314.楽しくない話と楽しい話
本日2話目の更新です。
明日もちょこっと更新できるかも、です。
でも考えてみると、今日はさらにスヴェイとゲオルグさんのごはんも作ってもらっちゃったからねえ。しかも間違いなく、今後もあの2人のごはんは必要になる。
これはもう、マルゴの基本給を上げて、モリスやロッタも手当てを増やさないとダメっぽい。それに今後さらに侍女とか侍従とか使用人の数が増えてきたら、料理人というか厨房スタッフも増やさないとダメっぽいわ。
ついでに言うと、一応クギは刺させてもらったけど、またどこかから急になんかちょうだい攻撃が来るかもしれないし……ええ、王家とか王家とか絶対断れない相手から。
うーん、ヒューバルトさんが帰ってきたら、モリスみたいな料理人見習をあと2~3人紹介してもらうかな。
それで商会店舗で働いてもらう料理人の育成ができるし、本人の希望によってはそのまま我が家の厨房で働いてもらってもいいし。
はー、しかしホンット、お金がかかるなあ。
いまはとりあえず、マールロウのお祖父さまがお母さまに遺してくださった信託金があるからなんとかなってるけど……商会のほうでどの程度の収入が見込めるかとか、そういうのも一度ちゃんと公爵さまと相談したほうがいいかも。
だって、あのゲス野郎の不始末のせいで、これからどれくらいお金が必要になるかもわかんないんだもんね。魔物討伐に関しても、実際に討伐してくださってるっていうヴェルツェ子爵家はもちろん、デルヴァローゼ侯爵家にもある程度は補償金を支払わないとダメだよねえ……頭が痛いわ。
なんてことを考えてると、どうしても眉間にしわが寄る難しい顔になっちゃうので、こりゃいかんとばかりに私は笑顔をお母さまに向けた。
「お母さま、わたくしまたちょっといいおやつを思いついたのです」
「まあ、今度は何かしら? どんなおやつ?」
ふふふふ、さすがにお母さまも興味が湧きますよね。
だから私は次に、笑顔をマルゴに向ける。
「マルゴ、明後日からわたくしは二連休で学院がお休みなので、ぜひ試作をしたいのよ」
「それはもう大歓迎でございます、ゲルトルードお嬢さま。ご用意しておく材料などはございますでしょうか?」
マルゴも大乗り気だ。
「材料は、お砂糖と牛乳とバターよ。お砂糖はまだ残っているわよね?」
「増えておりますですよ、ゲルトルードお嬢さま。本日、アーティバルトさまがハンバーガーを引き取りに来られたさいに追加をお持ちくださいましたので」
おおう、アーティバルトさんっていうか公爵さま、その辺りはぬかりナシなのね。
「それはよかったわ。またたくさん、お砂糖も使いたいの」
そう言って、私はキャラメルについてマルゴに説明した。
「ほら、プリンに使う黒いソース、あれの応用という感じかしら。お砂糖を水に溶いてお鍋で煮詰めるのではなく、溶かしたバターと牛乳にお砂糖も加えてお鍋で煮詰めてみようと思うのよ」
「おや、新しいソースを作ってクッキーやパウンドケーキに合わせられるのでしょうか?」
「それも美味しそうね!」
さすがマルゴ、そういう発想がすぐに出てくるんだよね。
「でも、今回はちょっと違ってソースじゃなくて、それ自体を食べるおやつにしたいの。黒いソースみたいに焦がすのではなく、ちょっともったりした感じまで煮詰めたところで火を止めて……」
私の説明を、マルゴは身を乗り出して聞いてくれる。
「ゲルトルードお嬢さまのお休みは明後日でございますね? ぜひ、いまお話しくださったおやつを作ってみましょう!」
「ええ、ぜひ作りましょう」
そして私は、お母さまにも言う。
「お母さま、今度のおやつはひとつひとつを小さめに作っておいて、手軽に口にできるようにしたいと思っているのです。そうすれば、お母さまも執筆の合間にちょっと甘いものが欲しくなったときなどに、さっとお口に入れられると思いますので」
「なんてすてきなの、ルーディ!」
お母さまも、なんだかうっとり答えてくれちゃう。
「そう、そうなのよ、ちょっと何か甘いものが欲しくなるときってあるのよね。でも、あらためてお茶を淹れてもらって休憩してしまうと、集中力が切れてしまいそうになるし」
「はい、わたくしも試験勉強のときに、お母さまがいまおっしゃったことと同じようなことを、切実に感じたのです。だからそういう、ちょっと甘いものが欲しいときに、さっと口にできるようなおやつを作りたいと考えたのです」
「どうしましょう、本当に楽しみだわ」
それからマルゴには、今日は商会店舗へ行けなかったので、パウンドケーキの角型の追加発注も明日以降になるということも話した。
「明日の放課後、商会店舗へ行けるようなら行ってくるわ。無理なようであれば、お休み明けになってしまうと思うけれど」
「もちろん、ゲルトルードお嬢さまのご都合のよろしいときで構いませんので」
うん、いや私がね、早く精霊ちゃんの魔動ハンドブレンダーを使ってみたいのよ。だからできるだけ早く、そのアタッチメントをエグムンドさんに作ってもらいたいのよー。
食事を終えて、私はお母さまと一緒に居間へ移動してお茶を淹れてもらう。
今日もやっぱり公爵さまとの相談事について、お母さまに報告しておかないと、なのでね。
それでまず私は、お母さまに訊いてみた。
