317.ににんがし!
お待たせしました、久々の更新です。
本日はまず1話更新、明日以降も少しずつ更新していく予定です。
ファーレンドルフ先生はまず、教壇の後ろにある大きな黒板に九九の表を投影された。
「みなさん、これがなんの表だかわかりますか?」
うん、私はわかってるけどね。
ガン君もテアも、すごく熱心に表を見てる。
「縦と横に数字が1から9……」
「あっ、もしかして、縦の数字と横の数字を掛け合わせた答えですか?」
さすがガン君、すぐに気が付いた。
一緒に黒板を見ていた先輩がたも、計算器具を取り出してパパパッと計算を始めた。
「本当だ、縦横それぞれの数字を掛け合わせた答えが、一覧表になっているのですね」
ペテルヴァンス先輩の指摘に、ファーレンドルフ先生がうなずいた。
「そうです、このように……縦と横、それぞれの数字が交わったところに、その数字を掛け合わせた答えが書いてあります」
差し棒みたいな銀色の細い棒を使ってファーレンドルフ先生が表をなぞり、それぞれのマス目に書かれた数字を示していく。
そして、先生は私に顔を向けた。
「この秋試験で1年生の算術科目首席となったゲルトルード嬢は、この表を丸暗記しているそうです」
「えっ?」
「丸暗記?」
「この表をぜんぶ?」
そんな、みんなそろってびっくりした顔をしてくれなくても。
「同じ1年生であるドラガン君とドロテア嬢はすでに知っている通り、ゲルトルード嬢は計算器具を使用しません。それでいて、非常に速くまた正確に計算ができる。その秘訣が、この表なのだそうです」
ファーレンドルフ先生の説明に、やっぱりみんなそろってびっくりした顔で私を見てくれちゃってるんですけど。
で、先生に促されちゃって、私は立ち上がって説明することになった。
「この表は縦横それぞれ1から9まで、ぜんぶで81個の答えが書き込まれていますが、実質的に覚える必要があるのはほぼ半分です。たとえば2掛ける3も、3掛ける2も、答えは同じ6ですから」
私の言葉に合わせて、ファーレンドルフ先生は差し棒でその数字を示してくれちゃう。
「この一桁の掛け算の答えを丸暗記しておけば、二桁以上の掛け算や、割り算にも簡単に応用できます。計算器具がなくても暗算、あるいはちょっとした計算式を書くだけで答えが導き出せるようになります。一度覚えてしまえば、本当に便利なのです」
さらにそう説明した私に、すぐさまファーレンドルフ先生が反応してくれちゃう。
「二桁以上の掛け算や割り算にも応用する場合、貴女はどのように応用しているのですか? ちょっとした計算式とは、どのようなものなのでしょう?」
ファーレンドルフ先生、まとめて突っ込みありがとうございます。
てかもう、これは筆算をしてみせないとダメよね?
しょうがないので私は教壇の前まで行って、実際にやってみましょうか、と先生に提案した。
「では、ゲルトルード嬢には実際に問題を解いてもらいましょう」
そう言ってファーレンドルフ先生は、教卓に私を招いた。
教卓には……えっナニコレ、もしかしてタブレット端末とモニターになってるの? 教卓の真ん中に、結構大きなつるんとした石板みたいなモノが埋め込んであって、そこに専用のペンで書くと黒板に投影されるらしい。
先生は、そのタブレット端末的な石板に手を当ててなんか操作してる。すると、黒板に投影されていた九九の表がクリアされちゃった。
そして先生は専用のペンを手に、石板に計算問題を書き込み始めた。
ひゃーなんかすごい。
これも魔道具なんだろうけど、学院の黒板ってこんなすごい便利な仕様になってたんだ。
計算問題を書き終えたファーレンドルフ先生が、私に専用ペンを渡してくれる。
ホンットに石板に書かれた問題が、そのまんま黒板に投影されてるー。
「ペンに軽く魔力を通しながら書いてください」
渡された専用ペン……なんか本当にタブレットペンみたいな感じの石筆っぽいモノなんだけど、それをしげしげと見ちゃってる私に、先生が説明してくれた。
「そのペンでここに直接書き込んでください。そうすれば、黒板に映し出されて全員が見ることができます。消して書き直したいときは、ここを操作して『書き直し』に切り替えます」
マジです。
ホンットにマジでコレって、書き込みアプリが入った状態のタブレット端末だわ。すげー!
