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339.頑張れ私

本日1話更新です。

「えっ、ゴディアスが? やはり、ゴディアスが持ち去っていたのね?」

 アメジストの目を見開いたお母さまに、私はそのまま話を続ける。

「そうなのです、ゴディアスにも事情があって……彼の名誉に関わる事情らしくて」

 言いながら、私はナリッサがすかさず差し出してくれた収納魔道具2つをお母さまに示す。

「こちらが時を止める収納魔道具、こちらが時を止めない収納魔道具です。中には我が家の魔剣も入っていました。これがわが家に戻ってきたことで、公爵さまからお借りしていた、公爵家の収納魔道具はすでにお返ししました。でもこれからは、できたての美味しいお料理や新鮮な食材を、この我が家の時を止める収納魔道具にたっぷり保存しておけますよ!」


 目を見開いているお母さまが口を開く前に、リーナがまたこそっと私に訊いてきた。

「ルーディお姉さま、そちらの収納魔道具に入れておけば、お料理はずっとできたてのままなのですか?」

「そうよ、時を止めてしまうのだもの、お料理はずっとできたてのままよ。それも、たくさんこの中に入れておけるの」

 笑顔で答えた私にリーナが目を丸くして、それからすぐ興奮したように言った。

「すごいです!」


 私はもう、どんどん話を進めてっちゃう。

「でもね、とっても残念なことなのだけれど、リーナはまだ魔力が発現していないので、この収納魔道具を使うことができないの」

「そうなのですか?」

「ええ、魔力が発現すれば、リーナも自由にこの収納魔道具が使えるようになるわよ」

 リーナがしょんぼりしちゃったけど、私はそのまま笑顔をお母さまに向ける。

「お母さまにはすぐ使っていただけるよう、わたくしがいま使用者登録をいたしますね。登録のしかたは公爵さまに教えていただきました。こちらの収納魔道具に手を置いていただけますか?」


