280.だからやっぱり聞いてない
本日2話更新します。
まずは1話目です。
でもね、言われちゃったお姉さまとしては、やっぱり納得いかないよね。
ドロテアちゃん、顔を真っ赤にして本当にプルプルしちゃってる。
「ガン、貴方ね、いくらなんでもそういう言い方はないでしょう?」
「でも事実だから」
しれっとドラガンくんは答えちゃってる。「テアもいい加減、令嬢同士の付き合いをしないとダメだろ? 俺は俺で、令息同士の付き合いが必要なの。それに2年生になれば、同じ領主クラスでも男女で授業内容にいろいろ違いが出てくるんだし、俺がずっとテアの付き添いをするのはどう考えても無理だよ?」
「それは……それは、そうなんだけど!」
頬をふくらませちゃってるドロテアお姉さまに、ドラガンくんはやっぱりしれっと言うの。
「これからだって必要な付き添いはするし、共通の授業はこれまでと同じように一緒に受ければいいじゃないか。テアに女子の友だちができたことで、いろいろと選択肢が増えるわけだ。全然悪いことじゃないと思うけど?」
「ガンの……言ってることは正しいわよ。でもね、言い方ってものがあるでしょ!」
うん、ドロテアちゃん、そこはホントにキレちゃっていいと思うわー。お姉さまのことを完全に不良債権扱いだったもんね。いや、私も笑っちゃいそうになっちゃったけど。
でもそこで、ペテルヴァンス先輩がにこにこと言い出した。
「いやあ、ドラガン君とドロテア嬢は本当に仲がいいんだね。我が家もたいがい仲がいい姉弟だと思っていたけれど、同学年の姉弟だとこういう感じになるんだねえ」
ペテルヴァンス先輩、ナイスです。一気に脱力、いえ、ほのぼの雰囲気がかもし出されました。
でもここまであけすけに言い合ってしまえるって、本当に仲がよくないとできないもんね。
ええ、私もソコに乗りますよ。
「ペテルヴァンスさまも、お姉さまがたと仲良くされているのですね」
「そうですね、もう正直に私は姉3人だと思ってるのですが……みんな仲がいいですよ」
ちょっと苦笑してるペテルヴァンス先輩に、私は納得しちゃう。
「ファビエンヌ先生ですね? フレデリーケ先生とファビエンヌ先生はお年も同じで、本当に仲良くされていますものね」
「そうなのです、もう完全に家族ぐるみの付き合いで、私はファビー姉上と呼んでいます」
「まあ、そうなのですね。本当に仲がよろしいのですね」
いいわー、ペテルヴァンス先輩。にこにこほんわかしてくれちゃって。
ちょっと話題が逸れて、ドロテアちゃんの毒気が抜かれたところで、私はドラガンくんが教えてくれた問題について切り出した。
「それであの、ドラガンさま、ドロテアさま。貴領と我が領のお取引についてなのですが」
パッとドラガンくんの顔が引き締まり、ドロテアちゃんも姿勢をただした。
私もさすがに神妙にならざるを得ないよね、なにしろやらかしたのはあのゲス野郎なんだから。
「わたくし、早急に後見人であるエクシュタイン公爵さまにご相談させていただきます。その上でお返事させていただきたいのですが、よろしいでしょうか」
「ありがとうございます。そのようにおっしゃっていただけると本当に助かります」
2人そろってきちんと頭を下げてくれる。
こういうところはやっぱり、2人とも小さいころから領主一族としてしっかり教育を受けてきているからなんだろうな。
いろいろと見習わせていただきたいです。
正直、お友だちと利害関係ができちゃうのはツラいとこではあるんだけど、おとなり領地同士なんだからできるだけ協力していきたいもんね。
公爵さま、お願いしますよ。お取引再開について、いろいろ教えてくださいね。
それに、できれば品種改良された美味しいお芋もお取引させていただきたいでーす。
「ではそちらの話がまとまったようなので、私の授業の話をしてもいいかな?」
って、ファーレンドルフ先生がちょっと笑いながら言ってこられちゃいました。
うわわわわ、すみません、失礼いたしました!
私だけじゃなくみんなそろって、首をすくめてからサッと姿勢をただしちゃったわ。
「だがまあ、この『算術選抜クラス』は、通常の授業とは少々違っています。教室は常に解放されており、生徒は各々興味のある題材を研究し、特に助言が必要な場合など私に質問してもらうことになります。もちろん生徒同士で議論をしてもらうのも自由です。むしろ、生徒同士で活発に議論してもらいたいですね」
ファーレンドルフ先生の説明に、私はちょっと目を見張っちゃった。
なんていうか、本当に授業じゃなくてゼミみたいな感じなんだ?
