340.お茶会をしたいです
本日も1話更新です。
お母さまに促されたヨーゼフが、またもや笑顔を隠しきれないようすで私に教えてくれた。
「はい、昨日、ヴェルツェ子爵家のドロテアさまとドラガンさまが、ご当家をご訪問くださいまして」
テアちゃんとガンくん、我が家まで来てくれたの?
目を見張っちゃった私に、ヨーゼフが続ける。
「お2人は突然のご訪問の非礼をお詫びされ、お見舞いのお手紙などもいまは受け取っておられないと思いますので口頭の伝言だけでもお願いできませんか、と……それはもう、真摯なごようすでおっしゃってくださいました」
お見舞いのお手紙を受け取っておられないって……そうか、お見舞いにかこつけてお茶会のお誘いやらなんやらを押し付けてくる人たちがいることを見こして、公爵さまがお見舞いのお手紙も何も受け取らないよう指示してくれてたんだわ。
そのことを、テアちゃんとガンくんはちゃんとわかった上で、わざわざ我が家まで来てくれたんだ……。
「それで、お2人はどのようなご伝言を?」
問いかけちゃった私に、ヨーゼフが笑顔で教えてくれた。
「ゲルトルードお嬢さまがお休みされている間の授業のノートはすべてとってあります、とのことです。それに、乗馬の授業もお休みされたぶんはドロテアさまとご一緒に補講を受けられるよう、担当の先生にお願いしてありますとのことです」
テアちゃーん!
そんな、乗馬の授業まで!
授業のノートは見せてもらえるだろうと思ってたけど……どうしよう、嬉し過ぎる。
もうこれだけでも本当に嬉しいのに、ヨーゼフはさらに言う。
「それからドロテアさまは、ゲルトルードさまがいらっしゃらない学院は本当につまらないです、ゲルトルードさまが1日も早くよくなられるようお祈りしています、とおっしゃってくださいました。そしてドラガンさまからは、早く学院に戻ってきてほしいけれど決して無理はしないようにとお伝えくださいと、おっしゃっていただきました」
泣く……泣いちゃうよ、これ。
もう、どうしてこんなにいい子なの、テアちゃんもガンくんも。
こんなお見舞いと励ましの言葉を、門前払いになる可能性もあると承知の上で、わざわざ我が家までやってきて伝えてくれるなんて……。
「よかったわね、ルーディ。わたくしも本当に嬉しいわ。貴女に、こんなに心強いお友だちがいるなんて」
「はい、あ、えっと、あの……」
お母さまが声をかけてくれても、私はなんかホントに喉が詰まっちゃって、ちゃんと答えられない。だって、私はぼっち街道まっしぐらだったのよ、冬学期が始まってもその路線が変更されるなんてこれぽっちも思ってなくて。
それなのに、こんな、本当に嬉しい言葉をかけてくれるお友だちができちゃったんだよ?
なんだか、公爵さままで心なしかホッとしてくれてるような気がする。デフォルト状態で眉間にシワは寄ってるけど。
これはもう、思い切って言っちゃってもいいかもしれない。
「公爵さま、あの、お願いがあります」
「なんだろうか?」
問い返してくれる公爵さまに、私はまっすぐ向き合って言った。
「いま、お聞きいただいたように、ヴェルツェ子爵家のご姉弟は、本当にわたくしのことを案じてくれている友人です。それに、わたくしが学院を休んでいる間の学業についても、手助けしてもらえます。ですから、そのことへのお礼を含め、ヴェルツェ子爵家のお2人だけをお招きするお茶会を、させていただけないでしょうか」
公爵さまの眉がちょっと上がり、すぐにその眉が真ん中に寄った。
私はなんとか公爵さまにわかってもらおうと、言葉を続ける。
「あの、本当に気軽な、学生同士のお茶会でいいのです。学院の個室棟にあるお茶会室を借りて、お昼休みの間にちょっとこう、美味しいものを一緒に食べるような……ヴェルツェ子爵家のご姉弟なら、スヴェイもナリッサも面識がありますのでこの2人にお給仕してもらえば大丈夫ですし」
男子のガンくんがいるから、私の個室ではなく、個室棟のお茶会室を借りてのお茶会になる。お給仕については、スヴェイがいてくれることで、ナリッサの負担もぐっと減らせる。スヴェイならお茶会の正式なマナーだってちゃんとわかっているもんね。
それに、冬学期が始まってからずっと学院内であの2人と一緒に行動してるわけだから、あの2人だけを特別扱いにしても問題ないと思うのよ。ずっと同じ授業を受けてる同級生で、何より隣接領地のご令嬢とご子息なんだし、公爵さまから特別にお茶会の許可が下りたってことにしてもらえれば。
それはもう、これまでのことへのお礼を兼ねてあのお2人に美味しいものを食べてもらいたいっていうのは正直にある。っていうか、私がテアちゃんガンくんと一緒に美味しくて楽しい時間を過ごしたいっていう気持ちはすごくある。
でも同時に、これは私の計画の第一歩でもあるの。
それについても、私はさっき公爵邸で決意表明していっぱい話してきたんだから、公爵さまは私の意図を理解してくれるはず。
だけど、公爵さまは眉間にシワを寄せたまま言った。
