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没落伯爵令嬢は家族を養いたい  作者: ミコタにう


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235.大ごとどころじゃないのかも

本日2話目の更新です。

明日も更新できるかな……がんばります(;^ω^)

「閣下、どうやらこれは……」

 アーティバルトさんが、なんだかげっそりした感じで言い出した。

「野営のさいに、食器を持って行く必要がなくなりましたね……」

「ううむ、まさかこの布1枚で事足りようとは」

 公爵さままでげっそりしてるんですけど。


 でも食器って……そりゃこうやって簡単にコップも作れるし。

 ということで、私はまた別の正方形蜜蝋布を手に取り、角をちょいちょいとたたんでトレイ状にしてから硬化した。

「そうですね、こうしておけばお皿になりますものね」

 いや、私は極力にこやか~に言ってみたんだけど。

 やっぱりなんかみなさん、頭を抱えていらっしゃいます。


「この布で食材を包んで持ち運んで、食事をするときはこの布が食器にもなる」

 アーティバルトさんが本気で頭を抱えてます。

「いったいなんなんですか、どこまで便利なんですか、この布は」

「えっ、あの、それはやっぱり、アーティバルトさんの弟さんが、すばらしい魔力付与をしてくださったからではないですか?」

 私は本気でそう言ったんだけどね。


 だって本当に、本当にこれ、プラスティックなんだよ。質感がまるっきりプラスティック。ほんのちょっと魔力を通すだけでプラスティック化できちゃうの。そしてまた簡単に布に戻せる。しかも形は自由自在。

 その上、耐水性に耐熱性、おまけに耐酸性も付与してあるんでしょ? ごく軽く、って言ってたけど、食べものに関してならそんなに強力な耐熱性や耐酸性は必要ないと思うし。少々熱いものや酸味のあるものでも載せたり包んだりできればOKだもん。

 それでいてもとが蜜蝋布だから、水洗いが可能で繰り返し使える。使い捨てじゃない。

 完璧じゃないの!


「弟のヴィールバルトが言うには」

 アーティバルトさんがやっぱりげっそりと言った。「基本的にもともとの布の機能を強化することを中心に考え、耐熱性や耐酸性は弱点を補えるようにだけ、ごく軽くしか付与していないのだそうです。そのため魔力付与の魔術式も極力簡素化してあり、非常に作りやすい試作品になったとのことです」

「それはすばらしいですね」

 私は本気で言っちゃう。「こんな便利な布が、そんな簡素化した魔術式の魔力付与で作れてしまうなんて。それはもう、いろいろな使い道があると思いますよ」

 いやーまじですごいわ、精霊ちゃんってば。


「それではもう、この試作品でお披露目をしてしまいましょう」

 なんだかレオさまが決然とした感じで言い出した。

 公爵さまもうなずいてる。

「そうですね、レオ姉上。製品化についての具体的な詰めは、魔法省にまかせましょう」

「とにかくヴィールバルトに、この試作品をさらに作らせる必要がありますね」

 アーティバルトさんも言い出した。「先ほどゲルトルード嬢が見せてくださった、布の箱やコップを提示するだけで十分だと思います」


 そして公爵さまが私に真剣な顔を向けた。

「それでゲルトルード嬢、この布の基本的な加工についてなのだが……当初のきみの説明では、布に蜜蝋を浸して乾かしたもの、ということだったが」

「はい、その通りです」

 私はうなずいたんだけど、公爵さまはなんか眉間にシワを寄せてる。

「何か特殊な工程は必要ないのだな? 材料も、本当に布と蜜蝋だけなのだろうか?」


「布と蜜蝋、あとは不乾性の油ですね。油はなくても大丈夫ですが、わたくしはセイカロ油を使っています。それから、もし可能であれば樹木の脂……樹脂など加えれば、貼りつきがさらによくなると思います」

「樹脂というと……松脂まつやになどがいいのだろうか?」

 おおう、松があるんですか、この世界にも。

「そうですね、おそらく松脂は使えると思います」

 うなずく私に、公爵さまはさらに問いかける。

「それで、加工の工程はどのようなものなのだろうか?」


「簡単です。蜜蝋と油をお鍋に入れて加熱し、溶かした状態のものを布にしみ込ませます。そしてそのまま乾かすのではなく、天火オーブンに入れてほんの短い間加熱します。火熨斗アイロンなどを使ってもいいですし、熱を加えることで蜜蝋と油をまんべんなく布にしみ込ませるのです」

「そんなに簡単に作れるのか?」

 公爵さまの眉が上がっちゃったんだけど、でもまたすぐその眉が寄っちゃった。

「しかし、この布を製品化して大量に製作するとなると、大量の蜜蝋が必要になるな……」


 ああ、それは確かに。

 製品化するとなると、蜜蝋がホントに大量に必要だよね。蜜蝋ってミツバチの巣からしか採取できないんだっけ?

