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没落伯爵令嬢は家族を養いたい  作者: ミコタにう


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29.ツェルニック商会再び

昨日はまったく更新できなかったのにPVは10000近くいってるし、ユニークアクセスも3日間で1500近く! びっくりです! 本当にありがとうございます!

 翌日も朝から、私はナリッサと一緒に衣装箱を新居へと運んだ。

 今朝は一往復のみにしておいた。お昼前にツェルニック商会が訪問すると、昨日カールが返事を持って帰ってきていたから。


 ちなみに。

 ちなみに!

 マルゴのご飯、めっちゃ美味しかった!


 昨日の夕飯は、薄く切られたベーコンでアスパラガスのような野菜とチーズを巻いて焼いたものに、さっぱりとしたドレッシングで和えたたっぷり野菜のホットサラダ、パンは焼きたてで外はパリッで中はふわふわだし、デザートに林檎のコンポートまであった。

 それに何よりにんじんのポタージュスープ。牛乳と生クリームをたっぷり使った淡い黄赤色のとろりとしたスープに、鮮やかな緑色の豆がころんころんと入ってた。

 にんじんが苦手なアデルリーナは、こわごわといった感じで口に運んでいたんだけど、一口食べたとたん『美味しいです!』と声をあげちゃったくらい。

 ああもう、アデルリーナがあんなに美味しそうににんじんを食べられるなんて!


 しっかしマルゴ、やるなあ。貴族家のお嬢さまが苦手だって言ってたにんじんを、いきなり初日の食事にもってくるんだもんね。よっぽど自信があるんだろうな。私たちはどうせそんなに量も食べられないし、品数は少なくていいから美味しい料理を、ってお願いした通りのメニューだった。

 でもホントに美味しいスープだった。これでアデルリーナもにんじんへの苦手意識がかなり減ったんじゃないかな。

 うん、マルゴに来てもらって本当によかった!


 ついでに言うと、この世界の食材はほとんど私が日本で食べていたものと変わらない。にんじんはにんじんだし、じゃがいもはじゃがいもだ。チーズもチーズだしベーコンもベーコン。お肉の種類は豚っぽいのと牛っぽいのと鶏っぽいのを食べたことがあるけど、実際豚なのか牛なのか鶏なのかはわからない。

 魚の種類はさらによくわからない。白身の魚を食べたことはあるけど、鮭みたいな身色の魚は食べたことがない。このレクスガルゼ王国は内陸国なので、海産物自体あまり食べられてないみたい。


 とりあえず野菜とか果物に関しては、日本人としての私の記憶にはないものとか、なんかビミョーに違うようなものとかもあるようなんだけど、おおむね日本人感覚で料理を考えても大丈夫な感じなのよね。


 で、マルゴが作り置きしておいてくれた朝食も、じゃがいもとかぼちゃと緑豆で作った3種類のペーストが用意されていて、それを好きなだけパンに塗って食べたんだけど本当に美味しかった。

 じゃがいもは酸味のあるドレッシングで味付けしてあるし、かぼちゃははちみつで甘く仕上げてあるし、緑豆はほどよい塩気があるしっていう、味も3種類なんだもの。甘いの辛いの酸っぱいのって交互に食べると永久機関だよね、永遠に食べ続けられちゃう感じ。

 ほかにもベーコンと玉ねぎのたっぷり入ったスープも用意してあって、カールが温めなおして出してくれたし。ホントに朝からたんまり美味しいご飯にありつけちゃった。


 私だけじゃなく、家じゅうみんながマルゴのご飯に満足しまくっていたようで、カールやハンスたちはもちろん、いつも澄ました顔でほとんど表情を崩さないナリッサでさえ、なんだか機嫌よさげに見えちゃう。


 そんでもって荷物を運んで戻ってきたときも、居間でお母さまと一緒に待っていたアデルリーナが嬉しそうに言ってくれちゃうの。

「ルーディお姉さま、今日のおやつはりんごのパイなのですって! マルゴがいま焼いてるって、カールがさっき教えてくれましたの!」


 あああああああもう、もう、もう!

 マルゴってばホンットにもう! このかわいいかわいいかわいいアデルリーナにこんなかわいいかわいいかわいい顔を! ええもうマルゴの焼いてくれた林檎のパイなら絶対美味しいわ、今日もみんなで一緒にいただきましょうね!



