245.だからイヤな予感って
本日2話更新いたします。
すっかり2話ずつ更新が定番化してきました(;^ω^)
まずは1話目の更新です。
トラヴィスさんとアーティバルトさんが、自分たちの書いたメモをのぞき込みながら、今日の内容をもう一度整理している間、私はお借りした刺繍糸をくるくると巻いて束に戻した。
と、見ると、アーティバルトさんが持ってきたかわいらしいソーイングボックスに、マルレーネさんが硬化布で折った小さな箱を詰め込んでいる。
刺繍糸をお返しすべく、私が横からちょっとのぞかせてもらうと、マルレーネさんはそのカラフルで小さな箱に、ボタンや細いリボンなどこまごまとしたものを分類していた。
私の視線に気がついたマルレーネさんが、うふふふふと笑う。
「この布で作る箱、本当にすてきですね。こうやって小物を整理するのもとても楽しいですわ」
「そうですね、好きな大きさの箱が作れますし、色や柄もいろいろ選べてかわいいですよね」
思わず笑顔で私も答えちゃう。
マルレーネさんはとっても楽しそうだ。
「ええもう、好きな色や柄で簡単に小箱が作れて、しかも必要に応じてすぐ布に戻せるだなんて。その上に、もし状態保存ができるようになったとすれば」
内緒話をするようにマルレーネさんが声を落とす。「わたくし、この布で作った箱にこっそりおやつを詰めて、自分の机の引き出しに隠しておきますわ。そしてお仕事の合間に、1人でこっそりいただきますの」
「それはいいですね!」
私もちょっと声を落としながらも、うふふふふと笑ってしまった。
「聞こえているわよ、マリーもルーディちゃんも」
私とマルレーネさんの内緒話に、レオさまも参加してきちゃった。
「わたくし、この布で帽子の箱を作りたいのよね」
「ああ、それもいいですね!」
私だけじゃなくマルレーネさんも声を上げた。
「レオポルディーネお嬢さま、それはわたくしもぜひ、でございますわ。この布を硬化させた箱であれば、まず見た目も華やかですし、何より軽くて扱いやすそうですもの」
「そうでしょう? 硬化させればそれなりの硬さがあるから、箱を重ねても帽子の飾りをつぶしてしまうようなことはなさそうだし。しかも、もとが布だから通気性もあるのよね?」
「ええ、それだったらもう、大きな1枚布でふんわり帽子を包んで、そのまま硬化させてしまうだけで大丈夫ではないですか?」
「あら、それでも大丈夫そうね。そうなると、本当に何を包むのにも使えそうだわ」
などと、我々女性陣が盛り上がっていると、ふとアーティバルトさんが言い出した。
「あ、その布ですが、硬化状態が維持できる期間は、それほど長くはないですよ」
「そうなんですか?」
いや、それ、とんでもなく重要な情報じゃないですか!
レオさまも眉を上げちゃってる。
「では、帽子の箱を作ってずっと保存しておくことはできないの?」
「そうですね、何年も硬化状態を維持させることを目的にするのであれば、付与する魔力の量や質を変える必要があると思います。詳しいことはヴィーに訊かないとわかりませんが」
「つまりこの布は、あくまで一時的に何かを包んで運ぶことを主な用途にしてある、ということでしょうか?」
私も問いかけちゃったんだけど、アーティバルトさんはうなずいてくれた。
「はい、弟によると、それら試作品に付与してある魔力はごく弱いものだそうです。長期間硬化状態を維持することはできませんし、また繰り返し何度も使っているうちに徐々に魔力が効力を失って硬化できなくなります。まあ、これはあくまで試作品ですし、使用目的によって付与する魔力を変えることは、弟も考えていると思いますが」
むーん、さすがにそこまで万能とまではいかない、ってことね?
そりゃ確かに、もとの蜜蝋布だって繰り返し使えるといっても、使用頻度によっては半年くらいで貼りつかなくなったりするもんねえ。
使用目的によって、付与する魔力の量や質を変えたり、状態保存といった付加価値のある魔術を重ねがけしたり、そういうことをしようとするとものすごく種類が増えちゃうかな?
使用目的ごとに何か目印を付けるとか、そういうことも必要?
