200.子どものお茶会の後は
本日2話目の更新です。
「それでは、この後の予定なのだけれど」
先生がたの講評が和やかに終わり、レオさまがまた優雅に言い出した。
「リーナちゃんの子ども部屋を見せていただきたいの。昨日、ご新居を見せていただいたとき、少し確認したいことが出てきて」
ちらりとレオさまがお母さまに視線を送り、お母さまがハッとしたようにうなずいた。
「ええ、そうね、そうだったわ、レオにリーナの子ども部屋を確認してもらいましょう、って」
んー? なんだろうな、そういう話があったなら、今朝までにお母さまから聞いていてもよさそうなものだけど。
でもまあ、とりあえず私は笑顔でうなずいた。
「そうでしたか。それでしたらぜひ、レオさまにはリーナの子ども部屋を見ていただきたいです」
「ありがとう、ルーディちゃん」
レオさまも笑顔でうなずき返してくれる。「じゃあ、あまり大人数で子ども部屋におしかけるのも申し訳ないから、私とリアで……あ、でも、リーナちゃんに訊きたいこともあるのよね」
そう言ってレオさまはちょっと思案するような顔をする。
「リーナちゃんも一緒に来てもらうなら、ジオとハルトも一緒のほうがいいかしら?」
「お母さま、リーナちゃんのお部屋を見せていただけるのですか?」
はい、ジオちゃんが食いつきました。
「ぼくもいっしょに見せてもらいたいです!」
もちろんハルトくんもです。
これはどうやらレオさま、私が先生がたと気兼ねなく話ができるよう気を遣ってくださってる? さっき『その話、後で詳しく!』もあったしね。
それとも……お母さまと何か、私抜きで話したいことがあるのかな?
「それでしたら、わたくしはここでお待ちしておりますので」
私はまた笑顔で言ってみた。「先生がたはいかがなさいますか? こちらでわたくしと一緒にお待ちいただいてもよろしいかと思うのですが」
「ええ、それではわたくしたちも、ルーディさんとこちらで待たせていただきましょう」
先生がたも笑顔でうなずいてくれた。
と、いうことで、リーナが案内する形でレオさま以下ジオちゃんとハルトくん、それにお母さまも一緒にリーナの子ども部屋へと移動。当然侍女さん侍従さんも一緒ね。我が家はシエラも一緒に行ってくれた。
その結果、客間に残ったのは私と先生お2人に、ナリッサとヨーゼフ。
一気に人口密度が減ったわ。いや、そのせいもあるのか、先生がたの無言の圧がすごい。
まずは、私の言うべきことを言わねば。
「先生がた、もしよろしければ、おやつのお代わりはいかがですか?」
「まあ、ありがとうございます、ルーディさん」
「ありがとうございます、ぜひいただきたいですわ」
待ってましたとばかりに、いや、まあ、満面の笑顔で答えてくださった先生がたに、お茶とおやつのお代わりが、粛々とナリッサとヨーゼフによって配られた。
もちろん、先生がたはとっても嬉しそうにお口にされました。
「栗拾いのときから、ルーディさんがどのようなおやつを作られるのか、本当に楽しみにしていたのですけれど」
「ええ、もう、本当に期待以上のおやつで、とっても美味しいですわ」
先生がた、なんかこう、お茶会のマナーとしておやつの話題を出してるっていうより、ほぼ素で言ってらっしゃいますよね感が、かなり溢れていらっしゃいます。
「この栗のクリームも、お砂糖で甘く煮たというこの栗も本当に美味しくて」
「それにこの『ぱうんどけーき』ですわ、こちらも驚きです。パイともクッキーとも違う食感で、とっても美味しくて」
そこでやっぱり、先生お2人の目がキラーンとしちゃったりする。
「先ほどのリーナさんのお話では、こちらの『ぱうんどけーき』もルーディさんの商会で販売されるご予定だとか?」
「はい、そのように考えています」
私がにこやか~に答えると、先生がたはなんだかもどかしそうに言い出した。
「ああもう、本当に開業が待ち遠しいですわ」
「あの『ぷりん』や『さんどいっち』も販売されるのでしょう? それにレシピも販売されるというお話でしたから」
「我が家でも、なんとしてもレシピを購入しようと話しているのですけれど」
「どのレシピにするか本当に迷いますわよね。『ぷりん』はぜひ欲しいところですが、またこのような『ぱうんどけーき』という新作まで……ますます迷いますわ」
「でも、まずはお店でお品を購入させていただかないと。家族はわたくしが説明してもまだ、『ぷりん』の美味しさに半信半疑ですのよ」
なんかもう、めちゃくちゃ期待していただいちゃってるみたいだわ。
うーん、この状況で店舗の説明をするの、ちょっと気が引けちゃうんだけど仕方がない。
「あの、わたくしの商会の店舗なのですけれど」
こういうときって、申し訳なさそうな顔をすればいいんだろうか、と思いつつ私は言い出した。
「ご期待に添えず本当に申し訳ないのですが、当面は店頭での販売はなく、事前にご予約いただいたかたのみ店内での飲食をご提供しようということになりまして」
「まあ、では、お料理そのものというよりは、『お茶会』を提供していただく店舗ということになりますのね?」
ファビー先生、理解が早いです。
「はい、そうなります。その、いろいろと初めての試みでございますので、最初は混乱を避けるためにも完全予約制、それも商会顧問であるエクシュタイン公爵家、ガルシュタット公爵家、それにホーフェンベルツ侯爵家からのご紹介があるかたのみ、ご予約を承ることになります」
「あー……でも、確かに、そのほうがよろしいでしょうね」
リケ先生が、ちょっとがっかりしたようすながらも、うなずいてくれた。
「これだけ王都中で話題になっておりますもの。貴族の方がたも開業と同時に殺到される可能性は大いにありそうですし」
ファビー先生もうなずいてくれる。
「そうですよね、エクシュタイン公爵さまがあれほどお気に召しているお料理というだけでなく、王家のみなさまも非常にお気に召したともなれば、もう……」
え、ちょ、ちょっと待って!
