27.貴族って要するにこういうこと
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「確かに、このヨアンナさんがご夫婦でご当家に住み込んでくださるなら、これ以上のことはないですね」
クラウスが納得したように言ってくれた。
ヨアンナからの手紙を読んでもらい、さらにお母さまと一緒に書いた返事も読んでもらい、もう一度ヨアンナに声をかけて呼び寄せることにしたと、しっかり説明したからね。
いや、ナリッサが低い声で『ゲルトルードお嬢さまは最初からあんたのことを考慮してくださってたんだからね』と弟を脅し、げふんげふん、弟に助言してくれた効果も大きかったかもしれないけど。
「では、庭師の募集も止めておきます。そうですね、ヨアンナさんからお返事があれば、こちらにもご連絡ください。すぐ貸馬車の手配をいたしますので」
「ありがとう、そのときはお願いするわね、クラウス」
うん、クラウスの笑顔が怖くないぞ。
「はい、もちろんです。ほかに承っておくことはございませんか?」
あーまたちょっとクラウスのさわやかな笑顔が怖いかも。ナリッサも私の背後から弟に圧をかけるの止めてー。
私は慌てて頭を巡らせた。
「えっと、そうね、そうそう、新居にはまったく魔石がなかったの。だから魔石を購入できるお店を紹介してもらえるかしら? それにリネン類も全部購入しなければならないので、そちらのお店も教えてもらえると助かるわ」
「かしこまりました。では……」
さくさくとクラウスから魔石屋さんとリネン屋さんを紹介してもらう。クラウスの紹介ならまず安心。
もちろん貴族家の場合、こういう買い物は自宅へ来てもらうのが基本なので(デパートの外商さんみたいな感じっつーか)、新居のほうへ魔石屋さんとリネン屋さんに来てもらい、実際に必要な量を見積もってもらってから納品という流れになる。
それでも、私たちだけでなくナリッサやヨーゼフたちもみんな自分が使う部屋の確認をしたいだろうし、マルゴも厨房の設備を確認したいだろうしってことで、全員の都合を確認することにした。
マルゴもまだ居てくれてよかったわ。シエラに厨房へ行ってもらって、マルゴとカール、ハンスの都合も確認してもらった。
結果、明後日には全員新居へ集合して、魔石屋さんとリネン屋さんに来てもらうことになった。
うむ、順調である。
だから私は、クラウスに相談してみた。
「そろそろエクシュタイン公爵さまにご連絡して、このタウンハウスのお引渡しをお伝えしたいんだけど、どうかしらね?」
「公爵さまは、代理人として弁護士を立てていらっしゃるのですよね?」
「ええ、顧問弁護士のかたからご連絡をいただいて、引渡しの期日は特に設けないと伺っているのだけれど」
私の説明にクラウスは眉を寄せている。
「正直なところ、私はこのような形でのお引渡しに立ち会ったことがございませんので……クルゼライヒ伯爵家さまとしても、弁護士を間に立てられたほうがよろしいのではないかと思います」
そりゃあ、ギャンブルの形に家屋敷全部持っていかれちゃうなんて、滅多にある話じゃないわよねえ。
私はそう思ってクラウスに訊いた。
「商業ギルドではこういう案件を扱うことはないのかしら?」
「そうですね、売買ではございませんし、貴族家同士でのお話し合いで決まることだと思いますので、我々商業ギルドが介在することはまずないと思います」
確かに、売買ではない貴族家同士でのやり取りだもんね。なんでもかんでもクラウスに訊けばわかるってもんじゃないわよね。
ホント、クラウスが有能過ぎるからって頼り過ぎるのはよくないわ。
「わかったわ。我が家でもゲンダッツさんに相談してみます。ありがとう、クラウス」
クラウスが辞した後、引渡しについてゲンダッツさんに連絡してみましょうかと私が言ったところ、お母さまは思案するように首をかしげた。
「そうねえ……でも、先方が特に期日を設けないとおっしゃってくださっているのだから、わたくしたちのお引越しが全部済んでから、いつでもどうぞとご連絡するだけでいいのではないかしら?」
あー……まあ、確かにそうだわ。
私が納得の表情を浮かべると、お母さまはさらに言った。
「これからまだ何か購入が必要なものが出てくるなどして、予定が変わるかもしれないわ。公爵さまに先にお伝えしてしまって、後で変更をお伝えするのも失礼なのではないかしら」
それは確かに有り得るわと、私はうなずいた。
「そうですね。そうしましょう、お母さま」
「ええ、公爵さまも最初に弁護士さんを通じてご連絡くださって以降、何も言ってこられてはいないのだし、わたくしたちはわたくしたちで、とにかくお引越しを済ませてしまいましょう」
そこで私たちは、お引越しに必要なものを再点検することにした。
「魔石とリネン類の購入については、明後日新居へ直接商人に来てもらうことになりましたし」
「そう言えば、侍女服やお仕着せの手配も必要ではなかったかしら?」
「あっ、そうです、ツェルニック商会に連絡しないといけませんね」
荷物の運び出しは順調だけど、やっぱりほかにもぽろぽろと、しなければいけないことが出てくる。
「あと、魔石やリネン類の代金は手形で大丈夫だとクラウスは言っていたけれど、ケールニヒ銀行にも確認を入れておいたほうがよさそうね」
ヨーゼフがお母さまの言葉にうなずきながら、メモを取ってくれている。
でもホント、お金がかかるわー。
なんかもうお祖父さまの信託金がなかったら、かなりヤバかったかも。来年以降も信託金が入ることがわかっているから、あまり悩まずに必要なものは必要だと割り切って購入することができるんだもの。
マールロウのお祖父さま、本当に本当にありがとうございます。
そして、つくづく思っちゃうんだよね。
貴族って存在自体が産業なんだなあ、って。
だって何人もの使用人を雇うことで雇用を創出してるし、雇った使用人の衣食もまとめて購入するためにどんどんお金を使うから、自分でやってみるとめちゃめちゃ経済回してる感があるんだよね。毎日毎日、結構な単位のお金を動かしてるんだもの。
ホント、日本庶民の前世から考えたらビビらずにはいられない金額ばっかなんだけど、それもちょっと慣れてきたというか、麻痺してきた。
我が家のように、収入源である領地を失って没落確定の貴族家でもこれだよ?
領地を持っていたら、もっと大きく経済を回してるよね。
学院の領主クラスって、そういうことを学ぶんだろうか。経営する領地がなくても、家を維持するためだけであっても、私もちょっと真剣に勉強したい気分。
我が家も、お母さまとアデルリーナと私の3人だけじゃなく、執事1人侍女2人下働き1人厩番1人の合計8人が暮らしていくことになる。ここにヨアンナの一家が越して来たらプラス3人の11人。そして通いで雇っているマルゴもいるわけだからね。
ホント、21世紀日本の庶民感覚からしたら間違いなく大家族だわ。
そんでもって、うぅ、その全員の行く末が私にかかってるのよね。
責任重大。
22歳までに結婚しなきゃ爵位を失っちゃうし、まったくどうしてくれよう。
それに、もし爵位なしの名誉貴族になったとしても、貴族としての生活は維持しなきゃいけない。お祖父さまの信託金があるのは15年間だからね、そこから先どうするのかも同時に考えていかないと。
ああもう、魔法のある異世界に転生したっていうのに全ッ然ファンタジーじゃないわ。お金の計算ばっかしてるっていう、この世知辛さっていったい何なのよー。





