293.うっかり大物を釣り上げてしまった?
本日2話目の更新です。
明日もちょこっと更新する予定です( *˙ω˙*)و グッ!
「それでルーディちゃん、さっきスヴェイが言っていた、ヴェルツェ子爵家のご姉弟って……」
おやつを食べ終えたところで、公爵さまが言い出した。
そうなのです、本日の相談事はそのヴェルツェ子爵家のご姉弟ならびにヴェルツェ領とのお取引についてなのです。
私は今日学院であったことを、公爵さまに説明した。
いや、私が総合成績の三席だったことまでは言う必要ないと思うからね、端折ったけどね。
公爵さまは、熱心に聞いてくれた。
ヴェルツェ子爵家のご姉弟が、護衛のごとく私をお茶会勧誘の嵐から守るためにがっちり両脇を固めてくれたこと、それによって自分たちの要求を私に聞いてもらいやすくしようとしたこと。
「それでも、本当に正直で気持ちの良いご令嬢とご令息だったのです」
私は公爵さまがドロテアちゃんとドラガンくんにできるだけ好印象をもってくれるよう、頑張って説明する。
「そういう、ご自分たちの意図も包み隠さず話してくれましたし。それに、あの、前当主がしたことについても、わたくしに対しては責めるようなことは一言も口にはされませんでした」
一応ね、我が家が伯爵家なので子爵家より格上だから、っていうのもあるかもしれない。身分が上の者に対して無礼を働くことはできない、っていう。
学院の生徒はみな平等、っていう建前はあるけどね、それはあくまで建前だからね。
でもあのお2人は、たぶん我が家の『家庭の事情』もある程度理解してくれたからだと思うんだけど、相続人である私を責めるようなことは本当に何も言わなかった。
それになにより、私がお2人のお母さまを素直に賞賛したことについて、本気で喜んでくれていたと思って間違いないし。それによってまあ、ドラガンくんはぶっちゃける気になってくれたんだと思うしね。
「わたくしとしては、今後もヴェルツェ子爵家のご姉弟とは仲良くしていきたいのです。そのためにも、できる限り早急にヴェルツェ領とのお取引を再開したいのです」
「そういうことね」
公爵さまがうなずいてくれて、私は思わずホッと息を吐きそうになった。我慢したけど。
「それでは、どのようなお取引をすればいいのか……」
ぜひ品種改良されたお芋を、甘みが強くて茹でても水っぽくなりにくいというコロッケにぴったりなじゃがいもをお取引させていただきたく……!
と、私がちょっと前のめりになったところで、公爵さまが言ってくれた。
「ちょうど、クルゼライヒ領の家令から手紙がきたところなのよ」
公爵さまがすっと手を伸ばすと、アーティバルトさんがどこから出してきたのか一通の手紙を差し出した。
「ルーディちゃんと面会できるならすぐにでも王都に出てきたいのだけれど、一方でルーディちゃんにはぜひ領地の状況を詳しく説明したいらしくてね」
あー、そうでした、領地の家令が私に会いに来たいって言ってましたねー。
公爵さまが、その家令からの手紙を私に見せてくれた。
「この秋の領内の収穫状況や売買の収支など、しっかり帳簿をまとめて持参して、ルーディちゃんに見せたいらしいわ。その帳簿の作成にまだ少し時間がかかるとのことよ」
家令からの手紙には、なんかこう、私に対する期待感がぼろぼろとあふれ出ているような、そういうことがいっぱい書いてあるんですけどー。
いや、領地の帳簿とか、いまの私が見てもさっぱりなんのことやら、だと思うんだけど、それでも家令は『領主』である私に、きちんと報告したいらしいのよ。
公爵さまが私のことを、とっても聡明だとか発想がすばらしいだとかさんざん書いた手紙を家令に送っちゃったもんだから、なんかもう家令もすっかりその気に……だから公爵さま、勝手に私に対するハードルを上げないでほしい。ホンットに切実にそういうの止めてほしい。
その公爵さまはやたら満足げに言ってくれちゃう。
「あの家令はしっかりしていると思うわ。おそらく、先代未亡人がご存命だったときはヴェルツェ領とどのような取引をしていたか、きちんと覚えているはずよ。詳しく訊いてみなさいな」
「わかりました」
私はうなずいた。
だって、うなずくしかないじゃん。
「ではどうしましょう。今後はわたくしが自分で、家令に手紙を書いたほうがいいでしょうか?」
少し考えた公爵さまが答えてくれた。
「そうね、ではルーディちゃんもお手紙を書いてみる? ちょうどその、ヴェルツェ領との取引について詳しく知りたい、という内容でいいと思うの。それを、わたくしが書く手紙に同封して送りましょう」
と、いうことで、私はその場で家令に当てた手紙を書くことになりました。
一応ね、お借りしてる収納魔道具には我が家の紋章入り便せんも入れてあったからね。公爵さまに添削してもらいながら書いたの。
領主が領地の家令に送る手紙なのだから、本当に用件だけでいい、ただその用件はできるだけ明確に伝わるように書く、とかね。
そういう指導をここでしてもらえたのは、ラッキーだったと思うわ。私はホンットにそういう細かいこともすべて、領主としてのふるまいに関しては教えてもらわないとわからないから。
私が手紙を書いてる横で、公爵さまも我が家の家令宛の手紙を書いてくれてたんだけど……そこんとこ盛らないでください! と何度か言いたくなったけど、さすがに言えなかった……家令、実際に私と会ったら、そうとうガックリしちゃうんじゃないかな……。