そんな、王都中で話題になってるとか、いや、そんなことよりも、王家のみなさまも非常にお気に召した?
ナニソレ、聞いてないんですけど!
「あ、あの、王家のみなさまもお気に召していただいたとか、あの、そういうお話は……?」
「あら、ルーディさんはお聞きになっておられませんの?」
慌てて問いかけた私に、リケ先生がきょとんとした顔で答えてくれた。
「わたくし、女官をしている姉から聞きましたわ。あの栗拾いのお茶会で、王妃殿下がお土産としてお持ち帰りになられたお料理は、国王陛下も王太子殿下も、それに王女殿下王子殿下も、みなさま本当に美味しいと大好評だったと。それに陛下はその旨、エクシュタイン公爵閣下にも直接お伝えになったそうですよ」
「わたくしも、レオポルディーネさまからおうかがいしましたわ」
ファビー先生も言ってくれる。「王妃殿下は後日、レオポルディーネさまとお会いになられたとき、お話しくださったそうですよ。お持ち帰りになられたお料理はどれも本当に美味しくて、中でも『はんばーがー』と『ほっとどっぐ』については、国王陛下と王太子殿下がことのほかお気に召されたと」
「わたくしたち、てっきりルーディさんも、エクシュタイン公爵閣下かレオポルディーネさまからお聞きになっておられるとばかり」
聞いてないよ!
公爵さまもレオさまもこれだけしょっちゅう会ってるんだから、ちゃんと教えてよ!
確かにあの場で、王妃さまは美味しいって言ってくださってたけど……国王陛下まで美味しいって言ってくださったとなると、やっぱりそこは違ってくるでしょ? それも、お茶会のマナーや社交辞令が必要ない状況で召し上がって、美味しいって言っていただけたとなると。
しかもリケ先生が、女官をしているあのお姉さまから聞いたってことは、宮殿の王妃殿下付き女官さんたちはみなさんその話を知ってると思って間違いないよね?
そりゃあもう、国王陛下のお墨付きいただきましたー! なんてウワサがすでに出回ってたりしちゃってたら、王都中で話題になってるっていうのも誇張じゃないかも、だわよ。
昨日エグムンドさんが言ってた、すでにお問い合わせが来てる、それも高位貴族家からのお問い合わせが多いっていうの、ホントに本気でマジな話だったのね……。
なんかやっぱり遠い目になっちゃった私に、リケ先生が取りなすように言ってくれた。
「もしかしたら、公爵閣下もレオポルディーネさまも、ルーディさんが変に気にされたりしないようご配慮されたのかもしれませんわ。ルーディさんは商会の頭取といえども、未成年の学院生でいらっしゃいますから」
いや、たぶん、特に何も考えてなかったんだと思います。公爵さまも、レオさまも。
だってね、2人ともあれだけ栗のおやつを楽しみにしてくれちゃってて、完全に意識がそっちへいっちゃってたし。それにご本人たちにしてみれば、王家のみなさまというより、実のお姉さまとそのご家族の内輪話って感じなんだと思うし。
公爵さまなんか、私を王太子殿下と最初に踊らせるつもりだったでしょ? アレもたぶん、相手が王太子殿下っていうより自分の甥っ子っていう意識が強いからだよねえ。
うーん、ご姉弟仲がよすぎるのも考えものかもー。