 この国の養蜂事情ってどうなってるんだろう? お砂糖よりはちみつが多く出回ってるくらいだから、養蜂も盛んなんじゃないかとは思うんだけど……。


魔蜂まほう蜂蝋はちろうは使えませんかな?」

 言い出したのはトラヴィスさんだ。

 ハッとしたようにアーティバルトさんが答える。

「可能性はありますね。ヴィーに魔蜂の蜂蝋を準備するよう伝えておきます」


 魔蜂って……蜂の魔物がいるの?

 えっと、その魔物である蜂の巣から採れる蝋? 蜜蝋のことも蜂蝋っていう場合あるもんね?


「魔蜂の蜂蝋が使えるならば、朗報だな」

 公爵さまも言い出した。「確か魔蜂の蜂蝋は臭みが強いため、食用油にはされずほとんど廃棄されているはずだ」

「はい、食用にしないのであれば、何か薬草ハーブで臭みだけ取れば問題ないでしょう」

「廃棄されている魔蜂の蜂蝋が加工に使えるとなると、間違いなく朗報でございますな」

 アーティバルトさんとトラヴィスさんもうなずきあってる。


「ただ、そうしますと魔蜂の蜂蝋を準備するために、多少時間がかかるかもしれません」

 そう言ってアーティバルトさんが思案を始めた。「蜜蝋布の作り方を、ゲルトルード嬢から直接弟のヴィールバルトに伝えていただければと……できれば明日にでもと考えていましたが、数日お待ちいただくことになりそうですね」

 おっと、ウワサの精霊ちゃんとご対面、のはずが、少しばかり先になりそうです。


「アーティ、すぐにヴィーに連絡を入れておいたほうがいいのではないか?」

 公爵さまが言って、アーティバルトさんもうなずきました。

「はい、では少し失礼してヴィーに手紙を書いてきます」

「いまならすぐ、ゲオルグとスヴェイが魔法省へ行ってくれるわ」

 レオさまが、腰を上げたアーティバルトさんに言ってるんですが……そんな、あの、国家のトップレベルな人たちに、使い走りなんかしてもらっちゃっていいんですか?


「はい、ではあのお2人にお願いいたしますね」

 ……いいようです。

 国家のトップレベルな人たちを、使い走りにしちゃってもいいようです。

 アーティバルトさんはレオさまにそう答えて、少々失礼いたしますと客間を出ていった。


 でもこれ、ホントに冗談抜きで、まじで、売れるわ。

 蜜蝋布ってそれだけでも結構便利なんだけど、その便利さが何倍にも何十倍にもなっちゃいましたってレベルだもん。

 1枚の布を好きなようにたたんで丸めて、それをそのままの形で簡単に固めてしまえるんだよ? それも、ちょっとぶつけたくらいじゃ形が崩れないほどの硬さで。しかも、それをまた簡単に布に戻せてしまう。

 その上、もともとの蜜蝋布に保湿性と通気性があり水洗いもできるんだけど、耐水性を強化してさらに弱点だった耐熱性と耐酸性まで加えてあるんだから。

 本当に、文字通り魔法の布だよ。


 おまけに、さっきのアーティバルトさんの話によると、魔術式による加工もそんなに難しくないみたいだし。

 もしトラヴィスさんの言う魔蜂の蜂蝋が使えるなら、原材料も手に入りやすいってことだよね?

 原材料が安価で調達できて一次加工も簡単、それに魔力付与も難しくないっていったら、本当に大量生産できちゃうよ。

 貴族だけでなく平民も気軽に買えるような価格で、大量に流通させることができるってなったら……え、どうしよう、本当に、産業に、なっちゃう……?


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― 新着の感想 ―
魔力付与の蜜蝋布、骨折時のギプス代わりにも使えそう
[一言] 鶴を折って飛ばして暗殺?
[一言] 紙鍋ならぬ布鍋できちゃうね
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