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没落伯爵令嬢は家族を養いたい  作者: ミコタにう


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321.計算、できない?

本日1話更新です。

なんかしっくりこなくて書き直していたら更新が遅くなってしまい、申し訳ありません(;'∀')

 本日の放課後は、商会店舗へと直行です。

 スヴェイによると、公爵さまも直接店舗へ向かわれるとのこと。うん、今日はできるだけ早くお家に帰りたいな。変なフラグが立ちませんように~。

 でも、今日の算術選抜クラスでの対処は、自分でも上出来だったと思う。

 そりゃあもう、講習会の講師と、みんなで一緒に勉強会は、本当に大違いよ。


 居並ぶ女官さんや家庭教師の先生がたの前に立って、私が一方的に説明するなんて絶対無理。

 でも、勉強会なら双方向だからね。私が一方的に説明するんじゃなく、お互い顔を見て話せるんだからね、九九の表の活用方法だって個別に具体的に相談できる。なにより、こっちからも質問できるって本当に大きい。

 リケ先生やファビー先生とお話しするように、女官さんたちや家庭教師の先生たちといろんな話ができたらいいな。この国の働く貴族女性たちだもんね、いろいろ貴重なお話が聞けるんじゃないかって期待しちゃうわよ。


 それに……ペッテ先輩が言ってた男性官吏の人たちも、敢えてこの小娘の私と一緒に勉強会をしようじゃないかって参加してくれるような人であれば、それはもう大歓迎だよ。

 まあ確かに、そういう男性官吏の中にも、私をお茶会に誘おうとするような人も交じっている可能性もなきにしもあらずだけど……そういう人たちは、真面目に学ぶ意思がないってことで教室から叩き出させてもらいましょう。

 とりあえず、あの算術選抜クラスのメンバーであれば、そういうの賛同してくれると思うわ。


 などと考えているうちに、私の乗った馬車はゲルトルード商会店舗に到着した。

 馬車から降りると、いつものごとく店舗の玄関に商会員がずらっと並んでお出迎えを……って!

「ヒューバルトさん!」

 思わず呼びかけちゃった私に、ヒューバルトさんがにっこりと答えてくれる。

「はい、先ほど王都に戻ってまいりました、ゲルトルードお嬢さま」


 おおおお! もしかして我が家の収納魔道具を取り返してきてくれた?

 思わず前のめりになっちゃいそうな私に、ヒューバルトさんはやっぱりにこやかに言う。

「私の用件は後ほど。まずは、公爵閣下がお待ちでございますので」

 わかりました、後のお楽しみにしておきます。


 今日も1階店舗は改装工事中ということで、私は2階の執務室っぽいところに通された。

「お待たせしてしまって申し訳ございません、公爵さま」

 室内では、先に到着していた公爵さまがゲンダッツさんズと話をしていた。

「いや、私もいま来たところだ」

 公爵さまが公爵さまモードで答えてくれる。


「お久しぶりでございます、ゲルトルードお嬢さま」

 ゲンダッツさんズがさっと立ち上がって私に挨拶してくれた。

 なんかホントに久しぶりだわ、ゲンダッツさんズ。ええ、若いほうのゲンダッツさんだけじゃなく、おじいちゃんのほうのゲンダッツさんもセットです。

 そのゲンダッツさんズに挨拶を返しながら、私はエグムンドさんに案内されて席に着いた。


「本日はゲルトルードお嬢さまにご報告させていただくことが多数ございます」

 うわ、なんかすでにエグムンドさんが眼鏡キラーンな状態かも。

「早速で申し訳ございませんが、まずはこちらの契約書をご確認くださいませ。国軍のホットドッグのレシピ購入に関する契約書と、魔法省魔道具部によるあの布の加工権購入に関する契約書となっております」

 私の前に2枚の契約書がすっと並べられた。


 いやー契約書とか言われても、私が見てもあんま意味わかんないと思うんだけど。

 と、思いつつも、一応商会頭取として目を通すだけでも通さないとダメなんだろうなと、私はその書類を手に取った。

 えーと、これはホットドッグのレシピ購入契約ね?

