244.罠をはるのです
本日2話目の更新です。
そのアーティバルトさんは頭を抱えてうなっている。
「いや、まさか、このような方法で感知範囲を広げられるとは……けれど確かにゲルトルード嬢の言われる通りです。人ほどの大きさの相手であれば、線一本がかすめるだけで十分感知できます」
「感知するための魔力を線状に絞ることで、消費魔力を抑えられるというわけか」
またもや問いかけた公爵さまに、アーティバルトさんもまたうなずく。
「その通りです。むしろ、魔力を線状に絞ることでその線1本の精度が上がります。その線で描いた輪を何回か……いくつかの高さに、波状に広げていくだけで十分人の魔力を感知できますし、細い輪にしているぶん、自分の魔力を広げられる範囲が段違いに広くなります」
いいことだらけじゃないですか、アーティバルトさん!
なのに、頭を抱えたアーティバルトさんは、めちゃくちゃ苦笑しちゃってる。
「いや、本当にこんな方法があるとは……まさに発想の転換ですよ」
「そうなのですか?」
思わず問いかけちゃった私に、アーティバルトさんはやっぱり苦笑する。
「はい、私は自分の【魔力感知】の範囲を広げるために、自分の魔力をとにかく薄くする訓練をしてきました。霧のように薄く淡く広げていくことで、消費魔力を抑えつつ索敵範囲を広げる……そういう方向だったわけです。この場合、範囲は広くなりますが、薄くしたぶん精度が落ちるため、相手の魔力をぼんやり感じたところに再度、集中的に絞り込んだ魔力を放って詳細を確認していたのです」
「あ、では、それで感知のための魔力を絞り込むということは……」
「はい、自分の魔力を絞り込むこと自体はすでにできましたから、その応用ということで、いまこうやってすぐに試すことができたわけです」
うなずいてそう答えてから、アーティバルトさんはあごに手をやって考え込む。
「しかし、こういう細い線状にした魔力で感知を行うとして……感知器にはどのように生かせばいいのか……」
「あ、それはもう、その細い魔力を家の塀にそって何本か通してもらえば」
私は赤外線センサーのイメージ、そのまんまに言った。
「そうですね、それぞれ足首、膝、腰、胸、頭の高さくらいに5~6本、こう糸を張るような感じで目に見えない魔力の線を引いておけば、人がその線の向こう側へ進もうとするとまず間違いなくどれかの線にはひっかかりますよね。その線にひっかかったとたん、大きな音で侵入を知らせてもらう、それが私の考えている警報装置です」
なんだかみなさん、ぽかんとしちゃってます。
うーん、こういうのって想像しにくいのかな?
私は公爵さまに訊いてみた。
「ええと、実際どういう感じなのかお見せしたいのですが、糸はありませんか?」
「糸? 糸があれば説明できるのか?」
「糸ですね? すぐに持ってきます」
公爵さまが問い返すと同時に、アーティバルトさんがさっと立ち上がって居間から出て行った。
アーティバルトさんは本当にすぐ戻ってきた。その手に、何やらかわいらしい箱を持っている。どうやらその箱はソーイングボックスらしい。
箱のふたを開け、アーティバルトさんは中から刺繍糸の束をいくつか取り出してくれた。
「こういう糸でいいですか?」
「はい、ありがとうございます」
糸を受け取り、私は後ろを向いてナリッサを呼ぶ。
「ナリッサ、ちょっと手伝って」
サッと私のところへ来てくれたナリッサと一緒に、私は刺繍糸の束をほぐした。
そして2メートルくらいの長さにそろえた刺繍糸を、ナリッサと私でそれぞれ2本手に持ち、糸をピンと張るように離れた。
「この糸が、魔力を感知するための線だとしますね。この糸の向こうに移動しようとすると、糸をまたぐか、くぐるかしないと、ひっかかってしまいますよね?」
私がそう言ったとたん、レオさまが席を立って私たちがピンと張っている糸の前にきてくれた。
「この向こうに行こうとすると、よね?」
「はい、こうやって高さを変えて何本か糸を張っていると、体のどこかが糸にひっかかります」
私はレオさまを通せんぼするように、胸の高さと腰の高さに糸を動かした。
「そうね、いまのように糸が見えていれば、避けることもできるかもしれないけれど」
言いながらレオさまは手を伸ばし、軽く糸を押してくれる。
そこで公爵さまが、すごく納得したように言ってくれた。
「つまり、罠をはっておく、ということか」
