184.そういえば頭取でした
【書籍化】でーす!
活動報告を書いていますので、そちらもぜひ読んでください。
でもって、お話の続きが書けていません(´;ω;`)
本日はとりあえず2話だけ更新します。まずは1話目です。
「あのタウンハウスに施されている防御の魔法陣は、当主に悪意や害意を持つ者が敷地内に立ち入ることを防ぐと言われている」
公爵さまの説明に、ますます私はぽかーん状態だ。
「まず間違いなく血族契約魔術が使用されているだろうから、現在はきみときみの血族者……つまり妹のアデルリーナ嬢だな、それにきみの母君……まあ、おそらく母君は最初から防御の対象者として登録されていると思うが」
つまり、その防御の魔法陣の効力は、自動的に私に引き継がれている、と?
そう理解して、私は思い出した。
「あの、公爵さま、でも、先日の、あの……」
「そうだな、ああいう屑が玄関にまで入ってきてしまった」
公爵さまは私が言いたいことをすぐに理解してくれて、思いっきり顔をしかめてくれた。
「あの屑は、きみというか、現在あのタウンハウスで暮らしているクルゼライヒ伯爵家の一族に対して自分が抱いている感情を、悪意だとも害意だともまったく思っていなかった、ということだ」
うっわー!
要するに、その魔法陣が感知するのは侵入者の『主観』ってことですね?
本人が本当に本気で『自分は正しい』『自分は間違っていない』『自分がこうすることが一族のためなのだ』と思い込んでいたら、魔法陣は弾いてくれないと? そりゃまた、なんともビミョーなセンサーだな……。
あのカン違いクズ野郎は、本当に本気で自分がクルゼライヒ伯爵家の当主になるのが当然なんだと、さらに私を娶ってやるのは完全に自分の善意なんだと、そう思い込んでたっていうことだもんね。
「王宮内の、王族が起居している宮殿にも同じような防御の魔法陣が施設されているのだが……かつて、自分は正しいと洗脳されていた暗殺者の侵入を防げなかったという事例が、実際にあった」
うっわーーーー!
なんですかソレ、めちゃくちゃ怖いんですけど!
「最強の防御力を持つ魔法陣だと言われていても、万能ではないということだ」
公爵さまは深く息を吐きだし、そして言ってくれた。
「それでも、本来私の立場としては、あの一族伝来のタウンハウスを手放すべきではないと、言わなければならないのだろうが……きみたち家族には事情がある。ただ、防御に関しては、新居では十分に注意を払わなければならないことを、きみは理解しておかなければならない」
ああ……そういうの、この公爵さまはちゃんと考慮してくれるんだよね。
本当に私としては、お母さまの心の平穏のために、できるだけ早くあのタウンハウスから出ていきたいのよ。そもそも維持するのにどれだけ莫大な費用がかかるか、っていうのもあるし。
そりゃ確かに、建物敷地全体にそれだけのすごい魔術が施されていて、一族をずっと守ってきたそういう家なんだって言われると、惜しい気持ちがないとは言えないけど。
「ありがとうございます、公爵さま。護衛をどうするかについては、母ともよく相談してみます」
私が頭を下げると、公爵さまもうなずいてくれた。
「うむ、そうしなさい」
しかし、護衛か……日中はもちろん、夜間も絶対必要だよね?
新居はそれほど大きくないから、日勤夜勤それぞれ2人ずつ雇えばいいかな? それでも最低4人は必要だよね。従僕を兼ねてもらうとしても、交代要員を含めると6人くらい必要かなあ……それだけの人数を新居の3階に住まわせるのも大変だし、お給料だって結構な額になっちゃうよね。
うーん、そんな敷地全体に施されてますなんていう大規模な魔法陣でなくていいから、それに侵入者の主観に反応するとかそういうビミョーさはなくていいから、こう、赤外線センサー的なナニかで侵入者に対して警報を鳴らしてくれるようなシステムって、ないのかなあ?
