276.いい方向へ流されてる、はず
本日も2話更新します。
まずは1話目です。
歩き出してすぐ、ドロテアちゃんが私に訊いてきた。
「ゲルトルードさまは、もしかしてご自分でお料理などなさいますの?」
あー、やっぱ貴族家のご令嬢が自らお料理って、めずらしいんだろうな。
でもまあ、これについては正直に申告しておいたほうがいいでしょ。だっていずれ、私が考案したレシピが販売されるんだもんね。
「はい、わたくしはお料理することがとても好きなのです。それに、わたくしがなんとなく思いついたレシピを、我が家の料理人がとっても美味しいお料理に仕上げてくれるものですから。すっかり楽しくなってしまいまして」
いまさら隠してもしょうがないし、それだったら最初から、わたくしお料理しますのよアピールをしておいたほうがいいよねと、私は笑顔で答えた。
そしたら、なんとドロテアちゃんも笑顔で答えてくれたの。
「そうなのですね。わたくしもお料理をするのは好きなのですけれど、なかなかその、上手く作れないのです。一度ゲルトルードさまにご教授いただければと思いますわ」
「えっ、ドロテアさまもお料理をされるのですか?」
マジ? もしかしてお料理友だちになれちゃう?
思わず色めき立った私の横から、ぼそっと突っ込みが入った。
「テアの、姉の料理はいわゆる下手の横好きですよ」
ドラガンくんに突っ込まれたドロテアお姉さま、キッと弟の顔をにらんじゃってます。
でもドラガンくんはどこ吹く風で、そのまま続けてくれちゃうの。
「母の作る料理は美味しいですけどね」
おお、ヴェルツェ子爵家の奥さまはお料理をされるのね?
それは朗報、我が家のレシピをぜひ! お芋がお好きならマヨネーズは超おススメです! それにもちろんポテチもフライドポテトもコロッケも、ぜひガンガン揚げちゃってください!
ますます色めき立っちゃった私に、ドラガンくんはさらにびっくりなことを言ってきた。
「芋の品種改良も、実質的に研究をしているのは母です。父も手伝っていますが、作物の品種改良により積極的なのは、我が家の場合は母のほうです」
「そうなのですか?」
ナニそのカッコいいお母さまは? 研究畑のかたなの?
いや、それはぜひお近づきになりたいです。作物の品種改良を研究していてお料理もお上手だなんて、めっちゃポイント高いじゃないですか。
これは間違いなく、実際に食べて美味しい作物の研究をされているはず!
私はもう嬉々として言っちゃった。
「すてきなお母さまなのですね!」
そしたらドラガンくんもドロテアちゃんも、2人そろってなんだか不思議そうな顔をして私を見てくるんですけど?
え、えっと、私、なんか変なこと言った?
「ゲルトルード嬢は……」
ぼそりとドラガンくんが言った。「本当に、ご自分でお料理をされるのですね」
「ええ、この秋の自由登校期間は、わたくしほとんど毎日厨房に入っていました」
そりゃあもう、毎日毎日毎日毎日誰かさんが我が家にやってきてもりもり食べてくれちゃってましたからね。食いしん坊さん大集合だった栗拾いお茶会のお弁当も、我が家の総力をあげてがっつり作っちゃいましたからね。
でも、それについてはちょっと人には言えないので、私は別の理由を笑顔で話しておく。
「わたくしが思いついたお料理を、我が家の料理人が本当に美味しく仕上げてくれるのです。母も妹もたいへん喜んで食べてくれますので、嬉しくなってつい頑張ってしまいまして」
うん、ウソは言ってないよ、ウソは。
実際にお母さまとリーナが大喜びで食べてくれることが、私のモチベーションだから。
不思議そうな顔をしていたドロテアちゃんが、急に笑い出した。
「どうしましょう、わたくし、ゲルトルードさまのことが大好きになってしまいましたわ」
えっ、あ、あの? えっ?
いきなりそんな告白をされちゃっても、あの、私、どうすれば?
「あ、あの、ありがとうございます?」
うろたえちゃってる私に、ドロテアちゃんはさらに嬉しそうに笑ってるし、それに、あの、ずっと表情を崩さなかったドラガンくんも口元がちょっと笑ってませんか?
おまけに、黙って私たちについてきていたスヴェイさんまで笑い出してるんですけど?
「よかったですね、ゲルトルードお嬢さま。では私はここで失礼いたします」
スヴェイさんはもうにっこにこで、サワヤカに去って行っちゃった。
ええええ、ナニ、いったいなんなのー?
