279.ぶっちゃけましょう
本日2話目の更新です。
週末更新できなかった分、明日もちょこっと更新できそうです(;^ω^)
なんだかいきなり『地』を出してきちゃったドラガンくんが、私に向き直った。
「ゲルトルード嬢、姉のドロテアはこういう変わった令嬢です。それでもできれば、ドロテアと仲良くしてやってください。お願いします」
え、ええっと、なんなんでしょう、いきなり。
面喰らっちゃった私を置いて、ドロテアちゃんが弟くんに抗議してる。
「ガン、そういうことは! 貴方がお願いするようなことじゃないでしょ!」
「でもテアも、ゲルトルード嬢とは本当に仲良くなりたいだろ?」
しれっとドラガンくんが言う。「今日1日ご一緒して、ゲルトルード嬢が裏表のない正直なご令嬢だってよくわかったし」
「それは……」
ちょっと頬をふくらませちゃうドロテアお姉さまに、ドラガンくんはさらに言う。
「なにより、テアだって嬉しかっただろ? ゲルトルード嬢が、母さまのことを賞賛してくれて。あんなことを言ってくれるご令嬢なんて、ほかにいないと思うよ?」
「それは、もちろん……そうなんだけど」
ああ……そうか、そういうことか。
つまり、女性が男性より優秀であってはならない、なんていう女性蔑視な人たちが多いこの貴族社会で、お2人のお父さまではなくお母さまが、品種改良の研究を主導しているっていう話は……あまりよろしくない話だと受け取る人が多いってことね?
だけど私は、もう思いっきり正直に『すてきなお母さまなのですね!』って言っちゃったから。
だからドロテアちゃんはあんなに嬉しそうで、それにほとんど表情を崩さなかったドラガンくんも嬉しそうにしてたんだ。そりゃもうお2人にしてみれば、お芋の品種改良で実績をあげててお料理もお上手って、間違いなく自慢のお母さまだもんね。
そんでもってたぶんスヴェイさんも、私がお2人のお母さまを正直に賞賛したことで、お2人が私に対して好感を持ってくれたことがわかったので……だからあんなに笑顔を振りまいて『よかったですね』なんて言ってくれちゃったわけだ。
「ゲルトルード嬢、もう取りつくろうのも面倒なので正直に言いますけど」
ドラガンくんがまた私に向き直った。「今日、姉がいきなり貴女に声をかけて、1日ずっと俺たちと一緒にいてもらえるよう仕向けたのは、もちろん俺たちに下心があったからです」
わーお、ドラガンくん、いいのか、そんなぶっちゃけちゃって?
さすがに私も、なんの考えもなくお2人が1日中私の両脇を固めてたとは思ってなかったけど。
むしろ、どんな下心があったのかと、率直に聞いてみたい私に、ドラガンくんはそのまま話し続ける。
「我が領と隣接するクルゼライヒ領の爵位持ち娘ですからね、ゲルトルード嬢は。我が領としてはできるだけ早急に、貴領との商取引を再開させていただきたい。我が領にとって、クルゼライヒ領との取引の有無は死活問題なのです。それなのに5年前、前のご当主が一方的に取引を打ち切ってこられて……その前当主が亡くなられたことで、これはもうなんとしても爵位持ち娘であるゲルトルード嬢に取り入らなければと、姉弟で相談してその機会をうかがっていたのです」
え、ええっと、あの、要するにあのゲス野郎がやらかしてた、と?
5年前って、ベアトリスお祖母さまがお亡くなりになってから、ってことだよね? それでおとなりのヴェルツェ領がとっても困っておられて……だから私に急接近してこられた、と?
ご、ごめんなさい、すいません、申し訳ありませんでした!