「でも、それだったら布の端に小さな魔石を縫い付けておくだとか……そういう形ででも魔力を供給すれば、長期間硬化を維持できるのではなくて?」
レオさまが言い出した。
さらにマルレーネさんも言い出しちゃう。
「それはよい案ではございませんか? さらに、魔石を付けたり外したりすることで、使用目的を変えることができるのであれば、とても便利だと思いますわ」
「はい、そういう可能性もありそうですね。ヴィーに伝えます」
アーティバルトさんがうなずいてる。
「ご婦人がた、考えれば考えるほどにさまざまな案が出てまいりましょうが、とりあえずは本日の内容をまとめましょう」
トラヴィスさんがそう言って、ちょっと咳ばらいなんかしてくれる。その視線の先で公爵さまがうなずいているのを確認し、トラヴィスさんは続けた。
「まずは、ゲルトルードお嬢さまがご自身の名を上げることで不遜な輩を遠ざける、という方向でまとまりましてございます」
トラヴィスさんから視線を向けられて、私はうなずいたんだけど……改めて言われるとやっぱ、いいのかなって気持ちになっちゃうわー。
だけどトラヴィスさんは続けます。
「ゲルトルードお嬢さまの名を上げるにあたり、王家ならびに四公家が全面的に支援を約束されています。まずはゲルトルード商会を国家特級商会に指定することで、具体的に支援がなされていることを周知していただきます」
「ゲルトルード商会が国家特級商会に値すると証明するために、ホットドッグとサンドイッチのレシピをまず解禁し、さらにこの硬化できる布を製品化する、ということだな」
公爵さまの発言に、やっぱり私はうなずくしかないんだけど。
「それに、コード刺繍よね。こちらも先行して解禁するために、まずはベルお姉さま、王妃殿下にコード刺繍のレティキュールを献上してもらわなければ」
レオさまが言い出して、トラヴィスさんもうなずいてる。
「さようにございます。それについては急ぐ必要がございましょう。献上品の製作と、その後に続く『新年の夜会』でみなさまにご着用いただくお衣裳の製作が必要ですから。お衣裳の製作に関しては、本当にぎりぎりの日程になると存じます」
「うむ、まずはそこだな。ツェルニック商会に仔細を説明し、衣装製作が可能な工房を至急買い取らねば」
って、公爵さまは力強くおっしゃってくださってますが、とにかく頑張ってくれツェルニック商会、と私はちょっと遠い目で祈るしかない心境ですわ。
「あとは、この硬化できる布ですね」
アーティバルトさんが言う。「まずは魔蜂の蜂蝋が使えるかどうかの確認を行います。そして現段階でのこの試作品を、王家と四公家にご提示して、その後魔法省にはできるだけ早く製品化を目指してもらいます」
「そうだな、状態保存が重ねがけできるかどうかなどは、その後の確認でいいだろう。魔蜂の蜂蝋が使えなかったとしても、従来の蜜蝋であれば製作できるのだし」
うなずく公爵さまに、アーティバルトさんがうなずき返し、そしてちょっと苦笑した。
「それから、先ほどゲルトルード嬢からご提案のあった警報装置ですが……ヴィーには、この硬化できる布の件が落ち着いてから話したほうがいいかもしれません。話を聞いたとたん、夢中になって警報装置にばかり取り組んでしまう恐れがありますので」
「ああ、それは……そうかもしれないわね」
レオさまも苦笑して、公爵さまやトラヴィスさん、それにマルレーネさんまでちょっと苦笑しちゃってる。
「ゲルトルード嬢には申し訳ありませんが、それでもよろしいでしょうか?」
「あ、はい。もちろんです」
できれば新居に引越す前に形にしてもらいたいけど……そんなにすぐ作れるかどうかなんてわからないしねえ。
しかし精霊ちゃん、すっかりここのメンバーに知られているっていうか、かわいがられてるって感じだわね。中央学院に入学して高等学院を卒業するまで、ずっとこの公爵邸に下宿させてもらってたって話だし、そういうことなんでしょう。
「ヴィーには、この硬化できる布を最優先にしてもらおう」
「そうね、まずはこちらのお披露目をして、国家特級商会の指定を確定しないと」
公爵さまとレオさまの言葉を受けてアーティバルトさんが言った。
「それでは、この硬化できる布の製品化を優先し、可能であれば状態保存の重ねがけの試作もするということでよろしいでしょうか。現時点でのこの硬化できる布であっても、陛下への披露には十分耐えうると思いますので」
「そうだな、そうしよう」
公爵さまがうなずく。「そうすると、やはり大至急手を付けなければならないのは、コード刺繍の献上品の製作だな」
「そうね、ベルお姉さまへの献上品ができ次第、宮殿でのお茶会を開けばいいわ」
って、レオさまがさらっと言われたんだけど……宮殿でのお茶会?
え、あの、宮殿って……あの広い広い王宮の内宮のいちばん奥にある、そんでもって王家のみなさんがお住まいになっている、あのすばらしく豪華な建物ですよ、ね?
そんな、恐れ多い場所でお茶会って……またちょっと、冷汗が私の背中を伝い落ちちゃうんですけど?
しかし案の定、その宮殿でのお茶会はすでに決まっていることらしく、みなさんさくさくと話を進めておられます。
「では、コード刺繍の献上品の完成が見えたところで、王家ならびにバールフェクト公爵家、エグセスタール公爵家に、お茶会開催の打診をすればよろしいですかな?」
「うむ、それでいいだろう」
「もし可能であれば、そのお茶会の席でルーディちゃんは何か、コード刺繍のしてあるお衣裳を着用すればいいのではなくて?」
「ええ、先ほどのお話のように、襟にコード刺繍を施されるだけでもよろしいのでは」
「それに、この硬化できる布の披露のさいに、開発中の案件として警報装置についてご説明差し上げてもいいかもしれません」
そんでもって、安定の食い気の公爵さまが言い出した。
「茶会で出すサンドイッチを何にするのか、いまのうちから話し合っておくべきだな。マヨネーズが使えないとなると、果実とクリームのサンドイッチもいいのではないかと思うのだが。どうだろうか、ゲルトルード嬢?」
うわーん、やっぱり私がおやつをお出しする、要するに私が『主催』の、お茶会なんですねええええええ。





