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没落伯爵令嬢は家族を養いたい  作者: ミコタにう


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268.やっと本題

本日2話目の更新です。

「それでゲルトルード嬢、コイツに相談したいことができたって、それは今日の試験結果と関係があるようなことなの?」

 アーティバルトさん、なんかもうすっかりくだけちゃってます。みんなで一通り、お茶とおやつを味わったところで言い出してくれたんだけどね。

 もちろん私は首を振る。

「いいえ、試験結果とは関係ないことです。試験は、全科目合格しました」


 私の言葉に、みなさんそろってホッとした表情を浮かべてくれちゃう。

「ああ、そっちは問題なく終えることができたんだね」

「それはもう、ゲルトルードお嬢さまなら間違いなくすべての試験に合格されると思っておりましたけれど」

「ただ、試験対策の時間がほとんどなかったと聞いておりましたからな。さすがに我々も少々心配はしておりました」


 口々にそう言ってもらって、私はそこんとこはもう素直に頭を下げておく。

「はい、かなりギリギリの状態ではありましたが、みなさまのお力添えによって無事に全科目合格で終えることができました。公爵さまにもアーティバルトさんにも、心から感謝申し上げます」

 公爵さまもね、さすがにホッとした顔をしてくれてる。

 まあ、試験結果にまったく問題がなかったかと言えば、ちょっとビミョーではあるんですが。


「じゃあ、試験とは別のことで……って、おい、フィー、こういうことは、お前がちゃんと訊いてあげないといけないことだろうが」

 アーティバルトさんがまたも公爵さまに突っ込みをいれちゃってる。

 そんでもってアーティバルトさんは、ため息を吐いて言うんだ。

「あのさ、ゲルトルード嬢はもうしっかりお前の素顔を受け止めてくれてるんだから、取り繕う必要なんかないんだよ。そのまんま、地の状態でしゃべっちゃっていいから」


 それを聞いて、ああなるほど、と私は納得しちゃった。

 そりゃまあ、あんな『キャーッ!』なんて悲鳴を上げておいて、いまさら以前のようにしかつめらしい公爵さまな口調で話すなんてできないよね。私とどう話せばいいのか、公爵さまってば迷っちゃって口を開けなかったのね。

 それならばと、私はさくっと言った。


「はい、公爵さまがお話しされやすいように話してくださって、何も問題はありませんので」

 公爵さまは、上目遣いで私のことを見てる。

 で、愛想笑いもナニもせず、ごくごく当たり前にそう言った私に、公爵さまはようやく安心したっぽい。本当にようやく、ぼそりと私に訊いてきた。


「貴女は……その、わたくしがこういう話し方をしても、平気なの?」

「平気です」

 うん、秒で断言しちゃうから、早く王太子殿下案件の相談をさせてください。

「でも……びっくりした、って言っていたでしょう?」

「それはもちろん、びっくりしました」

「でも平気、なのね?」

「平気です」

 うなずいて私は、やっぱりさくっと言っておく。

「どのような話し方をされようが、公爵さまは公爵さまですから」


 ぶっちゃけ私、前世はおネェさんな上司に、たいへんかわいがっていただいておりましたので。おかげで私はイケメン耐性が高いだけじゃないの、おネェさん耐性もめっちゃ高いの。耐性っていうか免疫? とにかく慣れてます。

 だからどれだけ、公爵さまの見た目とはギャップありまくりなおネェさん言葉を重低音で話していただいても、まったくの無問題ですから。


「はぁ……」

 公爵さまは背中を丸め、両手で自分の顔を覆って大きく息を吐きだしちゃった。

「本当に、貴女って変わってるわね……」

「自覚しております」

 だから早く王太子殿下案件の相談をさせてくださいよ。

 って、だからそこ! アーティバルトさん、また噴き出してないで。

 んもー、トラヴィスさんもマルレーネさんも肩をひくひくさせちゃってるし。


 もういいです、このまま押し切っちゃいます。

 私は公爵さまのお返事を待たずに説明を始めちゃった。

「それでですね、すべての試験を終えた後に、問題が発生したのです。まず、例のご招待状を押し付けようとした侯爵家のご令息が、学院にまで乗り込んでこられてしまいまして」

「は?」

 さすがにみなさん、慌てて身を乗り出してきてくれました。


「あの、ブーンスゲルヒ侯爵家の馬鹿息子だよね? 本当に学院にまで乗り込んできたの?」

 アーティバルトさんの問いかけに、私はうなずく。

「本当に呆れました。正面玄関に堂々と紋章付き馬車で乗り付けて、お茶会のために迎えに来たのだと主張され、わたくしを強引に連れて行こうとされたのです」

「それで大丈夫だったの、ルーディちゃん?」


 公爵さまが思わずという感じで問いかけてきてくれて、でもすぐ慌てて片手で自分の口を覆っちゃった。

「ごめんなさい、ゲルトルード嬢、よね」

「いいですよ、ルーディちゃんで」

 いやもう、ホントにナニをいまさら、だよね。

「レオさまもメルさまも、わたくしのことはそう呼んでくださっていますから。公爵さまだってそう呼んでくださって別に問題ありません」


 でもって、やっぱり私はもうさくさくと説明を続けちゃう。

「その正面玄関で、お茶会のご招待状を受け取った、いや受け取ってないと言い合いをしているうちに、ゲオルグさんの馬車が駆けつけてくださったのです。すぐにスヴェイさんも来てくださいましたし、わたくしは危害など加えられておりません」

