289.頼んだよ、精霊ちゃん!
本日2話目の更新です。
明日もきっとちょこっと更新できるハズ( *˙ω˙*)و グッ!
なんだかもう、私が思い付きでひょいっと言っちゃったことまですべて実現しようとしちゃうと収拾がつかなくなるので、とにかく最初お披露目品として何を作るのかを絞り込むことにした。
「基本の硬化のみ、それに状態保存のみ、という品はそれぞれ必要だな」
「それに加えて、硬化と状態保存の両方ができる品ですね」
「あ、できればすべての品に、熱と酸の弱点を補う付与はあったほうがいいと思います」
私たちがそれぞれ口にすることを、精霊ちゃんが紙に書き出していく。
「耐熱と耐酸は、どの程度の付与があればいいと思われますか?」
「そうですね、酸についてはお酢や柑橘類の果汁が直接生地についても問題がないくらいがいいと思います。耐熱に関しては……食器として使用するのであれば、沸騰したお湯の中に入れても大丈夫なくらいは、必要ではないかと思います」
やっぱ食器として使う場合を考えたら、煮沸消毒できるかどうかはポイントだと思うのよ。
「なるほど、それはとてもわかりやすい基準ですね」
私の意見に精霊ちゃんはすごく納得したようにうなずいて、これまたさらさらと紙に書き込んでくれる。
「遠征時に食器としても使用できる梱包材として、硬化と状態保存と耐熱強化という3種類を付与した品もあるといいと思うのだが」
公爵さまの言葉に精霊ちゃんがうなずく。
「はい、3種類付与の品も用意します」
「あ、硬化と耐熱強化という2種類付与の品もお願いします!」
私も慌てて言っておいた。だって、揚げたてアツアツのフライドポテトとかコロッケとかドーナツとかを、片手で持てるようにするための布が欲しいから。
精霊ちゃんはちゃんとうなずいてくれる。
「わかりました。それでは、硬化と状態保存の2種類を基本に考えて、そこに沸騰したお湯の中にも入れられる程度の耐熱強化も加えた3種類の付与の組み合わせで作っていきます。あ、もちろん耐酸性についても必要最低限の付与はしていきます」
「うむ、それでいいだろう」
公爵さまが満足そうにうなずき、アーティバルトさんがちょっと残念そうに言う。
「そうですね、形状記憶については当面は保留にしておいたほうが無難でしょう」
「あ、でも、そういう付与も考えているということは、ほかの研究室にも伝えて情報共有はしておきますので」
精霊ちゃんが熱心に言い出した。「形状記憶についても、とても有用な付与だと思います。ほかの研究者もきっと感心すると思います」
「情報共有することで、ほかの研究室の方がたからも、何かよい案が出てくるかもしれませんね」
私が思い付きで言ったことですら、こんなにいろいろ実現できそうなアイディアになっちゃってるんだから、専門知識のある研究職の人たちならもっといろんなアイディアを出してくれるんじゃないかな。
「そうですね」
私の言葉に、精霊ちゃんはものすごく真剣な顔でうなずいてくれる。
「この布の加工については、ほかの研究員も非常に興味をもって取り組んでくれています。皆、魔道具部全体、いや魔法省全体で取り組むだけの価値があると考えているのです」
お、おおう……そこまでしていただいているのですか……。
うん、まあ、国家の産業として興そうっていうくらいだもんね、それはもうそういうことで……いまさら私がビビってもしょうがないんだけど。
で、その辺はもう極力割り切って、私は私が欲しい製品を精霊ちゃんにしっかりお願いしておかなきゃ。フライドポテトやコロッケやドーナツを包むための布はOKだから、あとはキャラメルの包み布だ。
そしたらね、薄くて小さい状態保存だけを付与した布が大量に欲しい理由を訊かれちゃってね。新しいおやつのために必要だと言うと、安定の公爵さまががっつり食いついてきたんだけど、まだ試作もナニもできてないと言って笑顔で押し切った。
いやー、ちょっと失敗したかも。
このおっさん、いや、このおネェさん、また我が家の厨房に乗り込んで来る気満々だよ。もう早めになんとか手を打って、どこかでご本人にもお料理をさせてあげないと、だわ。
それでもなんとか、お披露目用に作ってもらう品の目途が立った。
めちゃくちゃいろいろあったけど、とっても実りの多い精霊ちゃんとの初会合だったと思うわ。
と、私が満足してお暇しようとしたとき、ふと精霊ちゃんが言い出した。
「そうだ、アレの試作品もお見せしなければ」
アレ?
えっと、なんだっけ、と私が首をかしげている間に、精霊ちゃんはまたもやほかの部屋へバタバタと走っていき、その手に何かを握りしめてすぐに戻ってきた。
ええっと、木製の棒、じゃなくて筒?
それに、もう一方の手には泡立て器を数本握りしめてる。
「コレはヒュー兄上、えっと、兄のヒューバルトを通じてご依頼いただいたモノの試作品です」
って、魔道泡立て器だーーー!
精霊ちゃんはその木製の筒、リレーのバトンを半分の長さに切ったくらいのサイズのその筒に、ひょいっと泡立て器の柄を差し込んだ。
「この状態で、こちらの筒をにぎった手から魔力を通すと……」
マジで筒の中で泡立て器がぐるぐる回り出した!
「通す魔力の量を増やすと、回転が速くなります」
しかも回転速度は無段階設定!
「僕はふだん、こういう道具を使うことがないので……何種類か適当に泡立て器を用立ててもらったのですけれど、どの泡立て器でも回転できるようにするには、こういう形がいいのかな、と」
と、言いながら精霊ちゃんは、別の泡立て器に差し替えて同じように回転させてみせてくれたんだけど。
「すばらしいです!」
私、思わず立ち上がって言っちゃったわよ。
マジでスタンディングオベーションだわよ。
だってコレ、どっからどう見ても、ハンドブレンダーじゃん!
