247.乗ってみました
本日も2話更新です。
まずは1話目です。
と、いうことで、いきなり乗馬の練習となりました。
レオさまと一緒にお部屋を借りて乗馬服に着替え、お庭に移動です。
私たちが着替えている間に、公爵さまはエグムンドさんに手紙を書いて、明日の段取りをしてくれてたらしいです。
でもって、公爵さまもアーティバルトさんも、乗馬用のブリーチズとロングブーツにお穿き替えですわ。
「ルーディちゃん、乗馬の授業ではこれまでどうしていたの?」
「学院の馬丁にくつわを取ってもらった状態で、なんとか鞍に座ることはできるという程度です。くつわを取ってもらっていないと、馬がまったくいうことをきいてくれませんでしたので」
「そうね……魔力を通さずに乗ろうとすると、そうなるわよね……」
レオさま、そんな可哀想な子を見る目をしないでください。
しかしレオさま、カッコいいわー。
ロイヤルブルーのジャケットに、黒の横鞍用スカートってお衣裳がまた、とんでもなく似合ってるんだもの。
レオさまに見とれながらそんな話をしていると、厩舎から何頭か馬が引き出されてきた。
って、あの、国家トップレベル人材さんが馬を引いてくださってるんですが。
国家トップレベル人材のゲオルグさんは、私の前に一頭の馬を引いてきてくれた。
「ゲルトルードお嬢さまにはこの仔がいいでしょう。牝の若駒で気性もおとなしく、小柄で扱いやすい仔です」
えっと、栗毛っていうのかな、すごくきれいな黄褐色の毛並みの馬だ。
それにゲオルグさんが言う通り、一緒に引かれてきたほかの馬たちに比べて、小柄でほっそりとしている。
「ええ、とてもよさそうな馬ね」
レオさまが満足そうにうなずいて、私を促してくれた。
「ルーディちゃん、ゲオルグがいいというのだから、間違いないわ。あの馬に魔力を通してみなさいな」
「はい、やってみます」
私は答えて、とことことその馬のところまで行ってみた。
いやー小柄な馬っていっても、やっぱデカいよ。
この世界というかこの国の馬は、私が前世で認識していたようなサラブレッドっぽい馬だ。
だから頭では、馬ってこういう生きものだって理解してたつもりなんだけど、初めて間近で見たときは馬ってこんなにデカいのかってビックリしちゃったわよ。
で、そのデカい馬の背に乗ると、これまたビックリするくらい視線が高いの。そんで馬が動くとすんごい揺れるんだけど、この世界の女性は横鞍っていう横座りして乗る鞍を使うので、かなーり不安定で落っこちそうで怖いのよね。
「この仔の名前はアレクサです」
相変わらずにこりともせずにゲオルグさんが教えてくれたんだけど、なんですか、そのお願いすれば音楽かけたり家電のスイッチ入れたりしてくれそうなお名前は。
という、私のどうでもいい連想をヨソに、ゲオルグさんが続けて教えてくれる。
「最初は灯の魔道具をともすときくらいの魔力で十分です。ごく軽く、馬の首筋に手を当てて魔力を通します。できれば名前を呼んでやってください」
「はい。ええと、首筋って、この辺りですか?」
馬の首筋に片手を近づけて私が問いかけると、ゲオルグさんがうなずいてくれる。
「アレクサ、魔力を通すからね」
私はそう言いながら、そっとアレクサの首筋に手を当て、ほわっと灯をともすときの感覚で魔力を通してみた。
とたんに、私の手の下でぴくっと筋肉が動くのがわかった。
「じゃあ、エサを与えてみてください」
そう言って、私に人参を差し出してくれたのは、これまた国家トップレベル人材のスヴェイさんだ。
うなずいて人参を受け取ったものの、大丈夫なのかなと、私はちょっとおっかなびっくりだったんだけど……私に鼻面を向けたアレクサちゃんはつぶらな瞳で私を見て、そして私が差し出した人参をふんふんと嗅ぎ、すぐにもしゃもしゃと食べてくれた。
うわー、アレクサちゃん、かわいいかも!
