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没落伯爵令嬢は家族を養いたい  作者: ミコタにう


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319.いい感じにもっていけた

本日も1話更新です( *˙ω˙*)و グッ!

 そこで、ファーレンドルフ先生が口を開いてくださった。

「この計算表の導入については、昨日国王陛下ならびに王妃殿下、そしてエクシュタイン公爵閣下よりご相談をいただきました。その結果、先ほどゲルトルード嬢が言われた通り、この表は学院に対してだけでなく、すべての人々に無償で提供されることになりました」

 全員が、先生の説明に注目している。


 その視線の中、ファーレンドルフ先生はいくぶん苦笑気味になった。

「もちろん、これだけ有用性の高い表ですから、学院にも一律で導入し、すべての生徒に履修してもらいたいところなのですが……それを望まない貴族家もあるだろうということで、今回は一律の導入を見送ることになりました」

「そうですね、なんの努力もせず成績をカネで買ってるような連中は、丸暗記さえすれば確実に成績が上がる表なんて許せないでしょうからね」

 一言多いアルトゥース先輩、すごいです、ズバッと言っちゃいました。


 苦笑してるファーレンドルフ先生は、肯定も否定もせずに説明を続ける。

「その上で、この表を利用したいと希望する人には、誰であっても提供することを認める、それは貴族であろうが平民であろうが関係なく、というお言葉を、陛下からいただいています」

「では本当に……我が家の商会員の教育に導入しても、問題はまったくないわけですね?」

 フランダルク先輩が念を押すように訊いてきて、ファーレンドルフ先生も同じく念を押すように答えてくれた。

「問題ありません。ただし、商売に利用するような使い方は認められません。家庭教師がこの表を使って指導して報酬を得ることについては、例外とします。その点だけ注意してもらえれば、貴賤に関係なく誰であろうとこの表を無償で利用できる、そういうことです」


 すごいな、ファーレンドルフ先生ってば本当にしっかり陛下や公爵さまと、この九九の表の広め方について相談してきてくださったんだ。

 こうやってちゃんとガイドラインを決めてもらっておけば、私も堂々とゲルトルード商会のみんなに九九の表を覚えてもらえるし、我が家の使用人たちが九九を覚えていても文句を言われる筋合いはありません、って言えるようになるわ。


「そして、ゲルトルード嬢にはひとつご相談があるのですが」

「はい?」

 いきなりファーレンドルフ先生にご相談なんて言われて、私はきょとんとしちゃったんだけど。

「この表の利用について早速、王宮女官で王妃殿下の個人秘書官を務められておられるトルデリーゼ・キッテンバウム女史からお申し出がありました」

 えっと、トルデリーゼ・キッテンバウム女史って……私は思わずペテルヴァンス先輩を見ちゃったんだけど、先輩もちょっとびっくりした顔で私に顔を向けた。

「王宮女官の希望者にこの表の使い方を学ばせたいので、ぜひゲルトルード嬢に講師になっていただきたいとのことです」

「は、いぃ?」


 思いっきり間抜けな返事をしちゃった私に、ファーレンドルフ先生はにこやかーに言うんだ。

「先ほどの貴女の説明はたいへんわかりやすかったです。先ほどと同じように説明すれば、女官の方がたにも十分理解していただけると思いますよ」

「えっ、いや、あの、でも、講師、というのは……それに希望者とおっしゃっても、いったい何名ほどをご予定されていらっしゃるのか……」


 だって王宮女官さんって、我が国の貴族女性の国家トップレベル人材さんたちだよね?

 そりゃたとえば、トルデリーゼお姉さまとあとせいぜい2~3人の女官さんを相手に、さっきこの教室でしたみたいな勉強会って雰囲気で説明するのであれば、私でもなんとかなると思う。でもそんな、国家トップレベル人材さんたちが何十人もずらーっと並んでらっしゃる前で、私に講師をさせるとか言われちゃうと、それはもうまったく別物なんだってば!


 でもファーレンドルフ先生は、首をかしげちゃってる。

「昨日の時点では希望者と言われただけで、何名ほどになるかというお話はなかったのですが」

 いやいや、そこ、めっちゃ大事ですから!

 コレ、ダメだ、絶対に流されちゃったらダメなヤツだ。


 なんか思案してるっぽいファーレンドルフ先生に、私は言った。

「あの、ただの学生であるわたくしには、大勢のかたに対して教鞭をとるかのような形でご説明差し上げるのはどう考えても無理です。先ほどこの教室でさせていただいたような、少人数での勉強会のような形にしていただけるのであれば、女官の方がたとも個別にお話しさせていただきながらのご説明はできるかと思うのですが」


「ふむ、なるほど……」

 ファーレンドルフ先生、先生はプロの先生なんだから、その違いはわかりますよね?

 なんかもうすがるような気持ちで見上げてる私に、先生はうなずいてくれた。

「わかりました。では、そういった少人数の勉強会という形で調整してもらえるよう、キッテンバウム女史にはお願いしましょう」


 あーもう、私、安堵のあまり思いっきり息を吐きそうになっちゃったわよ。

 でもってまたそこで、ペテルヴァンス先輩が言い出してくれちゃった。

「ゲルトルード嬢、その、我が家の上の姉のトルデリーゼがそのような勉強会に参加するのであれば、下の姉のフレデリーケもぜひ参加したいと言い出すと思うのですが……」

 それはまた、めっちゃありそうな話だわ。

 でも、なんかもうそれだったら、リケ先生もファビー先生も女官さんたちとご一緒に、でいいかもしれない。

 だから私は、そのように答えることにした。


「ええと、それでしたら、リケ先生だけではなくほかの家庭教師の先生がたも、少人数での勉強会をさせていただければ……そうすれば、学院入学前のお子さまたちにもこの表で勉強していただけることになりますし」