 で、おやつの前にツェルニック商会である。


 我が家を訪れたロベルト兄とリヒャルト弟は、恭しく挨拶するなり言ってくれた。

「ゲルトルードお嬢さま、本日はまたすてきなお衣裳をお召しですね!」

 私は例のブリーチズにジレという格好をしてた。

 服飾品担当のリヒャルト弟は特に興味津々という顔だ。


「そちらは、奥さまのお衣裳部屋にあったブリーチズをお直しされたのですか? 確か大奥さまがお遺しになられたお衣裳だと伺いましたが」

「そうなの。お引越しの準備のために動きやすいよう、お祖母さまのお衣裳をシエラがお直ししてくれたのよ」

 私はそう言ってシエラを紹介した。


 シエラが元お針子だと知って、リヒャルト弟はさらに興味津々になってる。

「こちらはどのようにお直しを? お腰回りにはタックを入れて、裾にはダーツを? なるほど、その上にこちらのジレを合わせたわけですね?」

 矢継ぎ早に質問してくるリヒャルト弟に、シエラはたじたじだ。でも、さすがお針子の仕事自体は好きだったと言うだけあって、やっぱりシエラもどこか嬉しそうだわ。


 それでも今日も絶好調なリヒャルト弟を、ロベルト兄がぶった切る。

「まずはゲルトルードお嬢さまにご試着を願いましょう」

 なんかロベルト兄の笑顔もちょっと怖いよ。

 ツェルニック商会は、今日は侍女服やお仕着せの相談だけでなく、前回お願いしたお仕立て直しドレスも持参してくれているらしい。


 それで早速、私はツェルニック商会が持参したドレスに着替えさせてもらった。あの紺青色の夜会にも着られるドレスではなく、若草色のデイドレスだ。

「ゲルトルードお嬢さま、とってもお似合いです!」

 シエラが目をキラキラさせている。

 リヒャルト弟がどや顔でシエラに説明するんだ。

「ゲルトルードお嬢さまが明るいお色をお召しになる場合、こういうやや抑えめの黄色や緑色系統のお色がおすすめなのです。抑えめの色味のほうが、ゲルトルードお嬢さまのお肌の透明感が引き立つのですよ」

「ええ、本当にすてき! お色もだし、この直線的なすっきりとした形がまたとってもお似合いですわ!」

 なんだかシエラまで饒舌になっちゃってんですけど。


 実際、自分でもびっくりするくらいこの若草色のドレスは似合ってる気がする。こんな明るい色で大丈夫なのかと、私も最初は思ったんだけどねえ。

 なんか黄緑っぽい色だけど確かに少しくすみがあって明るすぎない色だし、そこにアイボリーのピンストライプが入っているから、すっきりしたデザインなのに貧相にも見えないんだよね。かわいらしすぎない程度に、若い令嬢向けの明るくて上品なデザインになってる。

 いやーホント、いい仕事してくれるよ、ツェルニック兄弟は。キャラは濃いけど。


「本当にすてきよ、ルーディ。とっても似合っているわ」

「すてきです、ルーディお姉さま」

 お母さまもアデルリーナもなんだか大喜びしてくれて、ツェルニック商会が連れてきていたお針子さんにその場で微調整してもらい、この若草色のデイドレスはそのまま受け取ることになった。

 あの紺青色のドレスを含めた残りのお直し衣裳は、また後日仕上がり次第持ってきてくれるということだ。


 そして今度はナリッサとシエラの採寸である。

 侍女服をイチから仕立てている時間がないので、既製服をお直しして着てもらうことになる。余裕ができたら我が家のオリジナルデザインで仕立ててもいいかも、なんだけど。そのほうが絶対シエラも喜ぶよね。

 それからヨーゼフとカール、ハンスも採寸だ。みんなとりあえず既製服をお直しした衣装を着てもらうことになってる。

 ヨーゼフには新居が落ち着いたら、イチから仕立てた紳士の衣裳を一揃い、私たちから労いの意味を込めて贈ることにしてる。カールとハンスに関しては、まだまだ背も伸びて体形が変わるだろうから、当面は既製服の着回しで我慢してもらう予定だ。


「では、レースの付け襟と襟元のリボンを追加させていただいて……先ほどのお話通りナリッサさんは濃緑色のリボン、シエラさんはえんじ色のリボンでよろしいですか?」

 採寸の後は客間で具体的なデザインの相談だ。

 侍女服は基本的に、黒のワンピースドレスに白いエプロンの組み合わせになる。ツェルニック商会はちゃんと見本を何着か持ってきてくれていた。


 ドレスに関しては、ナリッサもシエラも動きやすさ重視であまり装飾がないものがいいとのことだった。ナリッサは、エプロンも洗濯しやすくて火熨斗アイロンもかけやすいよう、フリフリヒラヒラのまったくないものがいいなんて言ってる。

 我が家では基本的に洗濯物は洗濯屋に出してるんだけど、モノによっては侍女や下働きが洗う場合もあるからね。


 でもそれじゃあんまりシンプル過ぎるので、ちょっと贅沢なレースの付け襟とリボンを追加することになった。リボンはそれぞれ好きな色を選んでもらった。


 ヨーゼフには紳士の既製服で体に合うものを少しお直ししてもらい、カールとハンスには既製服の中からよさそうな組み合わせをリヒャルト弟に選んでもらうことにした。基本的にはシャツとトラウザーズ、それにベストとジャケットにコートだ。ついでにブーツや靴下も頼んでおく。

 後日、そちらも何点か持参するって言ってくれてるけど、リヒャルト弟は本物のプロだから、ちゃんとカールとハンスに似合うコーディネイトで決めてくれるよね。


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― 新着の感想 ―
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