288.むしろナニを作るのか選ぶのが大変
本日2話更新します。
まずは1話目です。
とりあえず、私が国家保護対象固有魔力の申請をするかどうかは保留になりました。
で、なんか精霊ちゃんがしょぼんとしちゃってる。
いや、公爵さまは別にとがめるような口調じゃなかったし、ホントにただの保留なんだけど……なんだろうな、精霊ちゃんは私に申請してほしかったのかな?
そんな精霊ちゃんを励ますように、アーティバルトお兄ちゃんが言い出した。
「ヴィー、お前が最初に言っていた状態保存の魔力付与ができたという布を、閣下とゲルトルード嬢に確認していただこうか」
「あっ、はい、そうですね!」
精霊ちゃんがいそいそと別の部屋へ行って、何枚かの布を持ってきた。
「こちらになります。とりあえず硬化などほかの魔力は付与せず、状態保存の魔力だけを付与して試作しました」
カラフルな色柄の蜜蝋布を何枚も、精霊ちゃんは並べていく。コレって、我が家からヒューバルトさんによって届けられた、ハンバーガーなんかを包むのに使ったヤツだよね。
「短期間の状態保存を繰り返し、ということでしたので、これは状態保存期間3倍、こちらを状態保存期間10倍で試作し、現在ほかの研究室で耐久試験をしてもらっています」
とっても嬉しそうに精霊ちゃんが説明してくれる。「もともと状態保存の魔術は百年、千年単位で施す魔術ですので、3倍程度の保存期間で考えた場合、500回程度は繰り返して使用できるよう魔術式を組んでみました」
「それは、たとえば本来ならその日のうちに食べてしまわないといけない食品を、状態保存期間3倍の布で包んでおけば3日間、状態保存期間10倍の布で包んでおけば10日間、問題なく食べられる期間を延ばせるという理解でいいですか?」
「そう理解していただけばいいです」
私の問いかけに、精霊ちゃんがうなずいてくれる。
「では、常温で3日間置いておいても食べられる食品であれば、状態保存期間3倍の布で包んだ場合は3倍の9日間、食べられる期間が延びるということでしょうか?」
再び問いかけた私に、精霊ちゃんはやっぱりうなずいてくれる。
「理論上はそうです。実際にそれだけ保存期間を延ばすことができるのかという試験を、現在ほかの研究室でしてもらっています」
うぉう、その通りに消費期限を延ばせるなら、もう言うことないんですけど。
そう思ったのは私だけではなかったようで、公爵さまもアーティバルトさんもとっても嬉しそうに言い出した。
「それでは、瓶詰のマヨネーズもその状態保存布で包んでしまえば、10日程度は食用可能になるというわけだな」
「王都から遠い領地の作物、野菜や果実なども新鮮な状態で運び込むことができますよ」
「うむ、蜂蝋布を使えばかなり大きな梱包材が作れるであろうから、苺などこれまで長時間の輸送が難しかった作物も新鮮な状態で運ぶことができそうだ」
新鮮な苺!
