303.カタカタしちゃう?
遅くなりましたが追加で1話更新です!
そして「次にくるライトノベル大賞2023」単行本部門4位ありがとうございます!!!!
ホントにただ、せっかくできたお友だちと一緒に、気軽におやつを食べたいだけなのに……しょんぼりしちゃった私に、ドロテアちゃんが声をかけてくれる。
「ゲルトルードさま、その、お茶会は特に貴族女性の間では駆け引きの場になりますから……後見人でいらっしゃるエクシュタイン公爵さまが警戒されるのは当然のことですわ」
「うん、ゲルトルード嬢は、ご令嬢同士の会話にまったくついていけないと、ご自分でも言われていたことだし」
ドラガンくんや、キミはお姉さまに対してだけじゃないんだね、誰に対しても直球でデッドボールを投げる派なんだね?
でも事実だからね……ホンットにうかつにお茶会に招かれることも、招くことも、いまの私には厳しいのよ……。
それでも、ねえ?
私は3人そろって講義棟のドアをくぐりながら訊いてみた。
「けれど、その寮の食堂では生徒同士でお話しなどされながら、おやつやお食事を召し上がったりされるのでしょう?」
そういう場にも私は混ざっちゃいけないっていうのは……いや、もしかして私がおやつを持ち込まなければいいのか?
で、やっぱりお2人は顔を見合わせちゃってるんだけど。
「んー……どうでしょうね、あまり生徒同士で会話などしながら食べるということはないです」
そうなの?
答えてくれたドロテアちゃんがうなずく。
目を見張っちゃった私に、ドラガンくんも言ってくれた。
「我が家のように、きょうだいや親族がともに寮住まいをしているような場合は、たいがい一緒に食べていますけれど、基本的に生徒も教師も1人で席に着きますね」
そういうもんなの?
本気でびっくりしちゃった私に、ドロテアちゃんとドラガンくんは顔を見合わせて苦笑してる。
「我が家は、家族そろって食事をするときは本当ににぎやかで……いろいろなことを話しながら食事をしますので、寮の食堂で誰もが黙って食べているという光景が、かなり不思議でした」
ドラガンくんがそう言って、ドロテアちゃんもうなずいてる。
「そうなのです、我が家はちょっと変わっているらしくて」
「寮生同士というか、生徒同士や先生がたと話したいときは、談話室に……」
そう言いかけたドラガンくんが突然、私の方へ体を傾けた。
と、同時に、ドロテアちゃんがぎゅっと私の腕をつかんで自分のほうへ引っ張った。
えっ、ナニ?
ワケがわからなくてされるがままだった私が事態を飲み込めたのは、1秒後だった。
廊下の向こうから歩いてきた生徒……3人連れの男子生徒が、すれ違いざまにドラガンくんにぶつかってきたんだ。
いつものごとくドラガンくんとドロテアちゃんの間にいた私は、ドロテアちゃんに腕をとられて廊下の端に引っ張られていた。
ドラガンくんも、廊下の端に退避した私とドロテアちゃんのほうへ身を寄せていたので、その男子生徒たち……結構大柄な連中だったんだけど、その直撃は免れた。それでも、ドラガンくんの肩に結構強く腕をぶつけてきた感じだった。
「おい、気を付けろ! 無礼な奴め!」
そう言ったのはドラガンくんじゃない。
故意にぶつかってきた連中のほうだ。
「ぶつかってきたのは、そちらでしょう」
表情のない顔で、ドラガンくんはそう答えた。
男子生徒3人組は……どうやら上級生のようなんだけど、ドラガンくんを威嚇するように睨みつけてる。でもドラガンくんは淡々と抗議した。
「女子生徒もいるのに、危険な行為は止めていただきたいです」
「ふん、子爵家風情が偉そうに」
私たちからいちばん遠い位置にいる男子生徒がそう言って、それから私たちにいちばん近い位置にいる男子生徒……ドラガンくんに直接ぶつかってきた男子生徒が大仰に言い出した。
「ああ、これはこれは、このところ評判のクルゼライヒ伯爵家のご令嬢ではありませんか」
薄ら笑いを浮かべ、3人の男子生徒はドラガンくんを無視して私に言ってきた。
「まさか、伯爵家のご令嬢がご一緒だとは」
「このような下位貴族家の者たちとあまり親しくされないよう、ご忠告差し上げておきましょう」
「多少学業は優秀だったとしても、所詮子爵家ですからね」
「我らのように、身分の釣り合う相手と親しくされるほうがはるかに有益ですよ」
「そもそも、女子はあまり賢くないほうがかわいげがあってよろしいかと」
いやーホントに、ホンットに、こんなバカ丸出し連中がこんなケチ臭い因縁つけてくるんだ?