「そうです!」
私は大きくうなずいちゃう。「侵入者を捕まえるための罠ではなく、あくまで侵入してきたことを知らせるだけの罠です。それによって、使用する魔力量を抑えることができると思ったのです。でも、夜中にみんな跳び起きてしまうほど大きな音を出せば、すぐに警戒態勢がとれますよね? 母と妹を安全なところに避難させて、侵入者に備えることができます」
そうそう、罠をはるって言えばわかりやすかったんだ。
「いや、これはまた、なんというのか……とんでもないですね」
アーティバルトさんが、なんだかもう呆れたような顔をして言い、トラヴィスさんも感嘆したように言ってくれる。
「いやはや、魔力を感知するための魔力をこういう形で使おうというのは、ちょっと思いつかないことではございませんか」
「本当にそうです」
トラヴィスさんの言葉を受けて、アーティバルトさんが言う。
「私の【魔力感知】は、相手を探すため、あるいは相手の魔力の量や質を推し量るために使うことしか考えていませんでした。だからヴィーの作った魔力感知器も、その方向しか考えていなかったわけですが……侵入者を感知するための罠として使う、ですか。しかも、消費する魔力量を減らすために魔力を細い線状にして」
「でも、これって実現すればものすごく便利じゃなくて?」
ソファーに戻ったレオさまが言ってくれる。「屋敷全体でも、部屋ごとでも、この魔力を感知して知らせる罠を設置しておけば、簡単に侵入者を暴くことができるわ。画期的よ!」
「それに、遠征先で野営地を囲むようにこの罠を張っておけば、寝ずの番をしなくてもよくなるのではないだろうか?」
公爵さまも言い出し、アーティバルトさんがうなずいてる。
「その通りですよ。人だろうが魔物だろうが、その線を踏み越えた瞬間に知らせてくれるわけですから。なにより、魔法陣で結界を張るよりはるかに魔力量が少なくてすみますので、本当に野営地全体を囲むことができます」
アーティバルトさん、その、はるかに魔力量が少なくてすむ、なんて言い切れちゃうってことはつまり?
「あの、では、こういう魔力感知の装置を、作ってもらえそうですか?」
ちょっとうかがうように訊いちゃった私に、アーティバルトさんは苦笑する。
「ええもう、ヴィールバルトに話せば、大喜びで開発してくれると思います」
おおう、精霊ちゃん頼むよー!
新居に警報装置を設置できるなら、雇う護衛の数もうんと減らせるよね? 昼夜二交代制で3人ずつとか、そこまでの人数は必要なくなるよね?
まさかそんな、何10人とかって団体さんの不法侵入者が我が家に押し入ってくるとか、そんな事態にはならないと思うから、護衛は腕っぷしの強いのを2~3人も雇えばいいんじゃないかな。とりあえず私も、相手が大の男だろうが投げ飛ばすくらいはできるはずだし。
それにお母さまとリーナには、ヨアンナに側についてもらうようにしよう。ヨアンナは固有魔力で人を吹き飛ばすくらいできるって言ってたもの。
「いやもう、これは……私が直接ヴィーに会って説明します。そのほうが早い」
アーティバルトさんがそう言い出して、公爵さまもレオさまもうなずいてる。
「そうだな、そのほうがいいだろう」
「ええ、先ほどの状態保存の魔力付与の件もあるものね」
「いやもう、ヴィーにすぐ手紙を送ったのは早計でした。まさか、今日1日でこれだけ次々と新しい魔道具の案が出てこようとは」
大きな息を吐きだして、アーティバルトさんがまた苦笑しながら私に言った。
「ゲルトルード嬢、まさかほかにも何かあるとは言われないでしょうね?」
って、だからそんなに簡単にぽんぽん魔道具のアイディアなんて出てきませんってー!
それにだいたい、状態保存の魔力付与の話のあと、ほかにも何かないかって訊いてきたの、そっちでしょうがあ。
とか私が思ってるのに、レオさまが真剣な顔で言ってくれちゃう。
「ルーディちゃん、ほかにも何かあるのだとしても、今日はいったんここで切りましょう。これ以上なにか話が出てくると、収拾がつかなくなるわ」
「そうですな、ここでいったん切って、今日これまでのことをまとめましょう」
トラヴィスさんも言い出して、みなさんうなずいてます。
「それでは、今日ここまでの話を改めてまとめ直してみよう」
公爵さまの言葉に私もうなずいたけど、はー今日もまた1日が長くなっちゃったわー。





