275.いろいろな変化を実感
本日2話目の更新です。
明日も更新、できるかな(;^ω^)
女子個室棟へ入ると、玄関ホールでスヴェイさんが待ってくれていた。
「お帰りなさいませ、ゲルトルードお嬢さま。午前中のうちに、お手紙はお届けしました」
「ありがとうございます、スヴェイさん」
と、にこやかに言葉を交わしたんだけど、スヴェイさんはそのにこやかな顔のままちょっと声を落として私に訊いてきた。
「それで、先ほどご一緒されていた生徒さんたちは、どちらの方がたでしょうか?」
おっと、さすがにチェック入れてくれちゃいますね?
私は笑顔で答えちゃう。
「ヴェルツェ子爵家のご令嬢ドロテアさまと、弟君のドラガンさまです。来年度はご嫡男のドラガンさまだけでなく、ドロテアさまも領主クラスを選択されるとかで、ドロテアさまがわたくしに声をかけてくださったのです」
「ああ、ヴェルツェ領でしたら、クルゼライヒ領と隣接していますね。そうですか、ヴェルツェ子爵家のご姉弟でしたか」
すぐにスヴェイさんも納得してくれる。
私は嬉しくなって、さらに言っちゃった。
「お2人とも非常に優秀なかたで、秋試験の1年生総合成績の首席がドラガンさま、二席がドロテアさまでしたのよ。今日は午後の選択科目の教室訪問もご一緒していただけるとのことで、本当にありがたいです」
いや、私が三席だったことは、ちょっと言いづらいので黙っておく。
それでも、スヴェイさんもにっこりと言ってくれた。
「それはよかったですね。そのようなご姉弟がゲルトルードお嬢さまとご一緒してくださるのは、とても心強いです」
そしてスヴェイさん、なんと今日のお昼は、私たちとは別にマルゴからサンドイッチをもらってるって言い出した。
「今朝厨房に入らせていただいたとき、マルゴさんからゲオルグの分も一緒に持たせていただきました。馬車に積んでありますので、私たちはのちほど、ゲルトルードお嬢さまがまた講義棟に向かわれてからいただきます」
いや、めっちゃサワヤカにスヴェイさんは言ってくれちゃってるけど、なんかもうどっから突っ込めばいいんですか状態だわ。
とりあえず、今後は誰に対しても、うかつにハンバーガーを食べさせちゃいけないと肝に銘じよう……なんかもう、いろいろと手遅れのような気が……気がするのは無視する。
お昼休憩の間も待機室にいます、というスヴェイさんを残し、私は階段を上がり自分の個室へと向かった。
部屋ではもちろん、ナリッサがお昼の準備をして待っていてくれた。
はー、美味しいお茶とサンドイッチだよ、お昼もマルゴが作ってくれたごはんだよ。なんかもう泣けてきちゃう。
だってね、これまで学院のお昼っていったら、古くなってすでに香りが飛んじゃってる茶葉で淹れたお茶だけか、食べるものはあってもせいぜい美味しくもないカッチカチのやたら硬いクッキーくらいだったんだもの。
一応ね、学院に通い始める少し前から、私も家で毎日朝晩食事が与えられるようになってはいたの。たぶんお母さまが、あのゲス野郎に何か交渉してくれたおかげだと思うんだけど。
それでも、大して美味しくもなければ量もちょっぴりしかない食事ばかりだったから、私は夜中に厨房へ下りて行って自分で適当にお料理することは続けてたんだけどね。
だけどさすがに、前日の夜に作ったお料理を、翌日のお昼に学院まで持ってきて食べるのは無理だったわ。そもそも厨房に残ってた食材自体がまったく新鮮じゃなかったし。
で、たまにおやつとして支給されたのが、その美味しくないカッチカチのクッキーだったのよ。
なんかもう、こうやってお昼に学院の自分の部屋で、マルゴが作ってくれた美味しいサンドイッチを食べてるっていうこの状況がね……私の生活は本当に何もかもが変わっちゃったんだなって、しみじみ実感しちゃうわ。
それに、やっぱり私がオリエンテーションを受けている間にも、お茶会の招待状を持った侍女が3人ばかりやってきたらしい。
てか、私がお昼を食べてる間にも2人来たよ。お昼休みで私が在室してるはずだから、居留守を使われることはないと思って狙って来たんだろうって、ナリッサは言ってたけど。
もちろん、すべてナリッサがきっぱり断ってくれてる。
これまたホンットに、がらりと変わっちゃったことのひとつだよねえ。はあ、公爵さまのご指示で私は当面どなたからもお茶会のご招待状は受け取れません、って周知がされていったら、こういう手間は減っていくのかな。
美味しいサンドイッチを食べ終わり、私は講義棟に戻ることにした。
そう言えば、ドロテア嬢とは特にどこでっていう約束はしなかったけど、とりあえず午前中と同じ大教室へ行けばいいよね?
