236.公爵さまの実力
本日は3話更新いたします╭( ・ㅂ・)و グッ !
まずは1話目です。
「それでは、この布に関しては、まず魔蜂の蜂蝋が使えるかどうかの確認を最優先にしよう。蜂蝋が使えるのであれば生産性が一気に上がる」
公爵さまの言葉に、レオさまがうなずいている。
「そうね。そうしましょう。蜂蝋が使えるかどうかの確認には、どの程度の日数をみておけばいいかしら?」
その問いかけに答えたのはトラヴィスさんだ。
「魔法省にはさまざまな素材が常備されています。おそらく蜂蝋も保有しておりましょう。せいぜい2~3日もみておかれれば、よろしいのではございませんかな」
「そうだな。ヴィーのほうで準備が整えば、ゲルトルード嬢、きみにはすぐにヴィーの研究室に行ってもらうことになる」
公爵さまに言われて、私はうなずいた。
「はい、それは構いません。ただ、学院が始まっていますと、放課後のご訪問となりますが」
「もちろんそれで構わない」
うなずいて公爵さまが言う。「きみの下校時に私も合流して一緒にヴィーの研究室へ行こう」
「かしこまりました」
うーん、ついにウワサの精霊ちゃんとご対面ね。
いやしかし、本当にこんなすごい魔力付与ができちゃうなんて、精霊ちゃんって本当に精霊ちゃんなのかも。とりあえず、イケメン兄弟が末っ子の弟さんをかわいがりまくってるの、納得だわ。
なんて、私が考えている間に、公爵さまとレオさまが話し合っている。
「それでは、ホットドッグとサンドイッチの解禁と、この布の紹介と……」
「トゥーランヒールの靴はすでに手配したわ。あとは、貴方が言っていた新しい刺繍ね」
ええと、コード刺繍ですか?
確かに言われた通り見本をお持ちしてますけど……なんなんだろうな、私が発案してきたモノの総点検って感じ?
「では、ゲルトルード嬢、コード刺繍の見本を」
公爵さまに促され、私はまたお借りしている収納魔道具からレティキュールを取り出した。もちろん、ツェルニック商会が見本にと作ってくれた、あのレティキュールだ。
取り出したレティキュールを広げてテーブルに置いたとたん、レオさまが感嘆の声を上げた。
「まあ! 本当にすてきだわ!」
「これはまた、本当におもしろい刺繍でございますね」
マルレーネさんも身を乗り出してレティキュールをのぞき込んだ。
「ルーディちゃん、このレティキュールを手に取ってみてもいいかしら?」
「ええ、もちろんです、レオさま」
私は当然笑顔で答える。
レオさまはさっそくレティキュールを手に取った。マルレーネさんも横からすごく熱心にのぞきこんでる。
「本当におもしろいわ。コードを縫い付けて模様にしているのね。ビーズがあしらってあるところもすてきだし……なにより立体的な刺繍だという点がとても魅力的だわ」
「さようにございますね、こうやって少し斜めから見ますと、コードがより立体的に見えます。これならば、布地と同じ色のコードを使用しても立体の効果が出るのではございませんでしょうか」
おお、マルレーネさん、すばらしいです。
思わず私は言ってしまった。
「おっしゃる通りです。この刺繍を製作してくれているツェルニック商会でもそのように申しておりまして、同色の布地とコードを使用することで、上品でありながら華やかな装飾にすることができるとのことです」
そして公爵さまも安定のどや顔で言い出した。
「私の黒の衣装にも、黒のコードで刺繍をしてもらう予定になっている」
「ヴォルフガング坊ちゃまがおっしゃっていた、『新年の夜会』でお召しになるお衣裳でございますね」
「うむ、いまツェルニック商会に装飾をしてもらっている」
公爵さま、なんかすっごく嬉しそうです。さすがおしゃれ番長。
「でも、この刺繍はどうしましょう? 『新年の夜会』のお披露目まで、情報を隠しておけるかしら?」
レオさまが思案を始めた。「昨日ルーディちゃんが言っていたようにトゥーランヒールの靴にこのコードの刺繍を施せば、いっそう目を引くと思うわ。特に、ベルお姉さまがこのコード刺繍を施したトゥーランヒールのブーツをご使用になれば、一気に話題になると思うのよね」
ええ、あの王妃殿下ならそんなゴージャスで優雅なブーツ、ものすっごくお似合いだと思う。
だからつい、私は言っちゃったのよね。
「それはもう王妃殿下でいらっしゃれば、このコード刺繍を施したお衣裳もすばらしくお似合いになると思います。そうですね、こう、軍服のように胸に飾り紐を施した男性的な意匠にしていただいて、そこにこのコード刺繍も施していただくのはどうでしょう。上着の腰をぐっとしぼって曲線的にすれば、スカートの量感と相まってとても華やかな感じになると思います」
確か前世の世界でも、ヨーロッパでそういう女性の肋骨服が流行った時期があったよね? 基本のデザインは軍服っぽいのに、腰のくびれを強調してボンキュッボンな体形に見えるヤツ。
あの男装の王妃殿下であれば、もう間違いなくめっちゃくちゃお似合いになるはず!
