316.ぼっちじゃないってすばらしい
本日1話だけですが更新です。
「おはようございます、ゲルトルードお嬢さま!」
「おはようございます、ゲルトルードお嬢さま」
はい、今朝もスヴェイとゲオルグさんが厨房で並んで朝ごはんを食べてます。
ええもう、間違いなくこうなると思ってたから驚きはしないけどね、でもやっぱなんかフラグが立っちゃってる気がする……のは、無視する!
私はもうにこやかに挨拶を返して、そのまま着席する。
すぐに私の朝食も運ばれてきて、さあいただきますとなったとき。
「ルーディお姉さま!」
リーナが厨房に駆け込んできた。
「お帰りなさい! おはようございます!」
「リーナ! ただいま! おはよう!」
ええもう駆けてきたリーナを受け止めるべく、私もバッと席を立っちゃうわよ。両手を広げて飛び込んできた妹をぎゅーしちゃうわよ、思いっきりぎゅーーーー! よ!
「ルーディお姉さま、昨日はちっともお会いできなくて」
拗ねたようにちょっと口をとがらせちゃう妹のかわいくてかわいくてかわいいことといったら!
「そうね、ごめんなさいね、でも明日と明後日は学院もお休みだから、リーナともゆっくりお話しできると思うわ」
「本当ですか! いっぱいお話ししましょうね! わたくし、新しい本を読みはじめたのです! その本がとてもおもしろいのです!」
「ええ、詳しく教えてちょうだいね。楽しみにしているわ」
思えば、ほんのちょっと前まで、私とリーナは年に数えるほどしか会えてなかったのよねえ……もちろんいまと同じく、同じ家の中で暮らしてたっていうのに。
それがいまや、1日でも会えずにいると寂しくてしょうがない。お母さまにもリーナにも自由に会うことができなくて、日がな一日図書室にこもって1人で本を読んでた頃がウソのようだわ。
「リーナ、よかったわね、今朝はルーディとお話しできて」
お母さまも厨房に入ってきた。「さあさあ、一緒に朝ごはんをいただきましょう」
「はい!」
やっぱりごはんは家族そろって食べなきゃ、だわ。
うーん、今日も放課後は商会店舗に寄ってくる予定だから、帰りは遅くなりそう……でも、明日はマルゴとキャラメル作りすることになってるもんね、ごはんはもちろんおやつだって、3人で美味しいキャラメルを食べて楽しくお茶をすることができると思うわ。
朝ごはんを食べながら、私たちは今日の連絡事項などを話し合う。
そしてもっと話したそうなリーナに後ろ髪を引かれる思いで、私は今日も学院へと出発よ。
学院へ到着すると、今日もスヴェイは笑顔でお茶会お誘い勢をビシバシと薙ぎ払い、ナリッサは個室棟の私の部屋のドアに差し込んであったたくさんのお茶会招待状をガッとわしづかみにして一括処理してくれる。
それからスヴェイに送られて講義棟へと行くと……。
「おはよう、ルーディ!」
テアちゃんが笑顔で待っていてくれたよー。
もちろんガン君もセットです。
「おはよう、ルーディ嬢」
「テア、ガン君、おはよう!」
ホンットに、学院へ通ってもずっとぼっちだった私が、朝一番にお友だちと挨拶を交わせるようになっちゃうとか、これっぽっちも思ってなかったわ。
ええもうそれどころか、授業だってずっと一緒に受けてもらえちゃうからね。
今日も3人、教室に並んで座って、自分のノートを見せ合いながら授業を受けちゃう。休み時間だってずっと3人でおしゃべりしていられるし。
「あら、じゃあルーディは自分の馬具を持ち込むことができたのね?」
いまの話題は連休明けから始まる乗馬の実技授業について。
「そうなの、公爵さまが馬具も馬も用意してくださって」
「それはよかったわ。わたくし、ルーディが学院から貸し出しを受けていた馬具が、体に合っていないことはわかっていたのだけれど……それをご指摘してしまっていいのか、迷っていたの」
「そうだったのね」
なんとテアちゃん、そんなこと気にしてくれてたんだ!