「大丈夫そうですね」
スヴェイさんの言葉に、ゲオルグさんがうなずいて言ってくれる。
「乗馬中にもしアレクサがいうことをきかなくなった場合は、先ほどよりも少し強い魔力を通してください。それに、アレクサが落ち着きを失ったり何かに驚いて暴れたりしたときも、首筋に手を当てて魔力を通すと御しやすくなります」
「そうなのですね」
ほー、こちらの世界の馬ってそうなんだ。
「それじゃあ、乗ってみましょう。ルーディちゃん、乗馬スカートの変え方はわかるわね?」
「はい、それは大丈夫です」
ってことで、レオさまと私はスカートを乗馬用に変える。乗馬の授業には侍女を連れて行けないので、自分で変えるのよね。
ホンットに面倒くさいんだ、横座り用の乗馬服って。地面を歩いてるときと、横鞍に座るときとで、スカートの形を変えないとダメなの。変形用についてるボタンをかけたり外したりするんだけどね。
乗馬用のスカートがそんな作りになっているのは、横座りして斜めに足を投げ出しても、その足が見えてしまわないよう隠す必要があるかららしいんだけど。
スカートの変形ができると、スヴェイさんがさっと踏み台を出してくれた。
「ではどうぞ、ゲルトルードお嬢さま」
アレクサの口は、ゲオルグさんが取ったまま待ってくれている。
私は踏み台に足をかけ、よっこらしょとばかりに馬の背によじ登った。
おおお、この横鞍は座り心地いいじゃないですか。
学院の授業で使う横鞍って、私にはちょっと大きすぎるみたいで文字通り座りが悪いんだよね。だからよけいに不安定で落っこちそうで怖いっていうのがあるのよ。
まあ、上位貴族家の場合はふつう、私みたいに学院所有の馬や装備を借りて授業を受けるなんてことはなく、ちゃんと自分の馬と装備を持ち込むものらしいんだけど。
「鞍の具合は大丈夫?」
「はい、安定しています」
レオさまの問いかけにも笑顔でお返事できちゃうわ。
「よかったわ。じゃあ、少し歩かせてみましょう」
そう言ってレオさまは自分の前に引かれてきた馬にサッと、本当にサッと一息で乗っちゃった。
レオさま、やっぱりカッコいいー。
「じゃあ、手綱を持って……背中は丸めちゃだめよ。まっすぐ伸ばして姿勢よく、ね」
いや、レオさまに乗馬の練習に付き合ってもらえたのは大正解だわ。
だって公爵さまやアーティバルトさんっていう男性陣は馬の背にまたがって乗るから、横鞍に乗るお手本にはならないのよね。
でもレオさまは本当にさっそうと横鞍に乗ってて、あのカッコよさは見習いたいって自然に思えちゃう。並んで歩いてもらいながら、本当にすっごくいいお手本になってもらってるの。
その公爵さまもアーティバルトさんも、馬に乗って私たちの後ろについてきてくれてる。
「ゲルトルード嬢、なかなかいい感じではないか」
「はい、アレクサがいうことをきいてくれます!」
公爵さまの言葉に、私は思わず笑顔で答えちゃったわよ。
だってゲオルグさんはもう手を放しちゃってるのに、アレクサちゃんはちゃんと私の指示に従って歩いたり止まったりしてくれるんだもの。いままでの馬みたいに、私のことバカにしてない!
「では、そのアレクサはきみに貸しておこう」
公爵さまが言い出した。「明日にでも学院の厩舎に送っておく。今後は乗馬の授業では、アレクサに乗るといい」
って、公爵さまめちゃくちゃ太っ腹じゃないですか!
それって、学院の厩舎でこのアレクサちゃんを飼育する、その面倒もぜんぶみてくださるってことですよね? そんで私はずっと、アレクサちゃんにだけ乗ればいいってことですよね?
それはもう正直に、めちゃくちゃ助かります!





