252.はさんでました
本日2話目の更新です。
ロベルト兄は一気に言って、まただばーっと号泣してる。
そんでもってリヒャルト弟も、床に突っ伏したまま言うんだ。
「ゲルトルードお嬢さまに付き従わせていただいておれば、いずれはこのような大役をいただける日がくるのではと秘かに期待しておりましたが、まさか、まさかこれほどまでに早く……!」
「本当に、本当になにもかも、ゲルトルードお嬢さまのおかげでございます! ゲルトルードお嬢さまのコード刺繍があればこそ……! わたくしどもは未来永劫、ゲルトルードお嬢さまにお仕えさせていただきます!」
なんかベルタお母さんも号泣しながら言ってるし。
う、うん、やっぱりちょっと平常運転が過ぎる気がするよ、ツェルニック商会。
私は思わずチラッと公爵さまに視線を送っちゃったんだけど、公爵さまは実に満足そうにうなずいてくれちゃってる。
「うむ、其方らが受けてくれて嬉しく思う。だが、実際に大役を果たしてもらうのはこれからだ。年末の『新年の夜会』まで、あまり時間がない。其方らには無理を頼むこととなる」
「無理などと!」
なんかもうロベルト兄が叫ぶように答えちゃってる。
「我らツェルニック商会一同、我が身と命を引き換えにいたしましても、必ずやこの大役を果たさせていただく所存にございます!」
いや、いやいや、命と引き換えとか。
ぶっそうにもほどがあるよ、うーん、できるだけツェルニック商会にも差し入れに行こう。ちゃんと美味しいものを食べて、命を削らないように注意しなきゃ。
うん、サンドイッチとホットドッグが解禁になるんだし、マルゴにお願いしてたくさん作ってもらって差し入れに行こう。
とか思ってる私の目の前で、ツェルニック商会の3人はそろって盛大に洟をかんでる。
クラウスが3人にハンカチを配って……おっ、クラウスがエーリッヒに指示を出して、タオルを水で絞ってきてもらったみたい。うんうん、2人で連携してるんだね、エーリッヒも慣れてきたかな?
渡してもらった濡れタオルで顔を拭ったロベルト兄が、キリッとばかりに言い出した。
「それでは早速でございますが、どのような工房をお買い取りいただけますのか……」
「ああ、その前にツェルニック商会さんから、ゲルトルードお嬢さまにお伝えすることがございませんでしたか?」
いきなりさくっと、エグムンドさんがイイ笑顔で話を切ってくれちゃったんですけど。
でも、言われたロベルト兄だけじゃなく、リヒャルト弟もベルタ母も、ハッとばかりに居住まいをただした。
「さようにございました、我らとしたことが!」
なんだかわたわたと、リヒャルト弟が持参していた鞄から何か取り出してきた。
受け取ったロベルト兄が、それを捧げ持って私の前に差し出してくる。
「こちらは先日ご依頼いただきました、ゲルトルード商会さまの商会紋の案にございます」
おおー!
そうか、商会紋! ちゃんと用意してくれてたんだ!
差し出された布を、まずナリッサが受け取っていったん確認してる。こういうところ、ナリッサもちょっと慣れてきたかな?
そして、問題ございませんとばかりに、ナリッサがその布を私に手渡してくれた。
以前見せてもらったツェルニック商会の商会紋と同じように、20センチ四方くらいの大きさの布に、コード刺繍で模様が描かれている。
私が両手でその布を広げると、横から覗き込んできた公爵さまが声をもらした。
「ほう、これはまた」
ええもう、私も目を見張っちゃったわよ。
布地は落ち着いた渋みのある金色で、その生地の上にえんじ色というか赤銅色というか深みのある赤色と、同じく深みのある藍色のコードで繊細な模様が描かれているんだ。
真ん中に大きな花のような模様があり、その上下に蔓や葉が絡みつくように広がっている。そして左右には三日月を向かい合わせたような形で、その花の模様を……はさんでる、よ、ね?
あれ?
なんかこれって、ハンバーガーを横に倒したような……はさんでるよね、間違いなく。
いや、いいんだけど。
サンドイッチにホットドッグにハンバーガーにポテサラサンドにバタークリームサンドに、とにかくなんでもはさんじゃってるから、私。
これが私の、というかゲルトルード商会の商会紋だというのなら、まさにぴったり……と、思いつつビミョーな気分になっちゃうのはナゼだろう?