そう思いながら私は部屋を出て階段を下りる。ナリッサも1階までついてきてくれた。
で、1階のロビーまで下りてみると……ええええ、あの、ドロテア嬢もドラガンくんもロビーにいるんですけど? しかも、スヴェイさんとにこやかに会話してるんですけどー?
「あ、ゲルトルードさま」
私に気がついたドロテア嬢が、にこっと笑いかけてくれる。
「あの、ドロテアさま、その、午後の待ち合わせ場所などは……」
特になんの約束もしてなかったよね?
慌てて小走りにそちらへ駆けよっちゃった私に、ドロテア嬢はくすくすと笑う。
そして近づいた私に、彼女はちょっと声を落として内緒話をするように言ってきた。
「お芋のお話がとても楽しかったものですから。わたくし、ゲルトルードさまともっとお話ししたいと思ってしまいましたの」
うわーん、マジかー!
めっちゃいいお嬢さんだわ、ドロテアちゃん!
本当にこのまま、ドロテアちゃんと仲良くできるかな?
おとなり領地のご領主一家だということを抜いても、ドロテアちゃんとは仲良くしたいわ。
ドラガンくんは相変わらず無表情だけど、でも考えてみれば、ご令嬢であるお姉さまを1人であちこち歩き回らせるわけにはいかないからずっと付き添っているんだよね?
学院内であっても、女子はあんまり1人でうろうろしないほうがいいって、私も注意されたばっかだし。
そう思うと、ドラガンくんもお姉さん思いのいいコじゃない? ドラガンくんとも仲良くしたいな。こういう変化は大歓迎だよね。
「それで、こちらのかたがゲルトルードさまの従者さんだと名乗られて」
ドロテアちゃんの視線の先で、スヴェイさんもにこにこしてる。
「ヴェルツェ領で品種改良された芋に、ゲルトルードお嬢さまがたいへん興味を持たれたというお話を、いま私も聞いていたところです」
そう言ってスヴェイさんはさらににこやかに言う。「ゲルトルードお嬢さまのことですから、また何か、芋を使った美味しいお料理を考えていらっしゃるのでしょうか?」
はーい、スヴェイさんやっぱり食いしん坊派閥確定でーす。
ええ、わかった、わかりました。
こうなったらもう、抵抗するのは無駄な努力です。はあ、ポテチやフライドポテトやコロッケを作ったら、スヴェイさんにも試食させてあげますわよ。いろいろお世話にもなってることだし。今後もしばらくはお世話になると思うし。
だから私はにこやかに答えてあげたわよ。
「そうですね、少し試してみたい調理法を考えていまして」
「何か新しい調理法ですか? それはなんとも楽しみですね!」
ものすっごくサワヤカにスヴェイさんはそう言って、それから私たちを促してくれた。
「それでは講義棟へと向かわれますか。私もいったん駐車場へ回りますので、途中までご一緒させてください」
「そうですね。では講義棟へまいりましょうか」
ドロテアちゃんもドラガンくんもうなずいてくれる。
「はい、ではまいりましょう」
「行ってらっしゃいませ、ゲルトルードお嬢さま」
私は、なんとなく不安げなナリッサに、大丈夫よとばかりに手を振り、彼らと一緒にロビーを出た。