「待ちなさい、ゲルトルード嬢」
なんか公爵さまが、眼鏡もないのにキラーンとしてるのはナゼ?
「トラヴィス、紙とペンを。ゲルトルード嬢、いまきみが言った意匠を、もう一度説明してくれるか? 軍服のように胸に飾り紐を施すのだな?」
公爵さま、ガチです。ガチでデザイン画を起こすおつもりです。
ホンットに意外なんだけど、本気でおしゃれ番長なんだわ、この人。そう言えば、レオさまの卒業式のお衣裳も、この弟公爵さまが見立てたって話だったよね?
と、いうことで、私は女性用の肋骨服の説明を始めた。
「そうですね、まず全体の形は、立て襟に肩をしっかり強調して、腰をぐっと絞るといいと思うのです。その前開きの上着に、スカートは腰回りだけふわっと量感を持たせ、裾の方へはこう、すとんと直線的に落として……」
「ふむ、このような感じだろうか?」
「そうです、上半身は体に添わせるように曲線的に……はい、前開きは軍服のように直線で、飾り紐で合わせるようにして……」
「こうだな?」
公爵さま、なんなんですか、その絵心は?
いや、冗談抜きでこの人、絵も上手いよ。ちゃんとデザイン画になってる。なんなんだろう、手先が器用なだけじゃないんだ?
私は公爵さまが描くデザイン画をのぞき込んでさらに続ける。
「はい、その上で、襟元や袖口などにコード刺繍を施せば、かなり華やかな感じになるのではないかと思います」
「ふむ、このような感じで……トラヴィス、もう1枚紙を」
全体のイメージがつかめたのか、公爵さまは新しい紙に清書を始めた。そしてさらさらとペンを運び、出来上がったデザイン画に、まず公爵さま本人がうなった。
「これは……間違いなくベル姉上にはお似合いになるな」
ガチです。
本当にガチの女性用肋骨服のデザイン画です。
なんなの公爵さま、どこにこんな才能を隠してたの?
なんかもう本気で私はびっくりしてたんだけど、周りの人たちもびっくりしてるっぽい。
「これ……ルーディちゃん、貴女、本当にとんでもないわ」
レオさまが半分頭を抱えるように言い出して、私は別の意味でびっくりしちゃう。
「えっ、あの、とんでもないのはわたくしではなく、公爵さま……」
「どうやったらこんなすばらしい意匠を思いつくの?」
レオさまが頭を振ってる。「これは……間違いなくベルお姉さまにぴったりよ。すばらしすぎるわ。男性的な軍服を基本にしているのに、女性的な体の線もしっかり強調して、凛々しいのにとっても優雅なんですもの。ベルお姉さまがこの絵をご覧になれば、その場でこのお衣裳の製作をお命じになるわ」
そしてレオさまは、決然と言い出しちゃった。
「これはもう、『新年の夜会』でこのコード刺繍をお披露目するなら、ベルお姉さまにも着用していただきましょう。ええ、もちろんこの意匠で。できればわたくしもこの意匠を採用させていただきたいわ。ルーディちゃんとヴォルフ、それにリアにも着せましょう。デマールにも着せられるならさらにいいわ」
レオさまは完全にその気で、私に言ってきた。
「ルーディちゃん、貴女のお抱えの商会、ツェルニック商会だったわね、そこで新しいお衣装の製作は可能かしら?」
いや、待って、ツェルニック商会は……私はいきなりの展開についていけなくてわたわたしちゃったんだけど、公爵さまがさっと言ってくれる。
「レオ姉上、ツェルニック商会はまだ若い商会で、自前の工房も持っておりません」
だけど公爵さまもその気だったらしい。とんでもないことを言い出した。
「大至急、上位貴族家の衣装製作を任せられる工房を買い取ります。ツェルニック商会の美的感覚は申し分ありませんので、彼らに指揮を執らせ、腕のいい職人に製作させれば『新年の夜会』に間に合うと思います」
「ええ、では大至急手配してちょうだい」
レオさまがうなずいてる。「できればわたくしもお願いしたいの。わたくしはリドと一緒に出席する予定なので、リドの衣装にもコード刺繍をお願いしたいわ。それからリアをエスコートするのはどなたの予定かしら?」
「そうですね、アーティかヒューにでも任せようかと思っているのですが」
「は? 私が何でしょうか?」
ちょうど客間に戻ってきたアーティバルトさんが、きょとんと言った。