「こちらが簡易紋になります」
って、ロベルト兄が差し出してくれたもう一枚の布を見ると、うん、間違いなく真ん中にお花がはさんであるよ。デザインが簡略化されてるから一目でわかっちゃう。
「本日お持ちしたものは、あくまで案となりますので、お気に召さないようでございましたら何度でも新たな意匠でお作りいたします。なにとぞ忌憚なきご感想をお願いいたします」
私はこのビミョーな気分をどうしたものかと、笑顔を貼り付けたまま考えちゃったんだけど、公爵さまはもう一発でお気に召しちゃったらしい。
「いや、この案でよいのではないだろうか。ゲルトルード嬢、きみの感想は?」
結構な上機嫌でそう問われちゃって、私は笑顔を貼り付けたままうなずいちゃった。
「さようにございますね、公爵さま。たいへん美しくてわかりやすい意匠だと、わたくしも思います」
「そうであろう。では、この意匠で頼もう」
いやーもう、ツェルニック商会一行がパーッと顔をほころばせてくれちゃった。
そりゃね、たぶんあれこれ悩んで意見を出し合ってデザインして、それをコード刺繍で美しく仕上げてくれちゃった自信作だよね。それでお気に召さなければ何度でも、って言いながらもやっぱり一発合格は嬉しいよね。
しかも、これから献上品に王妃殿下のお衣裳製作なんてとんでもない大仕事が、大急ぎの状態で待ってるんだから、どう考えてもこれ以上商会紋に割いている時間が惜しいよね。
いいです。
実際デザイン自体はとってもすてきだし、もうこのさい、はさんであるのはゲルトルード商会の象徴としてたいへんわかりやすいからOKです。
ええ、これでいきましょう。
「ありがとうございます、ゲルトルードお嬢さま、エクシュタイン公爵閣下!」
ロベルト兄が満面の笑みでそう言って、リヒャルト弟もホッとしたように言い出した。
「お気に召していただけて、なによりでございます。今回も、ゲルトルードお嬢さまのお美しい御髪のお色に瞳のお色、さらに恐縮ながら公爵閣下の瞳のお色も使わせていただきました」
って、今回もそういう意図だったのかーい!
私、こんなきれいな金色の髪じゃないと思うんだけど? まあ、金に赤に青っていっても、深みがあって落ち着いた配色だし、いいんだけどさー。ただ意図を知っちゃうと、やっぱなんかさらにちょっとビミョー。
だけどもう決まっちゃった、というか、決めちゃったからね。
公爵さまはとっても満足そうだし、それにエグムンドさんもとってもイイ笑顔です。
「それでは、こちらの意匠をゲルトルード商会の商会紋として商業ギルドに登録いたします。そして大至急、印章の製作を手配させていただきます」
「うむ、それは非常によいな。印章があれば、国軍と魔法省の契約書にも使用できよう」
「さようにございます。契約内容は国軍、魔法省ともすでに合意に達しております。あとは正式な契約書を作成し、頭取であるゲルトルードお嬢さまにご署名いただければ完了でございます」
うん、さすがです。
エグムンドさんてばもう水を得た魚のように、それでは商会紋入りの便せんも発注しましょう、商会員には簡易紋のクラバット用ピンを作成させていただきます、公爵閣下は正式紋のピンでよろしいでしょうか、それに頭取であるゲルトルードお嬢さまが商会紋をお持ちになれる品も何かご用意いたしましょうなどなど、さくさく話を進めてくれちゃってます。
そしてそのまま流れるように、どの工房を買い取って衣装製作にあたるのかという話へと進んでいきました。
もちろん当事者であるツェルニック商会はそろって身を乗り出し、公爵さまも工房の一覧を眺めながら熱心に意見を言ってます。
これについてはもう、丸投げでいいよね?
私は、どの服飾工房が王妃殿下の衣装製作に適してるかなんてまったくわからないし、わかってない頭取が下手に口出しするより、よくわかってる人たちに決めてもらったほうがいいもんね。
そうねー、あちらの皆さんの話し合いがひと段落したら、お茶にしてもらおうかな。
もちろんおやつも持参してますよーん。