「お母さま、クルゼライヒ領はウォードの森という大きな森を他領と共有しているのですが……そのウォードの森に魔物が出ることについて、何かお聞きになったことはありますか?」
「いいえ、何も聞いたことがないわ。というか、クルゼライヒ領に魔物が出るの?」
あー、お母さまの顔色が変わっちゃった。やっぱりお母さまもご存じなかったのね。
「そのようです。わたくしも今日初めて知りました。それも、毎年春先と秋に大型の魔物が出るそうなのです」
「それは……討伐が必要だということ?」
不安げな表情を浮かべちゃったお母さまに、私は正直に言わなきゃなんない。
「そうなのです。ウォードの森は、クルゼライヒ領と隣接のヴェルツェ領、およびデルヴァローゼ領が共有しているため、その三領で協議して討伐してきていたそうです。ところが、ベアトリスお祖母さまがお亡くなりになって以降5年間、前当主はその討伐を完全に無視していたことが、今日わかりました」
「なんてこと……」
お母さまが完全に頭を抱えてうなだれちゃった。
私だってホントにこんなこと、お母さまに言いたくないのよ。
でも、お母さまにまったく何も報告もしないで勝手に公爵さまと話を進めちゃうと、それはそれで結果的にお母さまをのけ者にしちゃうことになりかねないので、本当に微妙なのよね。
「今日、学院でたまたま魔物討伐の話題が出まして……それで、ヴェルツェ子爵家のお2人が教えてくださったのです。この秋も、ヴェルツェ領とデルヴァローゼ領だけで協議して、ヴェルツェ領のご領主が討伐してくださったそうなのです」
「それは……本当に申し訳ないことを……」
「わたくしも、まさか自領に魔物が出るなんて、まったく思ってもいませんでしたから」
今日もお母さまが自分を責めるようなことを口にしちゃう前に、私はどんどん話を進める。
「とにかく大急ぎで公爵さまにご相談させていただいてきたのです。幸い、次の春先の討伐まで少し時間がありますから、それまでに対応を考えればいいだろうとおっしゃってくださって。隣接領地とのお茶会もいずれ開く予定ですし、そのさいに討伐のご相談もさせていただこうという話になりました」
「ええ、本当に、公爵さまにはなんとお礼を申し上げればいいのか……」
やっぱりショックでうなだれてしまってるお母さまを励ますように、私は言う。
「本当にそうです。公爵さまは魔物討伐のご経験も豊富でいらっしゃるそうですから、この件についても公爵さまにお任せすれば大丈夫だと思います。それに、領地の家令に魔物討伐に関する資料も持ってくるよう、追加の手紙も書きましたし」
そんでもって、やっぱりちょっとは楽しいお話もしないと。
「魔物討伐について教えてくださったヴェルツェ子爵家のお2人は、我が家の事情をよく酌んでくださっています。だからやっぱりわたくしを責めるようなことは、何ひとつ口にされなくて。それどころかわたくし、ドロテアさまをテアと、それにドラガンさまをガン君とお呼びできるようになりました。もちろん、わたくしもルーディと呼んでもらえます!」
お母さまが顔を上げ、ちょっと目を見張って私を見る。
私はもう、思いっきり嬉しそうに言った。
「わたくしはずっと、お母さまがレオさまメルさまと、愛称だけで呼び合っていらっしゃることに憧れていたのです。だから、テアやガン君とこれからそうやって呼び合えるのだと思えると、本当に嬉しくて」
「それは……本当によかったわ」
お母さまの顔がほころぶ。「それほど仲良しになれたのね、ヴェルツェ子爵家のご姉弟と。それは本当に、わたくしにとっても嬉しいことよ」
「はい、お友だちができる、お友だちと仲良くなれるって、本当に嬉しいことです。それに、今日は算術選抜クラスの上級生のみなさまとも顔合わせできまして……」
そこで私はやっと思い出した。
「お母さま、算術選抜クラスには、リケ先生の弟さんがいらっしゃるのです!」
「えっ、リケ先生の弟さん? えっ、学院に通ってらっしゃるの? でもリケ先生は、弟さんがいらっしゃるなんて一言も……」
はい、お母さまもびっくりですよねー。
「そうなのです、リケ先生が一言もおっしゃってくださっていなかったので、わたくし、弟さんであるペテルヴァンスさまから自己紹介をいただいたとき、本当にびっくりしてしまいました。もちろん、ペテルヴァンスさまはリケ先生からわたくしのことを聞いていらっしゃって」
「リケ先生、弟さんのことを貴女にお話しになるのを、忘れていらっしゃったのね?」
「どうもそのようです。わたくしが、お姉さまであるリケ先生から弟さんについてまったく聞いていなかったということを、ペテルヴァンスさまに悟られてしまって……ちょっとしょんぼりされてしまわれて申し訳なかったです」
「そうなのね、リケ先生もそんな、うっかりされてしまうことがおありなのね」
お母さまもちょっと笑いをかみ殺すように、肩を揺らしちゃってます。
「でもペテルヴァンスさまは、お姉さまとはとっても仲がよさそうでいらっしゃいましたよ。ファビー先生のことも、ファビー姉上と呼ばれているのだとか」
なんかもう、ペテルヴァンス先輩ってホントにうっかりされちゃう不憫キャラでありながら、場を和ませてくれちゃうキャラだよね。存在自体がすでにありがたいです。
リケ先生、本日お礼にお渡ししたパウンドケーキを、弟のペテルヴァンス先輩にも分けてあげてくれたかな?