なんかもう私、逆に感動しちゃったんですけど?
あざけりのニヤニヤ笑いで私を、というか私たち3人を見ているその男子生徒たちに、ドロテアちゃんはもちろん表情を消してたドラガンくんも、ものすっごい不快感をその顔に浮かべてる。
ドロテアちゃんが、私の腕をつかんでる手にぎゅっと力をこめ、一歩踏み出そうとした。だけどそれより早く、私は口を開いた。
「わたくしのほうからこのお2人に、親しくしていただけるようお願いしたのです」
私はにっこり言ってやったわよ。「どちらのご家中かは存じ上げませんが、残念ながら貴方がたのような頭のお悪いかたと親しくさせていただくことなど、わたくしには到底考えられません。ええ、お名前などちょうだいしなくて結構です。知りたくもございませんから。よろしければ二度とわたくしにお声がけなどしてくださらないよう、心からお願い申し上げますわ」
ったく、すっかり身に着いちゃった口元は笑ってるけど目は笑ってない笑顔を貼り付け、私はスパッと言ってやった。なんかもう、あのDV確実ゲス野郎に思いっきり啖呵切っちゃったからね、私ってばこういうバカ相手になんでも言えるようになっちゃったかも。
でも言われたバカ丸出し3人組は、一見大人しそうで貧相な小娘の私から、そんなことを言われちゃうなんて夢にも思ってなかったんだろうね、そろってぽかーんとしちゃってる。
私は、今度はちゃんと本気の笑顔をドロテアちゃんとドラガンくんに振りまいた。
「ドロテアさま、ドラガンさま、授業に遅れてしまいます。急ぎましょう」
「あ、ああ、はい」
「そうね、教室へまいりましょう」
ハッとしたように答えてくれたお2人と一緒に、私はその場を後にした。
3人そろって教室に滑り込むと、もう先生が教壇へ上がる寸前だった。
ひゃー、ホンットにギリギリセーフだったわ。先生が教壇へ上がっちゃうと教室の出入り口が完全に閉じられてしまって、先生から許可をもらわないと教室に入れなくなっちゃうんだよね。
空いてた席に3人並んで腰を下ろし、急いで教科書を出して……って、あの、なんか私の両サイドからカタカタと振動が伝わってくるんですけど?
だからなんで、ドロテアちゃんもドラガンくんも肩を震わせながら必死に笑いをこらえてんの?
授業が始まるとさすがに、ドロテアちゃんもドラガンくんも真面目にノートを取り始めたんだけど……ときどき、なんかこう思い出したように、カタカタと振動してくれちゃうんだよ。
それもね、左で揺れだすと右側も引っ張られるように揺れだして、逆に右から揺れ始めて続いて左側も、なんて感じで。ホントになんでそんなに仲良しなのよ、このご姉弟は。
だけどこんなに肩を震わせながら笑いをこらえていられるってことは、ドラガンくんはさっきぶつけられた肩も大丈夫なのかな?
授業が終わって、私のとなりに座ってたドラガンくんが、ふーっと息を吐いて教科書とノートを片づけてから私のほうを向いて……だからなんで、ぶはっと噴き出しちゃうわけ?