「ゲルトルード嬢、それについては少々時間をもらいたい。近日中に返答するので、しばし待ってくれるだろうか」
「もちろんです。どうぞよろしくお願い申し上げます」
って、私は素直に頭を下げたんだけど。
うーん、公爵さまがなんだか慎重すぎる気がする……なんだろう、公爵邸でお話した私の決意表明についても、すっごく真剣に考えてくれてるのは伝わってくるんだけどなあ。
それでも、テアちゃんとガンくんの伝言のおかげもあって、上手い具合に話が逸れてくれた。
これなら収納魔道具のことやゴディアスのことも、お母さまに変に疑問を持たれずにやり過ごせそうだわ。
「それではゲルトルード嬢、いま私も聞いたように、学業のことは学友が手助けしてくれるとのことであるし、決して無理はせぬように」
「はい、ありがとうございます」
公爵さまが腰を上げられたので、私たちはそろって玄関までお見送りよ。
玄関では、お母さまが再度深々と礼をした。
「エクシュタイン公爵さま、このたびのことは本当に何から何までありがとうございました」
「ありがとうございました」
リーナも一緒にカーテシーをしてるのがまた、本当にかわいくてかわいくてかわい(以下略)。
「わたくしも改めてお礼申し上げます。本当にありがとうございます、公爵さま」
もちろん私もお礼の言葉を口にした。
「いや、私はゲルトルード嬢の後見人なのだ。気にすることはない。困ったことがあればいつでも相談してくれればよい。それにコーデリアどのも、私や、私の姉のレオポルディーネになんでも相談してもらって構わぬ」
「重ね重ねありがとうございます、公爵さま」
ということで、公爵さまはお帰りになりました。
私はもう素早く話題を切り替えちゃう。
「ではお母さま、リーナ、厨房へまいりましょう!」
ええもう、厨房では大歓迎を受けちゃったわよ。
なんかもうマルゴは涙ぐんじゃってるし。
「本当にようございました、ゲルトルードお嬢さま。お元気になられまして」
「心配をかけてごめんなさい。どうやら自分でも気づかないうちに、疲れがたまってしまっていたようなの」
うん、ウソは言ってないよ、実際疲れはたまってたみたいだから。
「それはもう、お嬢さまは本当に頑張っておられましたから」
マルゴの言葉にほかのみんなも、うんうんってうなずいてくれちゃってる。
「でもマルゴが作ってくれた、美味しくて滋養のあるお料理のおかげで元気になったのよ。本当にありがとう」
「とんでもないことでございます」
「それでね、マルゴ」
私はここでもできるだけさくっと、ソレを話題に出した。
「我が家の収納魔道具が戻ってきたの。それも、時を止められる収納魔道具よ! これがあれば、作りたてのお料理をいっぱい保存しておけるわ!」
「それはようございました!」
マルゴも大喜びしてくれる。「あの栗拾いのお茶会の準備のおりに、時を止める収納魔道具の便利さは本当によくわかりましたですから」
「そうなの、本当に便利なの」
私は収納魔道具を取り出し、マルゴに示した。
「こちらの時を止められる収納魔道具は、ふだんわたくしが持ち歩くことになると思うけれど、マルゴも使用者登録しておくわ。また手が空いたときにでも作ってくれたお料理を、ここに収納しておいてもらえるととっても助かります」
「かしこまりましてございます。たんと美味しいものをお作りして、どんどん収納してまいりますですよ!」
とういうことで、さくっとマルゴも登録しちゃう。
でもホント、この時を止める収納魔道具があれば、いつでもどこでもマルゴの美味しいお料理をいちばん美味しい状態で取り出して食べられるんだもんね。こんなにありがたいことはないわ。
ええ、もうそういう美味しくて楽しい記憶でどんどん上書きしていくの!
そして私たちは、朝食室で夕食になった。
公爵さまのお宅でいろいろ食べてきたけどね、その後いっぱいお話しして時間が経ってるのよ、それにそもそもアレはおやつなのでご飯は別。
そりゃあね、こんなに久々にお母さまとリーナと一緒にお食事っていうだけで、もう胸いっぱいになっちゃうんだけど、もちろんしっかり食べましたとも。
食事の後は、私はもうベッドに直行させてもらった。お風呂も公爵さまのところで済ませてきたしね。着替えてそのままベッドにドボンよ。
それでね、リーナがちょっともじもじしながら言い出したの。
ルーディお姉さまのお顔が見えるように、ベッドの天蓋のカーテンを開けておいてもらえませんか、って。
あーーーーもう、私の妹がかわいすぎる!
リーナもお風呂をすませてベッドに入り、並んだベッドのお互いの顔が見えるほうのカーテンを開けたままのおやすみなさい、よ。
ベッドに入ってもリーナはにこにこしてたんだけど、でもすぐに寝息を立て始めた。
やっぱりずっと不安を感じて緊張していて、リーナはあまり眠れていなかったんじゃないだろうか……ようやく私が帰宅したことで安心したんだろうな。
そう思いながら……私もやっぱり緊張から解放されたことで、すとんと眠りに落ちていった。
次の更新も、できるだけ早くできるよう頑張ります~~~(;^ω^)