234.精霊ちゃんの実力
本日も2話更新します。
まずは1話目です。
なんかすっかり興奮しちゃってる私の横で、レオさまも試作品を触ってる。
レオさまは小さい丸型の蜜蝋布をカップに被せ、手で形を整え完全に覆ってから印に魔力を通してみたらしい。
「すごいわ、完全にふたになってる! 手で触っても剥がれないわ!」
レオさまも興奮しちゃってます。
いやもう、これは本当に興奮せずにいられないわ。
魔力付与をするとこんなに性能が上がるんだ。
アーティバルトさんもにこにこしてて、弟さんが試作したという蜜蝋布を何枚も取り出しちゃってる。
私はその中から、フルーツサンドを包むのに使った、少し大きめの正方形の布を手に取った。
そんでもって、折り紙の要領でパタパタと折っていき、箱を作ってみた。もとが蜜蝋布だから、折り目もしっかりつけやすい。そしてもちろん、最後に真ん中のマークに魔力を通す。
ホンットにプラケースなんですけど!
布で折ったとは思えない、しっかりとした四角いケースになっちゃった!
「えっ、ルーディちゃん、貴女いったい何をしたの?」
私が手にしている四角い箱に、レオさまが目を丸くしている。
公爵さまもがぜん身を乗り出してきた。
「ゲルトルード嬢、きみはいったいどうやってその箱を作ったのだ?」
「布を折っただけです」
私が笑顔で答えると、その場の人たちがものすっごく食いついてきた。
「布を折った? どのようにですか?」
「確かにゲルトルード嬢は布をこう、たたんで何かされていましたが……」
アーティバルトさんもトラヴィスさんも身を乗り出してる。
「ええと、じゃあ、みなさんもやってみます?」
と、いう私の一声に、みなさんいっせいに正方形の蜜蝋布に手を伸ばしました。
「ではですね、まずはこう、布を真ん中で半分に折りたたんで……」
いきなり折り紙教室になっちゃったよ。
みなさん、すっごい真剣です。
そんでわかったことは、公爵さまって意外と器用。それにマルレーネさんとトラヴィスさんも器用だわ。アーティバルトさんはまあ、ソツなくこなしてる感じ。
で、レオさまがかなり苦戦してる。
「これはすごいな。本当に1枚の布が完全に箱になった」
公爵さま、めちゃくちゃ嬉しそうです。
レオさまも苦戦はしたけど、それでもなんとか箱の形になりました。
「本当にすごいわ。魔力を通しておけば、完全に箱として使えるわよね」
「これに、もう1枚別の布でふたを作ればさらによろしいのではございませんか?」
マルレーネさんも、感心したように箱を持ち上げてる。
で、私はまた何気なく言っちゃった。
「ふたが必要な場合はですね、最後に内側へ折り込んだ部分をこうやって……」
私は一度魔力を通して硬化を解き、底へ折り込んだ部分を片側だけ剥がして取り出してみせる。
「これをこう持ち上げておいて、こう……端の三角の部分を内側に差し込んで、封をしてから魔力を通しておけば」
ほい、完成。
確かにふたがあると便利だよねー。
私はふたをして立方体になったそれを、手のひらに載せてみなさんに見せてあげる。
「お待ちください、ゲルトルードお嬢さま! いま、どのようにされましたかな?」
トラヴィスさんがなんか慌ててる。
アーティバルトさんもトラヴィスさんの手元をのぞき込んで、なんかちょっとわたわたしてる。
どうやら、このお2人は箱の折り方を紙に書きだしていたらしい。
折り紙って、やったことない人にはかなり難しいみたいだよね。
だから私は言ってみた。
「それでしたら、最初から箱にしやすい形に布を切っておけばいいのではないですか?」
「箱にしやすい形、でございますか?」
眉を上げてるトラヴィスさんから、私はペンと紙を受け取った。
「例えば、このような形ですね」
私は思いっきり雑なヨレヨレの線ではあるんだけど、いちばんスタンダードな立方体の展開図を描いてみせた。
「こことここ、こちらにものりしろを作っておいて……最初からこういう形の布にしておけば簡単に箱にできますよ」
「トラヴィス、私にも紙とペン、それに定規を」
おおう、公爵さまが本気を出してこられたようです。
紙とペンと定規を受け取った公爵さまが、ちゃんとサイズを測って展開図を描き始めました。
「このような形でいいだろうか、ゲルトルード嬢?」
「はい、大丈夫です。ではこことここ、それにこちらにも同じように、これくらいののりしろを付けていただければ。あと、ここに口の返しと、ここにはふたの差し込みも」
「む? こうだな?」
のりしろなどを書き込んだ公爵さまに、トラヴィスさんがさっと鋏を渡す。
鋏を受け取った公爵さまがその展開図を切り取り始めた。
いやホントに意外。公爵さま、めっちゃ器用なんですけど。公爵家のご当主なんてお立場だと、こういう手作業なんて、ふつうはしないもんじゃないの? だってほら、使用人に丸投げするのがお貴族さまだもんね。
そう考えれば、レオさまが結構不器用なのは納得よね。
だけど公爵さまは、自分で描いて自分で切り取ったその展開図を、自分でぱたぱたと折り始めちゃった。
「そうか、ここに糊をつけて貼り付ければ、箱になるわけか」
糊を使っていないので、本当にただ形ができているだけなんだけど、それでも立方体であることがちゃんとわかる。
「閣下、その紙をいただけますか!」
なんかアーティバルトさんがめっちゃ興奮してます。
「その紙をそのままヴィーに渡します。そしてその形に切った布で、試作させますので!」
「うむ、ヴィーにはぜひ試作してもらってくれ」
公爵さま、思いっきりどや顔です。
「しかし、先ほどゲルトルードお嬢さまが四角い布を折って作られた箱も、できればその折り方を再度ご教授いただけませんかな?」
今度はトラヴィスさんが言い出した。「四角い1枚の布で箱が作れるのであれば、その汎用性はとてつもないではございませんか」
はいはい、風呂敷って便利ですよね。
しかもこの魔力を通して硬化できる布なら箱だって作れちゃうし、風呂敷みたいに端を結ぶ必要もない。モノを包んだら端をぺんぺんっとたたんで重ねておくだけでOK。それで硬化してしまえば、そのまんま好きな形のプラケースにできちゃうってことだもんね。
ホンットにすごいわ、この魔力付与。蜜蝋布を自在にプラケースにできちゃうなんて。精霊ちゃんってまじで精霊ちゃんなのかも。
だからやっぱり私は笑顔で言っちゃう。
「そうですね、もっと大きな四角い1枚布であればもっと大きな箱が作れますし、それにたいていのものはその1枚布で梱包できると思いますよ」
そう言っておいて、私はまた正方形の蜜蝋布を1枚手に取った。
そんでもって今度はその布で、コップを折って硬化した。
「耐熱性も強化されているとのことでしたから、これで温かい飲みものも飲めますね」
と、笑顔で私はそう言ったんだけど。
「お待ちください、ゲルトルードお嬢さま!」
トラヴィスさんがなんか本気で慌ててる。
「それはどのように作られたのですかな? それほど簡単にそのようなものを……!」
「え? これは箱よりずっと簡単ですよ」
私はまた別の蜜蝋布でちょいちょいっとコップを折った。そんで底の部分をちょっとつまんで平らにしてから硬化する。こうしておけば、自立するよね。
「もっと大きな布を使えば、簡易なバケツとしても使えますね」
ええっと、なんなんでしょう、なんでみんなして頭を抱えてるの?





