私は、お母さまと同じ身体系固有魔力とはいえ、だーいぶ種類が違うのよねえ。ホントになんでこうなった? って思っちゃうくらい。
それって男子だと、そういう『違う』傾向が強いのか……。
ヨアンナもうなずいてる。
「はい、私の場合は、母は魔力量も少なく固有魔力もなかったのですが、母方の祖母が……名誉貴族であった祖母が、私とほぼ同じ固有魔力を持っていましたので、基本的な使い方は祖母に教えてもらいました。ただ、魔力量は私のほうがかなり多かったですので……」
「そうなのですね。私は、母がいまだに、いったい何がどうなってこんな固有魔力になったの? と言うくらい、かなり種類の違う固有魔力です。学院で使い方を学ばなければ、自分でもどう使っていいのかわからないままだったと思いますよ」
って、スヴェイは笑ってるんだけど。
いやでも、スヴェイがいてくれて本当によかった。
だって私じゃあ……それにお母さまだって、こんな具体的なアドバイスなんて絶対してあげられなかったと思うもん。
そう思いながら、私はちらっとお母さまを見ちゃったんだけど、お母さまもやっぱりなんかホッとしたような顔をしてる。
そしてお母さまが、明るい声で言い出した。
「それだったら、ぜひノランの家名を立てましょう」
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