251.平常運転でGO!
本日2話更新します。
まずは1話目です。
明日も更新できる、はず!
と、いうわけで、私は本日も公爵さまとお出かけです。
行先はゲルトルード商会の店舗。昨日公爵さまやレオさまと相談した作戦について、エグムンドさんやツェルニック商会と相談する必要があるのでね。
今日のお迎えの馬車も、国家トップレベル人材であるゲオルグさんが御者で、それに後ろの立ち台にスヴェイさんが乗ってます。
ゲルトルード商会の店舗に到着すると、いつものように商会員メンバーとツェルニック商会メンバーがずらりと並んでお出迎えをしてくれて……って、あれ? ヒューバルトさんがいない?
エグムンドさんが私たちに挨拶をしてから教えてくれた。
「ヒューバルトどのは現在、地方へ出張中です。戻られましたら、すぐにゲルトルードお嬢さまへご報告に上がられると存じます」
地方へ出張中って、なんだろ?
何か新しい産物とか販売ルートの開拓?
などと私は思ってしまったんだけど、詳細はわからないまま私たちは商会店舗の中へ。
って、あれれ?
今度のあれれは、スヴェイさんも一緒に店舗に入ってきたってこと。
「ゲルトルードお嬢さまが学院に通われるようになりますと、私も日中は従者として学院に滞在いたします。あらゆる情報を共有しておきたいので、本日は私も同席させていただきます」
にこやか~にスヴェイさんが言って、公爵さまはうなずいちゃってる。
そして公爵さまは、ごく軽く、スヴェイさんは当面私の通学に同行してくれる従者だと、みんなに紹介した。うん、国王陛下の隠密的な護衛さんであることは伝えなかったよ。
商会店舗は改修が始まっていて、1階はいま散らかっているからということで、私たちは2階に通された。
ちなみに、私たちが来るからと1階の工事は中断してもらってるらしい。そりゃまあ、ガンガンゴンゴン騒音が響く中での会合はちょっとアレだけど、そこまで気を遣ってもらうのなら、我が家で会合をしてもよかったかも。
「このような部屋でたいへん申し訳ございませんが、ご容赦ください」
そう言ってエグムンドさんが私たちを案内してくれたのは、どうやらエグムンドさんの執務室っぽい感じの部屋だった。
「うむ、店舗の改修中であるのだし、気にする必要はない」
って公爵さまが答えて、またしれっと私を奥の席に行くよう促してくれちゃうんですけど。
「ゲルトルード嬢も、この部屋で別に構わないであろう?」
「はい、それはもちろん」
ええもう、それはもちろんなんですが、やっぱり私がいちばん上座なんですねえ?
まあ、執務室に置かれた応接セットみたいな席なので、上座っていってもそれほど特別感がないのが救いかも。
しかし、今日も人口密度が高いな。
公爵さまにアーティバルトさんに、商会メンバーはエグムンドさんにクラウスにエーリッヒ。それにツェルニック商会が兄弟とお母さんでしょ。さらにスヴェイさんもいるし。
ソファーに腰を下ろしたのは私と公爵さまだけで、ほかはみんな立ってるって状況ですわ。
「それでは、ゲルトルード嬢」
やっぱりあくまで私が頭取として、文字通り音頭をとれとばかりに、公爵さまが促してくれちゃいます。
ええもう、承諾した以上は頑張りますよ。
「実は、我が商会の今後の活動について、当初の予定からいろいろと変更が必要となってきましたので、それについてみなに説明しようと思います」
などと、私は昨日の公爵邸での話し合いについて、説明を始めた。
もちろん、何もかもぜんぶ話す必要はないので、とにかく最優先の内容を話す。
ゲルトルード商会が国家特級商会に指名される予定であること、そしてそのために順次情報公開を進めていくこと。
そんでもって、今日の最大重要項目は、とにかくツェルニック商会にめちゃめちゃ頑張ってもらう必要があるってこと!