「ああ……それはよかったわ」

 公爵さまはじめ、みなさんホッとした表情に変わりました。


 私もソコはもう素直に言っておきます。

「はい、すぐに対策を講じて、ゲオルグさんとスヴェイさんをわたくしに付けてくださった公爵さまとレオさまには、本当に感謝申し上げます」

 そんでもって、そのまま本題に入らせてもらいますわ。

「ただ、その場に、なぜか王太子殿下がお見えになりまして」


「え、あの、デマールが? えっと、どういうこと?」

「どういうことなのか、わたくしにもさっぱりわかりません」

 いやもう公爵さまもきょとんとしちゃってるけど、私が聞きたいわ。なんで王太子殿下があの場にご登場されちゃったのか。


「おそらく、たまたまその場を通りかかった、といった状況でいらしたのかとは思うのですが」

 私もどう説明していいのか困っちゃうわよ。「その、ちょうどそのとき、その侯爵家のクズ、じゃなくてご令息がですね」

「ルーディちゃんも、ふつうにしゃべっちゃっていいよ。あ、オレもこういう席ではルーディちゃんって呼ばせてね」

 ええもう、アーティバルトさんもご自由にどうぞ。

「はい、そのように呼んでいただいて結構です」

 うなずいて私はさらに付け加える。「それではわたくしも、率直にお話しさせていただきます」

「ええ、ルーディちゃんも本音で話してくれると助かるわ」


 公爵さまがすぐにうなずいてくれたけど、そんでも私が本当に素の状態で話すとお行儀が悪すぎますのでね。さすがにあの馬鹿丸出しDV確実クズ野郎とは言えないので、端的にクズと呼ばせてもらいますね。

「はい、ではその侯爵家のクズ息子がですね、公爵さまのことをひどく貶める発言をしまして……王太子殿下はそれが聞き捨てならなかったとおっしゃって、介入してこられたようなのです」

 とりあえず、私が思わずご令嬢にあるまじき啖呵を切っちゃったことは端折っておく。


 だけど私の説明に、公爵さまは深く息を吐きだした。

「ああ、そういうことね……だいたい、想像はつくわ」

 想像が、ついちゃうの?

 私はなんだかひどく気持ちがざらついた。だって想像がついちゃうって……公爵さまは、ああいう貶められ方を、これまでにも何度も経験してるからってことじゃないの?

 あの馬鹿丸出しDV確実クズ野郎以外にも、公爵さまに対してあんなことを言ってるヤツがいるのかって思うと、憤りを覚えるなっていうほうが無理だわ。


 本当に、生まれ育ちなんて本人にはなんの責任もないし、本人がどれだけ努力したって変えられないことじゃないの。

 それは確かに、身分制、階級制の社会は、それで決まるんだ、って……生まれ育ちで大半のことが決まっちゃうんだって私も頭では理解してるわよ。でも、やっぱりどうにも納得できない。

 本人にはどうしようもないことで、その人の価値を決めつけられちゃうなんて。

 しかも、その一方的に決めつけられちゃった価値から一生逃れられないんだよ? そんなの、人が生きる意味すら根底から否定してないか、って思っちゃうんだよ、私は。


 あー、もー、やっぱり私には、身分制かつ階級制で封建制の社会は、無理かも。

 でもそういう世界に転生しちゃった以上、このままそういう社会で生きていくしかないっていうのが、ねえ? いったい、どこでどうやって折り合いをつけていけばいいのか……。


 と、ひどくモヤっちゃってた私に、公爵さまが問いかけてきた。

「でも、じゃあ、それでどんな問題が起きたの? デマールが……王太子殿下が出てこられたのなら、侯爵家のクズ息子は完全に黙らされたのでしょう?」

「はい、そちらの問題は、なんというか、片付いたと思います」

 うなずいてから、私は本題の中の本題を口にした。

「侯爵家のクズ息子が警備兵に引き渡されてからですね、その……王太子殿下がわたくしに、ハンバーガーを召し上がられたときの話を、とても楽しそうにしてこられまして」


「あー……」

 公爵さまだけでなく、その場のみなさん、一斉に納得の声を上げてくれちゃった。


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― 新着の感想 ―
幼少期のお姉様たちの言葉遣いが移ってしまったのかな? 王妃殿下が男言葉なのは公爵のそれを矯正させるためにわざと男言葉を使っていたらこちらも定着してしまった感じ? だとしたら姉弟愛が透けて見えますね(*…
言葉遣いは幼少期の経験が大きいですからね。女性と接する機会が多いとその言葉を素としてしまうでしょうから素の状況下で公爵がこの言葉遣いを主とするのはある意味当たり前でしょうが、確かに読み手からすると誰の…
オネェだったのはいいとして、公爵様のためを思ってとはわかるがアウティングに近いことを身内がした事が引っかかって読みづらくなってきた 当方マイノリティで親友に別の親友へアウティングされた事あるので、、…
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