229.歓迎、してもらってるらしい
本日2話目の更新です。
そんでもって、たぶん、明日も更新できると思います╭( ・ㅂ・)و グッ !
私が挨拶を済ませたところで、アーティバルトさんがさらりと言ってくれた。
「閣下、馬車の中でゲルトルード嬢には、簡単にですがゲオルグどのとスヴェイどのの説明をいたしました」
その声に応じるように、馬車の御者台から御者のゲオルグさんが、そして後部の立ち台からはスヴェイさんが降りてくる。
公爵さまは、まず御者さんを私に紹介してくれた。
「ゲルトルード嬢、アーティバルトから説明があった通り、これから当面の間このゲオルグがきみの御者を担当する」
「ゲオルグ・ボーンクリフトと申します。クルゼライヒ伯爵家ご令嬢ゲルトルードさまにはよろしくお見知りおきください」
右手を胸に当て左足を引いて、ゲオルグさんはていねいに挨拶をしてくれた。
でも、にこりともしないんだよね、このヒト。
すらっと背が高くて細身なんだけど、なんかこうミョーに威圧感があるというか。年齢は30代後半くらいかな、結構整った顔立ちなんだけどホントに無表情だし。
「ゲオルグ・ボーンクリフトさんですね。クルゼライヒ伯爵家長女のゲルトルード・オルデベルグです。よろしくお願いいたします」
私はがんばって笑顔でご挨拶しておいた。もちろん、正式なカーテシーよ。
そりゃあね、国王陛下の儀装馬車の御者までできちゃうような人が、私みたいな小娘の送迎のための御者をやれなんて言われたら、正直『はあ?』だよねえ。
続いて、公爵さまは従者さんも紹介してくれた。
「こちらのスヴェイはきみの従者として、送迎に付き従うこととなった。男性の従者は、学院の女生徒用個室棟に入ることはできないが、共用棟など入れる場所もあるからな。情報収集も兼ねてスヴェイには日中、学院に常駐してもらうことになる」
「スヴェイ・フォルツハイムと申します。今後はゲルトルードお嬢さまの学院での従者を務めさせていただきます。どうぞよろしくお願い申し上げます」
こちらのスヴェイさんは実ににこやかに挨拶してくれた。
さっきアーティバルトさんが、外見とはうらはらに腕が立つって言ったけど……ホンットに小柄でひょろっとしてて、おまけにずっとにこにこしているとっても愛想のいいお兄さんって感じ。でも、長らく陛下の身辺警護を、ってお話だから……もしかしてめちゃくちゃ童顔?
私はやっぱり笑顔で挨拶しておく。
「スヴェイ・フォルツハイムさんですね。クルゼライヒ伯爵家長女のゲルトルード・オルデベルグです。よろしくお願いいたします」
「はい、学院に入るのは本当に久しぶりなので、私も楽しみにしています」
と、スヴェイさんはにこやかに返してくれた。
しかし、ホンットにいいの?
このお2人、いわば国王陛下直属のかたたちじゃないの?
と、私は正直に身をすくめちゃいそうな状況だってのに、レオさまが笑顔で追い打ちをかけてくれちゃいます。
「ゲオルグは、王家の御者の中では若いほうだけれど、陛下もベルお姉さまもとても信頼されているのよ」
さらに公爵さまも追い打ちをかけてくださってます。
「スヴェイは私の護衛についてくれたこともある。国家保護対象固有魔力の持ち主で、その固有魔力を駆使した接近戦でスヴェイに勝てる者はそういないだろう」
だから、なんでそんな国家のトップレベル人材を、私なんかに!
国家一級御者の操る馬車で学院に通学だとか、通学に同行する従者が国王陛下の身辺警護担当者だとか、そんな待遇はどう考えても王太子殿下とか王女、王子殿下だけでしょうが!
