249.無意識にやってました
本日も2話更新します。
まずは1話目です。
私はぽかんとしたまま、アーティバルトさんに問いかけてしまった。
「え、あの、必要な部位……腕とか脚とかだけ、筋力を強化するのですか?」
「ええ、ふつうはそうです」
アーティバルトさんは苦笑する。「【筋力強化】自体はそれほど珍しい固有魔力ではありませんので……ただ、全身の筋力をまんべんなく強化できるほど強い魔力を持っている人は、かなりめずらしいです」
「そ、そうなのですか?」
いや、私、フツーに全身の筋力を強化してますけど?
ぽかんとしっぱなしの私に、やっぱりアーティバルトさんは苦笑する。
「ゲルトルード嬢は、体幹を鍛えるような訓練はされていないですよね? 私の兄などは、体幹を鍛える身体訓練を欠かしません。たとえば腕の筋力を強化しただけでは、先ほどのゲルトルード嬢のように自分の体重よりも重いものを持ち上げるようなことはできないからです」
腕の筋力を強化しただけでは、って……そりゃそうだよね、足腰の筋力も強化してないと、とてもじゃないけど腕力だけじゃこれだけの重さを支えきれない。
うーん、卵白を泡立ててメレンゲを作るときなら、腕だけの強化でいけるかもしれないけど。
「剣をふるうにも弓を引くにも、強化した腕の筋力を支え切れるだけの体幹がないと、結局は【筋力強化】が使いこなせないのです。例外的に、たとえば指先だけを強化して指弾を放つことに特化しているような人もいるとは聞きますが……たいていの場合、【筋力強化】という固有魔力の持ち主は、まず全身を鍛えて体幹を整える必要があるものなのです」
アーティバルトさんの説明に、私はなんというかもう茫然としちゃう。
そういうもんなの?
【筋力強化】って、そういうもんだったの?
なんかこう、基礎体力プラスアルファ的な?
私、本当にただもうフツーに、全身に魔力を巡らせて全身の筋力を強化してたよ?
「もしかしたら……ゲルトルード嬢の【筋力強化】は、我々が知る【筋力強化】とは少し種類が違うのかもしれませんね」
そうつぶやいてからアーティバルトさんは、なんかもう苦笑というよりはあきれているような感じで言った。
「いや、ゲルトルード嬢は魔力量が豊富で、おそらくかなり強い固有魔力をお持ちだろうとは感じていましたが……驚きました」
そしてアーティバルトさんは付け加える。「ああ、私の【魔力感知】は、相手の魔力の量や質もある程度感知できるのです。これについてもどうぞご内密に」
「え、はい、それはもちろん」
こくこくとうなずいたのはいいんだけど、私はすっかり茫然自失だわ。
だって私、自分の固有魔力についても、全然わかってなかったってことなんだもんね?
そう言われてみれば確かに、私は自分の固有魔力について誰かに確認してもらったことなんて一度もない。我が家の図書室にあった、固有魔力の一覧が書いてある本を読んで、これって【筋力強化】なんだなって自分で判断しただけだもの。
「リアが、自分でも制御しきれないほど強い固有魔力を持っていることは、わたくしもよく知っているのだけれど……娘のルーディちゃんも、まさかこれほどまでだとは」
レオさまが大きく息を吐いて、私に問いかけてきた。
「ルーディちゃんは、自分の魔力、固有魔力を制御できているのよね?」
「はい、特に扱いに困ったことはありません」
「だからリアも、特に問題視はしてなかった、ってことなのかしらね……」
なんかレオさまはまたもや頭を抱えちゃってるんだけど、私としては、そこはやっぱりお母さまの擁護をしておきたい。
「あの、我が家では固有魔力について話をすることが、ほとんどできなかったのです」
この人たちには、正直に言っちゃっていいと思う。
「母の固有魔力は【聴力強化】です。前当主は、家の中で自分が話す内容を母に聴かれることをとことん嫌って、母の魔力を常に封印していましたので」
そうなの、お母さまの固有魔力を使えば、あのバカでかいタウンハウスの中で誰が何を話しているのか、ぜんぶ筒抜けになるのよね。
そんな状況を、あのゲス野郎が受け入れるはずがない。どうせ、よからぬ話しかしてなかっただろうし。
だから、お母さまに魔力制御の魔石が必要なのをいいことに、あのゲス野郎はずっとお母さまの固有魔力を強制的に抑え込ませていたのよ。