さすがにそれは失礼でしょ、ドラガンくんさあ。
でもって、反対サイドに座ってるドロテアお姉さまも、弟くんをたしなめようとして……やっぱりぷっと噴き出してくれちゃってさ。なんなのよもう、ぷんぷんだわよ。
「ご、ごめんなさい、ゲルトルードさま」
ドロテアちゃんが肩をひくひくさせながら言ってきた。
「決して貴女のことを笑っているのではないの、ただあの連中の間抜け面、いえ、あの上級生の方がたの呆気にとられたお顔を思い出すと、どうしても笑いがこみ上げてきてしまって」
いま、間抜け面って言ったわね、ドロテアちゃん? なかなかナイスな表現です。
「本当にあいつらの間抜け面、いや、ゲルトルード嬢から何を言われたのかまったく理解できていないあの顔を思い出すと、どうにも」
ドラガンくんまで、間抜け面って言ってるし。
でもって、ドロテアちゃんはもう取り繕うこともなく言ってくれちゃう。
「ご自分の無礼さが理解できないような方がたですもの、ゲルトルードさまのおっしゃったことを理解されるのも難しいのでしょうね。滅多に見られないものを見せていただきましたわ」
「そのように思っていただけるのであれば、いいのですけれど」
私は頭を下げた。「ただ、お2人にはご不快な思いをさせてしまって、本当に申し訳ございませんでした」
「何を言うの? ゲルトルードさまのせいではありませんわよ?」
ドロテアちゃんが慌てて否定してくれて、ドラガンくんも同じように慌てて言ってくれる。
「そうです、ああいう連中、いや、ああいう何か勘違いされているような方がたには、我々姉弟もしょっちゅう絡まれていますから」
「しょっちゅう絡まれている、って……」
さすがにびっくりして思わずそう言っちゃった私に、お2人は顔を見合わせて肩をすくめてる。
「私たちのような下位貴族の子女がよい成績を収めているのが、よほど気に食わないのでしょう」
「特にわたくしは昨日もお話しました通り、女子は頭が悪いほうがかわいげがあるといったようなことを、さんざん言われていますわ。先ほどの無礼な人たちも、ゲルトルードさまに向かって言っていましたけれど」
女子のドロテアちゃんだけじゃなく、男子のドラガンくんも爵位が低いからってだけで……要するに生意気だとか目障りだとか、そういうことだよね? そんな幼稚な考えでドラガンくんたちに直接攻撃してくるって……ホンットにこの国の貴族って終わってない?
いや、いま目の前にいるこのお2人のように、まっとうな人たちもいるんだけど。
「それでも、しばらくは特に警戒されたほうがいいと思います」
ドラガンくんが声を落とし、表情を改めて言ってきた。
「まさか、自分たちが見下しているご令嬢から、あのようなことを言い返されるとは、あの連中はまったく思ってもいなかったでしょうから」
「もしゲルトルードさまをお茶会に招きたいのであれば、さすがにあのような無礼な態度はとらないでしょうし」
ドロテアちゃんも声を落としてる。「単純にもう、女子であるゲルトルードさまが何かと話題になっていらっしゃるのが気に食わないのでしょう。それでいて、おこぼれにあずかりたがっているようないやらしさも透けて見えましたけどね。それだけに、さらになんらかの嫌がらせなどをしてくる可能性がありますわ」
お2人は顔を見合わせてうなずき合ってる。
そしてドラガンくんが真摯な声で言ってくれた。
「学院内では基本的に、従者は生徒についていることができません。とにかく私たちがご一緒してできる限り周囲に気を配りますが、ゲルトルード嬢自身も警戒なさってください」
私はもう深々と頭を下げちゃった。
「ご忠告、ならびにご助力いただけること、本当にありがとうございます」
いや、たとえ我が家とのお取引をスムーズに再開したいなんていう下心があるのだとしても、もうそういうのは関係なく、本当にいい子たち過ぎると思うの、ヴェルツェ子爵家のご姉弟は。両サイドでカタカタされちゃうのはちょっと気になっちゃうけど。
次にくるライトノベル大賞2023、本当にノミネートしていただけただけでも「ウソやん?」な気分だったのですが、まさか4位にしていただけるとは。
すべて、ご投票くださったみなさまのおかげです。
本当に本当にありがとうございますーーーー!!!!