そんなことを考えているうちに、馬車は商会店舗に到着した。
公爵さまに手を取ってもらって馬車を降りると、玄関にずらっと並んだおなじみメンバーが出迎えてくれた。
「エクシュタイン公爵閣下、ゲルトルードお嬢さま、お待ちしておりました」
エグムンドさん以下、ヒューバルトさんにクラウス、それにツェルニック商会の兄弟とお母さんだ。
ちょうどリドさまも馬から降りて玄関にやってきたので、公爵さまが紹介する。
「こちらはヴェントリー伯爵リドフリート・クラムズウェルどのだ。ガルシュタット公爵家の嫡男で、私の姉であるガルシュタット公爵家夫人レオポルディーネの義理の息子になる」
さすがにエグムンドさんやヒューバルトさんはにこやかな顔を崩さないけど、クラウスやツェルニック商会一行に緊張が走ったのがわかる。
「実は、リドフリートも当商会の飲食用の店舗を利用したいと言っている。店舗の改装に関して意見を述べたいとのことで、本日同道してもらった」
「ヴェントリー伯爵リドフリート・クラムズウェルです。ゲルトルード商会のみなさんにはお見知りおきを」
リドさまがにこやかに挨拶をして、エグムンドさんがていねいに頭を下げる。
「ようこそおいでくださいました、ヴェントリー伯爵さま」
ヒューバルトさんやクラウス、それにツェルニック商会一行も挨拶をし、私たちは店舗の中へと招き入れられた。
室内に入ると、衝立で仕切られた客間のようなコーナーができていた。なかなか立派なソファやテーブルがセンス良く並べてある。さすがに調度品なんかはほとんど置いてないけど、確かにこれならちょっとしたお茶会を開くくらいはできそうだ。
でもいまは、リドさまにツェルニック商会の3人もいるから、少しばかり人口密度高くて手狭に感じちゃうな。
そう思いながら公爵さまにエスコートされ、私は席に……席に、って、あれ? なんで私が一番奥の席なの?
きょとんと公爵さまを見上げると、公爵さまは澄ました顔で言った。
「頭取はきみなのだ、ゲルトルード嬢。だからきみが上座に着くのが当然だろう」
えっ、あの、そう言えば私、確かに頭取だった気が……でも、えっ? ええっ?
私がうろたえている間に、公爵さまはさっさと次席に腰を下ろしちゃった。アーティバルトさんはいつものうさん臭い笑顔で公爵さまの後ろに控えちゃったし、ナリッサも澄ました顔で上座の、私が着席するよう言われた席の後ろにさっと控えてくれちゃう。
おまけにリドさままで、なんだか曲者っぽい笑顔で公爵さまと反対側の次席にさっと腰を下ろしちゃうし。
「お掛けください、ゲルトルードお嬢さま」
エグムンドさんにもにこやか~に言われちゃって、私はなんかもうおそるおそるって感じで着席しちゃった。
うぅ、こんな真正面の一番奥の席、しかも両サイドに公爵さまと伯爵さまなんて状況で、落ち着けっていうほうが無理な気がする……。
「それではいかがいたしましょう、ヴェントリー伯爵さまがおいでくださっていますので、まずは店舗の改装についてのご意見を賜るよういたしましょうか?」
やっぱりにこやかにエグムンドさんが問いかけてくるのは私で、公爵さまじゃない。
私はお飾りなんで、そんなに立ててくれなくていいのに……ってもしかして、今日はお客さまとしてリドさまが来ているからかな?
などと考えちゃったんだけど、でもまあとりあえずエグムンドさんの問いかけには答えなきゃ。
「そうですね、まずは店舗の改装についてお話し合いをしましょうか。でもそうすると、商会員の希望者にはさらに待ってもらうことになってしまうけれど、大丈夫かしら?」
「それはいっこうに構いません」
すぐにエグムンドさんがうなずいてくれたけど、私はまたちょっと考えてしまった。
「あ、でも、もしその商会員希望者をそのまま採用するのであれば、その人にも店舗改装のお話し合いに参加してもらったほうがいいのではないかしら?」
クラウスの元同僚で、エグムンドさんもよく知ってる人のようだし、もう採用は決まってるような感じだもんね。商会員になったら、まずは店舗で働いてもらうことになるだろうし。
「ああ、それは確かにおっしゃる通りです」
エグムンドさんが眉を上げた。「では、最初に面接を行っていただけますでしょうか?」
私はリドさまに顔を向けた。
「リドさま、先に少々お時間をいただいてもよろしいでしょうか?」
「ええ、もちろん。ルーディ嬢のご都合のよいようにお進めください」
「ありがとうございます。では、そのようにさせていただきます」
笑顔でうなずいてくれたリドさまに、私はお礼を言った。
というわけで、まずは新商会員の面接ね。