242.欲しいもの
本日2話目の更新です。
明日も……更新できるかも、です(;^ω^)
なんかね、話してて思ったのは、この国の人たちは下手にこう、完全に時を止めてしまえる魔術の存在を知っているがために、少しばかり時間の経過を遅らせることができたとしても、その程度ではたいして意味がない、みたいに考えてたっぽいわ。
それは確かに、完全に時を止めてしまって、いっさい劣化させずあらゆるものをそのままの状態で保存できてしまうのであれば、それ以上のことはないもんね。
しかも、その劣化を遅らせる状態保存の魔術が、平面には使いやすいけど立体に使うにはコスパが悪いっていう特性があったので、よけいにその状態保存の魔術を短いスパンで活用するということに意識が向かなかったのかな、っていう。
だから、ほんの数日劣化を遅らせることができればそれはそれですごく役に立ちますよね、という私の指摘が、ものすっごい発想の転換になったらしい。
「確かにそうですね。例えば状態保存の魔術を箱に施すには、箱の大きさにもよりますが、結構な量の魔力を必要とします。その割には箱そのものへの状態保存に比べると中身、つまり収納しているモノへの状態保存の効力が弱くなってしまうため、使い勝手が悪いのです」
アーティバルトさんが説明してくれる。「しかも箱で状態保存を行う場合、たいていは貴重品を収納しますので、状態保存の単位は百年程度になります。そういう時間の単位で劣化を遅らせようとすると、付与する魔力の量を増やすだけでなく、魔力そのものを強くする必要があるため、さらに経費がかかってしまうというのも難点だったのです」
うん、状態保存魔術を使った箱はどうにもコスパがよくないので、あんまり流行ってない、と。ただ、そのコスパは保存期間を百年単位で考えた場合、なんだよね?
「でも、食べものの保存に使うのであれば、せいぜい数日、劣化を遅らせるだけで十分使いものになりますよね」
私の言葉に、その場の誰もがうなずいている。
「それも布、つまり平面に術を施すのであれば、それほど難しくないのであろう?」
「数日劣化を遅らせるだけで事足りるのですもの、付与する魔力も少しで済むわよね?」
「しかも、布そのものに状態保存がかかるわけですから、布自体も長持ちさせられるのではございませんかな?」
「布ですから、大きさも形も自由に選べますわね。その点もすばらしいと思いますわ」
公爵さまやレオさま、それにトラヴィスさんもマルレーネさんも、口々に言ってる。
「いえ、やはり実際にあの布に状態保存魔術を施したとして、ゲルトルード嬢が言われるような使い勝手にできるかどうかは、実際にやってみないとわからないと思います」
さすがにアーティバルトさんは、弟精霊ちゃんが魔術式のプロだけあって、より具体的に考えられるみたいだ。
「まず、状態保存の魔術は、一度施すとずっとそのまま維持される魔術です。使用するさいに、魔力を通すことで効力を切り替えることができるのかどうか……それに、使用時に必要な状態保存期間が短いといっても、繰り返し使用するとなると……」
あー、それは確かに。
硬化をオン、オフにするように、状態保存もオン、オフに切り替えができないと、繰り返しては使えないよね?
それに、使用するさいの状態保存期間が短いといっても、繰り返し使うのであればトータルでは結構長い時間状態保存ができないとダメってことになる。そのぶん、付与する魔力を多く、また強くしなければならないのであれば、経費がかかって価格が上がっちゃうってことになるわけだ。
「それでも、これは実現すれば本当に使い勝手のよい、すばらしい製品になると思います」
アーティバルトさんの言葉に、みんなうなずいちゃう。
「ヴィーになんとか頑張ってもらうしかないわね」
「研究開発に必要な資金は、ゲルトルード商会からも援助しよう」
ううむ、私の思い付きで、精霊ちゃんにはずいぶん負担をかけちゃうことになるかな?
