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没落伯爵令嬢は家族を養いたい  作者: ミコタにう


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306.みんな心配してくれてる

昨日更新できなかったので本日とにかく1話更新です。

夜にまた更新できれば……頑張ります(;^ω^)

「エルンスト君とハインヴェルン領はいいかもしれないけれど、ゲルトルード嬢、貴女はこれから大変になるんじゃないの?」

 私がバルナバス先輩やペテルヴァンス先輩となごんでると、ぼそっとほかの先輩が言い出した。

 確か、3年生のヒックヴァルト伯爵家三男アルトゥース・バスタザール先輩だ。

 アルトゥース先輩は横目に私を見ながら言う。

「エクシュタイン公爵家と直接つながってる、貴女に言えばエクシュタイン公爵家に取り次いでもらえるって、強引に取り入ろうとする連中が出てくるよ、間違いなく」


「アルトゥースどの、それは……いまこの場の我らが、口をつぐんでいればいいのではありませんか?」

 バルナバス先輩がそう言ってくれたんだけど、アルトゥース先輩は肩をすくめた。

「この場の全員が黙っていても、いずれ知れ渡るよ」

「どうしてそう思うんだい、アル?」

 ペテルヴァンス先輩の問いかけに、アルトゥース先輩はうんざりと答える。

「その婚約者に逃げられたブだかヘだかの侯爵家嫡男、ほかの遠征地でも同じようなことやってるに決まってるじゃないか。ハインヴェルン領が救済されたら、ほかの被害を受けた領地が黙ってないだろ。そしたら、ゲルトルード嬢がエクシュタイン公爵家に取り次いだからだって、間違いなく知れ渡ると思うね」


 あー、はい、ほかの被害領地も名乗りを上げてもらえると、私としてはむしろ助かります。

 それに、私とエクシュタイン公爵さまとの関係を利用しようとする連中は、さっきのエルンスト先輩との一件がなくても湧いて出ると思う。てか、すでに湧いて出てる。

 だって、さっきのバカ丸出し3人組だって、あんな失礼極まりないふるまいをしておきながら、私に向かって自分たちと仲良くしたほうが有益だ、みたいな鼻で笑ってやる気すら起きないようなこと言ってきやがったもんね。

 アレって、ドロテアちゃんも言ってたけど、やっぱおこぼれにあずかりたい……つまり私を踏み台にして公爵さまに取り入りたいってことだよねえ。


 ちょっと顔をしかめちゃいそうになった私に、アルトゥース先輩はやっぱり横目で言ってくる。

「特にゲルトルード嬢みたいに小柄でおとなしそうなご令嬢だと、強引に取次ぎを――」

 ぶはっ、とドラガンくんとドロテアちゃんが、そこで噴き出してくれちゃった。

 ちょっとぉー、お2人ともまたひくひくカタカタしないでほしいんですけどぉー。


「あ、ああ、失礼しました」

 やっぱり肩をひくひくさせながら、ドラガンくんがお詫びしてる。

 そんでもってドラガンくん、やっぱり直球でデッドボールを投げてくれちゃうんだ。

「あの、アルトゥースどの、ゲルトルード嬢がおとなしそうなのは見た目だけで――」

 すかさずドロテアお姉さまが弟くんの脇腹に肘鉄を打ち込んでくれた。ってドロテアちゃんも、やっぱり仲良く同じように肩をひくひくさせちゃってるんだけどね。


 それでもドロテアちゃん、なんとか笑いを抑え、姿勢を正して言ってくれた。

「アルトゥースさま、ゲルトルードさまは上級生の男子生徒から無礼を働かれても、きっぱりと言い返されるだけの気概をお持ちですのよ」


「そうなんだ?」

 眉を上げたアルトゥース先輩……だけじゃなく、バルナバス先輩もペテルヴァンス先輩も、それにいまのところ発言がないもう1人の先輩も眉を上げちゃってたんだけど、ドロテアちゃんとドラガンくんはかわるがわる、さっきの出来事について話してくれちゃった。

 あの、バカ丸出しの上級生男子生徒3人がぶつかってきた顛末について、ね。


「……ゲルトルード嬢は笑顔できっぱりと拒絶され、しっかり嫌味まで言われたのですけれど、まさかそんなことを言われるとは、これっぽっちも思っていらっしゃらなかったようで」

 だからドラガンくん、直球のデッドボールを混ぜ込まないでほしい。

「本当にぽかんと間抜け面を、いえ、呆気にとられたまま棒立ちになっておられまして」

 ドロテアちゃん、ここでも言いました、間抜け面って。

 でも、先輩がたの視線はドロテアちゃんではなく、私に集まっちゃってます。

 えーみなさん、そんなにびっくりした顔をされなくてもー。


 てか私って、そういうイメージだったのね? おとなしくて誰かに対して口ごたえするなどもってのほか、じっと黙って耐えてます、みたいな?

 まあ、私自身ずっと学院内では気配を消してたわけだし、そもそも見た目はどうにも地味だし、それはもうある意味当然かもなんだけど。


「ええと、ゲルトルード嬢、いまの話は本当に……?」

 ペテルヴァンス先輩、そんな不審そうな顔をしてくれなくてもいいです。

「もちろん本当です、ペテルヴァンスさま」

 と、私は笑顔で答えちゃったわよ。

「そりゃ大したもんだな」

 そう言ってくれたのはアルトゥース先輩。

「なるほど、おとなしそうなのは見た目だけか」

 一言多いです、アルトゥース先輩。


「で、その間抜け面をさらしてた連中って、どんな容貌だったの?」

 非常に率直に問いかけるアルトゥース先輩に、ドラガンくんとドロテアちゃんがあの3人の髪の色や目の色、体つきなどを説明した。

 それでもう、アルトゥース先輩は相手を特定できたっぽい。

「ああ、あの3人か。そろって伯爵家の嫡男で、もう自分が跡継ぎになることが決まってるってんで、なんの努力もせずに遊び惚け、成績もカネで買ってるやつらだな」


 えっ、ちょ、アルトゥース先輩、いまなんて言いました?