「ええと、ではまず問題を解いてみます。計算式の説明は、後で行います」
私はそう言って、ペンを手に石板に向かった。
問題は3つ。二桁掛ける一桁の掛け算、二桁掛ける二桁の掛け算、それに二桁割る一桁の割り算だ。うん、楽勝。
石板の空いているスペースにペンを置き、私はさくさくと筆算の式を書いて計算していく。
「できました」
気が付くと、ほかの生徒はみなさん計算道具を取り出して、黒板に投影されている問題を計算していたらしい。
「合ってる」
「うん、ゲルトルード嬢の書いた答えは正解だ」
ほほほほ、この程度の計算なら、わざわざ筆算しなくても暗算でもいけますわよ。
と、内心ちょっと私は調子づいてしまったんだけど。
「ルーディ、それ、どうやってるの? 数字を縦に並べて、それでどうして正解が出せるの?」
テアちゃんが勢いよく手を挙げてくれちゃってます。
はーい、いま解説しますね。
私は筆算の式について、1の位と10の位を分けて、それぞれこうやって掛け合わせて……と、説明していった。
いやーもう、テアもだけど、ガン君はもうめちゃめちゃ真剣。
それにほかの先輩がたも、なんかちょっと目の色が違います。
「こうやって数字を分解して、それぞれ桁ごとに掛け合わせていくようにするわけです。それを最後に合計します。一桁の掛け算の答えを丸暗記しておけば、いちいち計算器具を使う必要がありません。簡単に計算ができてしまいます」
私は続いて割り算の説明もする。
いや、この世界に小数点という考え方が存在するかどうか私にはわからないので、とりあえず余りを出す方式なんだけどね。これも九九の表を覚えていれば簡単よん。
「なるほど、数字を縦に並べて書くことで、桁をそろえて見やすくしているのか……」
って、ファーレンドルフ先生もめっちゃ真剣に私の書いた筆算の式を見てらっしゃいます。
私はにっこり言っちゃったわよ。
「そうです。こうして桁をそろえて縦に並べておけば、桁数がどれだけ増えても一目で判断できますから」
この世界の数字も、前世のアラビア数字と同じような記号なんだよね。だから筆算も簡単にできちゃうんだわ。
「ファーレンドルフ先生、先ほどの掛け算の表をもう一度見せてください! 書き写します!」
ガン君が勢いよく手を挙げてます。
うん、ガン君ならすぐ暗記できちゃうと思うよ、そんでもってすぐ筆算の仕方も覚えちゃえると思うよー。
「ええ、いま出します」
答えた先生は、九九の表が書かれた紙と、なんか細長ーい箱を手に取った。そんでもって、その細長ーい箱を紙に当てて、すーっとなぞるように動かすと……えええええ、その細長い箱ってもしかしてスキャナーですか? 黒板に九九の表が投影されちゃったんですけど!
投影された九九の表を、先生は専用ペンでひょいっと動かして私の書いた筆算の式と重ならないように表示してる。
すごい……なんかマジですごい。
私、いままでずっと授業を受けてきてたけど、まさか教室の黒板がこんな先進的な魔道具だったとは夢にも思ってなかった。いや、先生が教卓でなんかしてて、そしたら黒板にパッパッと表示されるの、不思議だなー……と思ってはいたんだけど。
と、私は黒板のシステムに感嘆してたんだけど、ほかの人たちはみんな、九九の表に感嘆してくれたようです。
手を挙げて言ってくれたガン君だけじゃなく、なんかもうみなさん一心不乱に九九の表を書き写してるっぽい。さすが算術のエリートメンバーズ、私の簡単な説明だけで、この九九の表の有用性をばっちり理解してくれちゃったのね。
「ゲルトルード嬢、貴女はいったいどうやって、数字を分解して一桁にして計算することを思いついたのですか? それに桁をそろえて縦に書いていくという方法も、どのようにして思いついたのでしょう?」
はい、ファーレンドルフ先生からまた突っ込みが来ました。
「ええと、あの、帳簿はこうやって、桁をそろえて縦に書いていきますよね? そして順番に足していって合計を出すと思うのですが……」
そうなのよ、やっぱり帳簿の書き方ってこの世界でも似た感じなの。そりゃもう、桁数の多い数字を扱うのであれば、縦に並べて桁をそろえたほうが見やすいに決まってるもんね。
と、私は考えておいた言い訳を、それらしく言っちゃう。
だって、筆算なんて私が自分で思いついたわけじゃないもん。
「それでこう、縦に並べて書いたときに、これってこう、掛け算であっても桁ごとに計算して最後に足せばいいのではないかと……なんとなく、そういうことを思いつきまして」
「なんとなく?」
「はい、なんとなく」
ううーん、ちょっと苦しい?
私は視線を泳がせちゃったんだけど、ファーレンドルフ先生はすっごい真剣な顔で私の筆算の式をにらんじゃってる。
「これは……この計算式は、画期的です」
ファーレンドルフ先生がうなるように言ってくれちゃった。
「ゲルトルード嬢、貴女は本物の天才ですね」
ひーーーー! ごめんなさい! 私、天才なんかじゃないですー!
うわーん、やっぱり調子に乗り過ぎちゃったーー!
って、このパターンもちょっと慣れてきちゃったな。
うーん、ここはもうさくっと華麗にスルーすればいいよね? 変にへりくだったりしてると、さらに突っ込みがきちゃうということを、私は学習したんだーい。
のちほど活動報告を更新します。
4巻発売日決定&予約開始、そして1巻重版出来!です( *˙ω˙*)و グッ!