 レシピの購入……って!


 私はその契約書を手に持ったまま、完全に固まった。

 いや、だって……だって、なんなの、このすさまじい金額は!

 レシピの代金って……レシピったってホットドッグだよ、誰もが一目見れば作り方がわかっちゃうような食べものだよ、それでなんでこんな金額なのー?


「国としての契約であるし、さらには今後長年にわたって大量に使用されるレシピであるからな。そういう金額になるのだ」

 横からのぞき込んできた公爵さまが、ものすっごく当たり前のように言ってくれちゃう。いや、当たり前にっていうか……なんかちょっと機嫌がよさそう。

 その通り、公爵さまがさらに言ってくれた。

「まあ、それであっても、国軍相手にこの金額を引き出したエグムンドの手腕はすばらしいと、私も思う」


 やっぱ相場より高いんだ?

 私が思わず顔を向けた先では、エグムンドさんがとってもイイ笑顔をしてる。

 それに、ゲンダッツさんズまでかなりイイ笑顔なんですけど?

 いや、ウチの商会の番頭さんも顧問弁護士もめちゃくちゃ優秀なのはありがたいですがっ。ホントに大丈夫なの、こんな強気な金額で?


 なんか、蜜蝋布の加工権契約も……ちょっと見るのが怖いんですけど……そう思いつつ、私はもう1枚の契約書も手に取って目を落とした。

 こっちの金額は……。

「えっ?」

 思わず私は声をもらしちゃったけど、だって金額じゃなくて料率……これってもしかして、ライセンス契約なの?

 あの、加工権の買取じゃなくライセンス契約? 買取にするとか言ってなかった?

 いや待って、ホンットにあのとんでもなくすごい硬化布が売れるたびに、売上に応じた報酬が、ウチの商会に支払われちゃうの?


 い、いや、確かに意匠登録もそうなんだけど……著作権とか商標権とか特許権とか、そういう感じだよね?

 でも加工権でライセンスって……えっと、要するに蜜蝋布をベースにして何等かの加工を施した商品を販売した場合、その売上から一定割合の報酬をゲルトルード商会に支払う、ってことが、ここには書いてあるよね……?

 あの、えっと、蜜蝋布自体は意匠登録しないわけだけど……その代わりに加工権をライセンス化したとか、そういうこと?

 で、契約期間が……99年間? ナニその数字?


 マジ?

 あの、ホントにホンットに、マジな話なの?

 だってあの硬化布って、間違いなく、めっちゃくちゃ売れるよね?


 国の産業として興すとかそこまでの話になってて、私も最初は何の冗談かと思ったけど、でも精霊ちゃんが作ってくれたあのとんでもなくすばらしい硬化布なら、本当に国家規模の産業になりそうで……それが99年間、ずっと?

 確かに料率自体はごく小さい数字だけど、それでも最終的にはどれほど莫大な報酬を受け取ることになるのか……もう想像もつかないんですけど?

 てかもう、ゲルトルード商会は今後いっさい商品開発も販売もしなくても、もう蜜蝋布の加工権だけで儲け続けることができちゃうんじゃないの……?


 ちょっともう信じられない契約内容に、私は本気で呆然としちゃった。

 その呆然としてる私に、エグムンドさんが言った。

「さすがでございます」

 ナニが?