 成績もカネで買う?

 あまりのことに、私は素で訊いちゃったわよ。

「あ、あの、学院の成績って、お金で買えるんですか?」

「ある程度はね」

 アルトゥース先輩が肩をすくめた。「教科による、と言えばいいかな。買収に応じる教師もいるからね」

 マジっすか……マジで、学院の成績をお金で買えちゃうんですか……。


「跡継ぎが試験の解答用紙を白紙で提出しても合格をもらえるように、当主が手配するんだ。そういう連中は一発でわかるよ。進級に関わる秋試験や冬試験なんか、試験開始とほぼ同時に白紙を提出して教室から出ていくからね。だけど、ファーレンドルフ先生の算術は」

 にやりとアルトゥース先輩が笑う。「一問も解けない0点では絶対に合格させてもらえない。あの連中も、最低限足し算くらいは覚えないと進級できない」


「ファーレンドルフ先生は、いっさい買収に応じられないんだよ」

 ペテルヴァンス先輩も苦笑しながら言った。

 そして、アルトゥース先輩が声を上げて笑っちゃった。

「だからファーレンドルフ先生は、ああいう連中からもう本気で徹底的に嫌われているのさ」


 そ、そうだったんだ……。

 でも、そうなのだとしたら、私はものすごく正しい選択をしたんじゃない?

 例の九九の表を学院で使用するにあたって、ファーレンドルフ先生にご相談いただければ、って公爵さまに伝えたのは。

 いっさい買収に応じない、まっとうな算術教師であるファーレンドルフ先生なら、誰に忖度そんたくすることなく正しく九九の表を活用してくださること間違いナシだもんね。


 そんでも高校生が、足し算ができただけで進級させてもらえるなんて、大盤振る舞いもいいトコだと思うんだけど。

 それに、解答しているフリさえせず、試験開始とほぼ同時に白紙を提出して教室を出ていくって……それって、自分は成績をカネで買ってますって宣言してるも同然だよね?

 それを恥ずかしいとも思わない連中が伯爵家の跡継ぎってさ……ホントにホンットーーーーに、そんな連中がこの国の支配者階級ってさ……。


 このレクスガルゼ王国って、大陸の中でも歴史のある大国って呼ばれてるはずなんだけど……本当に、完全に、斜陽の王国なんだ。だって、支配者階級がここまで腐ってるって、冗談抜きでただもう亡びの道を下ってるとしか思えないもの。

 私、本当にとんでもないところへ転生しちゃったんだ……。


「それでも、しばらくは十分注意したほうがいいな」

 ちょっと遠い目になっちゃってた私に、アルトゥース先輩が言ってくれた。

「ああいう見栄と体裁しかないような連中は、人前で恥をかかされたこと、つまり自分の体面を傷つけられたと感じることには恐ろしく執着するから」

「ご忠告ありがとうございます」

 私は笑顔で答えちゃったんだけど、アルトゥース先輩だけじゃなく、みなさんすごく心配してくれてるっぽい。


「学内では基本的に、私たちと一緒に行動するようにしようと、先ほど話しました」

 ドラガンくんが言ってくれる。

 ドロテアちゃんも言い出してくれちゃう。

「それに、ゲルトルードさまは通学にも男性の従者を伴っておられます。その従者は、ゲルトルードさまに取り入ろうとする人たちをしっかりさばいているようですし」

「そうだな、エクシュタイン公爵閣下がゲルトルード嬢を後見されていることはすでに広まりつつあるし、さすがにあまり露骨なことはしてこないんじゃないか?」

 ペテルヴァンス先輩も言ってくれて、ちょっと安堵したような空気がその場に流れました。


 うん、ああいう見栄と体裁しかないような連中って、相手が強者だと媚びまくると思う。

 さっきだって、向こうから一方的に因縁つけてきておきながら自分たちと付き合うほうが有益だとか、ホンットに卑しい下心が透けるどころか丸見えだったからね。

 ただまあ、逆ギレされちゃうのだけは困るけど……でもこれから、私のバックがエクシュタイン公爵さまだけじゃなく、四公家のすべてと王家までそろってるって知られるようになったら、ああいうバカ丸出し連中がどういう態度をとってくるのか、ある意味見ものかも。


 私は再度、笑顔で言った。

「はい、ドロテアさまとドラガンさまもご助力くださいますし、わたくし自身もそれなりに対策をしております。それでも十分気をつけたいと思います。アルトゥースさまには、ご忠告いただいて本当にありがとうございます」


 アルトゥース先輩、ちょっと皮肉屋さんっぽい感じはするけど、根は良い人っぽいよね。

 この算術選抜クラス、思わず全問正解なんてうっかり事故で流されてきちゃったわりには、いいメンバーがそろってるすごくいいクラスなのかもって気がしてきたわー。


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― 新着の感想 ―
[一言] クズ貴族ホイホイして、ボロ出させて廃嫡ラッシュかな?
[良い点] なるほど…前話の微妙な表情は「その方は大人しい見た目の皮を被った、強気のご令嬢なのに」的な、ルーディ=羊の皮を被った狼状態なことを知ってる→アルトゥース先輩達も気付いてないのを見て笑いを堪…
[一言] ゲルトルートには一度衆人環視の中その腕力を振るってほしいw 投稿お疲れ様です。
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