「そうですね。でも、もしわたくしがいまお話したような機能がこの布に付与できなくても、いまこの時点でこの布はたいへん有用ですから」
そりゃもう、好きな形に折りたたんで丸めてプラケースにできちゃうんだよ? しかも、そのプラケースをまた簡単に布に戻せちゃう。すでにめちゃくちゃチートな布になってるもんね。
と、フォローしてみた。
「そうね、なんでもヴィーに頼り過ぎるのはよくないわね」
レオさまがすぐ、苦笑交じりに言ってくれました。
「うむ、この布はこの試作品でも十分すぐれた商品になるだろう」
公爵さまもうなずいて、でもすぐに私に言ってきた。
「ゲルトルード嬢、ほかにも何かきみが考えている品や案はないのだろうか?」
いやいや、だからそんなすぐすごいアイディアなんて出ませんって。
そう思ったんだけど、私はこのさいだから、いろいろと欲しいと思っているものについて言ってみることにした。
「そうですね、その、お料理に使う道具で、あれば便利だと考えている品がいくつかあるのですけれど」
「料理に使う道具? あのクリームの絞り袋のようなものか?」
おっと、公爵さまさすがに食いつきがいいようです。
そしてアーティバルトさんが何気なく言い出した。
「そう言えば以前ゲルトルード嬢がヒューにお話しになった道具、魔道泡立て器ですか、試作品ができているとヴィールバルトが言っていました」
「えっ、試作品を作ってくださったのですか?」
そういう話は早く!
今度は私がガっとばかりに食いついちゃったんだけど、アーティバルトさんはにこやかに言う。
「はい、ゲルトルード嬢が研究所をご訪問くだされば、ヴィーからお渡しできると思います。その場で使い勝手など確認していただけば、調整できると言っておりました」
「ありがとうございます!」
うわーい、精霊ちゃんしっかり試作してくれてたのね!
「その魔道泡立て器というのは、なんなのだろうか?」
公爵さまが首をひねっているので、私は説明した。
「はい、クリームを泡立てるのはかなりの重労働なのです。大量におやつを作るときは、泡立て作業だけで疲れ切ってしまうので、魔力で泡立てる装置を作ってもらえないか、ヒューバルトさんに相談していたのです」
「そうなのか?」
「ええ、ヒューバルトからそのように聞いています」
眉間にシワをよせてる公爵さまに、アーティバルトさんが答えてくれている。
そんでもって、アーティバルトさんは、さらっと付け加えてくれちゃった。
「ヒューバルトによると、その魔道泡立て器が完成すれば、まず間違いなく意匠登録できるだろうということでした」
うん、まず間違いなくエグムンドさんが意匠登録しちゃうと思います。
うなずいちゃった私の前で、公爵さまはちょっと考え込むようにあごに手をやった。
「それでは、ほかにもそのような、意匠登録できるような道具をゲルトルード嬢は考えているのだろうか?」
「意匠登録できるかどうかはわかりませんけれど、欲しい道具はいろいろあります。あれば調理が便利になりますし、あの絞り袋のようにお料理の見映えが良くなるようなものもあります」
「そんなにいろいろ考えているのか?」
「そうですね、何種類か」
そりゃあもう、揚げ物をするのなら、揚げ物用のお鍋に油切りバットに網じゃくしくらいは欲しいじゃない。それにパウンドケーキ用の四角い焼き型とか、あと日本の食パンっぽいパンが焼ける四角い焼き型も欲しい。そしたら四角くて耳を切り落としたサンドイッチができるもん。それに角型パンが焼けたら、サンドイッチ用に薄くスライスできるパン切りガイドも欲しい。
「どんなものを考えているのかしら? 魔道具ならばヴィールバルトに相談すればいいと思うのだけれど」
「ええと、いま考えているお料理の道具は、魔道具ではありませんね」
レオさまの問いかけに私が答えると、公爵さまが言ってくれる。
「それならばエグムンドに相談して、商会で試作してもらえばよかろう」
「そうですね。相談してみます」
エグムンドさんが過労で倒れない程度にお願いしようと思います。
「魔道具で、何かゲルトルード嬢が欲しいと思われているものなどはありませんか?」
アーティバルトさんが言い出した。「ご希望通りのものが作れるとは限りませんが、ヴィールバルトに相談すれば、ゲルトルード嬢が望まれているような機能を持つ道具が、何か新しく作れるかもしれません」
欲しい魔道具は……たぶん、作ってもらえるとしたら魔道具になると思うんだけど、すっごく欲しいものがあります。
もうね、ずーっと、なんとかならないだろうかって考えてたんだけどね。
いいのかな、言ってみようかな?
「ええと、あのですね、その……警報装置が欲しいです」
「警報装置?」
はーい、みなさんの声がきれいにそろいました。





