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没落伯爵令嬢は家族を養いたい  作者: ミコタにう


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213.夜会用の靴作りスタート

本日2話目の更新です。

 あー……今日も1日、予定がびっしりです。

 私は朝から厨房でマルゴと打ち合わせ。

 ええもう、当然のごとく今朝も厨房で朝ごはんも済ませました。ごめんね、ノラン。びっくりさせちゃったね。まさか仮とはいえ当主であるご令嬢が、朝ごはんを厨房の作業テーブルで食べてるなんて思いもしないもんね。

 なんかすっかりビビらせちゃったけど、ノランさんは息子のトマスくんを連れて、早速我が家のお庭を確認しに行ってくれました。ホンット、ずっと放置してお手入れしてない我が家のお庭、とにかくお掃除だけでもしてもらえるとありがたいです。早く我が家に慣れてね。


「それでは、プリンはおいくつほどご用意いたしましょう?」

 マルゴの問いかけに、私は頭をひねっちゃう。

「そうねえ、公爵さまは正直に言って、何個でも欲しいとおっしゃると思うの。なにしろ、時を止める収納魔道具をお持ちでしょう?」

「ああ、それは確かに、そうでございますねえ……」

 なんかもう、マルゴがちょっと遠い目をしちゃってる。


 うん、私も自分で言っててちょっと遠い目になっちゃうよ。

「それに、レオさまとメルさまにも何個かお渡ししたいし……今回限りではなく、これからいろいろとお世話になるたびにお届けしようかと思っているので、とりあえずいま作れる分だけご用意すればいいのではと思うのだけれど」

「さようにございますね。それでしたらもう、こちらからすぐお渡しできるおやつをご提案させていただきまして、その中から選んでいただくのもよろしいのではございませんか?」

「そうね、本日また、みなさまがいらっしゃるご予定なので、その辺りお聞きしてみるわ」


 はー、ホンットにマルゴさまさまだわ。

 こんなにも毎日毎日毎日毎日お客さまが、それもすんごい上位貴族家のみなさまばっかりが、我が家を訪問してくださるなんて、私だってこれっぽっちも思ってなかったのよ。

 それでも、もしその上位貴族家のみなさまが一方的に我が家で食べていくだけなら、私もきっぱり断っただろうけど、ホンットにいろいろお世話になってるからね。そこはやっぱりお礼のひとつもしなければ、になるでしょ。

 その結果、こんなに毎日大量のおやつが必要になっちゃうわけだけど。

 それなのにマルゴは、こうやって文句も言わず私のお願いを聞いてくれて、毎日ガシガシと大量におやつを作ってくれちゃうんだもの、ありがたいことこの上なしよ。


 ただ、それとは別に、ねえ?

 私はもう正直に、うんざりした顔で言っちゃった。

「あと、ヨアンナとノランにも説明しておいたほうがいいわよね。我が家の厨房には、ときどき公爵さまが乗り込んでこられるんだってことを」

「さようにございますねえ……」

 またもマルゴが遠い目になってる。「トマス坊やも粗相がないよう、みんなでよーっく注意しておかないといけませんですねえ」


 ホンット、それ。

 ノランによると、日中はほとんどノラン自身がトマスを連れて庭作業をしてくれるらしいんだけど……本当にまだ小さい子なんだから、おやつだって飲みものだって少ししか食べられないぶん、1日に何回も必要でしょ。当然、厨房にもちょくちょく出入りするよね?

 それでも4歳児に、公爵さまに失礼がないようどれだけ言い聞かせても、まだよく理解できないのはしかたのないことだし。


 てかもう、ホンットにあり得ないことなのよ、公爵家のご当主さまがヨソのお家の厨房に堂々と入ってきて居座っちゃうだなんて!

 本来、お客さまである公爵さまと我が家の使用人の子どもなんて、どこにも接点なんかないはずなのにー!

