219.ここで大口の商談がまとまるという謎
本日4話目の更新です。
だけど、そんな完全に固まって血の気が引いてる平民チームのようすをよそに、レオさまメルさま、その上お母さままで、貴族家のご夫人たちはすっかりその気になってるようです。
「ああ、本当にそれはすてきね!」
メルさまが即座に応え、お母さままで言い出しちゃった。
「本当だわ、ベルお姉さまならそんな優雅で豪華なブーツを堂々と履きこなされるわね!」
お母さままで『ベルお姉さま』呼びですか……それは確かに、学生のときからレオさまのお姉さまってことで面識がお有りなんだろうけど。王妃さまもお母さまのことを、リアって愛称で呼ばれてたくらいだし。
レオさまはすっかりその気です。
「わたくしもそういうブーツが欲しいわ。これから寒くなって、石畳も凍ってくるでしょう? そういうときにはやはりブーツですもの」
「そうね、わたくしも欲しいわ。ふつうの、太くて低いヒールのブーツもいいけれど、ちょっとこういう目新しさのあるブーツってすごくいいと思うわ」
メルさまも同意して、お母さまも一緒になんだかキャッキャウフフになっちゃってます。
「あっ、でも、まずはルーディちゃんの靴よね」
ハッとしたようにレオさまが話題を戻してくれた。
「そうだったわ、ごめんなさい、まずはルーディちゃんの夜会用の靴よ」
メルさまのうなずきに、お母さまが言ってくれた。
「それで、どうかしら? ルーディはまだ学生なのだし、そこまで正式な形の靴にこだわらなくても……こういう、目新しさのある意匠の靴なら、むしろルーディらしさがあると思うの」
目新しさが私らしいって……いや、お母さま、それもどうかと。
なんて私は思ったんだけど、ほかのみなさまはそろって同意のごようすです。
「そうね、お衣裳にも何か新しい意匠を取り入れるというお話だし、靴も少し変えてみてもいいかもしれないわね」
うんうんとうなずきながらレオさまが言って、メルさまもうなずいてます。
「そうすると、まずはこのくびれた形のヒールで、ルーディちゃんの靴を作ってもらいましょう。それでダンスの練習もして、ある程度高さがある靴に慣れていけばいいのではないかしら?」
「ええ、この形ならそれほど高さがなくても優雅な感じになるし、ヒールの先が太くなっていて安定感があるのですもの、ルーディも慣れやすいと思うわ」
お母さまも、なんだかホッとしたようにうなずいてくれました。
ああああああ、よかった……細い細いピンのハイヒールは、免除してもらえそうな流れになってきたわ。このまま、少し太めのルイヒールで、高さもせいぜい5センチくらいの靴なら、私もなんとか年末までには履きこなせそう。
クレアさんもなんだか勢い込んで言い出した。
「それでございましたらまず、いまゲルトルードお嬢さまがお履きになられているそのお履もののヒールを、お直しさせていただいてよろしいでしょうか? まずはそちらでおみ足を慣らしていただきまして、その間にいくつか新しい意匠でお履物をご用意させていただきたく存じます」
「そうね、夜会用の靴を新調してもらう前に、まず何足かお直ししてもらって、高めのヒールの靴をそろえましょう」
お母さまも乗り気です。「いまルーディが履いているその靴と……あとはそこの2~3足ね。あちらのブーツのヒールもお直ししてもらっていいかしら?」
「もちろんでございます。大至急、お直しさせていただきます」
なんかクレアさん、めっちゃ嬉しそうです。
「それでは、ルーディちゃんの靴はそうしていただくとして……」
メルさまが思案するように言い出した。「わたくしたちもぜひ、このトゥーランヒールの靴を履きたいのだけれど……ルーディちゃんがお披露目した後がいいかしら? それとも、わたくしたちが先に履いたほうがいいかしら?」
「今回は、先にお履きいただいたほうがよろしいかと存じます」
なんかエグムンドさんの眼鏡キラーンがきたよー!
でも、えっと、どういうこと?
ルイヒールっていうかトゥーランヒールの靴も、コード刺繍のドレスと一緒に『新年の夜会』で披露するんじゃなくて、靴だけ先にこのデザインを開放しちゃうってこと? あ、すでにトゥーランヒールとして、数は少なくても流通してるデザインだから、ウチの商会で意匠登録はできないってことか?
私は思わずメルさまとエグムンドさんの顔を見比べちゃったんだけど、2人はお互い納得した顔をしてる。
「そうよね、わたくしたちで先に地ならししておいたほうが、ルーディちゃんにはいいわよね」
エグムンドさんの言葉にメルさまがうなずき、レオさまもうなずいてる。
「わたくしもそう思うわ。わたくしたちが率先してこのトゥーランヒールの靴を履いておけば、この形が広く周知されるはずよ。『新年の夜会』でルーディちゃんが少々正式な形から外れた靴を履いていても、そのことをとやかく言う人たちは減るでしょう」
あああああ、そういうことか!
