258.やはり食い気は大事
本日2話目の更新です。
続きはたぶん明日更新できるはず、です(;^ω^)
学院内にある女子個室棟は、2階以上が男子禁制だ。
ということは、1階には男子というか男性が入れるエリアがあるのよね。男子生徒も招いたお茶会が開催できるお茶会室とかね。
そして、ご令嬢がたの男性従者が控えておくための部屋も、1階にちゃんとあるのよ。
1階のちょっと奥まった、隔離部屋のような感じの部屋なんだけど。もちろん、事前に登録してある従者しか入れない。
そして当然のことながら、スヴェイさんは事前に登録してある。
待機室へ入ると、スヴェイさんがどこかの従者さん2人と談笑してた。
ホンットにコミュ力高いな、この人。情報収集を兼ねてるんだろうけど。
「あ、ゲルトルードお嬢さま」
すぐに気がついたスヴェイさんが、話していた人たちにさらっと断ってこちらに来てくれた。
「首尾はいかがですか?」
やっぱりホンットに悪びれなく、にこにこと訊いてくれちゃうんだよね、スヴェイさんは。
「午前中の3科目、すべて合格です」
「それはよろしゅうございました」
「でもまだ、午後に3科目ありますからね」
「ゲルトルードお嬢さまであれば、大丈夫でいらっしゃいますよ」
ええい、だからそういう根拠のない励ましはいいから。
そう思いつつ、私はスルーして用件を告げる。
「こちらは貴方がたの軽食です。ゲオルグさんの分もあります」
「えっ、よろしいのですか?」
なんか素でびっくりしてるっぽいスヴェイさんに、ナリッサがさきほどのかごをスヴェイさんに渡した。
持ち手のついたかごは、中身が見えないように布がかけてある。
私は声を落としてこっそりと言った。
「まだ解禁していないお料理です。ほかのかたには見られないように召し上がってくださいね」
「それはまた」
なんかスヴェイさんの目が輝いてる気がするんですけど。
もしかして、スヴェイさんも食いしん坊派閥の人だった?
「ありがたく頂戴いたします。そうですね、公爵さまより我々も馬車に乗り込むことを許可していただいていますから、ゲオルグと一緒に馬車の中でいただきます」
「ええ、そうしてくださいね」
嬉しそうにかごを持ったスヴェイさんは、学院に来るのは本当に久しぶりです、いろいろと懐かしいです、なんて話しながら私たちと一緒にロビーまで出た。
午後もまた待機室にいますので、と言い残してスヴェイさんはゲオルグさんとハンバーガーを食べるべく駐車場へと向かう。
そして私とナリッサは、3階にある私の個室に戻った。
さあ、私もがっつりハンバーガーを食べちゃうからね。バタークリームサンドは、午後の試験の合間にちょっと食べに戻れるといいんだけど。
ナリッサはもちろんずっとお茶の準備をして、私がいつ休憩に戻ってきてもいいようにしてくれている。
でもこういうときって、さっと口に入れられる甘いものが何かあるといいんだけどねえ。
ほら、チョコレートとかキャンディーとかキャラメル……ああっ!
キャラメル! キャラメルなら、すぐ作れるわ!
私はハンバーガーにかぶりついたまま、くわっとばかりに目を見開いちゃった。
だって公爵さまからもらったお砂糖だってまだたくさん残ってるし、あとはバターと牛乳があればいいよね? 生クリームを使って生キャラメルも作れるけど、まずはスタンダードなキャラメルにしよう!
マルゴに言えば、たぶんすぐ作ってくれる。
冷却箱で冷やしてカットして、薄手のモスリンか何かで作った蜜蝋布で1個ずつ包めば、すっごくかわいいキャラメルになるよね?
ああ、これはホンットに状態保存の魔術を施した蜜蝋布を作ってもらわねば。
状態保存で日持ちを延ばすことができれば、まとめて作っておいたキャラメルを1個ずつ、毎日ちょっとした合間に口に入れることができるじゃない?
それこそマルレーネさんが言ってたように、お仕事とか勉強の合間にちょっと甘いものが欲しいときに食べるのにぴったり!
そうだわ、リケ先生とファビー先生にも、今回のお礼にキャラメルをぜひお渡ししたい。
目の前で私がお味見というかお毒見で1個食べてみせれば、あとはお土産としてお持ち帰りしてもらっても大丈夫だよね? ちょっとした瓶に、かわいい蜜蝋布で包んだキャラメルをいくつも詰めてお渡ししたら、リケ先生もファビー先生もすっごく喜んでくれそう。
試験が、今日のこの試験がぜんぶ終わったら、絶対キャラメルを作るー!
やっぱ試験が終わったあとのお楽しみができると、めっちゃ気分が上がるわ。
この勢いで、なんとか午後の試験も乗り切ろう。
私はがっつりハンバーガーを食べて、午後の試験のために講義棟へと向かった。
そんでもって本当に、午後最初の試験、それにその次の試験も、一発合格できちゃった! 地理も歴史も、それぞれかなり怪しいところがあったんだけどクリアできちゃったわよ。
ああもう、泣きそう。
だって最後の試験は算術だもん、私にとっては算数レベルの試験だもん。
よっぽどのことがなければ、赤点をとるようなことはないと思う。
そう思いながら、最後の算術の教室へと向かって……やっぱり私は気持ちを引き締めた。
だってね、あまりにもうまくコトが運びすぎてる気がする。
ここで何か問題が発生したりしない? 最後に私、大ボケかましたりしない?
一応、昨日は算術の過去問のような問題も一通りさせてもらった。
リケ先生とファビー先生は、今年もだいたいこういう傾向の問題が出るはず、当てはめてある数字がちょっと違うとかその程度の違いの問題になるはず、と言いながら……でも、あの算術の先生って、ときどきとんでもない問題を出してくることがあるのよね、って言ってたのよ。
秋試験は全生徒が一斉に受ける試験じゃないから、算術は何種類もの問題が用意してあるんだって。受ける日や時間によって、その中からいくつかの問題を組み合わせて出題されるらしい。
そりゃそうだよね、生徒が試験を受ける日時がバラバラなのに、まったく同じ問題しか出てこないのであれば、あとから受ける生徒が断然有利だもん。
その、組み合わされて出題される問題の中に、ときどき『えっ?』っていうような問題が混じっていることがあるのよ、って……リケ先生とファビー先生が言ってた。ご本人たちは、実際にそういう『えっ?』ていうような問題に当たったことはないんだけど、って。
やっぱり、お家に帰るまでが遠足なのよ、ここが最後の踏ん張りどころ。
私は再びぐっと気を引き締めなおし、最後の算術の試験を受ける教室へと入っていった。





