表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/371

25.料理人面接とテンプレ?

 クラウスがやってきた。

 料理人候補を連れて。

 ちなみに今日の料理人面接も、我が家のメンバー勢ぞろいだ。

「こちらが料理人のマルゴさんです」

 そうクラウスが紹介してくれた相手は、なんだか縦にも横にも大きな女の人で、私は脳内に『おばちゃん』とか『肝っ玉母さん』なんて単語が浮かんだ。

「マルゴ・ラッハと申しますです」

 そのおばちゃんは、なんというかこう、堂々と頭を下げた。


「あたしは30を過ぎてようやく子宝に恵まれましたんですが、亭主には早々に死なれちまいましてね」

 マルゴおばちゃんは淡々と話す。「それからはあちこちの貴族家で厨房の下働きなんぞをさせていただきながら、息子2人を育てました」

 おばちゃんというよりは肝っ玉母さんなのかもしれない。

「去年までアズノルド子爵家で料理長も務めさせていただいておりましたが、どうにも奥方さまとの折り合いが悪うございましてね。紹介状もいただけないまま辞めちまいまして、それっきりでございます」


 なるほど。

 クラウスが言っていた通り、これはまたクセが強そうだわ。だってふつう、自分からこういうこと言わないよね? 貴族家の奥方さまと折り合いが悪くて辞めちゃったとか、ねえ?


「あの、いくつかお訊きしていいかしら?」

 私が声をかけると、マルゴはちょっと眉を上げてうなずいた。

「もちろんでございます」

「貴女が話せる範囲でいいのだけれど、子爵家の奥さまとはどういうところで折り合いが悪かったのか、教えてもらえないかしら?」

「食べものを、粗末になさいますんですよ」

 マルゴおばちゃんは顔をしかめて答えた。「晩餐の見映えを非常に気にされておられまして、毎晩山のように料理を要求されますんですが、ほとんど手つかずで下げられてまいりました」


 大量の料理がほとんど手つかずで下げられちゃうなんて。

 私は思わずつぶやいてしまう。

「アズノルド子爵家ってずいぶん裕福でいらっしゃるのね」

「ところがそうでもございませんで」

 私のつぶやきにマルゴがさらに顔をしかめた。「本当にただもう見映えのためだけに要求される料理なものですから、食材はとにかく安く買いたたいたものばかりお求めで。しなびた野菜に腐りかけの肉でございますよ。そんなもの、どれだけ腕をふるおうが不味い料理しか作れませんです。おかげで、下げられた料理に使用人たちも手を付けぬという有り様で」


 そ、それはちょっと……。

 えっと、つまりその子爵家では食事は見映えのためだけのものであって、味とか栄養とかそういうのはまったく求めていらっしゃらなかったと? だから最初から食べるつもりもない不味い料理ばかり大量に作らせていたと?

 そりゃあ、料理人としてはやる気もなくなるわよねえ。


 そう思ってから、私は思い出した。我が家の食事もたいがい不味かったのよね。

 晩餐なんて特に、あのゲス野郎と同席してるってだけで不味さ倍増どころじゃなかったけど、そもそも子ども部屋で、1人で食べてるときから不味かったわ。お母さまと2人で食べた晩餐も、確かに品数は多かったけど美味しかったっていう記憶がない。

 アレって単に私がゲス野郎から疎まれてるから、嫌がらせで不味いものしか食べさせてもらってないんだと思ってたんだけど……もしかして、貴族家の料理ってどこもそういうものなの?


「そういうことだったのね」

 声をもらしたのはお母さまだった。

 お母さまは頬に片手を当て、ため息をこぼしていた。

「わたくし、王都でいただくお食事が、どうしてどれもこれも美味しくないのか、ずっと不思議だったのよ」


 私は目を見張っちゃった。お母さまも美味しくないと思って食べてたんだ。

 マルゴも目を見張っているその前で、お母さまはさらに言った。

「わたくしは地方貴族の出身ですから、学院に入学するまでずっと領地で育ったの。領地では毎日、村から新鮮な美味しい食材が領主館に届けられていて、それが当たり前だと思っていたわ」

 お母さまは私に顔を向ける。「でも、このところのお食事はとても美味しくて。あれはルーディ、貴女が新鮮な食材を用意してくれているからなのね?」

「あ、ええ、はい」

 私は慌ててうなずく。「毎日カールに市場へ買い出しに行ってもらっています。カールは市場のこともよく知っていて、新鮮な食材を上手に買ってきてくれますから」


 カールに、みんなの視線が向いた。

 注目を集めちゃったカールは、ちょっと緊張したようすながらもしっかりと言ってくれた。

「毎日、産みたての卵と搾りたての牛乳を買ってます! 野菜も、朝収穫されて市場に出されたものを買ってます! お肉もハムも、新鮮で美味しそうなのを選んで買ってます!」

「そうだったのね、毎日ありがとう、カール」

 にこやかにお母さまが言って、カールは嬉しそうに答えた。

「とんでもございません、奥さま!」


 どうやら、この世界の料理もテンプレだったらしい。

 私は思わず天を仰ぎそうになった。

 だって異世界に転生したらその世界のご飯が美味しくなくて、前世の記憶やチート能力を使って美味しいご飯で無双するって、ねえ?


 私は別に無双する気はないけど……いや、でも何か料理を使って収入を探ってもいいかも? こないだおやつにと適当に作ったプリンも、お母さまとアデルリーナはもちろんカールやハンスにも大絶賛されちゃったし。

 そもそもサンドイッチすら、なかったんだよね? 私が手早く食べられるようパンにハムやチーズをはさんでいたら、カールがびっくりしてたもん。

 うーん、貴族が、何か食べもの屋さんなんぞを経営しても大丈夫なんだろうか?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

書籍7巻2025年10月1日株式会社TOブックス様より発売です!
誕生日が3日しか違わない異母姉弟ドロテアちゃんとドラガンくんの誕生秘話SS(22,000字)収録!
コミックス3巻も同日発売です!

180695249.jpg?cmsp_timestamp=20240508100259
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