コレって泡立て用のホイッパーだけじゃなくて、ブレンダーがあればポタージュやトマトソース作りなんかに使えるはず。それにチョッパーも作れたら、玉ねぎのみじん切りとかミンチ肉作りとか、絶対便利だよね。
それも回転速度は無段階設定で、さらにはコードレス! なのに充電の必要もナシ!
私がいきなり力強く賞賛してしまったので、精霊ちゃんがきょとんとしてる。
「えっ、あの、本当に試作の段階で……これでいいでしょうか?」
「わたくしにも試させていただけますか?」
思わず鼻息も荒く手を伸ばしちゃった私に、精霊ちゃんがその魔道泡立て器を渡してくれた。
ホントにリレーのバトンくらいの筒だから、私でも片手で持てる。それに、筒自体がすごく重いというようなこともない。
「こちらの筒は、上下がありますか?」
「はい、その小さな印がついているほうが上です。下から泡立て器を差し込んで……」
「こうですね?」
「ええ、それで大丈夫です。筒をにぎった手から、まず軽く魔力を通してみてください。魔力は筒全体で受けられるようにしてありますから、特にどこかを押さえている必要もありません」
私は言われた通り、筒をにぎった手から軽く魔力を通した。
ふおぉぉぉー!
ホンットに筒の中で泡立て器がぐるぐる回り始めましたわよ!
通す魔力の量を徐々に増やしていくと、回転が速くなっていくし!
「回転が速くなりすぎないように、一定速度を超えると自動的に止まるようにしてあります」
安全装置付きでございますかー!
すばらしい、すばらしすぎる!
がっ。
泡立て器の角度を変えるように傾けたりしていると、筒の中で泡立て器がちょっとぐらつくのが気になってきた。
言ってみれば、筒の中で泡立て器が浮いてる状態なんだよね。そして筒と泡立て器の柄との間にはちょっと隙間がある。だから、高速回転だと比較的安定してるんだけど、低速回転にすると筒の中で泡立て器がぐらついて揺れちゃうんだ。
これ、実際に何かを混ぜたり切ったりつぶしたりすると、このぐらつきはもっと気になってくると思うな。
「ヴィールバルトさま、少々改善をお願いしたいのですが」
バッと真剣な顔を向けちゃった私に、精霊ちゃんは一瞬ビビりながらもうなずいてくれる。
「あっ、ええ、もちろん、何でもおっしゃってください」
「このあらゆる泡立て器を使えるようにと設計してくださった、その汎用性は実にすばらしいと思います。ただ、筒と泡立て器の柄との間に隙間があることで、回転中に少々泡立て器がぐらつくのを感じてしまいます」
「あ、はい、僕もそれは気になっていました」
精霊ちゃんも気になってたのなら話は早いわ。
「そのぐらつきの改善方法としてわたくしが提案いたしますのは、この筒にぴったりと合う特定の泡立て器だけ組み合わせればいいのでは、ということです」
「それでも構いませんか? 特定の泡立て器だけ、使えればいいと?」
「はい、ぜひお願いします」
私は思いっきり力強くうなずいちゃう。「大きさは現在の筒くらいでいいと思います。この筒にぴったり合う大きさの柄を持つ泡立て器のほかに、みじん切りのできる刃がついた器具や、具材を混ぜたりつぶしたりできる器具など、何種類か差し替えられるようにしたいのです。それらの器具は、わたくしの商会で用意いたしますので!」
ええ、サイズが決まればそれをそのまんま、エグムンドさんにお願いするわよ。
エグムンドさんなら、ぴったりサイズのアタッチメントをちゃんと作ってくれるはず。
そんでもってもちろん、意匠登録しちゃうトコまでがセットだから。
「え、ええと、いろいろな泡立て器を使うのではなく、ぴったり合う特定の泡立て器と、泡立て器以外の、同じくぴったり合う器具を何種類か使えるようにしたい、ということですね?」
「そうです!」
「それらの器具も、ただ回転させるだけでいいのですか?」
「回転できるだけで十分です!」
それから私は精霊ちゃんと細かい相談をした。
まず、精霊ちゃんが試作用に用意したたくさんの泡立て器の中に同じものが2本あったので、それを基準にすることに決めた。
精霊ちゃんはその泡立て器の柄をぴったりセットできるよう回転魔道具を調整し、私はもう1本の泡立て器を預かってそのサイズでアタッチメントをエグムンドさんに作ってもらう。
そして可能であれば、回転魔道具をさらに軽量化して、形もまっすぐなリレーのバトンみたいな感じではなく、もう少し凹凸をつけて握りやすい形にできないかとお願いもした。
「僕、厨房で使用する魔道具を作るのって、初めてです」
なんか精霊ちゃんがしみじみと言った。
だから私は力説しておいた。
「厨房で使える便利な魔道具が増えれば、美味しいごはんや美味しいおやつがもっと食べられるようになりますから! 作業が楽になればそれだけ、調理に手間をかけられるのです。美味しい食生活のためにはものすごく重要なことなのです!」
私の力説を、公爵さまがうんうんってうなずきながら聞いてるし。
とにかく美味しいお料理のためには、公爵さまも投資する気満々だよね。
ホンットにハンドブレンダーを作ってもらえるなんて思ってもなかったわよ、精霊ちゃんすごすぎる! まさに天才!
これから精霊ちゃんにもいっぱい美味しいものを食べさせてあげるからね、厨房で使う便利な魔道具をガンガン作ってね!
頼んだよ、精霊ちゃん!





