199.お茶会の講評
2月滑り込みで更新です(;^ω^)
本日4話更新します。まず1話目です。
「クルゼライヒ伯爵家でご提供されるおやつはどれも本当に美味しいので、ついつい食べることに夢中になって、お話しすることを忘れてしまわれるというのは、とてもよくわかりますけれど」
「それでも、美味しいと感じられるからこそ、そのお気持ちを主催者にお伝えすることが本当に大切なのですよ」
リケ先生とファビー先生が、笑顔で説明してる。
「はい、先生!」
「ちゃんとお伝えします!」
ジオちゃんハルトくん、とってもいいお返事です。
それにリーナも、真剣にリケ先生のお話を聞いています。
「おやつを提供する主催者も、どのような来歴のおやつなのかなどをお話しすることで、お客さま同士の会話を促してさしあげるようにすると、さらに楽しいお茶会になりますからね」
「はい、リケ先生!」
リーナも本当にいいお返事です。
「えっと、あの、おやつに使われている栗は、先日みなさまといっしょにひろった栗です。栗ひろいの次の日に、公爵さまが我が家にとどけてくださって」
とってもかわいい笑顔でリーナが言う。「ルーディお姉さまとマルゴが、あの、姉のゲルトルードとわが家の料理人が、こんなにおいしいおやつにしてくれたのです!」
「栗ひろい、とってもたのしかったです!」
ハルトくんも笑顔で応える。
それにジオちゃんは、ちょっと考えたお返事をしてくれた。
「あの、栗ひろいのときに、ルーディお姉さまがどんなおやつにしてくださるのかというお話もしましたけれど、こんなにおいしくて、すてきなおやつにしてくださるとは思っていませんでした」
ね、そうでしょう? とばかりに、ジオちゃんが顔を向けたハルトくんも大きくうなずいてる。
「ぼくは、やき栗や、むし栗はたべたことがありますが、こんなふうにクリームになった栗や、あまくにた栗ははじめてで、ほんとうにおいしかったです!」
おお、ハルトくんもしっかり答えてくれてます。
ジオちゃんは、お姉さんらしくさらに言うし。
「それに、この『ぱうんどけーき』? ですか、クッキーやパイとちがってふんわりしていて、クリームとあわせると本当においしくて」
「はい、『ぱうんどけーき』もすごくおいしかったです!」
ハルトくんがまた満面の笑顔で言ってくれて、リーナもすっごく嬉しそう。そんでもってリーナは、ちょっと自慢気に言い出した。
「このパウンドケーキは、姉の新作おやつなのです。少し日もちもするおやつで、ゲルトルード商会でも売り出すと言われています」
その瞬間、ビシッと先生がたの視線が私に向いた。
すばらし過ぎる反応というか、やっぱりお2人の圧がすごい。その目が、如実に『そのお話、後で詳しく!』と私に告げてくれちゃってるわー。
うん、とりあえず笑顔でうなずいておこう。
だってリーナの説明はまだ続いてるし。
「それにパウンドケーキは、いろいろお味をかえて作ることができるそうです。今日は、さきほどの栗のクリームとあわせたもののほかに、干し果実をまぜたものも、ご用意しました」
と、またその瞬間、先生がたの視線がビシッと部屋の隅のワゴンに向いちゃう。いや、先生がただけじゃなく、ジオちゃんとハルトくんもなんだけど。
そのワゴンの下段から、ヨーゼフとナリッサが澄ました顔で大きなお皿を取り出す。
お皿には丸いドーム型の大きなふたがしてあって、そのふたを取ったとたん、ふわっと甘いパウンドケーキの香りが広がってくれちゃうんだよねー。
その甘い香りの中、リーナはますます嬉しそうに言うんだ。
「今日は、干しぶどうと干しあんずを混ぜたものをご用意しました。さきほどのパウンドケーキよりしっとりしていて、こちらもとってもおいしいですよ」
そうなのよね、この子どものお茶会は主催者がリーナなので、お毒見というかお味見ができるのもリーナ1人だから、おやつをお出しするのを2回に分けたの。
なんかこう、リケ先生の『聞いてませんよ!』と言わんばかりの視線がちょっと痛い。でも、サプライズのおやつがあるのっていいでしょ? それに、追加のおやつが出てくることに、先生がたも文句なんか絶対言われないと思うしねー。
と、いうことで、粛々とおやつの第二弾が配られていく。
全員に配り終えられたところで、またリーナがにっこにこでフォークを手にした。そしてドライフルーツ入りパウンドケーキをさっくりと切り取って、口に運ぶ。
「みなさまも、どうぞめしあがれ」
またもや全員がすちゃっとばかりにフォークを手にし、さくっとパウンドケーキに手をつけた。
「本当にしっとりしてる、いえ、あの、しっとりしています。すごくおいしいです!」
ジオちゃんがひと口食べて声を上げる。「おなじ『ぱうんどけーき』でも、なにかまぜると、こんなにかわるのですか?」