いや、でも、午前中の選択科目の説明で、こんなゼミみたいなクラスがあるって……ファーレンドルフ先生は言ってたっけ?
なんかふつうの、基礎的な内容の算術のクラスっていう説明だったと思うんだけど……。
「私もできる限り在室しているようにはしますが、ほかの授業もあるのでね。ただ、この冬学期に関しては、このペテルヴァンス君が常時在室してくれることになっています」
先生の言葉を受け、ペテルヴァンス先輩がにこやかに言う。
「私はもう卒業に必要な単位はすべて取り終えているので、登校している間はずっとこの『算術選抜クラス』にいます。春から進学する高等学院ではファーレンドルフ先生の研究室に入ることも決まっているため、お手伝いさせていただくことになりました」
「では、空き時間などにもこちらの教室を訪れて、自分の好きな研究ができるということですか? しかもファーレンドルフ先生だけでなく、ペテルヴァンスどのからも助言が得られると?」
問いかけるドラガンくんの顔が、ナニその天国は、って言わんばかりに輝いてるわー。
要するに、数学大好き理系男子なんだね、このドラガンくんって。
「その通りですよ、ドラガン君」
答えてるファーレンドルフ先生もなんか嬉しそうだ。「教科書や資料も、高等学院で使用するものを含めすべてそろえておきます。自由に閲覧して構いません」
「高等学院の教科書や資料も!」
ドラガン君、めっちゃ嬉しそうです。
そしてドラガンくんは、その嬉しそうな顔を私に向けてきた。
「では最初の研究は、ゲルトルード嬢の素早く計算できる秘訣にしましょう!」
「え、あの、研究……と、いうほどの内容ではないと思うのですが」
いや、九九の研究って……数学的に奥深いものはあるのかもしれないけど。
ううむ、私はたまたま前世の教育のおかげで学院の算術レベルなら問題なく解けるとはいえ、もともと理系な人間じゃないからねえ。
「それは、実際にその方法を教えていただいてからでいいのではなくて?」
ドロテアちゃんが言い出した。「ガンはとにかくなんでも計算さえしてれば楽しいんだから」
「計算問題を解いてるときは、無心になれるじゃないか。しかも、正解できれば楽しいのは当然だろ?」
あードラガンくん、それについては、わからなくもないわ。
なんかこう、シンプルなパズルゲームなんぞを延々とやってるときみたいな感じよね。
でもって、ファーレンドルフ先生もペテルヴァンス先輩もやっぱりちょっと笑ってる。
ドラガンくん、先生にも先輩にもめっちゃかわいがられてるんだなあ。
「今年の1年生は本当に優秀で研究熱心で、新学期が楽しみですね」
「まったくです。ドラガン君とドロテア嬢が来てくれることは間違いないと思っていましたが、ゲルトルード嬢にも来ていただけるとは。女子が2名というのも快挙ですよね」
って、先生と先輩が話してるんだけど……えーと、私もこの算術選抜クラスを選択することがすでに決まってるっぽいような……。
いや、もう、いいんだけどさ……もうここまで流されてきちゃって断るとか、いくらなんでも無理すぎるってことくらいは、さすがに私にもわかるよ。
そこでドロテアちゃんが問いかけた。
「今年度の1年生は、わたくしたち3人だけですか?」
「そうですね。秋試験の全問正解者は7名いましたが、高等学院相当の問題も含めての全問正解者は貴女がた3名だけでしたから」
ファーレンドルフ先生がそう答えて、今度はドラガンくんが質問する。
「2年生は何名おられるのですか?」
「この冬学期は3名ですね。秋試験の前まではもう1名いたのですが、その生徒は進路変更で違うクラスを選択することになったので」
「そうですか……どんなかただったのか、お会いしたかったですね」
って、あの、1年生が私たち3人だけで、それに2年生が3人?
えっと、あの……この『算術選抜クラス』って全学年合同なの?
ペテルヴァンス先輩は、さっき卒業に必要なすべての単位を取り終えたって言ってたから3年生だよね?
それでそんなに人数が少ないって……?
「わたくしとしては、ゲルトルードさまがご一緒してくださるというのが、本当に心強いですわ」
ドロテアちゃんが言い出した。「算術の成績優秀者しか入ることができないクラスですもの、女子はもう3年間ずっとわたくしだけだと思っていましたから」
ね? とばかりに、ドロテアちゃんに笑顔を向けてもらったんだけど……あの、待って、情報を整理させて。
算術の成績優秀者しか入れないクラスって……だから『選抜』クラスなの?
それがさっきファーレンドルフ先生の言ってた、全問正解者7名のうち高等学院相当の問題を含めて全問正解したのが私たち3人だけってことで……つまり『算術選抜クラス』って、算術の超エリートクラスってことですかあああ?