どうやらあの惨敗お茶会以降、テアは私のことをいろいろ気にかけてくれていたらしい。
「馬具だけじゃなくて、馬も公爵閣下が用意してくださったんだ?」
ガン君も訊いてくる。
「ええ、大人しい性格の若い牝馬で、わたくしにも扱いやすいだろうからって、学院の厩舎に入れてくださったの」
「それはうらやましいな。さすがに我が家では俺たちの馬までは学院に持ち込めなくて」
「ガン君もテアも、ご領地には自分の馬がいるのね?」
「もちろん!」
なんかガン君だけじゃなくテアもすごく嬉しそうだ。
「我が家の厩舎で生まれた馬だよ。仔馬のときからずっと世話をしてて」
「ええ、本当にかわいいの。わたくしたち姉弟と一緒に育ったような感じで」
「そうなのね、それは本当にかわいいでしょうね」
すごいな、ヴェルツェ子爵家はご令嬢もご子息も自分で自分の馬の世話をしてるんだ。なんていうか、そういう方針のお家なんだろうね。
それからテアは、横鞍で馬に乗るのって面倒くさい、横鞍用のスカートも重くて面倒くさい、なんてかなりぶっちゃけたことを言い出した。
「わたくし、小さいころからずっとガンと同じように鞍にまたがって乗っていたのよ。だから、学院に来る前にしばらく横鞍の特訓をしたくらい」
テアがうんざりと言うと、ガン君もちょっと遠い目をする。
「まあ、来年領主クラスに進んで演習授業が始まれば、女子も男装で鞍にまたがるそうだから……それまで我慢しなよ」
「えっ、女子も男装で乗馬するの?」
「そうよ、知らなかった?」
びっくりしてる私にテアが眉を上げ、それからちょっと悪い顔で笑った。
「男装なんてしたくないって言っても駄目よ、領主クラスの演習授業は武官クラスと同じ扱いなのですって」
「とんでもないわ、大歓迎よ!」
思いっきり嬉しそうな顔で私がそう言っちゃったもんだから、今度はテアとガン君がびっくりしてる。
「だって、横鞍って不安定だし乗りにくいじゃない? それにわたくし、ブリーチズ穿くのだってまったく抵抗なんてないから。だって動きやすいじゃない」
いやもう、引越し作業でブリーチズ穿きまくってたからね! パンツスタイル、大歓迎!
「ホント、ルーディって……」
テアが肩をひくひくさせてる。「わたくし、ルーディとお友だちになれて本当によかったわ」
「俺もだいぶホッとした」
そう言いながらガン君もちょっと肩をひくひくさせてるんだけど、なんでー?
そして今日も、お昼休みのために2人が私を個室棟へ送ってくれるときに、あのゲス野郎のやらかしの後始末について話した。
「春先の討伐までには、エクシュタイン公爵さまが三領地の協議の場を用意するとおっしゃってくださっているの。そこで詳しくご相談できると思います」
「ああ、それはよかった」
ガン君がホッとしたように言う。「それならデルヴァローゼ侯爵家も納得されるはず。まあ、あの侯爵家のご当主はいろいろと……クルゼライヒ伯爵家には討伐を放棄されていた期間の賠償についても吹っかけてこられると思うけど、ルーディ嬢にエクシュタイン公爵閣下がついていてくださるなら安心だよ」
うむ、ガン君はやっぱり直球勝負です。ありがたいです。要するに、ヴェルツェ子爵家からみてもそういう感じなのね、デルヴァローゼ侯爵家のご当主って。
それに何より、自分の家の利害よりも先に我が家というか私の心配をしてくれるって、本当にありがたいことだわ。
午後も当然のことながら3人で授業を受けた。
そんでもって、今日も最後の授業はアレです、算術選抜クラス。
もうね、ふだんほとんど表情を動かさないガン君が見るからに嬉しそうなの。期待してるんだよねー、今日は私の例の秘訣をファーレンドルフ先生が教えてくれるんじゃないか、って。
算術選抜クラスの教室に入ると、真っ先にエルンスト先輩が私のところへ来てくれた。
「ゲルトルード嬢、昨日の件ですが、領地へ至急便で手紙を送りました。おそらく数日のうちに、領主である父から返答が届くと思います」
「はい、お待ちしております」
私は笑顔で答えちゃう。「実は昨日あれから、わたくしは所用あってエクシュタイン公爵さまと面会してまいりました。そのさいに、ハインヴェルン領のことをお伝えしたところ、たいへん憂慮されていました。公爵さまは間違いなく正しいお手続きをしてくださると存じます」
「そうですか! まことにありがとうございます!」
パーッとエルンスト先輩の顔が明るくなる。
バルナバス先輩もやってきて、よかったなって言いながらエルンスト先輩の肩をたたいてあげてるし。
私はやっぱり笑顔で言っちゃう。
「バルナバスさま、貴領のお話も、わたくしはエクシュタイン公爵さまにお伝えしました。公爵さまは、当たり前のことをしただけだなどとおっしゃっていましたが、貴領の感謝のお気持ちを喜んでおられましたよ」
「ああ、それはありがとうございます、ゲルトルード嬢」
嬉しそうにバルナバス先輩も答えてくれる。「エクシュタイン公爵閣下には本当にお世話になりました。これからも我が領は永く閣下に感謝申し上げます」
そこで、ファーレンドルフ先生が教室に入って来られた。
「ああ、みんなそろっていますね。今日はとても興味深い教材を用意しました」
にんまりと笑うファーレンドルフ先生の視線が、私に向いてくれちゃってるんですけど。
ええもう、私の横でガン君がめちゃめちゃ嬉しそうにしてるのが、顔を見なくてもわかっちゃいますわー。





