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189.またもやナニソレ?

本日4話目の更新です。

 商会紋の話から、またどんどんと店舗の改装へと話題が進んでいく。

「そうですね、調度品の準備も必要ですが、完全予約制でしたら1日にお受けできるご予約は1~2件になるでしょうから、まずそのように部屋割りをしましょう」

「10名程度のお茶会ができる広さの個室に、近侍などお付きの方がたのための個室もご用意しておくといいのでは」

「お付きの方がたにも、交代で召し上がっていただくようにするのは非常によろしいかと」

「場合によっては、以前ゲルトルードお嬢さまがおっしゃっていたように、衝立などで仕切るというのもよい方法ではございませんか?」


 ヒューバルトさんがそう言ったことで、なんかみんなの視線が私に集まった。

 ちょっと遠い目になってた私も、さすがに話に参加しないとマズイよね。

 ということで、私はエグムンドさんがテーブルに広げている大きな用紙をのぞき込んだ。そこには、この店舗の1階部分をどう改装するのか、大まかな図面が描かれていた。

「ええと、そうですね、ここが厨房で……では、この南側の窓が並んだ明るい場所に、主賓室のような大きめのお部屋を用意して……こちらに少し小さめのお部屋もご用意するといいのではありませんか?」

 図面をのぞき込みながら、私も意見を言ってみる。

「そして、こちら側は広く空けておき、場合によっては衝立で仕切って個別のお部屋のように使うといいのでは。そうすれば先ほどお話にもありました、お付きの方がたの控室のようにも使えると思いますし、ほかにも例えば、コード刺繍の作品を展示して商談会を行うようなこともできるのではと思います」


 イベントスペースがあるといいよねー、と私は何気なく言ってみたんだけど。

「ありがとうございます、ゲルトルードお嬢さま!」

「またもや我らツェルニック商会のことまで、そのようにご考慮くださるとは!」

 おおう、通常運転が来ちゃったよ。

 歓喜のツェルニック商会、口々に感謝の言葉を述べてくれるんだけど、ごめん、もうお腹一杯なんで(以下略)。


「確かに、そういう用途にも使える場所を作っておくというのは、非常にいいお考えですね」

 エグムンドさんが感心したように言ってくれて、とりあえずツェルニック商会の感謝感激攻撃は治まった。

 それに公爵さまも言い出した。

「そうだな、それにゲルトルード嬢、きみが言っていた料理人の講習会にも使えるのではないか? 厨房で作った料理を、料理人が食す場所が必要だろう」

「あ、そうですね、確かにそのようにも使えますね」

 そうでした、お料理講習会もするんだから、やっぱイベントスペースって必要だよね。


 うなずいた私に、公爵さまはさらに続ける。

「その講習会なのだが……たとえば数名の料理人を招いたとして、全員が一度に厨房に入り調理を見学するとなると、厨房自体を相当大きくしなければならないだろう。だが、これ以上厨房を大きくすることは難しいのではないか?」

 あー、うん、確かにいまの我が家の厨房ほどの大きさは、この店舗内では取れないからねえ……じゃあやっぱり、アレかな?

「それでは、我が家の新居のように、厨房の壁に大きな窓を取り付けますか? そうすれば、講習会に参加した料理人も見学がしやすいですし、飲食店として営業するさいにもお料理をその窓からお出しすることができますので、ワゴンを厨房に入れる必要がなくなります」

 要するに、オープンキッチンです。


 って、私が言ったとたん、公爵さまが一瞬視線を泳がせた。

 あー……コレって、狙ってたんだわ。

 公爵さまってば、最初から私にそれを言わせたくて、そういうことを言ってきたのね? だって視線を泳がせた瞬間、口元が微妙に緩んでたもん。どうやら本当にこの人は、お料理してるとこを見るのが好きらしい。

「うむ、それは非常によい考えだと思う」

 だけど、うなずいた公爵さまは重々しく言葉を続けた。

「それに調理の過程が客からも見えるのであれば、毒を案じる貴族にとっても安心感につながるだろう」


 うーん、それもありましたか。

 私はちょっと頭を抱えそうになっちゃったけど、でも確かにそういう側面もあるわ。そういう世界なんだよね、飲食物に毒を盛られる心配をしなきゃいけないっていう。

 それを思うと、調理の過程をオープンにして、料理人や給仕人がどこに何人いてどういう動きをしているか、お客さんからも見える状態にしておくって、貴族相手の飲食店においてはものすごく重要なことなのかも。


「それでは、お客さまからも厨房が見えるよう、厨房の壁に大きな窓を作りましょう」

 私は図面を指して言った。「そしてこれもまた必要に応じて目隠しができるよう、こちらの主賓室にあたる個室との間には壁を作らず、衝立を置けるようにすればいいのではないですか?」

