338.帰宅
なんだかもう毎度になってしまっていますが、たいへんお待たせしました。
今日1話、明日も1話更新予定です( *˙ω˙*)و グッ!
「公爵さま、つきましては、ぜひとも公爵さまにご協力をお願いしたいのです」
私がいま何をどのようにして、自分が伯爵を名乗れるようにしようと考えているのか、公爵さまにはかなり具体的なことを話した。
私の話を、公爵さまは真剣に聞いてくれた。
だけど、具体的に協力していただけるかについては、明言を避けられてしまった。
まあ、私も何もかもぜんぶをいっぺんに話せたわけじゃないし、こういうことはどうしても時間がかかる。時間をかけて、少しずつ味方を、賛同者を増やしていくしかないんだけど……タイムリミットはあと6年。
私が22歳になる前に、最低限の道筋をつけなきゃならない。
でなければ、私は現在の法律によって、爵位を放棄したとみなされて爵位も領地も国に取り上げられてしまうか、あるいは誰かと結婚して配偶者にすべてを渡してしまうかの、どちらかしかなくなるから。
私がしようとしているのは、我が国の法律を変えること。
そう、私一人が『特例』になるんじゃ意味がない。私は、もっと根本的に、我が国の女性全体の地位を上げるんだって決めたんだから。お母さまのためにも、リーナのためにも。
公爵さまのように地位も権力もある人が、簡単に肯定してしまえるような話じゃない。
そこはやっぱり、慎重にならざるを得ないんだと思う。
でも、公爵さまの協力は絶対必要なの。お願いしますよ、公爵さま!
そう思いながら、私は公爵さまと一緒に馬車に乗り込んだ。
ええ、やっと、本当にやっと、お家に帰るのよ!
私たちが乗った馬車が我が家の門をくぐるとき、門を開けてくれたハンスが私に気が付いて、うわーっとばかりに満面の笑みになり手を振ってくれた。
馬車はそのまま玄関前の車寄せに……ええ、もうとっくに玄関の扉が開いてる。いつも通りヨーゼフが、馬車の到着に気が付いてくれたんだわ。馬車が車寄せに停まった瞬間、中からお母さまとリーナが駆けだしてきた。
「ルーディ? 帰ってきたのね、ルーディ!」
「うわあああああん、ルーディお姉さまー!」
スヴェイが馬車の扉を開けて私を降ろしてくれるのももどかしく、私もほとんど飛び降りるいきおいで玄関へと走った。
「お母さま! リーナ!」
こんなの、泣くなっていうほうが無理!
だってもう、リーナが完全に大泣き状態なの、本当にうわああああんって声をあげて泣きながら私に飛びついてきて。
もう3人で、玄関前で、ぎゅーーーーっ! よ!
お母さまとリーナと私の3人で抱き合って、3人で泣いちゃった。
「ごめんなさい、ご心配をおかけしました」
私が洟をすすりながら言うと、お母さまがさらに強く私をぎゅーってしてくれる。
「ルーディ、本当に無事でよかった」
リーナはもう、私にしがみついたまま離れない。ぼろぼろと泣きながら、ルーディお姉さまーって私のことを呼び続けてる。
「リーナ、ごめんなさいね、心配させちゃったわね」
あのゲス野郎が亡くなって以来、私たちはずっと同じ部屋で眠って、ずっと一緒にごはんも食べてたから……突然私がいなくなって、リーナはものすごく不安だったんだと思う。
もちろんお母さまもリーナに気を配ってくれていただろうけど、お母さま自身が不安定な精神状態であるわけだし……リーナは賢いから、そういうのを感じ取ってじっと我慢してくれてたんだわ。
お母さまのことはもちろんすごく心配だったけど……リーナのことももっと気にしてあげなきゃいけなかった。せめて、私の直筆のお手紙の一通でも届けていたら、リーナの不安も少しは和らいだだろうに。
スヴェイが毎日、マルゴのお料理を引き取りに我が家へやってきていたのだとしても、スヴェイから話せることなんてほとんど何もなかっただろうからね。私、男子禁制状態で寝かせてもらってたから。
ごめんね、リーナ。
私は泣いてる妹を、思いっきりぎゅーっと抱きしめた。
そこでお母さまが、ハッとしたように私から手を離した。
「エクシュタイン公爵さま、このたびは本当にありがとうございました」