 いやもうワケわかんなくなってる私は、ものすっごく不審そうな顔をエグムンドさんに向けちゃったんだけど。

 エグムンドさんは過去最高にイイ笑顔だった。


「さすがゲルトルードお嬢さま。その契約書の内容がどういう意味を持っているのかが、おわかりになるのですね」

「い、いや、どういう意味って……」

 私はもう正直にゴックンって喉を鳴らしちゃったわよ。

「これ、正気ですか? こんな契約を……99年間も我が商会に報酬を払い続けるなんて契約を、本当に魔法省が承諾したのですか?」


 いやもう、エグムンドさんってば、ホンットーーーにイイ笑顔です。

「はい。交渉の結果、その契約内容で魔法省は同意いたしました」

 交渉の結果って……エグムンドさん、ホントにいったいどんな手を使ったの? なんかヤバいことしてないでしょうね?


「私も加工されたあの布の試作品を拝見したのですが、いや実にすばらしい。あの商品は、我が国内での販売だけでなく他国へも大いに輸出され、大量に流通することとなるでしょう。まさに、我が国の新しい産業となり得ると私は確信いたしました」

 なんかエグムンドさんが絶好調です。

「それならば、長い目で見て最終的により大きい報酬を我が商会が得られるよう、最善の契約を目指した次第です。いや、さすがゲルトルードお嬢さまは一目でその契約の内容をご理解くださったのですね。本当にすばらしいです」


「私も先ほどエグムンドから説明を受け、今後10年程度の収益試算を見せてもらったのだが」

 公爵さまが言い出した。「確かにこれほどの収益が見込めるのであれば、魔法省に権利を買い取らせるのではなく、売上から継続的に料率による報酬を求めるこの契約のほうがよいと感じた」

 そんでもって公爵さまは、なんかすっごく感心したようにうなずいちゃってるの。

「ゲルトルード嬢、きみはその書面を見ただけで、どの程度の収益が見込めるのかがすぐに理解できたのだな。さすが算術の首席になるだけのことはある」


 いや、算術の首席だからとかそんな……だって硬化布のあのポテンシャルだよ?

 しかも国家機関が製品として大々的に売り出すことが決まってて、さらに言えば魔蜂の蜂蝋が使えるとわかったことで量産の目途も立ってる。そういう状況なんだから、下手な金額で権利を一括買取してもらうより、ずーっとロイヤルティ報酬をもらうほうがはるかに稼げるに決まってるじゃないですか。

 そんなの、誰が見てもすぐにわかること……って、あれ?

 も、もしかして……わからないの?


 いや、この国にも意匠登録制度があるんだから、ライセンスっていうか知的財産権で報酬を得るっていう考え方自体は存在するよね?

 でもってエグムンドさんは、そのプロだった人だ。王都商業ギルドで意匠登録部門のトップだった人なんだもん。だからこういう、ライセンス形式の契約を思いついたんだと思う。

 公爵さまは、そのライセンス形式についてエグムンドさんから説明を受けて収益の試算を提示され、それですぐにこの形式の契約がどれだけすごい報酬を生み出すかがちゃんと理解できた。


 だけど……学院に通っていても何も学ばず成績をお金で買ってるような連中は?

 基本的な計算さえできないような連中は、それがわからないんだわ……!

 それはおそらく、たとえ具体的な収益試算を示され詳しく説明してもらっても、その内容が正しく理解できないというレベルで。


 ああ……『計算ができない』って、こういうことなんだ……。

 なんか私、ものすっごく納得しちゃった。


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― 新着の感想 ―
講義を受けた人が講師になっていくスタイルは効率はいいし主人公の負担も減らせるけど、学生と官吏達の交流はすぐに絶たれてしまうと思います。 優秀な人達の交流による出世の道のようなものが出来れば現状で不利に…
[一言] ゲルトルードの負担等を考えると、初回の講義(勉強会)の受講者が次回の講義の講師になる形にもっていくのが、ベストだったんだよなぁ この発想が彼らから出てこなかったのは、「計算できない」ことと…
[良い点] 下手すると足し算引き算もできない可能性があるっぽい感じですね。カモにする商人とか秘書とか、いそうだけど。九九が広まって真面な人が暗算できるようになれば内部告発も増えたりするんですかね。
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