「あら、ええと、こうかしら?」

 お母さまはどこか戸惑っているような表情だったけれど、それでもすぐにテーブルに置かれた収納魔道具の上に片手を置いてくれた。

「はい、ではいま登録をしますね」

 私はお母さまの手の上に自分の手を重ね、教えてもらった通り『お母さまの使用を許可しちゃうよー』と思いながら魔力を通した。


「はい、これで登録できました。こちらの時を止める収納魔道具にも登録いたしますね」

 もうさくさくと、とにかく笑顔で私は押し切っちゃう。

 同じように収納魔道具の上でお母さまの手と私の手を重ね、魔力を通す。

「ちょっと不思議な感じでしょう?」

 やっぱり笑顔で私は言った。「手から自分の魔力の小さなかたまりが、すぽんと吸い取られるような感じで」


「ええ、本当に不思議ね。これでわたくしも、この収納魔道具を使えるようになったのね?」

 お母さまも自分の手をしげしげと見ちゃってる。

「そうです。試しに使ってみてください」

 私が使い方を説明すると、お母さまもテーブルの上にあったものをいくつか、収納したり出したりしてみた。

「これも本当に不思議。入れたときの状態、そのままでちゃんと出てくるのね」

「ええ、本当に不思議です。でも、とっても便利ですよね」


 そして私は、時を止めない収納魔道具をお母さまに差し出す。

「こちらはお母さまにお渡ししておきます。新居にお持ちになりたい家具などの荷物を、こちらに収納していただければ」

「それは本当に助かるわ。新居にはこの収納魔道具を持っていくだけで済むのですものね」

「はい、どんどん入れてしまって大丈夫です」

 お母さまの顔に笑みが浮かんで、私は思わず安堵の息を吐きそうになっちゃった。

 でも、まだここで気を緩めることはできない。


「お母さまが新居への荷物をまとめられるとき、ヨーゼフとヨアンナももちろんお手伝いをしてくれるでしょう? 貴方たちも登録しておきましょう」

「よろしいのですか?」

 ヨーゼフもヨアンナもちょっとびっくりした顔をしてるんだけど、ええもう、さくさくといきますよ。私は2人を、両方の収納魔道具に登録した。


 次は、私の側でいろいろ手伝ってくれる人たちの登録よ。

「今後は、こちらの時を止める収納魔道具をわたくしが持ち歩くことが多くなると思うの。だから当然、ナリッサとスヴェイも登録しましょう」

「ありがとうございます、ゲルトルードお嬢さま」

 ええ、もちろんスヴェイも今日は我が家の客間に同席してます。スヴェイはすぐに笑顔でお返事してくれて、ナリッサも続けて答えてくれた。

 はいはい、さくさくいきますよ。アナタたちも両方の収納魔道具に登録しちゃうからね。


 と、どんどん登録していったところで、私はしょんぼりしたまんまのリーナもフォローする。

「リーナも魔力が発現すれば使えるようになるわ。それまではちょっと我慢してね」

「はい、ルーディお姉さま……」

「お引越しのお荷物などは、お母さまとよく相談してね。わたくしが学院へ行っている間にでも、お母さまと一緒にお荷物の整理をしてちょうだいね」


「そうね、リーナにお引越し作業を手伝ってもらえると、わたくしも嬉しいわ」

 お母さまも言ってくれて、しょんぼりリーナもちょっと笑顔になった。

「はい、お手伝いします!」

 そんでもって私は、シエラへのフォローも忘れない。

「シエラも、リーナの魔力が発現して使えるようになるまでは、登録は待ってほしいの」

「もちろんでございます、ゲルトルードお嬢さま」


 ええもう、このまま最後まで押し切らなければ。

 私は、このときだけはと笑顔を引っ込めてお母さまに言った。

「お母さま、ゴディアスは我が家に仕えてくれていた間、まったくお給料が支払われていなかったそうなのです」

 目を見開いたお母さまが、そのままうなだれて頭を抱えちゃった。

「ああ……そうよね、そうに決まっているわよね……本当に申し訳ないことを……」


「わたくし、未払いのお給料をゴディアスに支払わなければと思うのです」

 私はできるだけ淡々と言う。「やはり、まがりなりにも伯爵家の執事を何年も務めてくれていたわけですから、さすがに無給というのは……どれくらいの金額が妥当なのか、ゲンダッツさんと相談しようと思います」

「そうね、そうしましょう」


 お母さまがうなずいてくれて、私はまた安堵の息を吐きそうになったけどなんとか堪えた。

 とにかく、ゴディアスが我が家の収納魔道具を持ち逃げした理由や、無給でありながらどうして辞めずに我が家に仕えていたのかなんてことを、お母さまが突っ込んでこられる前に話をまとめてしまわなきゃ。

 でも、焦らず。

 落ち着いて、ごく自然に話すように。


「そうだわ、グリークロウ先生にも何かお礼を届けなければ」

 私はいま思い出したように言う。「お母さま、グリークロウ先生には公爵さまがすでに治療代などをお支払いくださったそうなのですけれど、我が家からも何かお礼をお届けしようと思うのですが……」

 そう言って、私はお母さまの返事を待たずに公爵さまに話しかける。

「公爵さま、グリークロウ先生にお礼として何か……まだ公開予定のないおやつなどをお届けしてしまってもいいでしょうか?」


 公爵さまは眉間のシワを一瞬深くして、でもすぐに答えてくれた。

「ううむ、あのグリークロウ医師であれば、故意に情報を漏らしてしまうようなことはないとは思うが……それでも、できればいまのところ公開が決まっていない料理は避けたほうがいいだろう」

「そうですか……」

 私はちょっとしょんぼり顔をしちゃう。

 そして公爵さまが言ってくれる。

「ゲルトルード嬢が考案した新しい料理でなくても、尊家の料理人は腕がいいのだから、何か気軽に食べられるようなものを届けるのでいいのではないか? 私が以前食べさせてもらった林檎のパイなども美味しかったし」