でもそれからは、なんかこうお2人とさらに打ち解けた感じで、午後の教室巡りもずっとご一緒させてもらえることになった。
領主教育をこれっぽっちも受けていない私としては、領主クラスに進むといってもどんな教科、どんな科目を選択すればいいのが全然わかっていなかったので、本当にありがたいわー。
しかも寮住まいだというお2人は、学院内で暮らしていることでふだんから先生がたと接する機会が多いらしくて、先生がたそれぞれの個別の情報もすごく豊富なのよ。先生がたの授業傾向だけでなく、ちょっとしたエピソードなんかもいっぱい教えてもらっちゃった。
科目の変更はまだこれからも可能だということだし、とりあえずドロテアちゃんが選択するっていう科目と先生を、私も片っ端から選択させてもらうことにしたわ。
それに、学年ツートップのお2人と一緒に教室巡りをしてると、なんかやっぱ周りの生徒たちだけでなく先生がたの対応も違うのよね。これってアレだよね、大学のゼミ選びじゃないけど、先生としては自分のクラスにできるだけ優秀な生徒に来てほしいっていうのがあるからだろうね。
さらにいうと、ほとんど間違って三席になっちゃった私がいても、お2人のほうがさらに上なのでその陰に隠れていられる……気がする。だって周りから何か言われても、いえいえドラガンさまとドロテアさまにはかないませんから、とかなんとか言っておけばごまかせるもん。
はー、ホンットに私、新学期早々めちゃくちゃラッキーかも。
3人でいくつもの教室を回り、ほぼ埋まってきた時間割を見ながら、ドロテアちゃんが言う。
「必要な選択科目はこれで終わりましたわね。必修科目ではまだいくつか、どの先生の授業を選択するか残っておりますけれど」
「必修の算術も魔術学も、ゲルトルード嬢が首席だった科目ですから、何も問題ないでしょう」
さらっとドラガンくんが横から言ってくれちゃうんだけど、私の首席はほぼ事故だから。
「魔術学は本当に、先生によって授業内容がかなり違いますからね」
ドロテアちゃんも笑顔で言ってきた。「ゲルトルードさまはやはり、ツォルヴァイス先生の授業を選択されるのでしょう?」
それがまた、悩ましいところなんですー。
だってあの白いお髭のおじいちゃん先生、いったいなんで私を首席になんかしてくれちゃったのかさっぱりわからないんだもん。
でもやっぱり、ドロテアちゃんが笑顔で言うの。
「魔力付与による魔道具開発については、ツォルヴァイス先生は非常に実績がおありですものね。わたくしたちも、なにか領民の生活に役立つような魔道具の開発ができないかと、ツォルヴァイス先生の授業を選択しようと考えているのです」
そうなの、あの白いお髭のおじいちゃん先生ってば、実は魔力付与による魔道具開発の専門家らしいのよ。
私としては今後、精霊ちゃんと一緒にいろいろ魔道具の開発ができれば、っていうのは真剣かつ切実に考えてることなのよね。
そりゃもう私自身が欲しい道具がいっぱいあるし、それにあの硬化布を見せてもらっちゃったことで、精霊ちゃんなら本当にあらゆる道具を実現してくれそうな期待感があるじゃない?
だから魔道具開発が専門の先生の授業って、めちゃくちゃ惹かれるものがあるのは事実だから。
って、私が迷ってる間に、なんかまた流れるようにツォルヴァイス先生の教室に到着しちゃいましたわ。
白いお髭のおじいちゃん先生、かなり人気があるらしくて教室が込み合ってる。
私たち3人も列の最後尾に並んだんだけど、なんか列に並んでるほかの生徒たちが私たちに気がついたとたん、さーっと先を譲ってくれた。
さすが学年ツートップ……って、うわーん、この科目は私が首席なんだったー。
「おお、ゲルトルード嬢、それにドロテア嬢、ドラガン君、よく来てくれた」
白いお髭のツォルヴァイス先生、めっちゃご機嫌で私たちを迎えてくれました。
「きみたちが私の授業を選択してくれるのであれば、たいへん嬉しいのだが」
「そうさせていただくつもりです」
さらっとうなずいたドラガンくんが、早速質問を始めちゃう。
「ツォルヴァイス先生はこれまで、日常生活に役立つ魔道具の開発を多数されていますが……」
うーん、ドラガンくんって本当にしっかりしてるよね。具体的に自分がどうしたいのか、その方向性がすごくはっきりしてて、そのために何をどう学んでいけばいいのかをちゃんと考えてるんだなあって、すごく感じるもの。
ドラガンくん、なんか特殊な固有魔力を持ってるって話で、そのせいでドロテアちゃんも領主クラスを選択するんだって言ってたけど……ドラガンくんみたいな人が領主になるのであれば、ヴェルツェ領は安泰だろうなあ……。
「……その点については、ゲルトルード嬢の意見が参考になるのではないだろか。どうだね、ゲルトルード嬢?」
す、すいません、聞いてませんでした!
白いお髭のおじいちゃん先生に名指しされて、私は考えごとから引き戻されたんだけど、なんのお話なのかさっぱりわかりませんっ。
え、えっと、どうすればいいんだろう?
思わず笑顔を浮かべたまま固まっちゃった私のようすに、おじいちゃん先生はナニを思ったのかニヤリと笑った。
「ふむ、さすがにいまは手の内を明かすつもりはないということかね、ゲルトルード嬢?」
あ、あの、手の内って、いったいなんのことでしょう?
やっぱり笑顔で固まっちゃってる私に、先生は1人で納得したようにうなずいてくれちゃう。
「これは、実際に形になるまで楽しみに待たせてもらうとしよう」
いや先生、はっはっはっはっ、なんて楽しそうに笑っていただいちゃっても、ホンットに私、なんのことだかさっぱりわかってないんですけどー?
そんでもってやっぱり、流れるように私は、白いお髭のツォルヴァイス先生の授業を選択することになっちゃったのでした。