「主の給仕をする立場の者からしても、それは非常に助かります」

 声をあげたのは、公爵さまの近侍であるアーティバルトさんだった。


「厨房の窓からお料理を出していただき、この場所でワゴンに積み込めるわけですよね? そしてそのまま、お部屋にワゴンで主がお口にされるものを運び込む。そのさいに、ここに衝立を置いて目隠ししておいていただければ、近侍や侍女は交代しながらそこに控えさせていただけます」

 アーティバルトさんが図面を示すようすを、ヒューバルトさんも覗き込む。

「確かに、厨房からお部屋までと、そして控えの場がここにあれば、給仕をする者の動線が非常に効率的です。それに公爵さまのおっしゃる通り、料理人の動きや給仕をする者の動きを敢えてお見せすることは、貴族のお客さまの安心感につながりますし」

「そして、何か商取引などの込み入ったお話し合いになられたときは、衝立でこちらを完全に目隠ししてしまえばいいと思います」

 そう付け加えたアーティバルトさんに、公爵さまもヒューバルトさんもうなずいてる。


「ただ、その場合はゲルトルードお嬢さまが言われていた、商談会などに使える場所を移動させる必要がありますね」

 エグムンドさんが声をあげ、図面にペンで線を書き込んだ。

「厨房がここで、こちらが主賓室、その間の壁を取り払って、お付きの方がたが控えられる場所をここに確保して……」

「こちらに少人数用のお部屋を用意して、ここを広く空けておくのはどうですか?」

 ヒューバルトさんが指で示しながら、私に確認してくれる。

「それでいいと思います。その間取りであれば、ここで商品を展示して商談会を行い、そのままこちらでお茶とおやつを楽しんでいただくようなこともできそうですね」


「うむ、私もそれがいいと思う」

 公爵さまも図面をのぞき込んでうなずいてくれた。

「こちらの小部屋は、数名程度のご婦人がたが気軽に茶会をするのにもよさそうだ」

「そうですね、それこそ気の置けないお友だち同士で、気軽におしゃべりするようなお茶会を楽しんでいただければ」

 応えながら私は、お母さまがレオさまメルさまと楽しそうにおしゃべりしているようすを思い浮かべちゃった。

 それに、こっちの小部屋はちょっと利用料金を低めにしておけば、レオさまの侍女さんのような名誉貴族の女性や、リケ先生ファビー先生のような若い貴族女性も利用しやすいんじゃないかな。


 あ、でも、利用料金を低く設定しちゃうと、逆にレオさまメルさまのような上位貴族女性は利用しにくくなっちゃうかな? そういう、なんていうか、貴族間の格の違いって大事そうだもんね。

 そんでもその場合は、主賓室のテーブルを小さいのと置き換えて物理的な距離を近くすれば、お友だち同士のおしゃべりにも使ってもらいやすいかも。


 そんなことを思いながら、私は図面から顔を上げた。

 そしたら、部屋の隅で控えているクラウスが、なんとなくそわそわしてるのに気がついた。どうやらクラウスも図面をのぞき込みたいらしい。

 そしてそのことに気がついたのは、私だけじゃなかったらしい。

「クラウス、あとできみにもちゃんと見せてあげるよ」

 ヒューバルトさんが笑いながらそう言うと、クラウスは面目なさそうに身を縮めた。

「はい、失礼いたしました」


 そんな弟クラウスに、私の背後から姉ナリッサが圧をかけようとしてるので、私は思わず取りなすように言っちゃった。

「クラウスはいま、お給仕の練習をしているのね? 今後はクラウスも、貴族のお客さまにお給仕をする機会があるでしょうからね」

「はい、ゲルトルードお嬢さま。いまヒューバルトさまからいろいろ教えていただいております」

 かしこまったようすでクラウスが答えると、ヒューバルトさんは朗らかに言ってくれた。

「クラウスは本当に覚えがいいです。なんでもすぐに覚えてくれるので、教えるほうも楽しいですよ」


「そうなのね? さすがクラウスね」

 私も笑顔で言った。「それに今日のクラウスの衣装からすると、お給仕だけじゃなく乗馬も教えてもらっているのかしら?」

 乗馬用の膝丈ズボン(ブリーチズ)とロングブーツ姿のクラウスがうなずく。

「はい、ゲルトルードお嬢さま。ただ、乗馬は苦戦しております」

 ちょっと苦笑してしまったクラウスに、ヒューバルトさんはやっぱり笑う。

「いや、クラウスは乗馬も筋がいいですよ。平民にしては魔力量も多いほうですし、馬に魔力を通すこともすぐに覚えましたから」


「へっ?」

 思わず、本当に思わず、私は間抜けな声をもらしてしまった。

 だって……馬に魔力を通す?

 ナニソレ? いったいどういうこと?


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― 新着の感想 ―
[一言] 馬に魔力とは? 映画「アバター」で、騎馬と触覚を繋いでアクセスする場面が浮かびましたよw
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