もう絶対、苺とホイップクリームのクレープを作ろう。パウンドケーキを苺とクリームでショートケーキっぽくデコレーションしてもよさそうよね。
なんかもう想像しただけで、ものすごく幸せな気分になれるわー。
「僕も最初アーティ兄上から話を聞いたときは」
精霊ちゃんも感心したように言う。「そんな数日間だけ状態保存の魔力付与をしてどうするんだろうと思ったのですけれど、本当にそうやって作物や料理などであれば、数日間状態保存ができるだけでびっくりするくらい便利になりますよね」
「そうなんだよ、これぞ発想の転換だよね」
アーティバルトさんがうなずいて、公爵さまも言ってくれちゃう。
「まったく、ゲルトルード嬢の発想は実にすばらしい」
なんかこっちに矛先が向いてきそうな流れになっちゃったので、私はさくっと話を戻した。
「苺などの輸送に使用する場合は状態保存のほかに硬化と、可能であれば先ほどの形状記憶の魔力付与ができればいいですね。形状記憶で同じ大きさの箱をそろえれば、荷馬車に積み込むのも便利だと思うのです」
「ああ、それは確かに。硬化布で作った箱でも、苺のような作物なら問題なさそうだ」
「木箱に状態保存の布を敷いてそこに苺を詰めて、という方法より、重量もはるかに軽くなりますよね。輸送がさらに楽になります」
公爵さまもアーティバルトさんも感心した顔でうなずいてくれた。
「なるほど。ほかに付与したほうがよさそうな機能はありますか?」
精霊ちゃんが紙とペンを取り出して、私がいま言った形状記憶に硬化、と書き出し始めた。
「柑橘類の輸送に使う場合を考えて、耐酸性を付与してもらえれば。酸と熱は、蜜蝋布の弱点ですから。夏場の直射日光を考えると、耐熱性の付与も必要だと思います」
「そうか、酸と熱という弱点を補う付与が必要ですね」
私の提案を精霊ちゃんがさらさらと書き出していき、公爵さまやアーティバルトさんも意見を言ってくれる。
「輸送用であれば防水や、軽度の保冷などもあればよさそうだが……あまり機能を増やし過ぎると販売価格が上昇してしまいそうだな」
「とりあえず作物の輸送に使用する分については、状態保存と硬化が必須で、可能であれば形状記憶で輸送用の箱の大きさをそろえられればいいのでは。その上でゲルトルード嬢ご指摘の、酸と熱という弱点を補う付与も加えて試作すればいいのではないでしょうか」
さらさらと書き出しながら、精霊ちゃんはさらに質問してくれる。
「では、作物の輸送以外で使用する状態保存布の場合は、ほかにどのような機能を加えたものがいいでしょうか?」
「やはり硬化だな」
公爵さまが言って、私もアーティバルトさんもうなずいちゃう。
「包んだ食品や調味料をしっかり密閉するには、どうしても硬化は必要でしょう」
アーティバルトさんも言う。「その上で、討伐遠征などでも持参する食料の鮮度を10倍の期間維持できるとしたら本当にありがたいですよ。そもそも硬化機能があれば、そのまま食器としても使用できますし」
「その場合は、強めの耐熱性付与も欲しいですね。さすがに硬化した状態でそのまま火にかけるのは無理だと思いますが、たとえばお鍋で温めなおしたお料理を食べる食器としても使えると、さらにいいと思いますので」
お弁当を温めて食べられたらさらにいいよねーと、私がまた思い付きで言ったんだけど。
「あっ!」
公爵さまとアーティバルトさんが声を上げて顔を見合わせた。
「火にかけられなくても、発熱の魔石を使えばそれなりに温められるのではないか?」
「そうですよ、硬化して箱状にしてあればそれこそシチューでも運べますから、その箱に発熱の魔石をしばらく乗せておけば、結構温められますよ!」
あるんだ、発熱の魔石……そうか、暖炉の魔石だってあるんだから、懐炉みたいに使える携帯用の発熱魔石だってあっても不思議はないよね。
「えっ、えっと、じゃあ、硬化と状態保存と耐熱強化でいいですか? それでシチューやスープも運べてしかも温めて食べられるお弁当箱にできる?」
精霊ちゃんがわたわたと紙に書き出してるんだけど……いや、なんかもうホンットになんでもアリになってきちゃった気がする。
スーパー便利すぎるよ、蜜蝋布がこんなになんでもできちゃう素材になるだなんて、私ゃ夢にも思ってなかったですわ。
でもね、耐熱強化については、精霊ちゃんには絶対お願いしようと思ってたんだよね。
だって揚げたてアツアツのフライドポテトとか、揚げたてアツアツのコロッケとか、揚げたてアツアツのドーナツとか、この布を使って片手で持って食べられるようにしたいじゃない。
耐熱強化してあればお湯で洗えるから、揚げ物を包むのに使っても大丈夫だと思うし。
あとはアレだ、キャラメルの包み紙ならぬ包み布。
これは本当に状態保存を10日ほどの付与だけでいいので、硬化機能もいらないと思うので、薄手の小さい布でいっぱい作ってほしいのよー。
このさいだからしっかり具体的に、精霊ちゃんにはお願いしておかなければ。