「ああ、確かに」

 私がうなずくと、お母さまも言い出してくれた。

「そうね、マルゴのおやつはなんでも美味しいですもの。グリークロウ先生は林檎のパイをきっと喜んでくださるわ」

 そこでお母さまはソファーから立ち上がり、深いカーテシーをした。

「公爵さま、ゲルトルードが子どものころからお世話になっているグリークロウ先生をわざわざ呼んでくださったことにも心より感謝申し上げます。本当にありがとうございました」


「いや、ナリッサ嬢が、かの医師なら信頼できると進言してくれたのだ」

 公爵さまの返答に、ナリッサもさっとカーテシーをした。

「私めの言葉をお聞き届けくださった公爵さまには、心より感謝申し上げます」

「うむ、かの医師はまことにていねいにゲルトルード嬢の治療にあたってくれた。其方の進言には私も感謝している」

「もったいないお言葉にございます」


 そしてまた、私は笑顔で言い出す。

「グリークロウ先生はもちろんですけれど、今回はマルゴにもお礼を言わなければ」

 私はその笑顔をお母さまに向けた。「マルゴがたくさん美味しいお料理を作ってくれて、それをスヴェイが公爵邸まで運んでくれましたから。おかげでわたくしは、毎日しっかり滋養のある食事を摂ることができました」


 お母さまも笑顔で答えてくれる。

「ええ、ルーディ、マルゴは本当に頑張ってくれたわ。それで、ヨーゼフから一時金を支払うと伝えてもらったのだけれど、貴女が元気になって帰ってくるまでは受け取れませんと、受け取ってくれていないの。だから後で厨房へ行って、元気になった貴女の顔をマルゴたちにも見せてあげてちょうだい」

 うわーん、マルゴってば、そんなところまで気を遣ってくれたのね!

 私も本気の笑顔で答えちゃう。

「はい、後で厨房に顔を出します」


 と、答えながら、私の視線がちらっと公爵さまの方へ……って、私だけじゃないわ、お母さまもチラッと視線を送っちゃってる。そりゃあもう、ここで公爵さまも厨房へ行くなんて言い出してくれちゃったらたまんないですもんね。

 でも大丈夫、すでにちゃんと公爵さまには代替案を出してありますから!


 公爵さまもわかってるので、わざとらしく咳ばらいなんかしちゃって、話を逸らしてくれた。

「それでゲルトルード嬢、明日は登校するつもりだろうか?」

「はい、できれば登校したいと思います。すでに2日休んでしまっていますので……」

 うー乗馬の授業がね、あったはずなのよ、私が休んでる間に。その補講って、してもらえるんだよね? 乗馬は必修科目だもんね? 放課後に、私1人で馬に乗るのかなあ?

 ほかの座学に関しては……たぶん、お願いすればテアちゃんとガンくんがノートを見せてくれると思うんだけど……。


「ルーディ、貴女にお友だちから、ご伝言を預かっているわよ」

「えっ?」

 突然お母さまがとっても嬉しそうに言い出して、私はきょとんとしちゃった。

 いや、お友だちからのご伝言って……テアちゃん?


話の区切り上、あと1話続けたほうがよさそうなので、明日も1話更新しまーす( *˙ω˙*)و グッ!

昨日UPした活動報告で、6巻の応援書店様特典SSについてご案内していますので、そちらもよろしくお願いいたします!

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― 新着の感想 ―
後で厨房へ顔を出します、で母娘揃って公爵さまを見てしまうの笑ってしまいます。
ほんとマルゴーさんを雇えたのは幸運だったとつくずく思いますね
ずーっと更新待ってました。 いつもワクワクしながら、読んでます。 読んでる時も、最後の行が来るのが嫌で、 わざとゆっくり読んでます。 6刊も絶対買います。
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