あの、隣接領地とのお取引って……どうしよう、公爵さまに相談すればいい? 取引って何をすればいいのか教えてもらえるかな? いや、また大至急案件が出てきちゃったわよ。
なんかもう恥ずかしさと事態の深刻さに、私は赤くなったり青くなったりしちゃったんだけど、ドラガンくんはさらに、意外なことを言ってきた。
「それでまあ、今日は姉も俺もいろいろ取りつくろって貴女とご一緒させていただいてたわけですけれど……その、実際に貴女といろいろお話させていただいて、これはもう率直になにもかもお話しすべきだと判断しました。今日1日でもう十分、貴女が正直で誠実なお人柄だということがわかりましたので」
そしてちらりとドロテアお姉さまに視線を送り、ドラガンくんは付け加えた。
「姉が、貴女のことを大好きになったと言ったのは、間違いなく姉の本心です」
そんなことを弟に言われちゃったドロテアお姉さま、うつむいて両手を握りしめちゃってます。
でもって、弟ドラガンくんがご丁寧に追い打ちをかけたりして。
「姉のドロテアは、そういうことで嘘やお追従を言えるほど器用な性格じゃないんで」
だからドラガンくんさあ……(以下略)。
いや、でも、これは……私にとって、めちゃくちゃありがたいお話だわ。
私も学院内で一緒に行動できるお友だちの確保は、急務だったんだもの。それがいきなり、おとなり領地のご令嬢で成績優秀で、しかもそういう、嘘やお追従が言えるような器用な性格じゃないっていう、つまり率直になんでも言ってくれそうな女子がお友だちになってくれるなんて。
実際、私も今日1日ドロテアちゃんと一緒にいて、なんていうか女子特有のいやらしさみたいなものはまったく感じなかったのよね。
もしかしたら帰り間際にお茶会に誘われたりするのかな、くらいは私も思ってたけど……でも本当にそういう、私に媚びたり顔色をうかがったりなんてことはまったく感じなくて。
そりゃ確かに、お2人のお母さまのお話なんかで、私の理解が追い付いてないところはあったけど……それでもすごく話しやすくて感じのいいご令嬢だって、ドロテアちゃんには私もいい印象しかないもん。
それにドラガンくんだって、むしろもう本当に率直にぶっちゃけてください、って感じよ。
だって言ってもらわないと私はわからないんだもの、あのゲス野郎がご近所の方がたにどんなやらかしをしてきてるのかなんて。
そこはもう(仮)とはいえ、一応私がいまの領主なんだから、責任をもって改善させてもらわなくちゃ、なんだもの。クレームはできるだけ率直に言ってください、だわ。
しかも、ドラガンくんは将来的にはおとなり領地の領主になる人だからね。
なんでもぶっちゃけて、いや、なんでも率直に話し合える関係をいまから作っていけるのであれば、これほどありがたいことってないわ。
だから、私も言い出した。
「あの、わたくしとしても、ぜひドロテアさまとはずっと仲良くさせていただきたいです」
ドラガンくんが『おっ?』とばかりに眉を上げ、ドロテアちゃんはうつむいたまま私のとなりでぴくっと体を揺らした。
「ドラガンさまが率直にお話ししてくださったので、わたくしも率直にお話しします。わたくし、ご令嬢がたの会話にまったくついていけないのです」
ええもう、このさいだから私もぶっちゃけさせてもらうからね。
「わたくしは、その、『家庭の事情』によりまして、他家の方がたとの交流をいっさい経験せずに学院に入学したのです。ですから、お茶会のお作法もまったくわからず、同席されたみなさまのお話にまったくついていけませんで……正直に困っておりました」
ドロテアちゃんが顔を上げ、そんでもって『あー……』という表情を私に向けてくれちゃった。
そうなの、そういうことなの、わかってくれた? ドロテアちゃん!
「それでも今日、ドロテアさまと、それにドラガンさまとご一緒させていただいて、その、そういう困った感じがほとんどありませんで……いろいろとお話しさせていただいて、本当に楽しかったのです。嘘もお追従もない、なんでも率直に話していただける、そんなお友だちだなんて、わたくしのほうからぜひお願いしたいです」
「それは、本気でおっしゃっていますか?」
ガバッと、ドラガンくんが身を乗り出してきた。「テアは、この姉は、本当になんでもずけずけと思ったことを口にします。令嬢らしい持って回った上品な言い方なんてできやしませんし、嘘やお追従なんて言おうったって言えません」
だからドラガンくんさあ……率直なのはホンットにありがたいけど、ソコは言い方ってもんがあるでしょーが。
ほら、ドロテアお姉さまが顔を赤くしてプルプルし始めちゃったよ?
それでもドラガンくんは、お姉さまのことを本当に心配してるらしい。
「こんな姉ですが、ゲルトルード嬢が仲良くしてくださるのであれば、本当に助かります。心から感謝します。よろしくお願いします!」
ドラガンくんに深々と頭を下げられちゃって、さすがに私もちょっと慌てちゃう。
「あの、ドラガンさま、どうぞお顔をお上げになってください。わたくし、本当にドロテアさまとは仲良くさせていただきたいと思っておりますので」
「ありがとうございます!」
パッと顔を上げたドラガンくんが、ぶはーっと大きな息を吐きだした。
「あーよかった! もう本ッ当にいい加減、テアには弟離れしてもらわないと。まったく、こんな歳になってまで、朝から晩まで姉弟でくっついてるなんて本気で勘弁してほしい」
だからドラガンくんさあ……って、私は噴き出してしまいそうになり、慌てて自分の口を手で押さえちゃった。
もちろん、ファーレンドルフ先生もペテルヴァンス先輩もなにげに視線を逸らせて肩をひくひくさせちゃってます。
いや、そうだよね、高校生にもなってお姉さまとべったりって、弟的にはイヤだよね。
でもお友だちのいないお姉さまを1人で放っておくわけにもいかず、ドラガンくんは律儀にずっと付き添いをしてたんだ?
なんかドラガンくんって真面目でお姉さま思いの超優等生って印象だったけど、すごくいい意味でふつうの男子だったわー。