いやーもう、そんなやんごとなき方がたと私なんぞを同列に並べるとか、ホンットに勘弁してほしいですぅぅ。
なんかもう、ある意味毎度のことながら、オープニングですでに私は疲れ切りました。
そりゃ確かに、そこまで実績のある御者さんだの従者さんだのを手配してもらえちゃうなんて、ありがたいことなんだけど……ホンットにありがたいことではあるんだけど。
ホンットにね、私はほんの1か月ちょっと前まで、日々DVにさらされて明日をも知れぬ身の上だったんだからね? それがいきなり、領主だの頭取だの絶対に結婚しなきゃダメだの、さっぱりワケがわかんないレベルで自分の身の上が激変しちゃったの。
それだけじゃない、自分とはまったく縁のない雲の上の人たちだと思ってたみなさんと、なんでこんなにも毎日毎日お会いしてるの? しかも国王陛下とか王妃殿下とか、そんなやんごとなき方がたが、フツーに話題に出てきちゃうんだよ?
だから、本人がまだまったくその激変についていけてないの、毎日毎日気がついたら次から次へと課せられちゃってる『やらなきゃいけないこと』に追われまくってるだけなの!
自分自身はナニひとつ変わったつもりはないのに、ホンットにワケわかんないんだってばー!
と、すっかり泣きを入れたい気分で、私は公爵邸に招き入れられた。
「ようこそおいでくださいました、ゲルトルードお嬢さま」
「ええ、本当にお会いできることを心待ちにしておりました、ゲルトルードお嬢さま」
いきなり笑顔で大歓迎な言葉をかけられて、私はきょとんとしちゃった。
目の前には、めちゃくちゃシブくてカッコいいおじさまと、ふっくらやさしそうなおばさまが、そろってにこやかに立っている。
「ゲルトルード嬢、紹介しよう。こちらが我が家の執事であるトラヴィスと」
公爵さまの口元が上がる。「そして侍女頭のマルレーネだ」
「あっ」
私は思わず声を上げちゃった。
「あっ、あの、初めまして、クルゼライヒ伯爵家のゲルトルード・オルデベルグです」
それでもちゃんとご挨拶できた私、偉い。
「あの、トラヴィスさんと、マルレーネさん?」
「さようにございます。トラヴィス・ゲゼルゴッドと申します」
「ええ、わたくしはマルレーネ・カロリッツでございます」
ん? ゲゼルゴッド? って……。
私はちょっとひっかかったんだけど、それを考える間もなくマルレーネさんが言った。
「わたくしの姉に仕えてくれておりましたヨアンナが、ご尊家に戻りましたのね。ヨアンナは本当によく姉に仕えてくれておりました」
「あっ、いえ、とんでもありません、ヨアンナのほうこそレットローク伯爵家の先代未亡人さまに本当によくしていただいたと聞いております」
私はマルレーネさんに頭を下げた。「ヨアンナを我が家に返していただいて、本当にありがとうございます」
「あらあら、それこそとんでもないことですわ」
マルレーネさんがほほ笑む。「ヨアンナの事情はわたくしも聞き及んでおります。彼女がもともとお仕えしていたというご尊家に戻ることができて、本当によかったと存じます」
あー……マルレーネさん、ヨアンナが伯爵家のご当主に迫られてたのもご存じのようです。
「ご理解くださって、本当にありがとうございます」
と、とりあえず私も笑顔を返しておいた。
そして公爵さまが、さっと肘を出してくれる。
「では、ゲルトルード嬢」
はいはい、おやつですね、ちゃんと新作のクレープも持ってきましたよ。それに、新作の新作まであるんですよー。
私はにこやかにその肘に手をかけさせてもらった。
で、そのまま客間に案内されると思ったんだけど……あれ? 階段上がっちゃうの?
客間って、どこのタウンハウスでも1階にあるんだと思ってたんだけど。
いいのかな、と思わず周りを見ちゃった私に、公爵さまが言う。
「ゲルトルード嬢、きみは私の被後見人だからな。親族同然だ。それに本日のもう1名の客は姉のレオポルディーネであるから、我が家の居間にご案内する」
ありゃま、そうでしたか。





