323.アレがキターー!
本日ようやく1話更新です。
明日もきっと更新できるはずー!
なんか……なんだろう、私、恵まれまくってない?
なんでみんな、私の周りの人たちは、こんなにちゃんと私のことを考えてくれてるの? ええもう、ホントに泣いちゃいそうだわよ。
そりゃあね、最初は公爵さまにしてもエグムンドさんにしても、私の意見なんか全然聞かないうちにさっさと商会なんか立ち上げて、勝手に私を頭取に据えてくれちゃったりして。その理不尽さに私はめちゃくちゃ腹を立ててたわけだけど。
だけど、それってつまりこうやって、私がずっと収入を得られる道を作ろうとしてくれてたってことだよね?
そういうことは、事前に説明してよー!
確かに、私が領主になる話にしても、公爵さまの認識を私が理解できてなかったっていう部分でいろいろ誤解もあったわけだけど。商会に関しても、私の理解が追い付いてないだけなのかもしれないけど、やっぱ最初にちゃんと説明してほしかった。
だって実際、この通りにしてもらえるなら……私が22歳までに結婚できなくても、そのせいで爵位も領地も失ってしまっても、お母さまとアデルリーナを養っていくことができる。
しかも、蜜蝋布のこのライセンス契約があれば、もう間違いなくずっと、我が家の使用人たちにちゃんとしたお給料を払って貴族としての体面を保てるだけの収入が、さらには商会の商会員たちにもちゃんとしたお給料が払えるだけの収入が、確保できると思って間違いない。
私は姿勢を正し、私のお給料を信託金方式にするという契約書を公爵さまの前に差し出して頭を下げた。
「ご配慮いただき本当にありがとうございます、公爵さま。どうぞこの通りにしていただけますよう、よろしくお願い申し上げます」
そして私はエグムンドさんにもゲンダッツさんズにも頭を下げた。
「エグムンドさん、それにゲンダッツさん、本当に感謝します。ありがとう」
はい、そこからはさくさくと進みました。
そりゃまあ、信託金方式の契約はともかく、ホットドッグのレシピ販売の契約書、それに蜜蝋布の加工権のライセンス契約書に私が頭取としてサインするのは、正直ちょっと手が震えちゃったけどね。
でも、完成したばかりの商会紋の印章を渡されて、それを契約書に捺すときはちょっとテンション上がっちゃった。
だってホントにおしゃれなデザインなんだもん。
いや、はさんでるけど。はさんでるデザインだけど。
公爵さまもご機嫌だ。
「うむ、この商会紋の意匠は、やはり実によいな」
「この上品な華やかさがゲルトルードお嬢さまの商会にぴったりだと、私も思います」
なんかエグムンドさんもめちゃくちゃご機嫌だし。
「私どもはこちらの簡易紋で、このようなピンを作らせていただきました」
そう言ってエグムンドさんは、男性のクラバット用のタイピンを取り出してきた。小さな金色のピンなんだけど、ちゃんとゲルトルード商会の簡易紋になってる。
「このように、我々商会員は身に着けさせていただきます」
ってエグムンドさんがその場で自分のクラバットにピンを留めたんだけど……なんかエグムンドさんだけじゃなくてみんないっせいに、クラウスもエーリッヒも、ヒューバルトさんまで支給を受けてたらしくてその場でピンを着けてくれちゃった。
しかも、なんか全員とってもイイ笑顔です。
「閣下にお渡しする正式紋のピンに関しましては、申し訳ございません、製作に少々お時間をいただいております。完成し次第、お届けいたしますので」
「うむ、楽しみにしている」
エグムンドさんの説明に、おしゃれ番長な公爵さまがうなずいてる。
そりゃもうタイピンみたいな小さなもので、この細やかなデザインの正式紋を再現しようと思ったらかなりの手間がかかるよねえ。
「ゲルトルードお嬢さまはいかがいたしましょう。通常頭取には印章としても使える正式紋の指輪をお渡しすることになっておりますので、指輪の発注はしてあるのですが……もしブローチのほうがよろしければ、そのように製作いたします」
うん、エグムンドさんの言いたいことはわかるよ。
どう考えても私のちっちゃい手に、このでっかい印章をそのまんま指輪にして装着するっていうのは無謀だよね。指を筋トレしてどうするってくらいの、ただの重りになっちゃうもん。
それにブローチもいいけど、こんなずっしり重い印章をそのまんま服に付けるとしたら薄い生地の服だと垂れさがっちゃうだろうし、そもそも生地に穴が空いちゃう。
だから私は笑顔で言ってみた。
「わたくしとしては、腕輪にするのがいいのではと思います」
「腕輪でございますか?」