 まあ、あの公爵さまならよっぽどのことがない限りは、小さい子ども相手に無体なことはなさらないと思うけど……それでも頭が痛いのは事実だわ。


 そうこうしているうちに、お母さまとアデルリーナも厨房へ下りてきた。

「おはようルーディ、わたくしも起こしてくれればよかったのに。今日は午前中から、ルーディの靴を作るために職人さんが来てくれるのよね?」

「おはようございます、お母さま。午前中はその予定です。でもまだ時間はありますので」

 お母さまもアデルリーナも、流れるように作業テーブルに着いちゃって、これまた流れるように朝食が並べられていく。


 お母さまは昨夜あれからも、遅くまでヨアンナと何か話していたようだった。

 そのヨアンナはきっちり我が家の侍女服に着替え、お母さまの後ろに控えている。今朝もお母さまの着替えなど、朝の支度をしてくれたらしい。

 私はもう朝ごはんを食べちゃったけど、お母さまとリーナと一緒に並んで腰を下ろした。

「わたくしはマルゴと打ち合わせをする必要があったので、少し早めに起きたのです」

「そう? それならいいのだけれど……今日はレオとメルも来てくれるのよね?」

「はい、もしかしたら少し早めにご到着されるかもしれません。昨日レオさまは、わたくしの靴作りのようすを見せて欲しいというようなこともおっしゃっていましたので」


 私がそう言うと、お母さまはクスっと笑った。

「そうね、レオはそういうことをするのが好きなのよね。自分の衣装や靴だけでなく、ほかの人が身につけるものを考えたり提案してあげたりすることが」

「そうなのですね」

「ええ、新居の内装も、レオがいちばん熱心に考えてくれているわ。レオは、学生時代からそうなのよ」

 お母さまは楽しそうに笑う。「レオは生家も公爵家でしょう? だから他家のことに変に口出しすると、命令だと受け取られかねないので、ふだんはあまりそういうことはしないのだけれど……わたくしが相手だと思うと遠慮する必要がないからと言って、存分に提案してくれているわ」

「ありがたいことです」


 そっかー、身分が高いとそういう面倒くささもあるのねえ。

 そりゃまあ、公爵家のご令嬢やご夫人が『こうしたほうがいいのではなくて?』なんて言ってこられたりしちゃったら、下位貴族家の人たちはまずその通りにするだろうね。たとえレオさまにそういう意図はなかったとしても。

 それに……たぶん、実際そういう持って回った言い方をしながらも『命令』してくるような上位貴族家の人たちが、いっぱいいるんだろうなあ。


 でもって本当に、お母さまとレオさまの仲の良さよ、だわね。

 中央貴族の最高位である公爵家のご令嬢と、地方貴族の男爵家のご令嬢だったっていうのに、本当にまったく気の置けない仲良しさんなんだよねえ。

 そこに侯爵家のご令嬢であるメルさまも加わっちゃうんだから……本当になんていうか、不思議なまでのレベルよね、この仲の良さは。


 お母さまとアデルリーナの朝ごはんが済んだところで、私たちはそろって客間へ移動した。

 そして、どんな靴にしましょうかなんて話をしているうちに、毎度おなじみツェルニック商会が到着してくれた。

「クルゼライヒ伯爵家ご令嬢ゲルトルードさま、未亡人コーデリアさま、そしてご令嬢アデルリーナさま、本日もご機嫌麗しく、私どもツェルニック商会にお目通りをお許しいただき、光栄の至りにございます」

 はい、ツェルニック商会は本日も通常運転です。

「それでは、昨日お話しさせていただきました通り、本日は私どもが懇意にしておりますラーゼン靴工房の職人、クレア・ラーゼンをご紹介させていただきます」

 って、靴職人さん、女性なんだ!


 ロベルト兄に促され、その小柄な黒髪の女性職人さんが私たちの前に出てきた。

「ツェルニック商会さんよりご紹介いただきました、ラーゼン靴工房のクレア・ラーゼンにございます。クルゼライヒ伯爵家のみなさまがたには、なにとぞよろしくお願い申し上げます」

 さすがにすっごく緊張してるっぽいけど、はきはきと挨拶してくれたクレアさん。小柄だし歳も20代前半くらい? でもキリっとした面立ちで、いかにも意志の強そうな職人っぽい雰囲気だ。


「わたくしが当家の長女ゲルトルードです。クレア・ラーゼンさんですね。こちらこそよろしくお願いしますね」

 にこやかに私が挨拶を返すと、クレアさんの表情がわずかに緩む。

「ツェルニック商会さんからは常々、ゲルトルードお嬢さまがどれほどすばらしいご令嬢でいらっしゃるのかをうかがっております。このたびは、この私めにゲルトルードお嬢さまのお履きものをご用意させていただけるなど、本当に感謝に堪えません」


 って、おーい、ツェルニック商会さーん、クレアさんに私のことをいったいどんなふうに、常々話してんのよー?

 思わず私が視線を送っちゃうと、ロベルト兄が嬉々として語りだしちゃった。

「このクレアは女性でございますし、歳もまだ若くございますが、本当に腕がよく繊細な細工を施した履き心地のよい靴を作ると評判なのでございます。クレアであれば、世に新しきものを送り出すことには特に長けておられるゲルトルードお嬢さまにぴったりな、素晴らしいお履きものをご用意できるものと確信しております」


 うん、まあ、通常運転なんだけどさあ。

 それで今日は、お針子頭のベルタお母さんは来てないのはまだわかるんだけど、なんでエグムンドさんがいるの? さらになんでエグムンドさんってば、ロベルト兄の語りにうんうんとうなずいてくれちゃってるの?

 そして、最大のナゾは、なんで公爵さまが来ていらっしゃらないの?


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