つまり、高位貴族家の夫人であるレオさまやメルさまが率先してめずらしい形の靴を履けば、それが新しい流行になりやすい。
そうすると、私が夜会でちょっとばかり正式な形からは外れた靴を履いていても、つまりピンなハイヒールを履いていなくても、これが最新流行なんです、って言っておけば誰かに何かを言われてもごまかせるってことよね?
レオさまもメルさまも、私が夜会で履ける靴のハードルを下げるために、そういうことを考えてくれてるんだー!
「ご配慮ありがとうございます、レオさま、メルさまも」
いやーもうホンットに、お礼を言わずにいられようかって感じよね。
そんでもって、エグムンドさんもとってもイイ笑顔です。
「もし可能であれば、先ほどお話しになられていた通り、王妃殿下にもこの新しいヒールのブーツをお召しいただければと存じます」
うわー、そこまで言っちゃうか、エグムンドさんってば。
でも本当に本気の話らしくて、エグムンドさんはさらに言った。
「よろしければ、我がゲルトルード商会に仲立ちをさせていただきたく存じます。ガルシュタット公爵家ならびにホーフェンベルツ侯爵家、さらにはレクスガルゼ王家の専属靴職人にこれらの意匠をお伝えし、いくつか提案をさせていただくということも可能でございますので」
「ええ、ぜひお願いするわ」
「そうよね、まずは手持ちの靴の中からいくつか、ヒールだけお直ししていただけばそれほど時間もかからないでしょうからね」
「わたくしたちがこの形のヒールを履いて、年末までに新しい流行にしてしまいましょう」
「ベルお姉さまもきっと喜んで履いてくださるわ」
だからそのベルお姉さまは、王妃殿下なんだってば。
私だけでなく、クレアさんもツェルニック商会もちょっと遠い目になってるんだけど、エグムンドさんはがっつり大口の商談をまとめてくれちゃったようです。
なんつーか、さすがだわ、ウチの番頭さんは……。
しかしなんで、こんなに大ごとになっちゃったんだろう。単に私の靴を作るってだけの話だったはずなのに。そりゃ確かにね、ホットドッグにしても蜜蝋布にしてもそうだったわよ、国軍だの魔法省だのって。
なんかエグムンドさんが、心なしかどや顔になってる気がしないでもないけどさあ。
でもまあ、そこからはさくさくと話が進みました。
クレアさんっていうか、ラーゼン靴工房さんには何足かヒールのお直しをお願いして、またそれとは別に夜会用の靴を新調してもらうことになった。
新調してもらう靴のデザインについては、クレアさんがすっごいやる気になっちゃってて、いくつか描いて持ってきてくれるそうな。もちろん、ツェルニック商会も絡んで、衣装とそろえてコード刺繍も施すことになってる。
それに、さっきエグムンドさんがまとめた商談については、レオさまメルさまの専属靴職人さんというか靴工房さんと連携して、私の靴と同じようにヒールの部分だけお直しする靴を何足か準備してもらうことになった。
しかもお母さまも何足か、同じようにヒールのお直しをしてもらうことになって、それは私としてもすっごく嬉しい。
レオさまもメルさまも、靴のお直しが済み次第、その靴を履いてあちこちに出かける相談を、もちろんお母さまも一緒にお出かけする相談をしてくれてる。
また恐ろしいことに、本当に王妃殿下にもプレゼンすることになっちゃったらしくて、まずはレオさま手持ちのブーツをお直しして、それを王妃殿下におススメしてみるとのことだ。
こういうことについては、本当の姉妹なので、靴であろうが衣装であろうがいちいち献上の形をとらなくても、プライベートなお届けってことでOKなんだって。
うーん、エグムンドさんってば、その辺りも狙ってたんだろうか。
そんでね、最初の話に戻るんだけど、今回はアデルリーナにも靴を作ってあげるのよ。
アデルリーナも、ジオちゃんハルトくんなんてお友だちもできたことだし、今後は外出する機会が増えると思うしね。それにこのさい、リーナもちょっとヒールが高めの靴の練習を始めてもいいんじゃないかってことになって……ショックな事実が判明してしまいました……。
リーナと私、足のサイズがほとんど変わらない!
えええええええ、6歳も離れてるのよ、リーナはまだ10歳なのよ、なのに足のサイズがほとんど変わらないって……もしかして私、リーナに足のサイズも身長も抜かれちゃうの、時間の問題ってこと……?
お姉さま、大ショックなんですけど!
ううううううう、リーナはお母さま似だから、きっと背も高くなるだろうとは思ってたけど……さすがにこのトシで抜かれちゃうのは、あまりにもあまりじゃない?
ええもうリーナ本人は、新しく靴を作ってもらえることよりも、ルーディお姉さまと同じようにベアトリスお祖母さまの靴をお直しして履かせてもらえるってことに大喜びしてて、それはもちろんかわいくてかわいくてかわいくてかわ(以下略)なんだけどねえ……。