「ゲルトルード嬢、腕輪にするとじゃまにならないだろうか? むしろ首飾りにして、首から下げたほうがいいのではないだろうか?」
はいはい、おしゃれ番長さんのご意見もわかりますよ。
でも、首からこんな金属のカタマリをずっと下げてると肩が凝りそうなのよね。
「腕輪といっても、装飾的なものではありません。これくらいの幅の革のベルトを取り付けて、金具で手首から離れないようぴったりと巻き付けるような形にしてもらえば」
そう、私は腕時計をイメージしたのよ。だってこの印章、ホントに小ぶりな腕時計の文字盤くらいのサイズなんだもん。
私はクラウスに頼んで紙とペンを持ってきてもらい、簡単な図を書いて説明した。
「印章はできるだけ薄く作ってもらって、左右か上下に革のベルトを取り付ける金具をつけてもらえれば。印章として使用するときは取り付けた革のベルトを真ん中に寄せるように、こういう感じでつまんで持てば、捺しやすいと思います」
「ゲルトルード嬢……きみはまた、おもしろいことを考えるものだな」
公爵さまが藍色の目を瞬いちゃってる。「革のベルトで手首にぴったりと巻き付けてしまうのか……確かにそうすれば、手を動かすたびに揺れてじゃまになるようなことはないだろうが……」
「革のベルトをきれいな色に染めてもらって、金具も印章と同じ金色にするなどしてもらえば、結構かわいらしい感じになると思うのです」
「ふむ……」
ちょっと思案したおしゃれ番長な公爵さまがうなずいた。
「おもしろい。この案でゲルトルード嬢が身に着ける商会紋を作ってみようではないか」
「かしこまりました」
エグムンドさんが即行でうなずいた。
しかもなんかちょっと眼鏡キラーンしてませんか、エグムンドさん?
「ぜひこの意匠で作らせていただきます。これは確かに、女性が印章を身に着けておかれるには非常によい方法だと存じます」
う、うん、なんかまた、意匠登録されちゃいそうな気がしないでもないな……。
でもまあ、とりあえずそこで、用意してあった3つの契約のすべてが調ったということで、ゲンダッツさんズが退出していきました。
私がサインした3つの契約書を、そのまますぐ国の機関に提出しに行ってくれるとのことです。
ええもう、これからも我が商会と我が家の顧問弁護士として、よろしくお願いしますね。
そんでもって、エグムンドさんはさくさくと次のネタを出してきました。
「それではゲルトルードお嬢さま、次のご報告をさせていただきます」
さっとクラウスが何かを持ってくる。
って、口金だ! 絞り袋で使うヤツ。以前お願いしておいた、丸口金や片目口金だー。
「少々お時間をいただいてしまいましたが、口金の試作品ができてまいりました。素材を替えて何種類かお作りしてみましたので、実際にお使いになられて具合をご確認ください」
「ええ、早速我が家の料理人に渡します。きっといろんな使い方をしてくれると思うわ」
わーい、マルゴにはぜひ、パウンドケーキやミルクレープにホイップクリームでデコってもらおう。フルーツなんかものせてもらえば、ホールケーキっぽさが増すよね。
そして私も、公爵さまからお借りしている収納魔道具を取り出し、マルゴから預かってきたパウンドケーキの角型をエグムンドさんに渡した。
「パウンドケーキの角型は、この素材のものがいちばん使いやすいと我が家の料理人が言っています。この素材で追加をお願いします」
「承りました。すぐに発注いたします」
うなずいて私も、さらにいっちゃうからね。
「それからこちらの道具なのですが……」
精霊ちゃん、アタッチメントを作ってもらうからね!
私は精霊ちゃんから借りてきた魔道泡立て器の試作品を、実際に使ってみせながらエグムンドさんに説明した。
「これは……またなんともおもしろい道具ですね」
エグムンドさん、興味津々です。
もちろんエグムンドさんにも実際に使ってもらって、リレーのバトンみたいな筒の中で泡立て器がぐるぐると回るのを体験してもらいました。
「この泡立て器の持ち手を基準にして……この泡立ての部分だけを違う形にするわけですね?」
「そうです、そうすれば泡立てるだけでなく、調理のほかの作業にも使えるようになるので」
熱弁しちゃうよ、私は。
エグムンドさんもすごく熱心に聞いてくれる。
「かしこまりました。こちらもすぐに発注いたします」
お願いしますよー!
「私のほうからも、ゲルトルードお嬢さまにお渡しするものがさらにございます」
そう言ってエグムンドさんがまたクラウスに……って、今度はエーリッヒも一緒になってなんだかいろいろいっぱい運んできて……。
えっ、コレってもしかして?
うひょー! 揚げ物道具セット、キターーーーーーーー!