深くひざを折り、お母さまはカーテシーで公爵さまにお礼を言ってくれた。
リーナも慌ててお母さまに倣ってくれる。
「こ、公爵さま、ありがとうございました」
どうしよう、涙と鼻水でべしょべしょなのに私の妹は信じられないくらいかわいくてかわいくてかわいくてかわ(以下略)。
「うむ、気にされる必要はない。私はゲルトルード嬢の後見人であるのだから」
公爵さまが公爵さまモードで答えてくれちゃってます。
私も言い出した。
「お母さま、せっかくですから公爵さまにお茶を……」
「ええ、そうね、ヨーゼフ、お茶の準備を」
「かしこまりましてございます」
ヨーゼフも、なんかもう笑顔が隠しきれませんって感じでにこにこしてくれちゃってるし。
客間に移動して、我が家の優秀な使用人はすぐさまお茶の準備をしてくれた。
でも、私たち3人はお茶の前に、客間の衝立の陰で顔を洗わせてもらっちゃった。そりゃもう、リーナが大泣きしちゃっただけでなく、私もお母さまも泣いちゃったもんね。
「お待たせしました、公爵さま」
私たちが席に着くと、すぐにお茶とおやつが配られる。
今日のおやつは……ミルクレープ?
いやミルクレープのアレンジっていうか、焼いた生地はせいぜい5~6枚、もちろん間にホイップクリームをはさんで重ねてあるそれほど厚みのないミルクレープの上に、濃い紫色のごろんと粒の残ったジャムが……いや、フルーツソース? これ、葡萄だよね?
「本日のおやつは、ミルクレープに葡萄のソースを添えております」
やっぱり葡萄のソース! ジャムっていうほども煮詰めてないもんね。
お母さまの説明に、私は歓声をあげちゃいそうになったんだけど、ええ、公爵さまも眉間のシワがちょっと開いちゃいましたね?
まずはお母さまがお茶を一口、そしてミルクレープも口にする。
「どうぞ、お召し上がりくださいませ」
「うむ、いただこう」
公爵さま、すっごく嬉しそう。
ええ、相変わらず眉間にシワ寄せてはいるんだけど、こういう微妙な表情の違いまでわかるようになっちゃったわよ、私は。
で、もちろん私もミルクレープをいただいちゃう。
ああもう、美味しい! 美味しくないはずがない!
さわやかな甘酸っぱい葡萄のソースと、しつこくない甘さのホイップクリームだもんね、焼いた生地のほんのりとした甘さと相まって、本当にこの味のバランスが絶妙! さすがマルゴ!
公爵さまも、もちろん大満足です。
「クリームを何層も重ねたミルクレープも美味だったが、このように果実のソースを添えたミルクレープも実に美味しい。ソースに葡萄の粒が残っているから、葡萄の味わいも十分楽しめる」
アーティバルトさんも、公爵さまのお給仕をしてすぐにちゃっかり席に着き、ミルクレープを味わってます。
「本当に、クリームだけでなくこういう果実のソースを添えるのもいいですね。新鮮な果実そのものを切って添えても美味しそうです」
アーティバルトさんの言葉に、私は思わず笑顔で言っちゃった。
「春になって苺が手に入るようになれば、苺を使ったミルクレープを作るつもりです」
「うむ、それはまた楽しみだな」
「苺の赤い色が映えて、見るからに美味しそうなミルクレープになりますね」
公爵さまもアーティバルトさんも、当然自分たちも食べられると思ってるよね、苺のミルクレープを。ええ、ちゃんと食べさせてあげますとも。
「ルーディお姉さま、わたくしも苺のミルクレープが食べたいです」
リーナがこそっと私に言ってくる。
席に着いても、リーナは私にべたーっとくっついた状態で座ってるのよね。
「もちろんよ、春になったらリーナもお母さまも、みんな一緒に食べましょうね」
「はい!」
本当に、家族そろって一緒に美味しいおやつを食べられる、この幸せよ。
ええ、おやつでしっかり和めました。
これから、私は笑顔ですべてを乗り切るんだ。
余計なことは言わない。とにかく私のペースで、一方的でいいから話してしまわなきゃ。
「そうだわ、お母さま、ご報告があるのです」
私は精いっぱいの笑顔を貼り付けた。
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