「そうですね、それは非常にいいことだと思います」

 ファーレンドルフ先生もすぐにうなずいて、それからちょっと首をひねっちゃった。

「ただその場合は、その勉強会をかなりの回数開催することになると思います。ゲルトルード嬢、貴女の負担が増えることになりますが、大丈夫ですか?」


「はい、そうですね、たとえばみなさまに学院へ来ていただいて放課後に何回か勉強会を、という形にしていただければ、それほど負担にはならないと思います」

 そりゃもう、大講義室で何十人も相手に講義しろ、と言われるよりはるかにマシよ。

 少人数勉強会であれば、いまテアがしてくれたように、女官さんたちや家庭教師の先生がたのほうから直接質問してもらえる。そうすれば私も、その人はどこがわからないのか、どういう形で計算を役立てたいのか、そういうことが個別に理解できて説明しやすくなる。


 それに、慣れてきたら雑談っぽくいろんな話もできそうじゃない?

 女官さんたちが具体的にどういう仕事をどういう待遇でされているのか、ってことにも純粋に興味があるし、さらにそこでなんらか情報交換ができるのであれば、正直めちゃくちゃありがたい。いままでだって、リケ先生とファビー先生にあんなにいっぱい情報やご意見、ご感想をいただいてめちゃくちゃ助かってるんだもん。


 というようなことを、考えていたのは私だけじゃなかったみたい。

 すぐにテアが言い出した。

「もし学院内で、放課後にその勉強会を開催されるのであれば、わたくしも参加させていただいてよろしいでしょうか?」

 私は思わずテアと目を見かわして、うなずき合っちゃったわよ。

 うん、ありがとう、テア。

 テアも参加してくれるとめっちゃ助かります。いくら少人数とはいえ、まったく知らない女官さんたちや家庭教師の先生がたに囲まれちゃうのは、やっぱり私もちょっと大変だから。


 そしたら案の定、ガン君も言い出した。

「その勉強会は、女性限定なのですか? 女官の方がただけでなく、男性官吏の方がたが参加されるということは? 可能であれば、私も参加したいのですが」

「それならば私も参加したいです」

「私も!」

「私もお願いします!」

 おおう、ガン君の参加希望表明に続き、先輩がたも次々と参加希望を表明されちゃったよ。


「そうですね……少人数で何度か開催するのであれば、この算術選抜クラスの研究授業の一環としてしまってもいいかもしれません。一度考えてみましょう」

 ファーレンドルフ先生がそうおっしゃってくださって、みなさん歓声ですわ。

 うん、私もそのほうがいいです。めっちゃ助かります。だってテアやガン君、先輩がたも参加してもらえるなら、参加人数が多少増えてもグループ学習っぽくできるよね?

 あー、なんか今回はかなりいい感じに話をもっていけた気がするー。


 で、やっぱりテアも同じことを思ってたらしい。

 授業時間が終わった後、テアは早速嬉しそうに言ってきてくれた。

「ありがとう、ルーディ! 宮殿で働いていらっしゃる現役の女官さんたちと直接お話しできる機会なんて、滅多にあるものじゃないわ! それも、ご一緒に勉強会をさせていただけるなんて!」

「わたくしも、講師なんてどう考えても無理だけれど、勉強会ならわたくしのほうからも質問させていただけると思ったの。この表を題材にするのだとしても、きっとわたくしたちもいろいろと勉強させていただけると思うわ」

 私も笑顔で答えちゃった。


 でもって、私たちのすぐ傍ではアルトゥース先輩がペテルヴァンス先輩を捕まえて、なんか言ってる。

「おいペッテ、女官だけじゃなく男性の官吏も勉強会に参加してくださると思うか?」

 ペッテ!

 ペテルヴァンス先輩ってば、ペッテって呼ばれてるんだ。なんかかわいくない?


 その呼ばれたペッテ先輩は、ちょっと考え込んでる。

「うーん、少々難しいかもしれない。それは確かに、レイ兄上であれば、そういうことは気にされないとは思うけれど」

 ええええ、ペッテ先輩、お兄さまがいるの?

 って思わず目を見張って凝視しちゃった私のその視線に、ペッテ先輩はすぐに気が付いた。

「ああ、レイ兄上というのは、ゲゼルゴッド宮廷伯家の、つまりファビー姉上の兄です。我が家とゲゼルゴッド宮廷伯家はもう本当に、みんな一緒に育った感じですので」


「そうなのですね、ファビー先生のお兄さまですのね」

 おおう、また新事実だよ、ファビー先生にはお兄さまがいらっしゃる、と。

「そのファビー先生のお兄さまも、宮殿で官吏として働いていらっしゃるのですね」

「はい、レイ兄上……レイゲンス・ゲゼルゴッドどのは国王陛下の個人秘書官を務めていらっしゃいます」

 おおおう、国王陛下の個人秘書官て!

 いや待って、ペッテ先輩のお姉さまのトルデリーゼさんは王妃殿下の個人秘書官じゃなかったっけ? つまりキッテンバウム宮廷伯家とゲゼルゴッド宮廷伯家って、本当に文字通り王家直属文官のツートップってことですか?


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― 新着の感想 ―
ペッテって響が可愛いな笑
[一言] ただでさえ忙しいのに、簡単に仕事を背負い込みすぎな気が…何回講義が必要かも解らないのに… 回数を決めて先生役数人に直接教えて、後はその人達に任せるべきじゃないでしょうか? まぁ派閥作りには有…
[良い点] 希望者は全て覚えるチャンスがもらえるか、できない奴らが白い目で見られますね(笑)
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