それでもお母さまは、ある程度は【聴力強化】を使うことができてはいたようなんだけど。お母さまの固有魔力も、それくらい強いってことなんだと思うわ。
それに、ふだん私が自分の固有魔力を使う目的が、暴力から身を守るため、だったからねえ……あんまり積極的に話題にしたいとは自分でも思わなかったし。
「ああ……そういうことね……」
レオさまが、納得と同時に……その目に怒りを表した。
「本当に、何もかもが赦されないことばかりだわ、あのゲス伯爵がしてきたことは」
低く、そう罵ったレオさまは、私に言ってくれた。
「子どもに魔力が発現して、さらに固有魔力が顕現した場合、たいていは母親がその魔力について詳しく検討するものなの。子どもはまず間違いなく、母親と同じ系統の固有魔力を持つものだから……もし、それが母親本人には理解できない固有魔力であっても、自分の親族にはたいてい、似た固有魔力を持つ人がいるものだし」
それは……どう考えても無理よね……。
同じ身体系の固有魔力だといっても、お母さまと私では種類が違い過ぎるし、かといってお母さまは自分の親族に尋ねることもできなかった。
だってお母さまは、実の父親であるマールロウのお祖父さまのご葬儀にすら参列させてもらえなかったくらいなんだもの。
そしてマールロウ男爵家はもう、お母さまとは面識のない遠縁の一族が継いでしまっている。
「ゲルトルード嬢は【筋力強化】が顕現した、その最初の時点から全身の強化ができたのですか? それとも、徐々に全身の強化ができるようになったのでしょうか?」
アーティバルトさんが問いかけてきて、私はもうこれについても、この場の人たちには正直に申告しておいたほうがいいと思った。
「最初から、全身の強化ができました。わたくしは魔力が発現すると同時に固有魔力も顕現しまして、自分ではまったく意識することなく全身の筋力を強化していたという状況でした」
「同時に、というのはめずらしいな」
公爵さまがつぶやいて、私はうなずく。
「いままで、母の心労を思って誰にも話したことがなかったのですが……わたくしは前当主によって2階の窓から突き落とされたことがありまして」
私の言葉に、その場の誰もがぎょっとした顔をする。
「そのまま背中から地面に落ちたのですが、衝撃はあったものの痛みはまったくなく、怪我もまったくありませんでした。そのとき、わたくしは自分に魔力が発現して、同時に自分の身を守ることができる固有魔力も顕現したのだと理解しました。12歳のときです」
いやーもう、あのときは本当に混乱したわ。
だって、いきなり魔力が発現したみたい、なんかよくわからないけど固有魔力も顕現しちゃったらしい、それになにより、前世の記憶がどばーっとあふれ出すようによみがえってきちゃったんですけどー、っていう状況だったからね。
たぶん……その辺の記憶はあいまいな状態なんだけど……その、私が前世で死んじゃったとき、同じようなシチュエーションだったんだと思う。高いところから落ちたか何かしたんだろうな。
だから、2階から落とされたことが引き金になって、前世の記憶が一気によみがえっちゃったんじゃないかって、自分では理解してる。
魔力の発現と同時に固有魔力が顕現したのも、命の危機を感じて本能的にそうなったとか、そういう感じだったんじゃないかな。
その後も、鞭で打たれるときなんか、激昂してめちゃくちゃに鞭を振り回すあのゲス野郎がどこを打ってくるかなんてまったくわからないから、当然のように全身の【筋力強化】をしてたもの。あ、頭だけはさすがに無理だから、いつも腕でかばってたけど。
うーん、やっぱりこういう話をしちゃうとみなさん、なんて言っていいのかわからない、って顔になっちゃうよね。
自分でも思うもん、私の今世でのこれまでの人生、結構ハードモードで綱渡りだったなー、よく生き残ってこれたなー、って。
「ルーディちゃん……」
レオさまがまた、ぎゅっと私を抱きしめてくれた。
「本当によく、よく生きていてくれたわね。もしそのとき、貴女に魔力が、固有魔力が顕現していなかったらと思うと……」
私の体に回されたレオさまの手が震えている。
ああ……この人は、本当に私のことを心配してくれているんだわ……。
それを感じて、私の胸の奥が温かくなる。本当にありがたくて幸せなことだもの。私のことを、こんなに心配してくれる人がいてくれるだなんて。