私が書き上げた手紙を公爵さまが確認してくれる。
「これなら大丈夫よ。家令のほうで、必要な資料を用意してくれるでしょう」
はい、その点については私も期待してます。
だけどそこで、公爵さまはちょっと眉間にシワを寄せて言った。
「でも、だからスヴェイが、ヴェルツェ子爵家のご姉弟に注意を払っていたのね……」
そういえば、このモードのときの公爵さまって、あんまり眉間にシワが寄ってない気がする。いや、さっきまで美味しいおやつを食べてたってのもあるかもだけど。
とりあえずまた、私はうなずいておく。
「スヴェイさんは個室棟へきてくださったご姉弟にも、自分から声をかけられたようで……お2人がわたくしに積極的に近づいてこられたことで、お2人の情報収集をしてくださっているのだと思います」
「ええ、そうなのよね……」
うなずいて、公爵さまはちょっとためらった。
けれど、少しばかり苦笑しながら、公爵さまが言ってくれた。
「スヴェイがね、いまの貸し出し状態ではなく、正式にクルゼライヒ伯爵家で雇ってもらいたいって言ってきてるのよ」
「は、い?」
公爵さまがナニを言ってるのか、私はとっさに理解できなくてきょとんとしちゃった。
でも公爵さまはやっぱり苦笑しながら、繰り返してくれた。
「スヴェイは現在、王家の直属ではあるのだけれど……国家保護対象固有魔力保有者として必要な国に対する勤めはすべて終えているの。だから自分で勤め先を選べるのよ。それでぜひ、クルゼライヒ伯爵家に、というか、ルーディちゃん、貴女に仕えたいって言っているの」
2秒くらい真顔で固まってから、私は顔が一気に引きつるのを感じちゃった。
いや、だって、スヴェイさんってマジで国王陛下の隠密的警備とかやってるような人で、間違いなく国家トップレベル人材だよね?
そんな人がなんで、わざわざ好き好んで我が家に、っていうか私に?
そう思って……私はハッとした。
本気でハッとばかりに目を見張っちゃった私に、公爵さまがぼそりと訊いてきた。
「ルーディちゃん、貴女、スヴェイに何をどれだけ食べさせたの?」
それだーーーー!
ああああああ、スヴェイさんってば食いしん坊派閥の人だったよ! どうしよう、私、ハンバーガーで国家トップレベル人材を釣り上げちゃったんだーーー!
愕然としちゃってる私に、アーティバルトさんまで苦笑しながら言ってきた。
「まあでも、スヴェイさんは条件的には本当にいいですよね。情報収集にも慣れているし、それになにより、ルーディちゃんの護衛も兼ねられるし」
「そうなのよねえ」
公爵さまもため息をついてる。「ギュストお義兄さまも、相手がルーディちゃんだとなれば間違いなくスヴェイを手放してくださると思うわ。むしろ、しっかりルーディちゃんに仕えなさいって送り出してくださるんじゃないかしら」
いや、そんな、ギュストお義兄さまって、国王陛下のことですよね?
陛下が送り出してくださるとか、そんな……やっぱりあまりのことに口をぱくぱくさせちゃいそうな私に、今度はちょっと真面目な口調でアーティバルトさんが言った。
「でも本当に、ルーディちゃんには情報収集ができる従者が早急に必要でしょう。今後さらにルーディちゃんに群がってくる、多くの貴族をどんどんさばいていかなきゃいけないのだし……」
「そういう意味でも、スヴェイは適任なのよねえ」
公爵さまがアーティバルトさんの言葉を引き継ぐ。「スヴェイは子爵家の次男で本人も騎士爵を持っているし、それに陛下のお側に仕えていたことで国内のあらゆる貴族家を把握しているわ。あの通り人当たりもよく、それでいて実戦経験も豊富だし」
いや、それらの点に関しては、私もすでによくわかってます。
スヴェイさん、実はめちゃくちゃ強くて相手に触れただけで倒してしまえるし……コミュ力も強くてすぐ誰とでも会話できちゃうっぽくて情報収集が得意だってのもわかるし。それに今日だって群がるお茶会希望者を、笑顔でビシバシと薙ぎ払ってくれちゃったもんね。
「こればかりは、いくら領主館に仕えている従者を呼び寄せても、できないことだと思うわ」
とどめを刺すように言う公爵さまの言葉に、アーティバルトさんもうなずいてる。
「領地の従者では、どれだけ忠誠心が高くてもまず王都に慣れることから始める必要がありますからね。それにそもそも、貴族に関する情報収集は、同じ貴族でなければ難しいでしょう」
いや、おっしゃることはわかります。
私だって、その辺のことは、ちゃんと理解はできるの。
平民のナリッサでは、ほかのご令嬢の侍女、特に上位貴族家のご令嬢の侍女を追い払うのさえ、いろいろ難しいこともありそうだし。
それに我が家の場合、使用人は全員平民。執事のヨーゼフだって平民だからね。貴族家のことに通じてるような、そういうことが期待できる使用人というか部下は現時点で1人もいない。
でも。
「あの、そういう従者が、わたくしに必要だということは、理解はできるのですが……それでも、その、スヴェイさんほどのかたにわたくしの専属となっていただくというのは……」
「何を言っているの、ルーディちゃん。貴女は爵位持ち娘であるだけでなく、現時点でクルゼライヒ領を治める権利と義務があるのよ。それに何より、貴女はこれからその名を上げていくのですからね。並みの従者では務まらないわ」
うわーん、そうですよねー。
即答されちゃった公爵さまの言葉に、私は涙目になりそうになっちゃった。
明日2/5(日)のお昼ごろに、ちょっといいお知らせができそうです。





