233.ナニかが進行している?
本日2話目の更新です。
明日も更新する予定です╭( ・ㅂ・)و グッ !
いや、でも、思い出してみると、こちらのにこにことやさしそうなマルレーネさんも、王妃殿下であるベルゼルディーネさまの養育係でいらしたのよね?
ベルゼルディーネさまは、お生まれになってすぐに当時の王太子殿下、つまりいまの国王陛下の婚約者になられたという話だから……要するに将来王妃になられることが決まっていたかたの養育係をされていたこのマルレーネさんも、まごうかたなき国家トップレベル人材だよね……。
ホンットに、いったいナニがどうなって、私はこんなすごすぎる人たちに囲まれてお茶なんかしちゃうようになっちゃったんだろう。
いや、ナニが原因なのか、わかってます。
すべては、この公爵さまが我が家に乗り込んでこられたからです。
うん、まあ……もし公爵さまが我が家に乗り込んでこられていなかったとしても、お母さまからレオさまっていう方向で、そっち方面の人脈はつながっちゃったかもしれないけど。
いやいや、そんでもやっぱり、この公爵さまの食い意地が、我が家というか私の生活を一変させちゃったのは間違いない気がする。
なんかもう、自分でもびっくりだわよ。私ゃお料理無双なんてする気は、まったくなかったんだからね。ちょっとでもレシピが売れれば家計の足しになるからって、ホンットにそういうノリだったんだから。
だがしかし、私自身の意図とはまったくうらはらに、ナゼか私のお料理は大好評である。
いやもう、ちょっと待ってと言いたくなるくらいうっかりがっつり胃袋をつかんでしまった公爵さまが、実に満足げにプリンを食べ終えちゃってるし。
「それではゲルトルード嬢、持参してもらった手土産の残りもこちらでいただこう。特にプリンについては、我が家の料理人にも食べさせたいことだしな」
ええ、手土産なんですからもちろんぜんぶ差し上げますよ。
私は笑顔でうなずいたんだけど、いやーマルゴが頑張ってクレープもプリンも山盛り作ってくれちゃったからね、アーティバルトさんがほくほく顔で残りのおやつを収納魔道具にしまい込んでいます。
ところがここで、公爵さまが表情も姿勢も改められました。
「それで本日の用件なのだが……ゲルトルード嬢、相談がある」
その言葉に思わず姿勢をただしちゃった私に、公爵さまは続けて言った。
「きみの料理を何点か、すぐに解禁しようと思うのだが、どうだろうか?」
は、い?
私の料理を解禁?
「あの、それは、すぐにレシピの販売を行う、ということでしょうか?」
問い返しちゃった私に、公爵さまは首を振る。
「いや、レシピの販売は後日になる。とにかく料理そのものを解禁してしまう、つまりレシピを購入していない相手であっても、その料理を作ることを容認するということだ。具体的には、ホットドッグとサンドイッチの解禁を考えている」
「あ、はい」
さくっとうなずいた私に、公爵さまが眉を寄せる。
「どうだろうか? レシピの販売を行わずに料理を解禁するというのは……」
「はい、大丈夫です。解禁していただいて構いません」
私は再度うなずいた。
だってね、ホットドッグもサンドイッチも、一目見たら作り方わかるよね? ホントにレシピを書くってほどでもないんだから、解禁もナニもみなさんお好きにどうぞ、って感じだもん。
「いいのか? 本当に?」
って、だからなんで公爵さま、そんなにびっくりしてるの?
「ルーディちゃん、よく考えたほうがいいわ」
レオさまもちょっと慌てたように言ってくれる。「レシピ販売なしで解禁するということは、レシピを販売して得られるはずだった貴女の収入がなくなるということよ?」
ああ、そういうことか。
公爵さまも、レオさまと同じ心配をしてくれてるのね?
そりゃ確かに、商会としては販売できるレシピの数が多いほうがいいだろうけど。でも、ホットドッグとサンドイッチはねえ……ホントに見ただけで誰でも真似できちゃうし、わざわざレシピを購入していただくのも申し訳ないレベルじゃない?