「ええと、ルーディお姉さま、あの、姉によると、てじゅん? をかえるだけで、こんなにかわるのだそうです」
リーナがちょっと確認するように私に顔を向けてきたので、私は笑顔でうなずいた。
ホッとしたように、リーナもまた笑顔で続ける。
「あの、材料も使う量もおなじなのに、作るときにちょっとだけ作り方をかえるそうです」
「それでこんなにかわるって、すごいです!」
「えっと、さっきの、栗のクリームをのせた『ぱうんどけーき』もおいしかったですけど」
ハルトくんも熱心に言ってくれる。「この干しぶどうと干しあんずの『ぱうんどけーき』も、すごくおいしいです。いくらでもたべられそうです!」
もちろんリーナもにっこにこだ。
「干し果実のほかに、くるみなどの木の実をまぜてもおいしくなると、姉はいっていました」
「くるみ入りもおいしそう! おいしそう、ですね!」
ジオちゃん、もりもり食べながらしっかり感想を言ってくれちゃうし。
うふふふ、みんな大満足で第二弾も食べ終わりました。
食後は、先生による講評である。
「リーナさん、とても上手におやつの説明ができましたね」
まずリケ先生が、リーナを褒めてくれちゃう。
「どのようなおやつであるのかの説明もとても上手でしたし、作り方でおやつの味わいが変わることまでお客さまにお伝えできたのは本当にすばらしいことです」
「ありがとうございます、リケ先生」
ふっふっふっふっ、私の妹は本当にかわいくて賢くてかわいくてかわいくてかわい(以下略)。
いっぽうファビー先生は、お客さまであるジオちゃんハルトくんの講評だ。
「ジオさんは、栗拾いのときのお話も上手に交えることができましたね。二種類の『ぱうんどけーき』についての質問も大変よかったです。ハルトさんも、いままでご自分がお食べになった栗のおやつを例にあげて、今日のおやつの美味しさをお伝えできたところがとてもよかったです」
「ファビー先生、ありがとうございます」
「ありがとうございます!」
こちらも2人そろってにっこにこ。
しかし家庭教師の先生がた、ホントにちゃんと先生だよね。すごく具体的によかった点を褒めてるところなんか、小さい子どもにも伝わりやすいし自信になると思うわ。
それに、私も本当にすっごく参考になる。そうか、今後お茶会に招かれる機会があれば、ああいう感じでとりあえず出されたおやつやお茶を話題にすればいいのね。
言われてみれば確かに、私の数少ないお茶会経験でもそうだったわ。まず、出されたお茶の話題だったよね……まあ、そこに私はちゃんと乗れなくて惨敗しちゃったわけだけど。
でもって、あんまり美味しくないお茶やおやつだったりしたら、どう言えばいいんだろう? その辺のテクニックも教えてもらいたいところだわー。
などと思っていたら、レオさまが優雅に声をあげた。
「ファビー先生、ありがとうございます。子どもたちも楽しくお茶会を体験できたと思いますわ」
「とんでもないことでございます、レオポルディーネさま」
おっと、これは我が家も保護者案件よね?
とばかりに、私はお母さまと目を合わせた。お母さまがうなずいてくれたので、私が口を開く。
「リケ先生、ありがとうございます。アデルリーナも先生にご助言いただけて、とても自信になったと思います」
「とんでもないことですわ、ルーディさん」
にこやかにリケ先生が応えてくれた。「おやつの作り方ですとか、事前にリーナさんにきちんと情報をお伝えいただいていたことなど、本当にすばらしいと思いました。お客さまからご質問されたときに、主催者がしっかりお答えできるかどうかはとても大切なことですから」
なるほど、貴族女性がお茶会や夜会でお出しするお料理について、事前に料理人と相談するっていうのはそういう意味合いもあるのね。どんなお料理を出すのかっていう相談だけじゃないんだ。お客さまに質問されたときにちゃんと答えられるよう、そのお料理に関する情報というか知識を仕入れておく必要があるから、ってことよね。
まあ、我が家の場合は常になし崩しで、げふんげふん、基本的に家族そろって新作お料理の厨房会議に参加してるから、事前の相談も情報交換も特に必要ない状態ではあるんだけど。
「ありがとうございます。お出しするお料理について、アデルリーナともさらにしっかり話をするようにいたします」
私がそう答えると、リケ先生がうなずいてくれる笑顔もよかったんだけど、リーナがもうパーッと、ホントにパーーーーッと、とっても嬉しそうな顔になってくれちゃって!
ああもう、ホントにホンットになんで私の妹はこんなにもかわいくて素直でかわいくて賢くてかわいくてかわいくてかわ(以下略)。