「け、献上品、で、ございますか?」
見開きすぎたロベルト兄の目玉がこぼれ落ちそうなレベルです。
リヒャルト弟もベルタ母も、もちろん目をまんまるに開いたまま完全に固まってるし。
「そうなの、いきなりで本当に申し訳ないのだけれど。『新年の夜会』より前に、コード刺繍も解禁することになってしまって」
私が思いっきり笑顔で言うと、公爵さまもさらっと言い添えてくれる。
「うむ、コード刺繍を広く知らしめるためには、まず王妃殿下にお認めいただくのが最上の策であろうからな」
「それに、王家と四公家のみなさまに、わたくしのレシピによるお料理をご披露するお茶会も予定されているの。そのお茶会にわたくしは、コード刺繍を施したお衣裳を身に着け、それにコード刺繍を施したトゥーランヒールの靴を履いて出席したいのです」
これまた思いっきり笑顔で私は言っちゃったけど、そうです、靴! とっても重要!
やっぱり、ツェルニック商会一行は固まったまま。
そこに公爵さまが追い打ち、げふんげふん、さらに追加の内容を説明しはじめた。
「コード刺繍は『新年の夜会』で解禁する予定であったが、さまざまな事情で急ぎ解禁となった。そのぶん『新年の夜会』では、新たな衣装を其方らツェルニック商会に製作してもらおうと考えている」
「え、あ、あの、お衣裳の製作は、我が商会では、まだ、その」
さすがにロベルト兄が反応したんだけど、公爵さまはぐいぐいと押し切っちゃうんだ。
「衣装製作が可能な工房を買い取るので、其方らツェルニック商会に指揮をとってもらいたい。なにしろ、コード刺繍に関しては其方らに一日の長があるからな。買い取る商会に関しては、昨日よりエグムンドに選定を頼んでおいた」
茫然とツェルニック商会一行が視線を向けた先で、とってもイイ笑顔のエグムンドさんがすっと書類を出してきた。
「こちらに買い取り候補の工房一覧をご用意しております」
一覧にさっと目を通した公爵さまは、いかにも満足げにうなずいてる。
「うむ、今回の衣装製作に関しては、まだ内々の話ではあるが、ゲルトルード嬢が考案した斬新な衣装を王妃殿下にもお召しいただくことになると思う。そちらの製作に関しても、ツェルニック商会には指揮をとってもらいたい」
あ、バッタリと、ツェルニック商会一行が3人まとめて倒れちゃった。
クラウスとエーリッヒが慌ててツェルニック商会一行に駆け寄ってる。
すぐにお水を汲んできて3人に飲ませてるクラウス、さすがに気が利くよねえ。
って、大丈夫なのかな、ツェルニック商会。さすがにいきなり献上品に、王妃殿下のお衣裳製作だなんて、ショックが大きすぎるよね。
それでも、うーん、なんとか頑張ってほしい。
もちろん私としては、凶器のようなピンヒールを履かずにすむかもしれないっていうのもあるけど、ツェルニック商会にとっても献上品製作の実績を得るだけじゃなく、公爵さま丸抱えで工房まで準備してもらった上で『王家御用達商会』になれるチャンスだもん。
私、ホンットにツェルニック商会ってセンスも腕もいいと思ってるのよ。
なんたってこの地味顔ツルペタ体形の私にでも、ちゃんと似合うドレスをみつくろってくれるのよ? さらに私が描いた落書き程度の絵から、あんなすてきなデザインを起こしてすばらしい刺繍にしてくれちゃうわけだし。
公爵さまだってその実力を認めてるから、ほかの実績のある商会を新たに引き入れたりせずに、この若いツェルニック商会に任せようとしてるんだと思うのよね。
あ、ツェルニック商会の3人が起き上がった。
大丈夫かな、なんかまだ茫然としてるみたいだけど……ありゃ、3人そろって泣き出しちゃったよ。それも床に突っ伏して号泣。
え、ええっと、ホントに大丈夫?
それでも、頭取のロベルト兄が顔を上げた。いや、クラウスが差し出してくれたハンカチで盛大に洟をかんでるんだけどね。
「ま、まことに、ありがとうございます……!」
おっ、大丈夫そうだわ。
いったん顔を上げたロベルト兄が、平伏して言い出したんだ。
「ゲルトルードお嬢さま、ならびにエクシュタイン公爵閣下におかれましては、まさかにこのような……わたくしどものような若く実績もない商会に、これほどまでの大役をお命じいただけるなどと、言葉に尽くせぬ感激の極みにございます!」
よかった、ツェルニック商会は平常運転だ。