「ええと、でも、マヨネーズはレシピがないと作り方がわからないですよね? サンドイッチを解禁する場合、マヨネーズも解禁するのですか?」
「いや、もちろんマヨネーズは別だ。マヨネーズのレシピは個別で販売を考えている」
問いかけた私に、公爵さまは即答してくれた。
「それであれば、問題ないと思います。サンドイッチもホットドッグも、本当に見ただけで誰でも作り方がわかりますし、誰でも簡単に真似できるお料理ですから」
「本当にいいのね?」
レオさまが念押ししてくれる。「ホットドッグもサンドイッチも、解禁すれば本当に一気に流行すると思うわよ?」
「そうですね、手軽に誰でもできるお料理ですから」
ええもう、みなさんフツーに召し上がっていただければ。
公爵さまがなんだか安心したように、ソファーの背もたれに体をあずけた。
「そうか、きみがそう言ってくれるのであれば、すぐに手続きに入ろう」
あの、公爵さま、手続きって……ナニか必要なんですか?
私は首をかしげそうになったんだけど、なんかレオさまもホッとしてからすぐにやる気に満ちあふれた顔になっちゃった。
「ええ、早急に準備しましょう。ホットドッグもサンドイッチも、ルーディちゃんが考案したお料理であることを徹底的に周知しなければ」
「ホットドッグに関しては、軍部とのレシピ売買契約があるので、軍から公言させます。軍の上層部には非常に好評で、遠征のときだけでなく兵舎の食事としても提供したいので早く解禁してほしいとせっつかれているほどですし」
な、なんか……レオさまと公爵さまでうなずき合ってくれちゃってるんですが?
また私の知らないところで、ナニかが進行しているような……やっぱり不吉な予感しかしない私に、公爵さまが言い出した。
「次は例の布だな。あの布も、できるだけ早く製品化し市販するようにしなければ」
あの布、って……蜜蝋布だよね?
魔法省で加工した製品を市販するってこと?
そこでアーティバルトさんが、うさんくさくないとってもにこやかな表情で何かを取り出した。
「ゲルトルード嬢、魔法省魔道具部にいる私の弟が試作したものなのですが」
差し出されたのは、間違いなく蜜蝋布。あの栗拾いピクニックで使用したカラフルな蜜蝋布を結構たくさんヒューバルトさんに渡してあったんだけど……それを使って加工したらしい。
私はアーティバルトさんに促されるまま、その蜜蝋布を受け取った。
おお? なんか生地のごわつきがほとんど気にならない? それに表面も、べたつきがなくつるんとしてる。
「弟によりますと、こちらの試作品では硬化による形態維持と耐水性を特に強化し、それから耐熱性と耐酸性もごく軽くではありますが強化したそうです」
もう1枚同じような蜜蝋布を取り出したアーティバルトさんが、その布をくしゃくしゃっと丸めた。そして彼は、その布の真ん中に付けられている小さなマークを指で押さえる。
「ここに軽く魔力を通すと、この形のまま硬化できます」
そう言って、魔力を通したらしいくしゃくしゃの蜜蝋布をアーティバルトさんが渡してくれた。
うわー! 固まってる!
え、ホントにナニコレ、確かに強く押すとちょっとたわむけど、手で温めて形を変えようとしてもまったく変わらないんですけど?
これ、手触りが完全にプラスティック!
いや本当に、この軽さに薄さ、つるんとした手触り、本当に本当にプラスティックの感触だよ、これ!
「この印に再び魔力を通すと、もとの布に戻ります」
アーティバルトさんに言われて、私はその小さな印に魔力を通してみた。
一瞬にして、布に戻った。本当に、手の温度で形が自由に変えられる蜜蝋布に戻った。
「……すごい!」
いやもう、まじで、冗談抜きですごいんですけど!
イケメン兄弟自慢の弟精霊ちゃん、まじですごい!





